箱根八里(三島大社→小田原城)畑宿には旧街道の面影があります。 大きな一里塚。難所の箱根越えではマイルストーンが重要だったはずです。
そもそも保育所の目的は「子守」や「託児」だっただろう。
担った人たちは家庭やコミュニティでの自然に育っていく子どもたちの姿をイメージし、それに近づけようとしだろう。
それは近代の学校のもつ教育の機能的なあり方とは一線を画していた。
いわば「子ども(らいし)時間の確保」である。
そして、つかみどころのないそのイメージの中に子どもがいることこそが、子どもたちの将来の“大きなこと”になるように思われるし、実際そうだろう。
「予測困難で不確実、複雑で曖昧」の未来に対して確実にできうることともいえる。
もちろん、保育所も社会的機関である。
行わる保育は意図的に行われ、説明と評価とがあるべきである。
しかし、逆に、その中でこそ漠然としたイメージとしての「子ども(らしい)時間」が確かな形となって見えてくる可能性があるのではないか。
そんな作為的な無作為みたいなことができるのかどうか、あるべき「子ども(らしい)時間」にむけて、各国の知恵を訪ねたい。
テキスト:
秋田喜代美/古賀松香『世界の保育の質評価‐制度に学び、対話を開く‐』明石書店
シンガポール1
続いてシンガポールを見てみよう。
シンガポールは、OECD Education2030においても積極的な提案が見られるように、
教育を重視する姿勢がある。
そのことは歳出額全体の約12.8%が教育に当てられ、これは日本が5.4%なのに対して、かなりのウェイトを教育にかけていることがわかるという。その中で就学前教育も重要な位置づけにしている。
前回のテキスト(白井 俊『OECD Education2030プロジェクトが描く教育の未来:エージェンシー、資質・能力とカリキュラム』ミネルヴァ書房)でも、その教育への積極性の一端が伺える。

以下は、シンガポールの教育改革を解説の概要である。
シンガポールにおいても、コンピテンシーを重視したカリキュラム改革が行われており、図序-6のような枠組みが示されている。シンガポール教育省の説明によると、外周部分は、新しい21世紀型コンピテンシーであり、具体的には、以下の3つが挙げられている。
・市民的リテラシー、国際感覚及び異文化に対応するスキル
・批判的・創造的思考力
・コミュニケーション、協働性及び情報に関するスキル
シンガポールでは、さらに図序-6の内周部分を「社会・情動的コンピテンシー」として、自らの感情を認識してコントロールしたり、他者に対して気配りや心配をしたり、責任ある意思決定をしたり、良い関係性を構築したり、難しい状況に上手に対応していくといったスキルが挙げられている。
そして、シンガポールで最も重視されているのが円の中心部にある「中核的価値観(corevalues)」であり、知識やスキルも価値観によって下支えされるものであり、価値観によって信念や態度、行動も決まってくることから、21世紀型コンピテンシー枠組みの中心にあるものとして位置づけている(MOE [Singapore), 2018:Tan & Low, 2016) •
なお、シンガポールにおいても、中核的価値観を含めて、ここに挙げられているコンピテンシーが、カリキュラム改革前の教育で教えられていなかったわけではないのは当然である。しかしながら、こうした枠組みを示すことによって、コンテンツの知識を教えることと、21世紀の時代に必要なコンピテンシーや価値観を獲得させることのバランスをとることが目指されているのである(Tan & Low, 2016)。
そして、この「シンガポールで最も重視されているのが円の中心部にある「中核的価値観(corevalues)」であり、知識やスキルも価値観によって下支えされるものであり」とされるその部分が、主に就学前教育に課されていることが次の表でわかる。

