【東京・教育の自由裁判をすすめる会資料 国連自由権レポート】
2017年11月国連自由権規約委員会(ジュネーブ)で行われる、日本政府に対する質問書(List of Issues)採択に向けて、NGO団体として、国際人権活動日本委員会を通して提出した要請レポート。(英語1,000語の枠内で作成したものの和文バージョンです。)
A.論点
1.東京の公立学校の入学式・卒業式において、国旗に向かって起立し、国歌を斉唱することを教職員に命ずる東京都教育委員会の通達は、自由権規約18条・19条違反である。
2.締約国においては、「『公共の福祉』を理由とした基本的自由の制約」に対する自由権規約委員会の懸念・勧告(CCPR/C/JPN/CO/6 para22)が尊重されていない。
3.裁判所は、自由権規約を判断基準として援用することに消極的である。
B.自由権規約委員会の勧告・懸念
4.「公共の福祉」を理由とした基本的自由の制約に関する過去の勧告一覧(第3回~第6回総括所見)
・1993/11/4 第3回(CCPR/C/JPN/CO/3 para8) ・1998/11/19 第4回(CCPR/C/JPN/CO/4 para8)
・2008/10/30 第5回(CCPR/C/JPN/CO/5 para10) ・2014/7/24 第6回(CCPR/C/JPN/CO/6 para22)
5.「最終見解para22」が対象とする人権制約
第6回審査では、国旗国歌強制の問題がList of Issues para 17で取りあげられ、「最終見解 para22」はList of Issues para17に完全に対応している。従って、我々はpara22 の「規約の下で許容されている制約を超える制約」には国旗国歌の強制が含まれると解釈している。しかし政府は、para22は一般論であるからいかなる具体的措置もとる意志はないという態度である。
C.現状
6.現在も教職員への強制、処分は進行中
14年前の「10.23通達」(2003)以来、毎年卒・入学式のたびに処分される教職員の数は累計480名に上る。公教育の担い手としての教職員の責務に忠実であろうとして、子どもたちの思想・良心の自由の侵害に手を貸すわけにはいかないと考え、不利益覚悟で不服従を貫く教職員は後を絶たない。
7.被処分者に対する「再発防止研修」
都教委は、処分の後、同じ違反行為を行わないよう反省を迫る研修を課す。しかし教育者としての信念に基づく行為に反省を迫るということは、信念の変更を迫ることに等しい。当該教員は研修を通して、思想の露顕(disclosure)と変更を迫られている。
研修は3ヶ月に及ぶ。研修センターでの研修は、あたかも受講者が犯罪者でもあるかのように警備員が入口から研修の部屋まで廊下に配置された密室で、1人の受講者を4人の職員と校長が取り囲んで行われる。一方的に講義し質問も受け付けず、資料の持ち帰りも禁止されている。3時間に及ぶ研修で休憩時間わずか15分、受講者がトイレに行く時でさえ、警備員がついてくる。受講者の中にはまるで拷問を受けているようだったという者もいる(1)。
8.生徒に対する強制
卒業式で実際に生徒が起立しないと担任の教員が処分される。卒業式の『進行表』は「不起立生徒がいる場合は式を始めない」と書き込むことを命じられる。このようにして都教委は、生徒に起立斉唱の圧力をかけている(2)。
9.一般人に対する強制
「板橋高校卒業式事件」では、一般市民の国旗国歌強制に対する異議申立に対して「公共の福祉」を理由に刑事罰を科した。過剰な刑事罰は強制に反対する全ての人の「意見を持つ自由と表現の自由」に深刻な「萎縮効果」を生んでいる。
10.国家による教育統制の道具として使われる『国旗・国歌』
政府による教育への介入が強化されている。2014年検定基準改定で教科書に「政府見解の記述」が必須化された。国立大学や幼稚園・保育園に対して儀式における国旗掲揚国歌斉唱が強く要請されている。
D.締約国の各機関のパラ22に対する対応
11.複数のNGOが、パラ22の即時執行を求めて、国内諸機関に要請を行ったが、いずれの機関も、勧告に取り組む責任を回避。
(1)都教委は地方自治体の条約遵守義務を否定している。ある役人は「国が批准した国際人権規約などについて答える立場にありません」と答えた。
(2)文科省はパラ22が自らの所管であることを否認している。外務省、法務省も同様の姿勢である。
E.日本の裁判所は「公共の福祉」を理由として、自由権規約に規定された制約を超える人権制約を認めている。
12.日本政府が引用した本件最高裁判決文(CCPR/C/JPN/Q/6/Add.1 para187~190)の中には、確かに「公共の福祉」という言葉こそ使われていないものの、基本的自由を制限する理由として「秩序の確保」や「式典の円滑な進行」あるいは「儀式的行事における儀礼的所作」という、ほとんど「公共の福祉」と同類の、一般的包括的人権制約概念が用いられている。
