諦めない教育原理

特別支援教育は教育の原点と聞いたことがあります。
その窓からどこまで見えるか…。

189 近未来からの風#25 挑むコンピテンシー!2

2022年10月23日 | 近未来からの風
秋の山で 5  男体山と湯ノ湖 金精峠から

「VUCA」(Volatility・Uncertainty・Complexity・Ambiguity)(不安定,不確実,複雑,曖昧)という未来像での学校教育はどうあるべきか、各国の有識者はどう考えるのか「OECD(経済協力開発機構) Education 2030 プロジェクト」から見て行きたい。
テキストは、
白井 俊『OECD Education2030プロジェクトが描く教育の未来:エージェンシー、資質・能力とカリキュラム』ミネルヴァ書房 (2020/12/22)
参考のHP
OECDにおける Agencyに関する議論について - 文部科学省

第4章 2030年に求められるコンピテンシーの要素(つづき) 

3  2030年に求められる「態度及び価値観」
(1)態度及び価値観の重視へ
コンピテンシーを十分に発揮していくためには、知識とスキルだけでは不十分であると考えられる。例えば、移民の増加に象徴されるように、社会が多様化するにつれて、他者や他の文化に対する敬意や、公平、責任、誠実さ(integrity)などが、これまで以上に重要になってくるだろう。

知識やスキルに加えて、態度や価値観も重要であるという「21世紀型スキル」に典型的に見られる考え方は、日本人からすれば、特段目新しい考え方とは言えないだろう。というのも、日本の教育では、伝統的に態度や価値観が重視されてきたからである。教育基本法が「人格の完成」(第1条)を教育の目的に掲げていることからはじまって、そもそも学校教育全体として、「知・徳・体」のバランスのとれた育成が重視されている。

近年、PISAの結果を伸ばしていることで注目されるエストニアにおいても価値観は重視されており、正直さや思いやり、生命の尊重、正義、人間の尊厳、自他の尊重などの「一般的人間的価値観(general human values)」と、自由、民主主義、母語や母文化の尊重、文化的多様性、寛容さなどの「社会的価値観(social values)」が、カリキュラム上の目標とするべき価値観として続いている。




(2)態度及び価値観と知識・スキルの発達
省略。

(3)AI時代における態度及び価値観
AIによって代替される可能性が低い職種の特徴が、他者との関係性が求められると言うことである(Frey & Osborne,2013)。具体的には、説得や交渉など、複雑な関係性を読み解いた上で、柔軟に対応していくことが求められる職種である。

今後も必要とされ続けるためには、知識だけでなく、スキルや態度及び価値観を獲得しなければならないし、生涯を通じて新しいコンピテンシーを獲得していくような柔軟さや積極的な態度が必要になってくるだろう。

「完全自動化された自動車は、人間が運転する自動車よりも安全で効率的なのか。事故が起きた場合の責任は誰が得のか」、「3Dプリンターは従来の製造工程を短縮し、より停電で素早く商品を届けるようになるか。もし3Dプリンターが、家庭での重機製造や、一人ひとりに個別化した薬の製造に使われるようになったら、一体どのようにどのようなことになるか」、「ソーシャル・メディアや商店のディスカウント・カードの利用、ネット・ショッピングなどをする際に、私たちがどれだけの量の情報を企業などに渡しているかと言う事について、どれくらい考えているか」

こうした倫理的判断を行っていくためにも、態度及び価値観は今後より一層重要になると考える。


4 3つのドメインの構成要素(コンストラクト)
(1)コンストラクトのリスト

このドメインとコンストラクトとの関係は、

知識、スキル、態度及び価値観と言う3つのドメインを見てきたが、それぞれのドメインを構成する要素がコンストラクトである。例えば、批判的思考力は認知的スキルの重要な構成要素であるし、平等や公平といった概念は価値観の重要な構成要素であると言えるだろう。

という。ここについては、私の理解が及ばない、というか、ドメインに共通して存在する要素を分析して果たしてどんな意味があるのかがつかみきれない。
そこで、以下の表がまとまっておりそのままのせたい。




(2)エージェンシーや変革をもたらすコンピテンシーのコンストラクト
省略。
変革をもたらす要素をコンストラクトのレベルで検討してもどうなのだろう、と考える。


以上、2回にわたり「2030年に求められるコンピテンシーの要素」を見てきた。
不安定,不確実,複雑,曖昧な近未来に必要な“学力観”とか“能力群”と和訳?するとこの国際会議の内容も身近なものになるのだろうか。

