《LUM(Labor Union of Migrant Workers)から》
☆ 「人材確保」のため外国人労働者の利用を促進
~技能実習制度等にかかわる有識者会議が最終報告
国際社会からも「奴隷労働」と批判されてきた技能実習制度について、見直しを検討してきた政府の有識者会議は昨年11月、最終報告を取りまとめました。
報告では、技能実習制度に代わって、新たに「育成就労制度」を創設、3年間の制限があった転籍は就労から1年後に可能としています。
政府は最終報告をうけて法案を策定、開会中の通常国会に提出するとしています。
☆ 「国際貢献」の大義名分を放棄
技能実習制度は17年に施行された法律の附則で、5年を目途にして見直すこととされています。この附則にしたがって政府は、22年12月に有識者会議を設置、約1年をかけて検討を深めてきました。
有識者会議では、「国際貢献」を掲げて始まった技能実習制度が、人手不足を解消する手段となっていることや、転籍の制限が技能実習生を縛り付け、人権侵害の温床にもなっている実態をふまえて、どのように制度をあらためていくのかが重点的に議論されてきました。
最終報告では、「人材育成による国際貢献」としてきた技能実習制度の目的を、「人材確保と人材育成」とし、名称も「育成就労制度」に改めるとしています。
また、就労後3年間の転籍制限を短縮し、1年後に転籍が可能にすることなどを提言しています(上表参照:「東京新聞web版」より)
☆ 人権侵害まねく「転籍制限」は温存
現行の技能実習制度は、「労働力の需給の調整の手段として行われてはならない」と法律で明記され、実習生を人手不足の穴埋めとして使うことを禁止しています。
ところが、建設や製造分野など入管法が就労を禁止する「単純労働」での人材確保のために、技能実習制度を利用してきたのが実態です。
当初は17職種に限定されていた対象職種も、現在では90職種へとなし崩し的に増やされてきました。
このように、制度の趣旨と実態とが乖離しているなかで、実態に沿うように「人材確保」を新制度の目的に付け加えました。
これは、単純労働への抜け道になってきた技能実習制度に対して、政策の転換を迫られたことにほかなりません。
しかしながら、最終報告でも「様々な人権侵害を発生させ、深刻化させる背景・原因となっている」と言及する転籍の制限は、1年間に期間を短縮したものの、「必要な経過措置を設けることを検討する」として、法案化にむけてはなお流動的です。
自民党は、「少なくとも2年間」とする提言を、最終報告の発表後ただちに法務大臣に提出しており、転籍の制限をめぐっては与野党間の論戦の焦点となることが予想されます。
18年の入管法「改正」をめぐる国会審議では、多額な借金を背負って本国を出てきた実態が、実習生の聞き取り調査で明らかにされ、海外の人材ブローカーの暗躍が問題となりました。転籍の自由が奪われるなかで、実習生の失踪が相次ぎ、パスポートの取り上げなどの人権侵害にまで発展しています。そもそも転籍制限は、憲法で定やられた「職業選択の自由」とはあいいれません。
また、最終報告では現行制度と同様に、家族の帯同は認めないとしています。生活の基盤を築き安心して働くうえでも、家族とともに暮らすことは大切な要件です。技能実習生を労働者と認めるならば、家族帯同を認めるべきです。
☆ 小手先の手直しでなく抜本的な制度改善こそ
このように見ていくと新たな「育成就労制度」は技能実習制度と目立った違いはなく、このままでは名称だけを付け替えたものになりかねず、技能実習制度が持っ数々の問題の解決にはつながらない不十分なものです。
厚生労働省の試算では、2040年には介護分野で約69万人もの人手が不足するとしています。
介護に限らず、建設や農業分野での人手不足は深刻です。その解決策として外国人労働者を利用する狙いが、最終報告には透けて見えます。
世界に目をむければ、技能実習生にかかわって国連の自由権規約委員会が、「強制労働の被害の適切な認定と加害側の処罰」を日本政府に勧告し、アメリカも「人身取引報告割のなかで「外国人労働者搾取のために悪用」と批判しています。
国際社会からも厳しい目がむけられるなかで、外国人技能実習生を使い勝手のいい労働力として利用してきた反省も、30年にわたる技能実習制度の総括すらなく、制度のほころびを小手先で繕うような見直しは認められません。
外国人労働者に頼ろうとするならば、難民入管法の改正をふくめた抜本的な制度改善こそ政府は行うべきです。
その出発点として、見直しなどではなく技能実習制度をただちに廃止するよう求めます。
日本で働く外国人労働者が180万人を超えるもと、すべての外国人労働者とどのように共生をはかっていくのか、国政の場での真摯な議論が求められています。
『LUM(Labor Union of Migrant Workers) 第90号』(2024年1月1日)
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