《都構想の罠-転換期を迎えた大都市制度27》
■ 都区制度が全国に拡散 政治の無責任
「東京の都区制度は落ち着いているが、双方ともに幸せではない。大阪は絶対、不幸せ(府市合わせ)になる」
5月30日、東大名誉教授の大森彌氏は、23区の区議会議員を対象とした研修会で、大阪都構想を厳しく批判した。
大森氏は、特別区制度調査会の会長を務めた政治学者。都区制度を論ずることができる数少ない研究者の中でも権威的存在だ。第2次特別区制度調査会は07年12月、「都の区」の制度廃止と「基礎自治体連合」の構想を提言している。
大森氏のみならず、東京の都区制度の歴史を詳しく知る人であれば、都区の職員や議員、地方自治の専門家なら、わざわざ地方で都区制度を導入する動きに疑問を感じざるを得ない。
ところが、都区制度を全国どこでも導入できる法案が国会に提出されようとしている。
■ 対立の元凶
地方自治法上、都は「特別区の存する区域」に設置される。その特別区を設置する法律は存在しないので、現行法では東京にしか「都」は存在できない。つまり、特別区を設置する法律を作れば、東京以外に「都」を設置できる。
昨年11月の大阪府知事・市長選挙で、地域政党「大阪維新の会」の松井一郎氏と橋下徹氏が勝利。大阪都構想の具体化に乗り出したのをきっかけに、国政の民主党、自民党、みんなの党が独自の法案を検討した。
7月に入り3党が修正協議を本格化させ、近々、修正案を与野党で共同提出する見通しだ。
共同提出する予定の法案は、政令市と隣接する市町村で構成される人口200万人以上のエリアを対象に、市町村を廃止して「特別区」に再編できるという内容。
この要件で新たに特別区を設置できるのは、大阪の他に札幌、横浜、さいたま、千葉、名古屋、京都、神戸の8政令市とその周辺。川崎市と堺市は政令市だが、それぞれ横浜市と大阪市の「周辺市」という位置付けとなる。
関係自治体は特別区の名称や区域、議員定数などを定めた計画を作成し、議会での承認や住民投票を経て、特別区を設置することができる。
与党・民主党案は、地元が策定した計画に総務大臣との協議・同意が必要だったが、国の関与を減らすよう求めた野党側に譲歩し、協議項目は税源配分など最低限に減らして、同意も不要とした。
特例法案なので、例えば大阪府が特別区を設置し、「都」を名乗るには地方自治法の改正が必要となる。
この法案は、特別区を設置する以上のことは何も定めていない。道府県と特別区との事務分担も、財政調整制度も、具体的な税源配分も決まっていない。国は、制度設計について協議には応じてもノータッチだ。
財源配分や区域の再編といったナーバスな課題は全て地方任せ。大阪の府市もこれまで詳細な制度設計を先送りしてきた。具体論で都構想は紛糾する危険性がある。
地方自治法では特別区財政調整交付金について、都が条例で定め、特別区に交付することが定められている。これが都区制度の元凶とも言える都の「へその緒」だ。今回、その大本にメスを入れようとした政党はどこにもいない。
戦後、長きにわたり都区の激しい対立を生み出してきた都区制度の弊害は相変わらず放置されたまま、単に特別区を設置することだけが許されている。
各党は、橋下氏の「維新の会」の国政進出を警戒し、本質論抜きで形だけ法案を通そうとしている。都区制度は東京から全国に輸出され、恒久化される。
■ 未完の改革
東京23区にとって悲願であった2000年改革は、「未完」のまま今日を迎えている。仮に道州制の導入が現実のものとなれば、東京都が市の機能を内包したまま「州」となることには無理がある。都区制度の改革は、いずれ大きな課題として浮上するだろう。
だが、政治の駆け引きの材料として「都構想」が具体化され、全国に波及すれば、自分で市町村税も課税できない半人前の自治体(特別区)を全国に拡散することになる。それは、都区の対立を拡散することに他ならない。地方自治の歴史にとってこれ以上の不幸はない。
大森氏は、23区の区議を前にこう語った。「生きているうちに都区制度を廃止したい」
『都政新報』(2012/7/20)
■ 都区制度が全国に拡散 政治の無責任
