諦めない教育原理

特別支援教育は教育の原点と聞いたことがあります。
その窓からどこまで見えるか…。

255 幸福をどうするか #07 統計の輪郭(Unicefの大きな世界として)

2024年12月29日 | 幸福をどうするか
晩秋の日光白根山 再び外輪山に登ると、東方向に男体山、女峰山、太郎山のご家族、火山の土壌で植生が限られていて紅葉が見事

引き続きUnicefのレポートを読んでいきたい。
子どもの幸福度は子ども自身の中の内在するのだが、それは国の状況や取り組みとどの程度関係があるか。
前回の「子どもを取巻く世界」からもっと拡げて「より大きな世界」という章を見ていく。
Unicefは子ども幸福と関係が深い(と思われる)事象を大きな世界の中から取り上げる。


イノチェンティ レポート 16
子どもたちに影響する世界

先進国の子どもの幸福度を形作るものは何か
https://www.unicef.or.jp/library/pdf/labo_rc16j.pdf

第5章 より大きな世界



大きな世界は取り上げる事象も幅広い。ブログとして重くなりすぎるので、事象ごとのポイントをまとめたい。
適宜、本資料を見てください。

図 24:母親および父親に認められる育児休業週数(2018 年、給与と同等の給付換算)
《Unicefのまとめ》父親に割り当てられている育児休業期間は全体の 10 分の 1

 世界各国では現在でも父親に対する育児休業があまりみとめられていないようである。その中で日本は「母親が取得できる育児休業」が 「父親に割り当てられている育児休業」とか制度的にかなり平等に位置づけられてきている。休業中の給与額も高水準である。
実際の父親がどの程度この制度を利用するかは別問題だが、子育て支援の仕組みとして優れている。

図 25:世帯所得が中央値の 60% に満たない世帯に暮らす子どもの割合(2008 年、2014 年、2018 年)
《Unicefのまとめ》半数近くの国で、5 人に 1 人以上の子どもが貧困状態で暮らしている

日本の感覚でいうと、1世帯の収入の平均が500万円だとして、300万円未満の世帯で暮らす子どもの割合である。
トルコが33%であり、アイスランドは10%の間にあって日本も18.8%でありけして低い水準ではない。「貧困家庭の子どもは、認知的・社会情緒的な発達がよ り低く、成人後も健康状態がより悪い傾向がある」と指摘があるように、子どもたちの直接の幸福感にも関係がつよいと思われる。
また、レポートではこの貧困家庭の率が、単に格差を表しているとは言えないといい、
「この指標は、税と所 得移転の制度が、子どものいる世帯が 貧困に陥ることを防止することにどの程度有効であるかを示している」という。
行政の手腕が試されるところともいえるのだろう。

図 26:現金給付、サービス、税の優遇措置を通した家族向け公的支出(2015 年)
《Unicefのまとめ》先進国の家族関係支出は平均で国内総生産(GDP)の 2.4% -うち半分がサービス

家族支援への公的出動の割合である。つまり所得格差是正のための公的な対応であるが、日本は36か国中29位である。図25とも兼ね合いで考えると18.8%の貧困世帯のためにもう少し増額できないものかと思うが、どうだろう。しかもその3割以上が現物支給である。
だだしGDP比であるため、絶対額とは異なることに留意したい。

図 27:家庭の貧困状態の推移と 14 歳時点の結果:語彙力、肥満、うつ状態(英国)
《Unicefのまとめ》継続的な貧困が子どもの成長を阻害

結論として、「最貧困グループの子どもは最富 裕グループの子どもよりも語彙力が低い確率が 2.6 倍、肥 満である確率が 1.8 倍であることが分かった。所得とうつ 状態に関してはそこまで明確な繋がりは認められなかった」としている。
「2000 年代前半に生まれた数千人の子どもを 20 年近くにわたって追跡した英国の調査データを利用した」ものであり、「貧困とは、単に経済的に困窮していることを意味するもの ではない。貧困は子どもたちの生活のその他の面にも波及するものである」とレポートはいう。

図 28:小学校に入学する年齢より 1 年前の時点で体系的な学習に参加している子どもの割合
《Unicefのまとめ》就学前に体系的な学習に参加したことがある子どもの割合は?

小学校に入学する年齢より 1 年前の時点で体系的な学習に参加している子どもの割合である。率直に言って各国の幼児教育の整備は進んでいることにおどろく、待機児童が問題になり始めた2013年の日本は91.1%。41か国中、35位である。「保育の歩(ほ)」で各国の保育政策の進展状況を見てきたがそれを反映したものともいえる。
現在日本は「率」は向上したものの「質」をどうするかに焦点が移ってきているのは以前のレポートの通り。


図 29:欧州諸国における保育ニーズが満たされない 3 歳未満の子どもの保護者の割合
《Unicefのまとめ》欧州の 22 カ国において 10 人中 1 人の保護者は保育ニーズが満たされていない

保育所へ不満ではなく、費用負担であることに留意したい。
質の向上にはコストがかかり、そこまで公的な負担はできないとなると利用者負担となるのだろう。日本のデータはない。

図 30:就学前教育・保育参加率および費用負担感に照らした保育満足度
《Unicefのまとめ》保育満足度が高い国は就学前教育・保育参加率が高く、負担可能な費用

「国レベルでは、就学前教育・保育参加 率はサービス満足度と正の相関関係に ある(図 30 参照)。これは、就学前 教育・保育サービスを肯定的に捉えている保護者の方がサービスを利用する可能性が高いからとも言える。」

