河北新報
東京電力福島第1原発を訪問後に鼻血を出す描写が議論を呼んでいる漫画「美味(おい)しんぼ」(雁屋哲・作、花咲アキラ・画)を連載している「週刊ビッグコミックスピリッツ」(小学館)の最新号が12日発売され、福島県双葉町の井戸川克隆前町長が鼻血の原因をめぐり「被ばくしたからですよ」と語る場面があることが分かった。最新号では、主人公らとの会話の中で井戸川氏が「福島に鼻血が出たり、ひどい疲労感で苦しむ人が大勢いる」として、被ばくを原因に挙げた。さらに「今の福島に住んではいけないと言いたい」と発言した。福島大の荒木田岳准教授が除染作業の経験を基に「福島を広域に除染して人が住めるようにするなんて、できないと私は思います」と語る場面もある。また、岩手県の震災がれきを受け入れた大阪市内の焼却場近くの住民が鼻血を出したり、目やのどなどに不快な症状を訴えたりしているとの表現があった。
漫画「美味しんぼ」が、12日発売の最新号で描写した福島第1原発事故関連の場面に関し、福島県は同日、「風評被害を増長するもので断固容認できず、極めて遺憾」と批判するコメントをホームページに掲載した。県議会主要会派も抗議声明を出すなど反発の動きが広がった。
県は(1)第1原発取材後に主人公らが鼻血を出した原因を双葉町の井戸川克隆前町長が「被ばくしたからですよ」と断定する場面(2)福島大行政政策学類の荒木田岳准教授が「除染しても人が住めるようにするなんてできない」と述べている場面-などを問題視した。
県は国連科学委員会の報告書などを引用し、「事故による被ばくは(鼻血などの)影響が表れる線量からはるかに低い」と反論した。除染などで空間線量率が低下していることも強調し、「特定の個人の見解が福島の現状そのものであるような印象を与えかねない」と指摘した。
県議会では主要2会派がそれぞれ緊急に記者会見。自民党福島県連は「風評被害に立ち向かっている県民の心情を踏みにじった」、民主・県民連合は「特定の個人の意見を取り上げることで、県民への差別を助長させる」とする抗議声明を読み上げた。声明は小学館に郵送したという。
福島大は作中の荒木田准教授の主張に対し「多方面にご迷惑をかけたことについて大変遺憾だ」とのコメントを出した。
福島市内などの書店やコンビニエンスストアなどでは軒並み、12日発売号が売り切れた。
県庁近くの西沢書店大町店では前日までに購入予約が相次ぎ、12日昼までに完売した。同書店の担当者は「話題になっていることもあり、すぐに売り切れた」と話した。
民主党県連幹部は「反応すれば反応するほど作品への注目が集まる。抗議声明を出すかどうか悩んだ」と打ち明けた。
◎「風評被害助長」福島知事が批判
福島県の佐藤雄平知事は12日、講演のため訪れたさいたま市で取材に応じ、漫画「美味しんぼ」で、東京電力福島第1原発を訪れた主人公らが原因不明の鼻血を出すなどの描写があった問題について、「風評被害を助長するような印象で、極めて残念」と批判した。
12日発売号は、前双葉町長が「福島に住むな」と発言したり、福島大准教授が「福島を広域に除染して人が住めるようにするなんてできない」などと話したりする場面も登場する。
こうした描写についても問われ、佐藤知事は「今は福島県民が一丸となり、全国から復興を支援していただいている時で、このような雰囲気の漫画があって、残念で遺憾」と繰り返した。