◆ ILO・ユネスコ勧告と人事考課の8年
都教委は、人事考課制度が「教職員の資質能力の向上」「学校組織の活性化」に寄与としているとしているが、この8年間の東京の人事考課・業績評価は如何なるものだったか。
1966年のILO・ユネスコの「教員の地位に関する勧告」やこの間の「共同専門家委員会勧告」などに照らして検証する。
─────────────「教員の地位に関する勧告」──────────────
64項(1) 教員の仕事を直接評価することが必要な場合には、その評価は客観的で無ければならず、またその評価は当該教員に知らされなければならない。
(2)教員は、不当と思われる評価がなされた場合に、それに対して異議を申し立てる権利をもたなければならない。
124項 給与決定を目的としたいかなる勤務評定制度も、関係団体との事前協議およびその承認なしに採用し、あるいは適用されなければならない。
────────────────────────────────────────
1.「本人開示」で露呈した業績評価の実態
06年から最下位評定について、07年からは、希望者全員の校長の第一次評価開示が始まった(なお、教育長による最終評価の開示は予定もされていない)。開示により以下のような苦し紛れ、一面的な理由=口実が明らかになった。
────────────────────────────────────────
*自己申告書・週案などの「不提出や提出の遅れ」。*職員会議での「採決しろ」「校長の意見に反対」発言。*「部活に対して消極的、上履き指導の件で積極的な意見がない、経営参加意欲が不十分、学校運営に積極的・具体的提案がない」。*「授業中寝ている生徒を起こさなかった、体育祭予行でラジオ体操の放送がとぎれた、日直の時トイレのたばこを拾わない」。*「生徒が不満を持っている、保護者からの苦情があった」。*「日の君」処分、病休者、遅参。
────────────────────────────────────────
公正性、透明性、納得性など「人事考課制度」成立の要件とされる事項を充たしていないことは明らかである。
2.教職員を差別・分断する「評価のための評価」
2006年度からの希望者全員開示にむけ総務局・都教委は「『能力・業績の処遇へのより的確な反映』に資する」などとして人事考課制度の大幅な変更を行なった。
┌──────────┐ ┌────────┐
│ S(特に優れている) │ │ A(優秀) │
│ A(優れている) │ │ B(良好) │
│ B(普通) │ │ C(もう一歩) │ 指導・育成が
│ C(やや劣る) │ │ D(奮起を期待) │ 必要な層
│ D(劣る) │ └────────┘ ※後にCは校長の判断とした
└──────────┘
この変更の要は5段階の「普通」の「3」をなくして、教職員を無理矢理「よい」と「わるい」に二分する。無理やり「2」と「4」に振り分け、処遇と連動させ、競わせるという差別・分断システムの強化だった。この結果、前年に比べて数十倍のCがつけられた。
3.都教委による相対評価の強要
C増大の背景には、制度変更に加え、絶対評価の建前をかなぐり捨てた都教委の相対評価の強要があった。都教委や経営支援センターにより「Cを20%つけるように。校長ヒアリングの時に(訂正用に)印鑑を持参するように。」等の“指導”が明らかになっている。都教委は、都高教の申し入れに対して強要を認めず、都労連と都総務局の「人事考課の意見交換会」で都側は、「『都教委はそのようなことは行っていない』と言っている」と回答している。
さらに今年度も「20%はつけろ」と念押しされたことが、職場の校長から伝えられている。都高教の要請に都教委は「適正に絶対評価でつけるよう指導」と回答しているが、この「適正」とは、「30%ぐらいC教員がいるのに、校長はつけない」だから、「適正につければ、20%は少なくともいる」という開き直りに過ぎない。
一次評価の絶対評価は現行業績評価制度の基本原則であり、「能力開発型」をうたうならとりわけ厳密に遵守されなければならないものである。「20%」などという相対評価の強要は、制度導入にあたっての当局の建前を自ら崩すものであり、重大な背信行為である。
4.賃金など処遇への連動
人事考課・業績評価は処遇と連動し、賃金差別が強化されている。
04年度から業績評価による昇給延伸がはじまり、06年度からは特昇・定期昇給が廃止され、いわゆる成績昇給となった。現在、業績評価がほとんどストレートに昇給に反映し、上位5%が6号アップ、25%が5号アップ、普通4号アップ(従来の1号、「定昇」分)である。
業績評価「D」がつくと翌年の昇級幅が25%圧縮され、3号アップとなる。さらに校長の執拗な指導に晒される。また管理職に加え、一般教員への成績率の導入も目論まれている。
5.おざなりな苦情相談
都高教によれば、昨年度教員系の「開示請求」約2400人、「苦情申立」は178人、管理職の45人が指導された。とのこと。
