諦めない教育原理

特別支援教育は教育の原点と聞いたことがあります。
その窓からどこまで見えるか…。

251 幸福をどうするか #04 統計の輪郭(Unicefの結論)

2024年11月24日 | 幸福をどうするか
晩秋 日光白根山🈟 以前に登った男体山から見えた日光白根山に向かいます。白根山は火山でカルデラ地形の中に溶岩ドームがそびえます。まずきれいな白樺やダケカンバの樹林帯を行きます。

前々回から国内の統計、そして世界幸福度ランキングの統計を見てきた。
さすがに規模の大きな調査による統計からは幸福という私的な部分が浮かび上がらない印象があった。
しかし、こうした統計は、各国の各地域の人々の公共的福祉を改善することが主たる目的であり、それはその意味では大変有効なものである。

ところが、である。これから見ていくユニセフの子どもたちの幸福についてのレポートは国際的な調査なのにもっとリアリティがある。
読み取ろうとするとリアルに子どもたちの一人ひとりが想起される気がする。

イノチェンティ レポート 16
子どもたちに影響する世界:
先進国の子どもの幸福度を形作るものは何か



第1章 序(調査の重層構造)

この調査の優れた点は下の図に見られるように、子どもたちを取り巻く諸環境を何重もの円で描き、1つの因子を短絡的な結論に導いていくことを警戒していることである。

図:分析の枠組み



子どもたちの今は、「精神的幸福度」、「スキル」、「身体的健康」の三要素で測るのだが、それは子どもを取り巻く「行動」や「人間関係」に左右されるだろうし、さらには、「ネットワーク」や「資源」より外側の条件にもつながりがあるだろう。そしてさらにもっと大きな「政策」や「社会状況」といったものにもつながっているかもしれない。
これを踏まえた上で子どもはそれぞれの幸福を感じていると見ているのである。

第2章 結果

レポートでは、まず「結果」として、円の1番内側の部分の統計を紹介している。

図:精神的幸福度、身体的健康、学力・社会的スキル



先程述べた子どもの幸福度の三要素がこれに国別にまとまっている。
これによると日本は総合順位として38カ国中20位と言うことがわかるが、次に目を引くのがアンバランスである。
真ん中の「身体的健康」は第1位なのに対して、「スキル」は27位、「精神的幸福度」は37位とほぼ最下位なのである。

国内調査でも若者の幸福度の低さが指摘されていたが、それを国際比較しても、特に「精神的幸福度」がここまで低いことがわかる。
またスキルについても27位と予想外に低い。学力調査では上位行くはずの日本としてはこのスキルの順位はどういうことなのだろう。

図を順に見ていこう。まず「精神的幸福度」の中の「生活満足度」である。

図:生活満足度の高い15歳の子どもの割合



はじめからネガティブな結果である。日本の15歳は高校受験の準備もあるだろう。

図:15から19歳の若者100,000人あたりの自殺率



これは事実ベースの調査である。これこそ数で比較するものではないと思うが、痛ましい結果である。
平和な日本で若い世代の自殺者数が多いとのは重大な問題と言わざる得ない。

図:高い肥満である5~19歳の子どもと若者の割合



一方、これについては、日本の子どもは世界一健康と言うことになっている。自殺率が高いことと相対して、ここにもアンバランスがある。
そして、「スキル」に関する図である。

図:読解力及び数学的リテラシーが基礎的習熟レベルに達している15歳の子供の割合
簡単に言うと学校の勉強の習熟度を言っている。



これは予想通りで上から5番目と優秀な成績である。
ところが、同じスキルでも、「すぐに友達ができると答えた15歳の子どもの割合」を見ると、ここにもアンバランスがある。

図:すぐに友達ができると答えた15歳の子どもの割合



なんと日本はほぼ最下位である。
およそ3分の1の15歳が、友達ができるか心配しているということである。
つまりこれも社会的スキルと見ると、学力の習熟度と合わせた結果、日本の子どもたちのスキルは世界27位になるのである。
以上がこのレポートで挙げられている「結果」の部分である。
ここを見ただけで日本の若い世代の「生きづらさ」を感じざるを得ない。若者の低調な幸福度の結果に結びついているとは容易に想像ができる。

