時論公論 「福島第一原発 廃炉に向けた厳しさ」より転載
2012年11月09日 (金) NHK解説委員室
水野 倫之 解説委員
事故から1年8か月になるのを前に、福島第一原発構内を取材。現場は事故直後よりはおちついているが、放射線量が高く手つかずのところが多い。汚染水が増える一方で、「事故はいまだ収束していない」ことを強く実感。
今夜の時論公論は福島第一原発の廃炉に向けた課題について水野倫之解説委員。
福島第一原発の構内は、放射能濃度が高く、特別に管理された場所以外はすべて防護服に全面マスク。
そのため簡単な装備で済むバスからという条件で東京電力の了解を得て、他社の解説・論説委員とともに取材。
路上に散乱していたがれきは、片づけられバスの通行に支障のあるところはほとんどない。
しかし海側に行くと、クレーンやトラックが横倒しになったまま放置。
海側から山側に進むと4号機の原子炉建屋。
最上階部分のガレキの撤去作業が進み、すっきりした感じにも。
しかし4階や3階の壁はところどころ大きく崩れたまま、また曲がった鉄筋がむき出しで一部は錆びて。作業員がはみ出した鉄筋を切断する作業。
奥にはプール、使用済み燃料1300体余り。東電はプールの底の補強工事、その後もコンクリートの壁に爆風によると見られる膨らみが見つかるなどしたため、いまだに建屋が倒れるのではと心配する声も。
このため東電では壁をハンマーでたたく特殊な検査で強度を測定し、壁のコンクリートの強度は建築基準法の設計基準を上回り、震度6強に耐えられるとしている。
今後さらに検査ポイントを増やして建屋の劣化が進んでいないかどうか強度の確認を継続して行っていく必要。
来年12月の使用済み燃料の取り出しにむけて、クレーン付きの建屋カバーをかぶせる計画、建屋のすぐ隣ではカバーの足場となる地盤を強化する作業が行われ、すでにコンクリートが打ち込まれていた。
4号機で安全に取り出す技術をしっかり確立して、ほかの3基からの安全な取り出し方法の検討に生かしていく必要。
ただ1~3号機は放射線量が極めて高く、建屋内の作業は困難で、溶けた燃料の冷却を進めるので手いっぱいといった状況だが、その冷却システムも課題が山積。
水を送るポンプは津波に備え、標高35mの高台に設置されていたが、いまだに屋外のトラックの荷台。
送り出される500tの水は、野ざらしにされた仮設のホースや配管を通って3つの原子炉に。
全長4キロにも、汚染水が漏れるトラブル。
先月も3号機内のホースから汚染水が90リットル漏れ出した。
ホースが絡み合うように置かれ、作業員が踏んで移動したことで割れたことが原因。水もれは2000か所に及ぶホースの継ぎ目からも。
水漏れのリスクを減らし、点検しやすくするためにもシステム全体を短くし、すべてのホースを丈夫な配管に早急に変えていくよう。
さらに冷却システムには大きな問題。
構内のあちこちで目に付いた巨大なタンク群。1,000tの汚染水がためられるが、日々増加。
衛星写真などで見ると、事故以降、構内の森林がタンク群に置き換わっていく様子。タンクは23万t分。しかし汚染水はすでに21万tあまりでほぼ満杯状態。
原因は、地下水。毎日あわせて400t入り込み、汚染水となっている。
東電では建屋の山側に井戸を掘って地下水を上流側でくみ上げて減らす計画で、現場では井戸掘削のための木の伐採も。
しかしこれでも地下水の流入は半分程度にしか減らせない。
東電はタンクの総量を70万tまでは増やせると、そこが限界で、その先どう対応するのか明確でない。
事故直後には汚染水を地元や周辺国にきちんと連絡をしないまま海に放出したことで批判を浴びており、現状はとても海に流せるような状況にない。
そこで東電は当面の対応として汚染水の濃度を大幅に下げることができる特殊な装置を設置し、法令で定める限度以下にして、敷地に撒くことなどを検討。しかしそれだけで減らすことは難しく、たとえば福島第二原発に運んで貯蔵するなど、代替策も今のうちに検討しておくべき。
政府は昨年末に事故収束宣言、しかし今回の取材で「いまだ収束していない」ということを強く実感。取材ルートで最も放射線量が高かったのは3号機付近でバスの中でも1時間当たり750μSv。私の総被ばく量も3時間の滞在で63μSv。
作業員の場合はこれより格段に多く、特に高線量の現場では3か月ほどで国が定めた被ばく限度に近づき、原発を離れなければならない作業員も相次いでおり、1日3000人が必要とされる中、長期的には作業員が足らなくなる恐れも。
この先、溶けた燃料の取り出しも控え、作業員が十分に確保できなければ、廃炉の工程に影響も出かねない。
現場は過酷な環境。放射線の遮蔽を徹底させるなど作業員の安全対策を最優先にした廃炉作業を求めたい。
