一輪挿し
改札を出たモニュメントの前で、友人ヨシダと待ち合わせている。
ヨシダは高校時代から待ち合わせに遅れない。
まだ5分前、階段の方からヨシダが歩いてくる。
ダークグレーのスーツにえんじのネクタイ。眼鏡が少し光っているのが、年齢層を感じさせる。
「待ったぁー」
という一声。
そう言うだろうなと、なんとなく察しがついている。
実は先に着いて駅ビルの本屋で時間をつぶしていたのだろう。
笑みを浮かべながら近づいてきて、少し顎を引いて2~3回瞬きをする癖。
久しぶりだという気持ちとか、「本当は自分より先にここに来てたのかな」という彼らしい気配りとか、「この後どんなことを話そうか」と考えているのかもしれない。
そんなことをこの癖から自然に読み取れしまう感じ。15年ぶりなんだけど。
焼き鳥屋に案内して、久しぶりと言ってビールで乾杯しつつ、
「それで、あれ、どうしたっけ?。」
と聴くと、いくつかのテーマの中から選んで?、
「そうそう、そうなんだよ。」
という。それだけで話が通じる。
いや、通じているか分からないけど彼の言いように任せている。
「やっぱり大変でさー。」
「そうか、そうなんだろうあー。」
「……」
同じテーマで考えているのか分からない。分からないけど、しばらく二人でだまって煙の向こうの宙を見るている………。
噛み合っいないかも知れないけど、それでいいかと。
「ああ」とか「そうか」とか「なるほど」とか言いながら、時間が過ぎていく。
考えてみると、彼とは、高校卒業以来長い時間を一緒に過ごしたことはない。
知っていることは、人物年表のトピックのようなことだけなのである。
ヨシダは、専門学校に進んだ。その後中堅企業に入って、結婚したり、マンション買ったりして、今は部長になったという。
そんなスカスカなことだけある。だけど毎日彼と接している会社の同僚より彼のこと分かっている気がするのはどんな機微なのだろう。
「本当の友達!」とかいうのではなく、ヨシダという人は、自分にとって〝機能″ではないということかも知れない?。
店を出てモニュメントまで戻って来た。これでお開き。
「じゃ、ここで」
「そのうちまた」
明日も会社と学校という機能として場がある。