このレポートには、専門家の方のコメントが寄せられていて、例えば尾木直樹さんは、次のように述べている。

今回の報告で注目すべきは、日本の子どもの「精神的幸福度」の低さです。その背景には、教育生活上の問題があると思います。日本では、15歳で迎える高校受験によって、子どもたちは偏差値という学力指標だけで割り振られてしまいます。競争原理に基づく一斉主義による序列化をするわけですから、子どもの自己肯定感がガタガタになり、肯定感が育たないのは必然だと思います。

この「結果」にはいろいろ見解があると思われるが、さらにこれらを深掘りしていくデータが紹介されていく、次回もユニセフのレポートを追いかけたい。

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250 幸福をどうするか #03 統計の輪郭(国際調査)

2024年11月17日 | 幸福をどうするか
のんびり八ケ岳🈡 赤岳鉱泉からの径を楽しみながら、美濃戸口登山口に到着。コスモスがバス停横で咲いていました。

目に見えない幸福が部分的な尺度で測って合算すると、それなりに「幸福」が見えてくる。
それを「幸福度」として数値で表す。
統計的に幸福が定義できうるのか、ということでもある。

今回は、幸福度の国際規格を見てみよう。

世界幸福度ランキング 2024

有名な「世界幸福度ランキング」である。
下の図が2024版である。(「rootus」さんHPから)



この調査での日本の「幸福度」の順位は143か国中51番目である。
年々下落していることが話題になったりする。
この印象が一人歩きしていて、これをどう理解するべきなのか。条件で違いの大きいフィンランドの人の幸せと日本人の幸せを比べられるのか?

内容に立ち入ると、幸福度を決定する因子は7項目である。
※印は客観値

1 一人あたりGDP:(※)
 〇 ただしドル換算のため為替ルートが関係する。主観は入らない。
2. 社会的支援・周囲のサポート
 〇「困ったことがあったら、必要なときにいつでも助けてくれる親戚や友人がいますか?、それともいませんか」という質問に対する回答の全国平均値による。
3.健康寿命:(※)
 〇 WHOの統計による客観値。
4.人生の自由度
 〇「あなた自身の人生における選択の自由について、満足ですか?」という問いに「yes」と答えた人の割合
5. 他人への寛容さ・ボランティア活動
 〇「過去1カ月にいくら募金しましか?」という問いを一人あたりGDPで調整した割合
6. 国への信頼度・腐敗の少なさ
〇「あなたの国の政府に汚職/腐敗が蔓延していますか?」「ビジネスに汚職/腐敗が蔓延していますか?」という問いに「yes」と答えた人の割合の平均
7.基準値・残差(カントリルラダー)
〇 上の6つの因子で表せなかった主観的な幸福度

これらによって、各国ので約1,000人のサンプルをとって行われるらしい。
評価は、10段階で、可能な限り最高の人生を10、最悪の人生を0とし、回答者に自分の人生が0から10のどの段階にあるかを評価してもらうという。

注)なお、日本語のオフィシャルなHPが見当たらす、英語の原典?のサイトからPDFの「Report」をダウンロードするらしい。

さて、この7つの因子でその国の「幸福」を示しているという。
そしてそのうち5因子は回答者の主観(感覚)が含まれている。特に7番目の「基準値・残差(カントリルラダー)」は今の実感としての幸福感を率直に聞くと言う因子である。

「51位」の実態
総ポイントで比較するとフィンランドが77点に対して、日本は61点である。
つまり、フィンランドの幸せ風船より2割程度日本の幸福風船は小さいことになる。

ところが、7つの因子ごとで見てい行くと様相が異なってくる。
上のグラフの色別の因子の幅を見ていただきたい。

《scoreの高い因子》
因子1~4までは統計的にも順位は低くない。
つまり、「GDP」、「社会的支援」、「健康寿命」、「人生の自由度」だけなら、なんのことはない20位のイギリスより日本は「幸福」な国ということになる。