「東京の都区制度は落ち着いているが、双方ともに幸せではない。大阪は絶対、不幸せ(府市合わせ)になる」
5月30日、東大名誉教授の大森彌氏は、23区の区議会議員を対象とした研修会で、大阪都構想を厳しく批判した。
大森氏は、特別区制度調査会の会長を務めた政治学者。都区制度を論ずることができる数少ない研究者の中でも権威的存在だ。第2次特別区制度調査会は07年12月、「都の区」の制度廃止と「基礎自治体連合」の構想を提言している。
大森氏のみならず、東京の都区制度の歴史を詳しく知る人であれば、都区の職員や議員、地方自治の専門家なら、わざわざ地方で都区制度を導入する動きに疑問を感じざるを得ない。
ところが、都区制度を全国どこでも導入できる法案が国会に提出されようとしている。
■ 対立の元凶
地方自治法上、都は「特別区の存する区域」に設置される。その特別区を設置する法律は存在しないので、現行法では東京にしか「都」は存在できない。つまり、特別区を設置する法律を作れば、東京以外に「都」を設置できる。
昨年11月の大阪府知事・市長選挙で、地域政党「大阪維新の会」の松井一郎氏と橋下徹氏が勝利。大阪都構想の具体化に乗り出したのをきっかけに、国政の民主党、自民党、みんなの党が独自の法案を検討した。
7月に入り3党が修正協議を本格化させ、近々、修正案を与野党で共同提出する見通しだ。
共同提出する予定の法案は、政令市と隣接する市町村で構成される人口200万人以上のエリアを対象に、市町村を廃止して「特別区」に再編できるという内容。
この要件で新たに特別区を設置できるのは、大阪の他に札幌、横浜、さいたま、千葉、名古屋、京都、神戸の8政令市とその周辺。川崎市と堺市は政令市だが、それぞれ横浜市と大阪市の「周辺市」という位置付けとなる。
関係自治体は特別区の名称や区域、議員定数などを定めた計画を作成し、議会での承認や住民投票を経て、特別区を設置することができる。
与党・民主党案は、地元が策定した計画に総務大臣との協議・同意が必要だったが、国の関与を減らすよう求めた野党側に譲歩し、協議項目は税源配分など最低限に減らして、同意も不要とした。
特例法案なので、例えば大阪府が特別区を設置し、「都」を名乗るには地方自治法の改正が必要となる。
この法案は、特別区を設置する以上のことは何も定めていない。道府県と特別区との事務分担も、財政調整制度も、具体的な税源配分も決まっていない。国は、制度設計について協議には応じてもノータッチだ。
財源配分や区域の再編といったナーバスな課題は全て地方任せ。大阪の府市もこれまで詳細な制度設計を先送りしてきた。具体論で都構想は紛糾する危険性がある。
地方自治法では特別区財政調整交付金について、都が条例で定め、特別区に交付することが定められている。これが都区制度の元凶とも言える都の「へその緒」だ。今回、その大本にメスを入れようとした政党はどこにもいない。
戦後、長きにわたり都区の激しい対立を生み出してきた都区制度の弊害は相変わらず放置されたまま、単に特別区を設置することだけが許されている。
各党は、橋下氏の「維新の会」の国政進出を警戒し、本質論抜きで形だけ法案を通そうとしている。都区制度は東京から全国に輸出され、恒久化される。
■ 未完の改革
東京23区にとって悲願であった2000年改革は、「未完」のまま今日を迎えている。仮に道州制の導入が現実のものとなれば、東京都が市の機能を内包したまま「州」となることには無理がある。都区制度の改革は、いずれ大きな課題として浮上するだろう。
だが、政治の駆け引きの材料として「都構想」が具体化され、全国に波及すれば、自分で市町村税も課税できない半人前の自治体(特別区)を全国に拡散することになる。それは、都区の対立を拡散することに他ならない。地方自治の歴史にとってこれ以上の不幸はない。
大森氏は、23区の区議を前にこう語った。「生きているうちに都区制度を廃止したい」
『都政新報』(2012/7/20)
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