「知識及び技能」「思考力・判断力・表現力など」「学びに向かう力、人間性など」の源泉がこの会でのコンピデンシーの「知識」「スキル」「態度及び価値観」に対応している分かる。
だからこの会での様々な概念の趣旨の多くは、学習指導要領の方向性と概ね一致していると考えててもいいだろう。その上で少しまとめたい。

教科教育のところ、
「「教科の知識」が、新しい知識を身に付けたり、教科横断的な知識やエピステミックな知識、手続き的知識を獲得していくための基盤となる以上、これが欠落している場合、その生徒は将来の可能性が奪われてしまうことにもなりかねない。」
「教科の知識は2030年においても引き続き不可欠なものであることには変わらないだろう。」
の部分は光る。現実の生活様式も変化が見える中、教室にもタブレット端末が配置になり、これまでの教科教育の価値がやや色あせて見えることがある中「基盤となる」という指摘は、現場にとっても大きい。

「遠い転移(far transfer)」という概念も面白い。知識は相互に結びつき「既有知識と新たな状況の間の概念的な近似性や構造的な近似性を見いだす」というのはつまり想像性の発揚ということだろう。それをどう「教師が支援していくか」はアクティブ・ラーニングということだろう。

「エピデミックな知識」というのも新しい知識観なのでないか。
かつて森毅さんの中世以来の数学者の話を聞いたことがあったが、例えば、ダーウィンは、医師の道を断念し…、とか、レーウェンフックが顕微鏡の発明してミクロの世界に仰天する話など、生徒たちに学ぶことへのイメージを肯定的に膨らませる。それらは単にエピソードとして扱う以上のものではないのだろう。

「スキル」が多様化・専門化しているのも今日の問題だ。個別のスキルからそれらを網羅する横断的なスキルまで縦横無尽で変化も激しい。その変化に対応するのもスキルと言えるらしい。ただ、変わらないものもある、その整理が更新されていくのだろう。

「態度及び価値観」は、信念とか生き方にかかわる幹の部分のことだ。難しい局面ではこの部分が判断の根拠になったり、原動力になっていく。

そして、まとめきれなかった「コンストラクト」については、次章「2030年に求められるコンピテンシーの基盤」に引き継がれ、学ぶことの意味を深めていく。


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188 近未来からの風#24 挑むコンピテンシー!

2022年10月09日 | 近未来からの風
秋の山で4 瑞牆山

「VUCA」(Volatility・Uncertainty・Complexity・Ambiguity)(不安定,不確実,複雑,曖昧)という未来像での学校教育はどうあるべきか、各国の有識者はどう考えるのか「OECD(経済協力開発機構) Education 2030 プロジェクト」から見て行きたい。
テキストは、
白井 俊『OECD Education2030プロジェクトが描く教育の未来:エージェンシー、資質・能力とカリキュラム』ミネルヴァ書房 (2020/12/22)
参考のHP
OECDにおける Agencyに関する議論について - 文部科学省

第4章 2030年に求められるコンピテンシーの要素 

この章では、以前に話したコンピテンシーについてより具体的になっていく。
コンピテンシーについてもう一度定義を確認しておく。

知識や〔認知的、メタ認知的、社会・情動的、実用的な〕スキル、態度及び価値観を集結することを通じて、特定の文脈における複雑な要求に適切に対応していく能力

既存の日本語の無理に翻訳すると“学力観”とか“能力群”もっとくだけて“身に着けさせたい力”と言ったら良いのだろうか。
ともかくも、この章では不安定,不確実,複雑,曖昧な近未来に向けての必要なコンピテンシーを探求していくという難事業を行うわけである。

まず、第4章のプロットを先に上げておく。
1 2030年に求められる「知識」
(1)知識の類型
(2)知識とスキルの関係
(3)教科の知識
(4)教科横断的な知識
(5)エピステミックな知識
(6手続き的知識
2 2030年に求められる「スキル」
(1)スキルの類型
(2)認知的スキル
(3)社会・情動的スキル
(4)身体・実用的スキル
3 スペース2030年に求められる「態度及び価値観」
(1)態度及び価値観の重視へ
(2)態度及び価値観と知識・スキルの発達
(3)AI時代における態度及び価値観
4 3つのドメインの構成要素(コンストラクト)
(1)コンストラクトのリスト
(2)エージェンシーや変革をもたらすコンピテンシーのコンストラクト


このそれぞれの内容を学び、紹介したいが、他の章以上に本ブログ扱い切れない。
そこで各節ごとのキーセンテンスなどを未熟ながら私の主観で抜粋し、エッセンスでもお伝えできればと思う。