(水野倫之 解説委員)
2012年11月09日 (金) NHK解説委員室
水野 倫之 解説委員
事故から1年8か月になるのを前に、福島第一原発構内を取材。現場は事故直後よりはおちついているが、放射線量が高く手つかずのところが多い。汚染水が増える一方で、「事故はいまだ収束していない」ことを強く実感。
今夜の時論公論は福島第一原発の廃炉に向けた課題について水野倫之解説委員。
福島第一原発の構内は、放射能濃度が高く、特別に管理された場所以外はすべて防護服に全面マスク。
そのため簡単な装備で済むバスからという条件で東京電力の了解を得て、他社の解説・論説委員とともに取材。
路上に散乱していたがれきは、片づけられバスの通行に支障のあるところはほとんどない。
しかし海側に行くと、クレーンやトラックが横倒しになったまま放置。
海側から山側に進むと4号機の原子炉建屋。
最上階部分のガレキの撤去作業が進み、すっきりした感じにも。
しかし4階や3階の壁はところどころ大きく崩れたまま、また曲がった鉄筋がむき出しで一部は錆びて。作業員がはみ出した鉄筋を切断する作業。
奥にはプール、使用済み燃料1300体余り。東電はプールの底の補強工事、その後もコンクリートの壁に爆風によると見られる膨らみが見つかるなどしたため、いまだに建屋が倒れるのではと心配する声も。
このため東電では壁をハンマーでたたく特殊な検査で強度を測定し、壁のコンクリートの強度は建築基準法の設計基準を上回り、震度6強に耐えられるとしている。
今後さらに検査ポイントを増やして建屋の劣化が進んでいないかどうか強度の確認を継続して行っていく必要。
来年12月の使用済み燃料の取り出しにむけて、クレーン付きの建屋カバーをかぶせる計画、建屋のすぐ隣ではカバーの足場となる地盤を強化する作業が行われ、すでにコンクリートが打ち込まれていた。
4号機で安全に取り出す技術をしっかり確立して、ほかの3基からの安全な取り出し方法の検討に生かしていく必要。
ただ1~3号機は放射線量が極めて高く、建屋内の作業は困難で、溶けた燃料の冷却を進めるので手いっぱいといった状況だが、その冷却システムも課題が山積。
水を送るポンプは津波に備え、標高35mの高台に設置されていたが、いまだに屋外のトラックの荷台。
送り出される500tの水は、野ざらしにされた仮設のホースや配管を通って3つの原子炉に。
全長4キロにも、汚染水が漏れるトラブル。
先月も3号機内のホースから汚染水が90リットル漏れ出した。
ホースが絡み合うように置かれ、作業員が踏んで移動したことで割れたことが原因。水もれは2000か所に及ぶホースの継ぎ目からも。
水漏れのリスクを減らし、点検しやすくするためにもシステム全体を短くし、すべてのホースを丈夫な配管に早急に変えていくよう。
さらに冷却システムには大きな問題。
構内のあちこちで目に付いた巨大なタンク群。1,000tの汚染水がためられるが、日々増加。
衛星写真などで見ると、事故以降、構内の森林がタンク群に置き換わっていく様子。タンクは23万t分。しかし汚染水はすでに21万tあまりでほぼ満杯状態。
原因は、地下水。毎日あわせて400t入り込み、汚染水となっている。
東電では建屋の山側に井戸を掘って地下水を上流側でくみ上げて減らす計画で、現場では井戸掘削のための木の伐採も。
しかしこれでも地下水の流入は半分程度にしか減らせない。
東電はタンクの総量を70万tまでは増やせると、そこが限界で、その先どう対応するのか明確でない。
事故直後には汚染水を地元や周辺国にきちんと連絡をしないまま海に放出したことで批判を浴びており、現状はとても海に流せるような状況にない。
そこで東電は当面の対応として汚染水の濃度を大幅に下げることができる特殊な装置を設置し、法令で定める限度以下にして、敷地に撒くことなどを検討。しかしそれだけで減らすことは難しく、たとえば福島第二原発に運んで貯蔵するなど、代替策も今のうちに検討しておくべき。
政府は昨年末に事故収束宣言、しかし今回の取材で「いまだ収束していない」ということを強く実感。取材ルートで最も放射線量が高かったのは3号機付近でバスの中でも1時間当たり750μSv。私の総被ばく量も3時間の滞在で63μSv。
作業員の場合はこれより格段に多く、特に高線量の現場では3か月ほどで国が定めた被ばく限度に近づき、原発を離れなければならない作業員も相次いでおり、1日3000人が必要とされる中、長期的には作業員が足らなくなる恐れも。
この先、溶けた燃料の取り出しも控え、作業員が十分に確保できなければ、廃炉の工程に影響も出かねない。
現場は過酷な環境。放射線の遮蔽を徹底させるなど作業員の安全対策を最優先にした廃炉作業を求めたい。
(水野倫之 解説委員)