図 31:就業、就労、職業訓練のいずれも行っていない 15 ~ 19 歳の若者(ニート)の割合
《Unicefのまとめ》5 カ国において 10 人に 1 人以上の若者が就業も就労もしていない

大人に近い年齢層だから幸福度と直接かかわる調査である。
2010年のデータと2018年のデータで大きな違いが各国で見られるから主に社会因子が強いのだろうが、地域性や個人や家庭によることもあるだとう。
日本のデータなく残念だが、次の調査が参考になる。
厚生労働省データ:未就職卒業者数の推移
(調査した年齢層に違いがあり、比較しにくい。ネットで検索すると日本のニート率は2.4%と出てくる。調査の国の平均6%より低い)

そして、Unicefは子どもの衛生、子ども世代を取巻く社会の現状に目をむける。

図 32:はしかワクチンの 2 回目を接種した子どもの割合
《Unicefのまとめ》はしか予防接種率は 2010 年から 2018 年にかけて 14 カ国で低下

 はしかの予防接種は次のような意味があるという。「予防接種率は、子どもの予防保健サービスの利用可能性と費用負担可能性を測る指標として一般的に使われている。しかしながら、反ワクチン運動の高まりもあり、一部の予防接種率は公衆衛生に関するコミュニケーションの有効性を測る指標にもなってきている。予防接種率を見れば、予防接種に
関する情報が一般の人々に十分に伝わっているか、間違った情報によって子どもがリスクにさらされていないかが分かる。また、はしかの 10 件に 1件は海外渡航中に感染するか、国内で他国からの来訪者との接触で感染している 。これは、はしかという予防可能な病気から子どもたちを守るには国レベルの予防接種率が高いだけでは不十分であり、国境を越えた協力が重要であることを示唆している」日本の93%はどういう経緯かはわかない。

図 33:全出生数中の 2,500 グラム未満の低出生体重児の割合
《Unicefのまとめ》先進国で生まれる 15 人に 1 人は低出生体重児

日本はこの割合が高い(9.4% 世界平均が6.7%)。一義的には周産期医療の高度化の成果を感じるのだが、この統計の意図は、「妊娠中に利用できるサービスの質を測る指標として用いられ、」「また、母親の健康、年齢、栄養、妊娠中の薬物などの物質使用にも関係するとされている」という。また、低出生体重児の成長・発達に対する懸念が高いことにもつながる。子ども幸福度としてこのテーマを取り上げる真意がわかりにくい。

図 34:2007 と 2019 年の失業率
《Unicefのまとめ》失業率がリーマンショック前の水準以下に改善していない国も
日本の失業率は極めて低い

図 35:国民所得と所得格差
《Unicefのまとめ》格差と所得の間にトレードオフの関係は存在しない
「総所得が上がるためには格差は仕方がない」ということではないというのがこの図である。日本は両方の尺度の中間にある。

図 36:出生 1,000 人当たりの乳児死亡率と国民所得および所得格差の関係
《Unicefのまとめ》乳児死亡率は国民所得よりも所得格差に関連している

日本は所得や格差を超えて乳児死亡率が最低水準。すごい。
逆に所得格差との相関が明らかな場合は保健医療制度に限界があるのだろう。

図 37:子どもの死亡率と国民総所得および所得格差
《Unicefのまとめ》子どもの死亡率は所得格差と国民所得が同様に大きく関連している

これはもっと露骨な結果となっている。
1,000人あたりの5 ~ 14 歳の子どもの死亡率(死因は問わない)が見事に経済状態と所得の格差とに沿っている。日本は、0.8人と低い。

図 38:困ったときに頼れる人がいる人の割合
《Unicefのまとめ》ほとんどの国において、おとなの 20 人に 1 人以上が頼れる人が誰もいない

全世界で無縁社会化しているのだろうか。「誰もない」という人と子育て支援者の不足とかいっそう孤独な現代を感じさせる。日本も100人中11人が「誰も頼れない」状態にある。データが10年以上も前のもので現在はどうなのだろう。

治安について、
図 39:2010 年および 2017 年の殺人による死亡率(人口 10 万人当たり)
《Unicefのまとめ》殺人による死亡率は 24 カ国において低下しているが、メキシコと米国は高水準で増加傾向にある

当然傷害事件も少ないわけだから、日本は得がたい幸福をすでに得ている。

環境について
図 40:2010 年および 2017 年の各国の PM2.5 年間平均濃度(µ/m3 )
《Unicefのまとめ》高いレベルの大気汚染によって子どもの健康が脅かされている

図 41:安全に管理された水が利用できる人の割合(2017 年)と住んでいる地域の水質に満足している人の割合
《Unicefのまとめ》ほとんどの先進国において、10 人に 1 人以上が住んでいる地域の水質に満足していない

日本では幸福と結び付けて意識されることが少ないが、関係者の努力によって維持されている分野である。
これも安心の根源であって幸福度と強くつながっている。

そして、
図 44 子どもの幸福度のための条件(政策と状況)総合順位表
これは図を引用しておく。



わかりやすく日本の子どもの幸福にかかわる「政策と状況」は41か国17位である。
さて、これらの統計をどう子どもに生かすべきなのか。次回まとめていきてい。

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