1 2030年に求められる「知識」
(1)知識の累計

最終的に、①教科の知識、②教科横断的な知識、③エピステミックな知識、④手続き的知識の4つに分類することにされた。

(2)知識とスキルの関係
特に、批判的思考力や創造的思考力などのスキルの重要性が強調されることの裏返しとして、例えば、「Googleで調べれば、知らない知識もすぐに補充することができる」といった意見が出されたこともある。確かに、すぐに調べることができる知識もあるだろうが、そうした知識は同時にすぐ忘れてしまうような知識であり、必要な場面で取り出して使うことができないタイプの知識でもあろう。

OECDのラーニング・コンパスにおいても、すべての生徒が未知の状況にも的確に対応していくことが出来るようなツールとして、基盤となる教科の知識や、様々な学問分野における思考パターンを身に付けることの重要性が強調されている。

実際、『学び方を学ぶ』といっても、これを何かを学ぶことから独立して考える事は不可能である。我々の立場は、知識と発達の両方の様子が重要であり、その両方が確実に担保されるような慎重な政策手段が取られねばならないとするものである。

(3)教科の知識
「教科の知識」が重要なのは、それらが、新しい知識が生み出されるための原材料(raw materials)としての役割を持つからであり、「教科の知識」は、「教科横断的な知識」、「エピデミックな知識」、「手続き的知識」という他の3つの知識の類型の基盤になるものだからである。

「教科の知識」が、新しい知識を身に付けたり、教科横断的な知識やエピステミックな知識、手続き的知識を獲得していくための基盤となる以上、これが欠落している場合、その生徒は将来の可能性が奪われてしまうことにもなりかねない。

教科の知識は2030年においても引き続き不可欠なものであることには変わらないだろう。


(4)教科横断的な知識
重要なのは、知識の断片ではなく、構造化された知識であって、そのためには、カリキュラムが、各教科の学問原理(ディシプリン)に基づいた順序性や体系性、学習の過程に照らして適切なものとなっていることでありそうした観点に留意することが求められるのである(OECD、2030a)。

そうなると、「遠い転移(far transfer)」を可能にしていくためには、生徒が、既有知識と新たな状況の間の概念的な近似性や構造的な近似性を見いだすように、教師が支援していくことが重要になってくる。そうすることによって、当初は生徒が「遠い転移」と捉えていたものも、「近い転移(near transfer)」として認識することができると考えられる。

(5)エピデミックな知識
「各学問分野の専門的知見を有する実践家が、どのように仕事をしたり、思考したりするかと言うことについての理解」とされており、エピデミックな知識を獲得することで、生徒は学習の目的を見つけることができるようになったり、学習したことを適用することについて理解したり、教科の知識を深めることができるとされている(OECD、2019b)。

エピデミックな知識を深めていくためには、例えば、「この教科では何を学んでいるのか、また、それはなぜなのか」「この知識を、自分の生活において活用することはできるのか」「科学者だったらどうするか」「医者だったら、どのような倫理に従っているのか」といった問いに答えていくことが考えられる。そうすることで、獲得した知識が現実的な課題解決に必要か理解することができるし、未来に向けて世界中をより良くしていくためにはどうしたら良いかについても、よりよく考えることができるようになるだろう(OECD、2030b)。

(6)手続き的知識
デザイン思考やシステム思考などの手続き的知識は、上述のように、一定の手順を含んでいたり、問題の特定や解決につながるような思考パターンを重視している。こうした思考パターンについての知識を獲得することで、生徒は、自ら目標に向けて進んでいく(navigate)ことができるのである。

教育の場面において、デザイン思考やシステム思考などの手続き的知識を学ぶ意味は、「物事の仕組みが、目的のためにどのように組織化されているのか、また、もし目的達成につながっていないのであれば、どのように仕組みを維持することが難しいのかを理解する」ことである。


2 2030年に求められる「スキル」
(1)スキルの累計
ラーニング・コンパスの整理では、スキルを① (メタ認知を含む)認知的スキル(批判的思考力、創造的思考力、学びの学習〔learning-to-learn〕、自己調整などを含む)、②社会・情動的スキル(共感性、自己効力感、責任感、共同性を含む)、③身体・実用的スキル(新しいICT機器の活用含む)、の3つに分類することとされている。

(2)認知的スキル
ここで言うメタ認知とは、「自ら学習について自覚しており、また、コントロールしている状態」(OECD、2016a)とされており、自らの知識やスキル、態度及び価値観を、どれだけ身につけているか、あるいは、それらをどのように活用しているか、といった状況を認識する能力が含まれる。