《scoreの低く見える因子》
ところが因子5~7が低い。
しかし、そこには疑問を感じる面がある。
因子5の「他への寛容さ」は、質問項目が募金の頻度なのである。
そもそもキリスト教では教会への献金、イスラム圏では「喜捨」が半ば習慣化しているのである。
その点日本では、「お布施」といっても1カ月の間隔では行わないし、あるいは被災地への募金や共同募金もそれほどの頻度があるものではない。
飲多くの人の感覚として募金を他に「対する寛容」と解釈するのに違和感があるだろう。
また、因子6の「汚職/腐敗」指摘することが習慣であることが幸福かというと多くの日本人には感覚的に難しい。

このように、日本人の幸福度を下げている因子5と因子6について世界各国の共通の尺度になりにくい面があると言えるだろう。

そして同じように日本人は、「基準値・残差(カントリルラダー)」も同じように低いことに注目したい。
この調査では東アジアの国々では、国民性でこの因子を控え目に回答する傾向を認めらているらしい。
ただ、日本のこの因子の低調さを、単なる国民性と解釈するのは早計な気がする。
かえってそこに現在の日本人のリアルな問題を表しているように思う。

この国際調査は、不備を指摘することはたやすいのだが、国際比較の中で次の2点が問題としてまとめられるように思う。

日本人の平均的な幸福感は「60点」であること。
この国際調査のスコアーが「6.060」であるのに対し、前回紹介した内閣府の「生活の質に関する調査結果」の中の、「現在の幸福感」の平均値がやはり「6.1」ポイントだったのである。
2つの調査の調査因子は異なるのだが、いずれにしても幸福感は「60点」というのは偶然の一致ではないように思う。

若い世代にはポイントが低い
また、国際調査でも日本の若い世代の幸福感は低いらしく、同じく国内調査でも顕著に20代前半の幸福感が低いのである。(前回参照)
実際、不登校の増加や自死の問題など、若い世代の活力の足掛かりについて懸念されているわけだが、幸福感の観点からも、若い世代の展望の希薄さが現れているように思われる。

そこには若い世代中心に、幸福への手ごたえが想像以上に低いことが窺われるのである。

次回、ユニセフの子どもの幸せの調査を見に行くことにする。





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249 幸福をどうするか #02 統計の輪郭(国内)

2024年11月04日 | 幸福をどうするか

のんびり八ケ岳 緩やかな帰り道  秋の針葉樹と沢の音

ユートピアの語源は「ウ・トポス」というラテン語で、「どこにもないところ」という意味らしい。
「幸福」についても青い鳥のように見える人にしか見えないものもしれない。
幸福はこうしたものだから、あまり正面から論じられてこなかった。
ところが、頂上が雲で見えないこの幸福という山を本気で登る試みがはじまっている。
幸福へ直登ルートをたどってみよう。


1 統計ルート(国内)

 幸福に幸福度という尺度をあててみると、実態感が出てくる。
気体は目に見ないが、袋に入れて口をギュッと縛れば測れる対象となりうる。
その「幸福」それが幸福という全体像にどの程度近似しているか分からないが、最近いろいろな尺度で幸福を測る取り組みが進んでいる。
その一つが、内閣府経済社会総合研究所 幸福度研究ユニットによる「生活に質に関する調査結果」である。2019年から始まり今年からインターネットでの調査になった。政府も幸福に直接アクセスしようとしているのがわかる。
※ 行政のPDF資料から引用します。引用は一部なので直接リンク先から参照してください。

第 1 回 生活の質に関する調査結果(インターネット調査)

また、2019年からの推移が次のベージでわかる。

満足度・生活の質に関する調査報告書2024 ~我が国のWell-beingの動向~(概要)

で、この調査は、幸福の尺度を次の14種類を設定している。

①主観的幸福度、②協調的幸福感尺度、③生活満足度、④感情バランス、⑤心理的機能に基づく幸福度、⑥生活領域での満足度、⑦不安感、⑧子育てに対する感じ方、⑨制度への信頼、⑩一般的信頼感、⑪自己有用感、⑫一般的サポート、⑬ニート・ひきこもり、⑭うつ尺度等

そしてそれぞれの偏差状況を数値化し、日本人の年ごとの幸福度ということにしているのである。
少しだけ取り上げるてみる。

① 主観的幸福度
まず、各論の前に実感としの幸福感を聞いている。



◆ 主観的な幸福度は60点ぐらい!今ひとつ冴えないという印象。
◆ 分布を見ると「5」前後と、「7~8」との2極がわかる。「4」以下も少なくない。一種の格差? 