どんなに資料を添付し、様々な問題点を指摘しても相談の結果は、「(評価)変更なし」の一語で済まされている。評価の変更は、学習指導など4項目すべてがBなのに、総合をCとするという、評価者訓練を疑わせるケースの一件だけ。
面接を行う苦情相談員は経営支援センターの副参事であり、いわば教育委員会内の身内による審査に過ぎない。「独立した審査機関」などを勧告している「第8回ILO・ユネスコ共同専門家委員会勧告」(以下)は、全く無視されている。
──────────────────────────────────────
22項.・・・誰から見ても透明性の高い公正な運用制度を確立することにある。適切な構成員からなる独立した機関に審査を請求し、不服を申し立てることのできる実効的権利など、恣意に対する適切な防禦の保障はその一部である。 (下線部は引用者)
──────────────────────────────────────
第8回勧告はこの後で結論として、「勤務評定の過程に公開性と透明性が欠如していること、また評価の基準と実施方法に関してはともかく、評価自体に関する審査または不服申し立ての明確な権利がまったく存在しないことは明らかである。」と「教員の地位勧告」に「抵触する」とも結論づけている。また、この「勧告」には、「共同専門家委員会が知りうる範囲において、過去に実施された多くの勤務評定制度は公正かつ有効に運用されず、結局は廃止されている。」との下りもある。
6.今こそ、都教委の追及と人事考課の制度撤廃めざし、闘争の再構築を
一般教職員に人事考課制度が導入された2000年から都高教は、01.03.05年に教職員に上記アンケートをとり、黒書としてまとめている。
アンケートをとるたびに批判が増えている。人事考課で「学校運営・教育活動にマイナスの影響が出た」が05年86.5%(01年、75.5%。03年、83.0%)に達している。
(略)
絶対評価の建前をかなぐり捨て、都教委により相対評価の強要が行われている。またこの8年の人事考課制度は、教職員の尊厳を傷つけ、教育における協同を破壊し、百害あって一利なしの制度であることは明らかである。
都教委交渉を要求するのは当然であり、11月にも予想されるILO・ユネスコ調査団の報告も生かし、01年に行ったような人事考課告発集会を含めた社会的発信なども行い、人事考課制度抜本見直し、制度撤廃をめざした闘争の再構築が必要である。
都教委は、人事考課制度が「教職員の資質能力の向上」「学校組織の活性化」に寄与としているとしているが、この8年間の東京の人事考課・業績評価は如何なるものだったか。
1966年のILO・ユネスコの「教員の地位に関する勧告」やこの間の「共同専門家委員会勧告」などに照らして検証する。
─────────────「教員の地位に関する勧告」──────────────
64項(1) 教員の仕事を直接評価することが必要な場合には、その評価は客観的で無ければならず、またその評価は当該教員に知らされなければならない。
(2)教員は、不当と思われる評価がなされた場合に、それに対して異議を申し立てる権利をもたなければならない。
124項 給与決定を目的としたいかなる勤務評定制度も、関係団体との事前協議およびその承認なしに採用し、あるいは適用されなければならない。
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1.「本人開示」で露呈した業績評価の実態
06年から最下位評定について、07年からは、希望者全員の校長の第一次評価開示が始まった(なお、教育長による最終評価の開示は予定もされていない)。開示により以下のような苦し紛れ、一面的な理由=口実が明らかになった。
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*自己申告書・週案などの「不提出や提出の遅れ」。*職員会議での「採決しろ」「校長の意見に反対」発言。*「部活に対して消極的、上履き指導の件で積極的な意見がない、経営参加意欲が不十分、学校運営に積極的・具体的提案がない」。*「授業中寝ている生徒を起こさなかった、体育祭予行でラジオ体操の放送がとぎれた、日直の時トイレのたばこを拾わない」。*「生徒が不満を持っている、保護者からの苦情があった」。*「日の君」処分、病休者、遅参。
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公正性、透明性、納得性など「人事考課制度」成立の要件とされる事項を充たしていないことは明らかである。
2.教職員を差別・分断する「評価のための評価」
2006年度からの希望者全員開示にむけ総務局・都教委は「『能力・業績の処遇へのより的確な反映』に資する」などとして人事考課制度の大幅な変更を行なった。
┌──────────┐ ┌────────┐
│ S(特に優れている) │ │ A(優秀) │
│ A(優れている) │ │ B(良好) │