AIにおける仕事の代替はさらに進んでいくと考えられるが、その例外となるのが創造性を必要とする仕事である。現在のAI技術を前提にすれば、「新規なアイディアや優れたアイディアを考えつくことができるような力」いや「創造的な方法で問題を解決する力」を必要とするような職業については、代替えされる可能性は低いと考えられる。

フィンランド、ドイツ、ハンガリー、オランダにおいては、労働者の16%が過去2年間で自分たちのスキルが陳腐化したと認識していると言うことであり、特にデジタルやICT関連のスキルは、陳腐化が早いとも指摘されている。

個別の新しいスキルを獲得すると言うことよりも、新しいスキルを継続的に獲得し、自らのスキルを常に更新(update)していく力と言うことになる。


(3)社会・情動的スキル
単に物理的なお世話をするだけでなく、例えば、気配りや社会性、高齢者に対する敬意などの社会・情動的スキルを、より一層必要とするようになるだろう。こうしたスキルはAIによっては代替えが困難なのである。

他者視点の獲得(perspective-taking)と言う認知的スキルが十分でなければ、他者への共感性といった情動的スキルを育んでいく事は難しくなるだろう。


(4)身体・実用的スキル
こうしたスキルの中には家庭などの環境において自然に身に付くものも多いと考えられるが、そうなると、教育場面においては、実用的スキルについてどのように考えるのかが重要になってくる。この点、コンセプト・ノートでは、「実用的スキルに対する特別な必要性や特定の教育目的を担保すること、また、そのために教育的に介入していく必要性は、状況によって変わってくる」とされている。

若い頃に身に付けた習慣は、大人になっても変わらないことを示しているから、早い段階で健康に関する習慣を形成することが重要になる。


結構な長文になったので今回は途中までです。




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187 近未来からの風#23 OECDの提言「agencyの姿」

2022年10月02日 | 近未来からの風
秋の山で3  甲斐駒ケ岳 釜無川を渡ったところから 

「VUCA」(Volatility・Uncertainty・Complexity・Ambiguity)(不安定,不確実,複雑,曖昧)という未来像での学校教育はどうあるべきか、各国の有識者はどう考えるのか「OECD(経済協力開発機構) Education 2030 プロジェクト」から見て行きたい。
テキストは、
白井 俊『OECD Education2030プロジェクトが描く教育の未来:エージェンシー、資質・能力とカリキュラム』ミネルヴァ書房 (2020/12/22)
参考のHP
OECDにおける Agencyに関する議論について - 文部科学省

第3章 エ―ジェンシー (つづき)

エージェンシーについて続ける。
エージェンシーと言う言葉は、日本の教育の用語の中にあってこなれていない。
あえてこれまでの日本語に訳すとすると、「生徒の主体性」、「生徒の声・意見」、「生徒による選択」、「生徒を中心に」、「自立して」、「積極的に」などの言葉が当たるようだが、
「これらの用語は、一歩間違えれば、生徒が自分自身で考えたり、自分自身で行動しさえすれば良い、と言う考えにつながりかねないが、それはエージェンシーの目指すところではない。」
と言うことになる。
「VUCA」の未来に向かって、もっと強いイメージを含ませているに違いない。
言い換えれば「教育内のための主体性」ではなく、未来を切り開いていくための強いエネルギーを伴った主体性と言うことなのだろう。
ではそのようなエージェンシーとはどういった姿か、さらにOECDの議論から探っていきたい。

文脈の中で生きるエージェンシー
ここで言う文脈の例として、次の4つを挙げている。

モラル 市民 創造性 経済

である。

モラルについてのエージェンシーとは「自分は何をするべきなのか」を考えたり、「自分がした事は正しかったのか」といったことを問い直していくことである。場合によっては、自らの利益に反してでも、義務や約束を果たしていくことでもある。

市民としてのエージェンシーは、社会の構成員の一員としてどのように社会を担っていくかと言うことである。近年ではそれぞれの地域や国といった枠組みだけでなく、よりグローバルな視点での市民としてのあり方も重視されるようになっているが、様々な考え方や価値観がある中で、対立やジレンマに対処したりしながら社会を形作っていくことが求められる

創造に関するエージェンシーは、(中略)映画や音楽などに限ったことではなく、料理や研究プロジェクト、あるいは仕事上のプレゼンテーションなど、様々な場面に置いて試行錯誤したり、他者からのフィードバックを得たりしながら、より良いものを作り出していくことが重要になる。

経済に関するエージェンシーは、一人一人が経済的に価値のある行動をしていくと言うことである。(中略) AI時代においては、人間が行ってきた仕事がAIに代替えされるようになり、これまでの伝統的な労働の経済的価値が失われてしまう可能性がある。大切な事は、例えば、倫理に関すること(モラル・エージェンシー)や、新しいものを創造すること(創造性に関するエージェンシー)などを通じて、賃金の高にかかわらず、新しい価値を生み出すことができているかどうかと言うことである。


