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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

福祉の平等を選択したソウルでの住民投票

2011年10月06日 | 格差社会
 連載②韓国の新自由主義に抵抗する
 ◇ 福祉の平等を選択したソウルでの住民投票
李 泳采●恵泉女学園大学教員

 保守ハンナラ党の次期大統領候補としても挙げられていたソウルのオ・セフン市長が、政治生命をかけて提案した「無償給食の是非を問う住民投票」が、8月24日、ソウル市で行われた。
 しかし、有効投票率33・3%を下回り(25・7%)、無償給食は現行通り維持されるか、段階的に拡大される見通しとなった。市長は、投票結果の責任をとって、2日後の26日に辞任した。
 オ・セフン市長は、昨年に再選されたが、市議会は三分の二以上を野党が占め、ソウル特別市の教育監(教育行政の責任者)にも進歩的なグァク・ノヒョン氏が選出された。
 ソウル市は貧困層を対象に部分的無償給食を実施してきたが、野党が多数となったソウル市議会と教育監は、社会福祉の拡大を重視して、全面無償給食を主張した。
 今年1月6日、市議会は市当局と与党ハンナラ党の反対にもかかわらず、議長職権で無償給食条例案を通過させた。
 市長はこれを「福祉ポピュリズム」と批判、条例の公布拒否と同時に、無効確認を求める訴訟を起こした。
 しかし、市議会が翌日、議長の職権で条例を公布したことで、ソウル市の無償給食問題は市議会与党と野党の問題だけではなく、進歩運動陣営と保守陣営のイデオロギー対立の問題としての性格を強めてきた。
 保守陣営は、無償給食の実施は、無償医療、無償教育などへとつながり、韓国社会を社会主義国家へと転落させると批判。ソウル市民81万(有効数51万票)の署名を受けて住民投票請求を提出した。
 オ・セフン市長はこの住民投票請求を受け入れて、住民投票の実施を提案したのである。
 住民投票を3日後に控えた8月21日、オ・セフン市長「有効投票率を達成できないか、無償給食に賛成案が上回った場合は辞任する」と、記者会見で表明。そうした彼の行動は、市民への脅しとも受け取られ、世論の批判は多かったが、保守陣営からは「身を投じて左派を阻止しようとする十字軍」のようなイメージで英雄化された。
 市長は、李明博大統領(前ソウル市長)の後継として、2006年に就任し、デザインソウルを標榜し都市開発の拡大と光化門広場一帯の整備などを行い、ソウル全体の景観を派手に変えた。
 しかし、無分別な再開発を通じて環境破壊と貧困拡大などをもたらしたという非難も浴びている。
 ハンナラ党の次期大統領選挙候補として、朴橦恵バク クネ(前ハンナラ党代表で朴正煕元大統領の娘)が有力視されている中で、オ・セフン市長はこの住民投票で保守を結集させるという政治的勝負に出たという政界の分析もある。
 しかし、ソウル市民は彼の政治的要求を受け入れることはなかった。

 一方、「悪い投票(無償給食などの福祉政策を挫折させようとする投票)拒否運動」を実施して、福祉政策の実施をめぐる保守陣営との第1次対決で、勝利を手に入れた進歩陣営は、新自由主義による貧富の格差が拡大している韓国社会の関心を、成長より福祉へと転換させるのに成功したと言える。
 特に市民たちが、福祉政策充実の支持を選択したことで、韓国のデモクラシーは新たな発展の土台をつくったことは確かであろう。
 26日のオ・セフン市長の辞任で、ソウル市長選は、来る10月26日に行われることが決まった。来年12月の大統領選挙を控えた時期に行われるソウル市長選挙は、ダイナミックに変わる韓国社会にどんな影響を及ぼすことになるだろうか。与野党および市民団体の動きに注目が集まっている。

『労働情報』(823号 2011/9/15)

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