冒頭の図の三重円の外側にある
・自信に満ちた人
・自律的な学習者
・率先して貢献する人
・積極的に社会に関わる市民
が、この図で一番右、「教育の望ましい結果」として表される中、そのスタート地点として就学前教育が大きくとりあげられ、「就学前教育段階の結果」から導かれるように、「学習目標」「学習の資質・能力」が明示されている。
これほど明確に就学前教育の枠組みを位置づけたのは、ある意味画期的なのではないだろうか。
この2010年半ばに策定されたこの教育ビジョンにはこんな事情がある。
シンガポールでは小学校卒業試験(Primary School Leaving Examination; PSLE)の
結果により中学校以降の進路の行方が大きく左右される仕組みとなっているため、かつて就学前教育は小学校への準備教育として捉えられ、教科書中心で知識詰め込み型の傾向があった。
しかしながら、就学前教育で社会情動的スキル(social and emotional skils)を育成するという近年の国際的な動向を受け、シンガポールの就学前教育政策は転換され、2000年以降は子どもの全人的発達(children's holistic development)を目指すカリキュラムへとシフトしている。
すなわち、幼児期に受けた教育の違いによって、その後の人生にどのような影響を及ぼすのかを追跡した欧米での研究成果などを受け、就学前教育段階での認知的スキル(cognilive skills)の育成のみならず、「社会情動的スキル」の育成にも高い関心が寄せられている。
認知的スキルとは、10テストや経済協力開発機構(OECD)の「生徒の学習到達度調査」(Programme for International Student Assessment; PISA)などのように、筆記テストで測ることができる能力を指し、社会情動的スキルとは、忍耐力や社交性、自尊心などのように、筆記テストで測ることが困難な目に見えにくい能力を指す。OEODの報告によると、社会情動的スキルを幼少期より育成することは、人生において成果を収めることに役立つという。
この「社会情動的スキルを幼少期より育成することは、人生において成果を収めることに役立つ」この発見がシンガポールの教育政策の転換の起点になったらしい。
そして、さらに、突き詰めた一例が次の表である。

EYDFとは、「保育所のための乳幼児期の発達枠組み」で、こうしたカリキュラムの枠組みで、保育所の経営は標準化されてきた。
それには、2013年に、社会・家族開発省と教育省がそれぞれ保育所と教育省を管轄していたのを、幼児期開発局(これをECDAという)が統合したことが大きかったようである。
そのもとでEYDFを包括する保育所の指導要領にあたるNELカリキュラムが開発されるなど、具体的な改革が進んだのである。
この筋のとおったシンガポールの教育改革が整然と行われてきた様子について、もう少しテキストを追っていきたい。
《見出し写真》の補足
旧街道は石畳のまま、空中で車道を横切ります。
そもそも保育所の目的は「子守」や「託児」だっただろう。
担った人たちは家庭やコミュニティでの自然に育っていく子どもたちの姿をイメージし、それに近づけようとしだろう。
それは近代の学校のもつ教育の機能的なあり方とは一線を画していた。
いわば「子ども(らいし)時間の確保」である。
そして、つかみどころのないそのイメージの中に子どもがいることこそが、子どもたちの将来の“大きなこと”になるように思われるし、実際そうだろう。
「予測困難で不確実、複雑で曖昧」の未来に対して確実にできうることともいえる。
もちろん、保育所も社会的機関である。
行わる保育は意図的に行われ、説明と評価とがあるべきである。
しかし、逆に、その中でこそ漠然としたイメージとしての「子ども(らしい)時間」が確かな形となって見えてくる可能性があるのではないか。
そんな作為的な無作為みたいなことができるのかどうか、あるべき「子ども(らしい)時間」にむけて、各国の知恵を訪ねたい。
テキスト:
秋田喜代美/古賀松香『世界の保育の質評価‐制度に学び、対話を開く‐』明石書店
シンガポール1
続いてシンガポールを見てみよう。
シンガポールは、OECD Education2030においても積極的な提案が見られるように、
教育を重視する姿勢がある。
そのことは歳出額全体の約12.8%が教育に当てられ、これは日本が5.4%なのに対して、かなりのウェイトを教育にかけていることがわかるという。その中で就学前教育も重要な位置づけにしている。
前回のテキスト(白井 俊『OECD Education2030プロジェクトが描く教育の未来:エージェンシー、資質・能力とカリキュラム』ミネルヴァ書房)でも、その教育への積極性の一端が伺える。