│ B(普通) │ │ C(もう一歩) │ 指導・育成が
│ C(やや劣る) │ │ D(奮起を期待) │ 必要な層
│ D(劣る) │ └────────┘ ※後にCは校長の判断とした
└──────────┘
この変更の要は5段階の「普通」の「3」をなくして、教職員を無理矢理「よい」と「わるい」に二分する。無理やり「2」と「4」に振り分け、処遇と連動させ、競わせるという差別・分断システムの強化だった。この結果、前年に比べて数十倍のCがつけられた。
3.都教委による相対評価の強要
C増大の背景には、制度変更に加え、絶対評価の建前をかなぐり捨てた都教委の相対評価の強要があった。都教委や経営支援センターにより「Cを20%つけるように。校長ヒアリングの時に(訂正用に)印鑑を持参するように。」等の“指導”が明らかになっている。都教委は、都高教の申し入れに対して強要を認めず、都労連と都総務局の「人事考課の意見交換会」で都側は、「『都教委はそのようなことは行っていない』と言っている」と回答している。
さらに今年度も「20%はつけろ」と念押しされたことが、職場の校長から伝えられている。都高教の要請に都教委は「適正に絶対評価でつけるよう指導」と回答しているが、この「適正」とは、「30%ぐらいC教員がいるのに、校長はつけない」だから、「適正につければ、20%は少なくともいる」という開き直りに過ぎない。
一次評価の絶対評価は現行業績評価制度の基本原則であり、「能力開発型」をうたうならとりわけ厳密に遵守されなければならないものである。「20%」などという相対評価の強要は、制度導入にあたっての当局の建前を自ら崩すものであり、重大な背信行為である。
4.賃金など処遇への連動
人事考課・業績評価は処遇と連動し、賃金差別が強化されている。
04年度から業績評価による昇給延伸がはじまり、06年度からは特昇・定期昇給が廃止され、いわゆる成績昇給となった。現在、業績評価がほとんどストレートに昇給に反映し、上位5%が6号アップ、25%が5号アップ、普通4号アップ(従来の1号、「定昇」分)である。
業績評価「D」がつくと翌年の昇級幅が25%圧縮され、3号アップとなる。さらに校長の執拗な指導に晒される。また管理職に加え、一般教員への成績率の導入も目論まれている。
5.おざなりな苦情相談
都高教によれば、昨年度教員系の「開示請求」約2400人、「苦情申立」は178人、管理職の45人が指導された。とのこと。
どんなに資料を添付し、様々な問題点を指摘しても相談の結果は、「(評価)変更なし」の一語で済まされている。評価の変更は、学習指導など4項目すべてがBなのに、総合をCとするという、評価者訓練を疑わせるケースの一件だけ。
面接を行う苦情相談員は経営支援センターの副参事であり、いわば教育委員会内の身内による審査に過ぎない。「独立した審査機関」などを勧告している「第8回ILO・ユネスコ共同専門家委員会勧告」(以下)は、全く無視されている。
──────────────────────────────────────
22項.・・・誰から見ても透明性の高い公正な運用制度を確立することにある。適切な構成員からなる独立した機関に審査を請求し、不服を申し立てることのできる実効的権利など、恣意に対する適切な防禦の保障はその一部である。 (下線部は引用者)
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第8回勧告はこの後で結論として、「勤務評定の過程に公開性と透明性が欠如していること、また評価の基準と実施方法に関してはともかく、評価自体に関する審査または不服申し立ての明確な権利がまったく存在しないことは明らかである。」と「教員の地位勧告」に「抵触する」とも結論づけている。また、この「勧告」には、「共同専門家委員会が知りうる範囲において、過去に実施された多くの勤務評定制度は公正かつ有効に運用されず、結局は廃止されている。」との下りもある。
6.今こそ、都教委の追及と人事考課の制度撤廃めざし、闘争の再構築を
一般教職員に人事考課制度が導入された2000年から都高教は、01.03.05年に教職員に上記アンケートをとり、黒書としてまとめている。
アンケートをとるたびに批判が増えている。人事考課で「学校運営・教育活動にマイナスの影響が出た」が05年86.5%(01年、75.5%。03年、83.0%)に達している。
(略)
絶対評価の建前をかなぐり捨て、都教委により相対評価の強要が行われている。またこの8年の人事考課制度は、教職員の尊厳を傷つけ、教育における協同を破壊し、百害あって一利なしの制度であることは明らかである。
都教委交渉を要求するのは当然であり、11月にも予想されるILO・ユネスコ調査団の報告も生かし、01年に行ったような人事考課告発集会を含めた社会的発信なども行い、人事考課制度抜本見直し、制度撤廃をめざした闘争の再構築が必要である。
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