男女別、年代別である。
◆ 女性の方が少し主観的幸福感が高い
◆ 10代後半から20代前半が低い。その後はほぼ横ばい

大まかにそんな傾向がわかる。


④ 将来の幸福感


 

◆ 「0」付近が中心で、「将来が明るい」とは言えない、現状維持感?の現れ。

⑩ 幸福とかかわる様々な心の働き
 
◆ すべの観点で20代が低いことが顕著。20代のリアルが一定現れているのではなか。

これらのデータでわかるのが、幸福度は60点、今後も明るくは感じていない、そしてその思いは20代で顕著であると言える。

以上、ごく一部を取り上げたが、アンケートと集計によって、大まかではあるが日本人の幸福度が見えてくる。
ネット調査を利用した統計的調査によって、今後ますます幸福度は数値に置き換えらるのだろう。
そして、内閣府は2019年からの推移を示しながら、改善傾向ということを述べているが、国際調査と相対すると推移のレベルでは小さい変化といわざるえないだろう。

 

そして、デジタル庁が力を入れているのが、地域別(自治対別)の「Well-Beingの実態」である。

デジタル田園都市国家構想実現に向けた 地域幸福度(Well-Being)指標の活用

例えば、東京都 千代田区を検索すると、次のようなページがあらわれる。




同様にこのサイトの「ダッシュボード」から全国の地域の「Well-Being」がわかるようになっている。
このサイトの特徴は、23の尺度(因子)を「客観データ」と「主観データ」が併記されていることである。
たとえば、千代田区は客観的には「医療・福祉」51ポントとあまり高くないのに、住民の意識(主観)では72ポイントと上々ということになる。
同じように住民の主観が重要な因子ではそれを参考にして政策を立案することが、多分住民本位ということになるだろうし、財政面でも有効である。
ただし、防災などは専門性も必要な因子では民意を過信してはいけない面もある。

まだ立ち上げたばかりの統計としてサンプル(調査参加者)の数や年代層のばらつきなどがあるなど不備もあるが、統計処理の所産で、都道府県レベル、市町村レベルの地域改善の方針や推進の根拠として活用されていくだろう。

地域Well-Beingの尺度(因子)は以下の通り、

医療・福祉、買物・飲食、住宅環境、移動・交通、遊び・娯楽、子育て、初等・中等教育、行政、公共空間、都市景観、事故・犯罪、自然景観、自然の恵み、環境共生、自然災害、地域とのつながり、多様性と寛容性、自己効力感、健康状態、文化・芸術、教育機会の豊かさ、雇用・所得、事業創造

以上のように、「幸福」は統計学の手法をつかって近似値的に輪郭が鮮明化できるのではないかとう試みが急速である。
文学賞を獲得した本が売れる時代から、ユーザー(読者)の評価がネット上で集約され、それも有力な評価になっているが、
「幸福」もネットの統計によるユーザー志向によりその中身が規定されつつあるのだろう。

ただし、これらの統計は、行政サービスのための幸福の定義であって、いかにも享受されるものとして幸福がある。
このことは今後とも幸福を考える大きな視点でもある。

ところで、子どもたちのWell-Beingはどうなっているのか。
新設された子ども家庭庁の調査が待たれるのだが、子どもには教育やそれぞれの成長・発達の尺度もある。
子どもの尺度を、UNICEFはどう考えればいいのか、次回は、

子どもたちに影響する世界:先進国の子どもの幸福度を形作るものは何か

をとおして子どもたちのWell-Beingの測り方を見ていきたい。


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