未来を切り拓いていく主体性は以上のような文脈で様々な場面に応じて発揮され、主体的な活動を後押ししていくことになるのである。

そしてこのプロジェクトが次の点に言及していることも重要である。

Education 2030プロジェクトにおいて、特に議論が行われたのが、苦しい状況にある生徒たちのエージェンシーについてである。貧困や病気、犯罪や虐待、家庭の崩壊などの苦しい状況にありながらも、そこから脱却しようともがいている生徒がいる(ことである。)(中略)
エージェンシーが、生徒一人ひとりの主体性を重視するものであるがゆえに、場合によっては逆境に置かれている生徒についても、自らその状況を克服していくことが必要である、と解されかねないことである。(中略)
そもそもエージェンシーの発揮自体が困難な状況にあることにも留意しなければならない。例えば、暴力や性的・心理的な虐待を受けていたり、あるいはネグレクトされてきた生徒は、将来に対する希望や達成感、モチベーションなどが低くなる傾向にあり、エージェンシーを発揮する基盤自体が揺らいでいる。そうした場合には、自らのエージェンシーの問題として扱うことなく、「厳しい状況ニュー生徒がエージェンシーを発揮できるよう、きちんと支援していくこと」が教育の役割であろう。


学校現場に入ると、この事は日常の課題になっている。理想論としてのエージェンシーと、そこからはかけ離れている状況にある多くの子どもたちとのギャップについては、児童福祉的な観点が必要であるが、国際会議上の総論としてそこまで踏み込んでいない。

また白井さんが、「エージェンシーと文化的コンテクスト」として項を起こしているように、

どのような社会、文化においても、あるいはどのような文脈であろうとも、常に妥当なエージェンシーの統一的な概念と言うものは存在しないのであり、あくまでも、文化的・社会的なコンテクストを前提にした概念であると考えるべきである。

当然のことだが、「エージェンシー」も他の教育概念と同じように動的なものであり、決して固定的絶対的なものではないのである。
それぞれの場でそれぞれが持ち寄り育むべきものなのだろう。

そのことが次の項である「共同エージェンシーとは」の中でも表れている。

共同エージェンシーは、まさに他者との関係の中で成長していくことであり、コンセプト・ノートにおいても、「親や教師、コミュニティー、生徒同士の相互作用的、相互に支援し合うような関係であって、共通の目標に向かう生徒の成長を支えるもの」とされており、「教師や生徒が、教えたり学んだりする過程において共同制作者(co-creators)となった時」に生じるものとされている(OECD、2019)。

このようにエージェンシーは共同意識の中で育まれるのであるから、教師の指導のあり方についても言及している。

生徒のエージェンシーを育んでいくためには、当然、教師が一方的に指導すると言うことではなく、教師と生徒が、お互いに教えたり学んだりするプロセスを、一緒に作っていく関係性が重要になる。
教師が、「自分たちの職業人としての成長目指すと言うことに加えて、同僚の成長にも貢献するということを、目的的かつ建設的に行うこと」が重要であり、エージェンシーのある教師は、「学習機会に受動的に応じていくと言うよりも、自分たちの職業的な成長であるとか、目標に向かって向けた学習に関する選択を行うことを意識している」と言う。

そしてそれらを集約すれば、

共同エージェンシーとは、「生徒、親、友人、教師」が、教育経験を通じて、自分たちの発達を双方向的に共同して律するすること(co-regulate reciprocally)」であり、生徒のエージェンシーの発達が、周囲にとっても良い影響与え、それが生徒にも還元されるという好循環を呼ぶことになる。

と言う結論に達するようだ。
まさしく、学びの共同体の論理だし、従前からの教師論にも通ずるものである。
このことを改めて確認するべきだと言うことであろう。

そして最後に、エージェンシーの発達にも一定の段階があると言うことが紹介されている。

ハートによる梯子モデル
共同エージェンシーの太陽モデル
太陽モデルに基づく共同エージェンシーの糾弾会


の3つである。







エージェンシーは動的な概念であり、捉えにくいが、これらのモデルは、「エージェンシーの成長」?の段階を示すものとしてわかりやすい。
そして、その先の方法論は、各国、各地、各学校、各グループの開発するところとなる。
つまり、エ―ジャンシーのある実践ということである。

次回は、コンピテンシーの3つの要素(知識、スキル、態度及び価値観)の中身を、2030年の視点から考察する。



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