13.他にも表現の自由を「公共の福祉」概念で制約した最高裁判例がある。二つの裁判において、最高裁は自衛隊官舎や民間アパートの郵便受けに政治的なチラシを配布した一般市民に「住居侵入罪」の有罪判決を下した。
F.List of Issues に盛り込むべき質問案
14.君が代強制に服従しなかった教員に対して、歴史観ないし世界観及び教育上の信念の変更を迫る「再発防止研修」を課しているという報告に対して、コメントを願いたい。
15.地方公共団体における条約遵守義務及び勧告尊重義務について、日本政府の立場を説明されたい。
16.日本の裁判所は国家シンボルの強制を含む基本的自由の制約を判断する際に、自由権規約に規定された厳しい条件を採用していないという報告に関してコメントを願いたい。
(注)
(1)原告による法廷陳述(英語)
http://wind.ap.teacup.com/people/html/2017628rps.pdf
(2)生徒に対する強制の他の事例は「生徒に対する人権侵害」というタイトルで以下の報告書の60~62ページで報告されている。
PARALLEL REPORT FOR THE CONSIDERATION OF THE 6th PERIODIC REPORT OF THE GOVERNMENT OF JAPAN SUBMITTED TO THE HUMAN RIGHTS COMMITTEE by JAPANESE WORKERS' COMMITTEE FOR HUMAN RIGHTS (JWCHR). (「自由権規約委/第6回日本政府報告に対するカウンターレポート」 国際人権活動日本委員会)
http://tbinternet.ohchr.org/Treaties/CCPR/Shared%20Documents/JPN/INT_CCPR_NGO_JPN_14885_E.pdf
2017年11月国連自由権規約委員会(ジュネーブ)で行われる、日本政府に対する質問書(List of Issues)採択に向けて、NGO団体として、国際人権活動日本委員会を通して提出した要請レポート。(英語1,000語の枠内で作成したものの和文バージョンです。)
◎ 東京都の公立学校における国旗・国歌の強制
~人権侵害は繰り返されている(18,19条違反)
Forced Worship of the National Flag & the National Anthem at Public Schools in Tokyo
~Violation of Articles 18 and 19 of the ICCPR~
~人権侵害は繰り返されている(18,19条違反)
Forced Worship of the National Flag & the National Anthem at Public Schools in Tokyo
~Violation of Articles 18 and 19 of the ICCPR~
A.論点
1.東京の公立学校の入学式・卒業式において、国旗に向かって起立し、国歌を斉唱することを教職員に命ずる東京都教育委員会の通達は、自由権規約18条・19条違反である。
2.締約国においては、「『公共の福祉』を理由とした基本的自由の制約」に対する自由権規約委員会の懸念・勧告(CCPR/C/JPN/CO/6 para22)が尊重されていない。
3.裁判所は、自由権規約を判断基準として援用することに消極的である。
B.自由権規約委員会の勧告・懸念
4.「公共の福祉」を理由とした基本的自由の制約に関する過去の勧告一覧(第3回~第6回総括所見)
・1993/11/4 第3回(CCPR/C/JPN/CO/3 para8) ・1998/11/19 第4回(CCPR/C/JPN/CO/4 para8)
・2008/10/30 第5回(CCPR/C/JPN/CO/5 para10) ・2014/7/24 第6回(CCPR/C/JPN/CO/6 para22)
5.「最終見解para22」が対象とする人権制約
第6回審査では、国旗国歌強制の問題がList of Issues para 17で取りあげられ、「最終見解 para22」はList of Issues para17に完全に対応している。従って、我々はpara22 の「規約の下で許容されている制約を超える制約」には国旗国歌の強制が含まれると解釈している。しかし政府は、para22は一般論であるからいかなる具体的措置もとる意志はないという態度である。
C.現状
6.現在も教職員への強制、処分は進行中