以下は、シンガポールの教育改革を解説の概要である。
シンガポールにおいても、コンピテンシーを重視したカリキュラム改革が行われており、図序-6のような枠組みが示されている。シンガポール教育省の説明によると、外周部分は、新しい21世紀型コンピテンシーであり、具体的には、以下の3つが挙げられている。
・市民的リテラシー、国際感覚及び異文化に対応するスキル
・批判的・創造的思考力
・コミュニケーション、協働性及び情報に関するスキル
シンガポールでは、さらに図序-6の内周部分を「社会・情動的コンピテンシー」として、自らの感情を認識してコントロールしたり、他者に対して気配りや心配をしたり、責任ある意思決定をしたり、良い関係性を構築したり、難しい状況に上手に対応していくといったスキルが挙げられている。
そして、シンガポールで最も重視されているのが円の中心部にある「中核的価値観(corevalues)」であり、知識やスキルも価値観によって下支えされるものであり、価値観によって信念や態度、行動も決まってくることから、21世紀型コンピテンシー枠組みの中心にあるものとして位置づけている(MOE [Singapore), 2018:Tan & Low, 2016) •
なお、シンガポールにおいても、中核的価値観を含めて、ここに挙げられているコンピテンシーが、カリキュラム改革前の教育で教えられていなかったわけではないのは当然である。しかしながら、こうした枠組みを示すことによって、コンテンツの知識を教えることと、21世紀の時代に必要なコンピテンシーや価値観を獲得させることのバランスをとることが目指されているのである(Tan & Low, 2016)。
そして、この「シンガポールで最も重視されているのが円の中心部にある「中核的価値観(corevalues)」であり、知識やスキルも価値観によって下支えされるものであり」とされるその部分が、主に就学前教育に課されていることが次の表でわかる。

冒頭の図の三重円の外側にある
・自信に満ちた人
・自律的な学習者
・率先して貢献する人
・積極的に社会に関わる市民
が、この図で一番右、「教育の望ましい結果」として表される中、そのスタート地点として就学前教育が大きくとりあげられ、「就学前教育段階の結果」から導かれるように、「学習目標」「学習の資質・能力」が明示されている。
これほど明確に就学前教育の枠組みを位置づけたのは、ある意味画期的なのではないだろうか。
この2010年半ばに策定されたこの教育ビジョンにはこんな事情がある。
シンガポールでは小学校卒業試験(Primary School Leaving Examination; PSLE)の
結果により中学校以降の進路の行方が大きく左右される仕組みとなっているため、かつて就学前教育は小学校への準備教育として捉えられ、教科書中心で知識詰め込み型の傾向があった。
しかしながら、就学前教育で社会情動的スキル(social and emotional skils)を育成するという近年の国際的な動向を受け、シンガポールの就学前教育政策は転換され、2000年以降は子どもの全人的発達(children's holistic development)を目指すカリキュラムへとシフトしている。
すなわち、幼児期に受けた教育の違いによって、その後の人生にどのような影響を及ぼすのかを追跡した欧米での研究成果などを受け、就学前教育段階での認知的スキル(cognilive skills)の育成のみならず、「社会情動的スキル」の育成にも高い関心が寄せられている。
認知的スキルとは、10テストや経済協力開発機構(OECD)の「生徒の学習到達度調査」(Programme for International Student Assessment; PISA)などのように、筆記テストで測ることができる能力を指し、社会情動的スキルとは、忍耐力や社交性、自尊心などのように、筆記テストで測ることが困難な目に見えにくい能力を指す。OEODの報告によると、社会情動的スキルを幼少期より育成することは、人生において成果を収めることに役立つという。
この「社会情動的スキルを幼少期より育成することは、人生において成果を収めることに役立つ」この発見がシンガポールの教育政策の転換の起点になったらしい。
そして、さらに、突き詰めた一例が次の表である。

EYDFとは、「保育所のための乳幼児期の発達枠組み」で、こうしたカリキュラムの枠組みで、保育所の経営は標準化されてきた。
それには、2013年に、社会・家族開発省と教育省がそれぞれ保育所と教育省を管轄していたのを、幼児期開発局(これをECDAという)が統合したことが大きかったようである。
そのもとでEYDFを包括する保育所の指導要領にあたるNELカリキュラムが開発されるなど、具体的な改革が進んだのである。
この筋のとおったシンガポールの教育改革が整然と行われてきた様子について、もう少しテキストを追っていきたい。
《見出し写真》の補足
旧街道は石畳のまま、空中で車道を横切ります。