14年前の「10.23通達」(2003)以来、毎年卒・入学式のたびに処分される教職員の数は累計480名に上る。公教育の担い手としての教職員の責務に忠実であろうとして、子どもたちの思想・良心の自由の侵害に手を貸すわけにはいかないと考え、不利益覚悟で不服従を貫く教職員は後を絶たない。
7.被処分者に対する「再発防止研修」
都教委は、処分の後、同じ違反行為を行わないよう反省を迫る研修を課す。しかし教育者としての信念に基づく行為に反省を迫るということは、信念の変更を迫ることに等しい。当該教員は研修を通して、思想の露顕(disclosure)と変更を迫られている。
研修は3ヶ月に及ぶ。研修センターでの研修は、あたかも受講者が犯罪者でもあるかのように警備員が入口から研修の部屋まで廊下に配置された密室で、1人の受講者を4人の職員と校長が取り囲んで行われる。一方的に講義し質問も受け付けず、資料の持ち帰りも禁止されている。3時間に及ぶ研修で休憩時間わずか15分、受講者がトイレに行く時でさえ、警備員がついてくる。受講者の中にはまるで拷問を受けているようだったという者もいる(1)。
8.生徒に対する強制
卒業式で実際に生徒が起立しないと担任の教員が処分される。卒業式の『進行表』は「不起立生徒がいる場合は式を始めない」と書き込むことを命じられる。このようにして都教委は、生徒に起立斉唱の圧力をかけている(2)。
9.一般人に対する強制
「板橋高校卒業式事件」では、一般市民の国旗国歌強制に対する異議申立に対して「公共の福祉」を理由に刑事罰を科した。過剰な刑事罰は強制に反対する全ての人の「意見を持つ自由と表現の自由」に深刻な「萎縮効果」を生んでいる。
10.国家による教育統制の道具として使われる『国旗・国歌』
政府による教育への介入が強化されている。2014年検定基準改定で教科書に「政府見解の記述」が必須化された。国立大学や幼稚園・保育園に対して儀式における国旗掲揚国歌斉唱が強く要請されている。
D.締約国の各機関のパラ22に対する対応
11.複数のNGOが、パラ22の即時執行を求めて、国内諸機関に要請を行ったが、いずれの機関も、勧告に取り組む責任を回避。
(1)都教委は地方自治体の条約遵守義務を否定している。ある役人は「国が批准した国際人権規約などについて答える立場にありません」と答えた。
(2)文科省はパラ22が自らの所管であることを否認している。外務省、法務省も同様の姿勢である。
E.日本の裁判所は「公共の福祉」を理由として、自由権規約に規定された制約を超える人権制約を認めている。
12.日本政府が引用した本件最高裁判決文(CCPR/C/JPN/Q/6/Add.1 para187~190)の中には、確かに「公共の福祉」という言葉こそ使われていないものの、基本的自由を制限する理由として「秩序の確保」や「式典の円滑な進行」あるいは「儀式的行事における儀礼的所作」という、ほとんど「公共の福祉」と同類の、一般的包括的人権制約概念が用いられている。
13.他にも表現の自由を「公共の福祉」概念で制約した最高裁判例がある。二つの裁判において、最高裁は自衛隊官舎や民間アパートの郵便受けに政治的なチラシを配布した一般市民に「住居侵入罪」の有罪判決を下した。
F.List of Issues に盛り込むべき質問案
14.君が代強制に服従しなかった教員に対して、歴史観ないし世界観及び教育上の信念の変更を迫る「再発防止研修」を課しているという報告に対して、コメントを願いたい。
15.地方公共団体における条約遵守義務及び勧告尊重義務について、日本政府の立場を説明されたい。
16.日本の裁判所は国家シンボルの強制を含む基本的自由の制約を判断する際に、自由権規約に規定された厳しい条件を採用していないという報告に関してコメントを願いたい。
(注)
(1)原告による法廷陳述(英語)
http://wind.ap.teacup.com/people/html/2017628rps.pdf
(2)生徒に対する強制の他の事例は「生徒に対する人権侵害」というタイトルで以下の報告書の60~62ページで報告されている。
PARALLEL REPORT FOR THE CONSIDERATION OF THE 6th PERIODIC REPORT OF THE GOVERNMENT OF JAPAN SUBMITTED TO THE HUMAN RIGHTS COMMITTEE by JAPANESE WORKERS' COMMITTEE FOR HUMAN RIGHTS (JWCHR). (「自由権規約委/第6回日本政府報告に対するカウンターレポート」 国際人権活動日本委員会)
http://tbinternet.ohchr.org/Treaties/CCPR/Shared%20Documents/JPN/INT_CCPR_NGO_JPN_14885_E.pdf
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