◆ 中教審「学校働き方改革」
~管理職増員で教諭は多忙化 (週刊新社会)
「主幹教諭を設置して教職員(せめて副校長・教頭)の残業時間が減っているのかどうか、あるいは業務内容の内訳が変化したのかどうかを検証する必要がある」「予算も人も限られる中、主幹制に優先順位は高いのかは疑問」。
これは4月25日、文部科学省の中央教育審議会・学校における働き方改革特別部会(部会長=小川正人・東大名誉教授)第12回会合での、NPOまちと学校のみらい理事・妹尾昌俊委員の意見陳述だ。
文科省は、旧文部省当時、学校に中間管理職的な教員を置こうとし、教諭の中から教務・生活指導など校務分掌の主任を任命させ、出勤した日に一日200円(月5000円弱)程度の手当を支給する制度を1982年までに全国で実施させた。
だが日教組など教職員組合が手当を拠出し、奨学金の給付や住民への文化活動等に充当する、主任制形骸化の運動を展開。上意下達の学校組織作りに一定の歯止めをかけてきた。
◆ ピラミッド型学校作りでパワハラは増
06年12月、"国を愛する態度"を盛る教育基本法改定を強行した第1次安倍内閣は翌07年6月、「校長・教頭・教諭」等の職だけを必置としていた従来の学校教育法を一部改定し、「校長を助け、命を受けて校務をつかさどる」とする副校長と、「校長・副校長・教頭を助け、命を受けて校務の一部を整理し、並びに児童(生徒)の教育をつかさどる」とする主幹教諭等の職を「置くことができる」とした。「命を受けて」という条文が示す通り、副校長・主幹教諭は上意下達の職だ。
主幹教諭は教諭より上位の職となり給料表が別のため、教諭職の給与との差額を主任手当のように拠出するのは困難だ。法改定前の03年4月から主幹教諭制度(当初の名称は「主幹」)を導入した都教委は、校長・副校長を経営層、主幹教諭を指導・監督層、主任教諭(09年4月から導入した都独自の職)・教諭を実践層と位置付けた。
今回の第12回会合で文科省が公表した、3月末日に都道府県・政令市の67教育委員会に実態調査した結果(概要)によると、57教委もが主幹教諭を設置。
そして同調査は、(1)教頭の校務を一部担当し、教頭が学校全体を今まで以上に把握・指示できる体制ができた、(2)次期管理職としての意識が高まっているなど、「主幹教諭の配置の効果」なるものを明示した。
こうしたピラミッド型の学校作り(階層化の徹底)により、校長・副校長・主幹教諭が"部下"の教諭にパワーハラスメントをする事案は、しばしば起きている。だが文科省も都教委も、パワハラ調査は一切行っていない。
◆ 主幹教諭の拡充・増員で一般教諭は多忙化
文科省がミドルリーダーと称する主幹教諭の拡充・増員を本格的な議題にした4月5日の第11回会合で、前記・都教委に次ぎ、06年から総括教諭という名で主幹教諭制度を実動化させている神奈川県教委の県立学校人事調整グループ・市川幸春グループリーダーらが、その取組みを発表した。
総括教諭の職務は、①校長及び教頭の学校運営の補佐、②グループ(校務分掌の1つ)の統括、③教諭等の職務遂行能力の向上の3つで、神奈川では学校教育法にない③も入れたと、市川氏はPR。
市川氏らは①②で「将来の管理職を見据えた人材育成だ」と説明する際、「総括教諭にはグループ内の進行管理に徹しろ。仕事を抱え込まず、自分はやらないで一般教諭にやらせるよう、指導している。①~③の(中間管理職的な)仕事をさせる時間を増やすため、総括教諭の授業時間を減らしていく」と明言した。
前記・文科省調査も「主幹教諭を配置すると、教諭の授業時間が増えることが想定される」という「主幹教諭を配置していない教委の、配置しない理由」を掲載。
これらは、「管理職補佐の仕事に勤務時間の少なからぬ部分を使う主幹教諭増員が(一般)教諭の多忙化を増す事実」を示す証拠だ。
現に妹尾委員も冒頭の2つの意見の間に、「反例として、主幹教諭の多い東京や神奈川でも長時間労働は少いわけではない」とコメントを入れている。
第12回会合では「京都府では主任制が定着している」という理由を挙げ、同府の橋本幸三教育長が「主幹教諭配置増を本当に優先すべきなのか」と疑問を呈した。
また「縦のライン」を必要と主張する天笠茂千葉大学教授も、「横(の同僚性)を機能させるのも大切。だが必ずしも役割を果たしていない」と述べた。
本当の働き方改革のためには最低限、次の2つの施策をやめさせる必要があると考える。
1つは、都教委の「あなたは教育行政や管理職、主幹の命令通り動く実践層だ」というコマ扱いのような位置付けで、(一般)教諭の創意工夫など教育の自由を奪い、自尊感情・自己肯定感を損ねていること。
2つ目は、管理職等の多忙化は減じる一方、教諭だけ多忙化させる元凶の、主幹教諭の増員。
『週刊新社会』(2018年5月22日号に永野厚男さんが加筆)
~管理職増員で教諭は多忙化 (週刊新社会)
永野厚男・教育ライター
「主幹教諭を設置して教職員(せめて副校長・教頭)の残業時間が減っているのかどうか、あるいは業務内容の内訳が変化したのかどうかを検証する必要がある」「予算も人も限られる中、主幹制に優先順位は高いのかは疑問」。
これは4月25日、文部科学省の中央教育審議会・学校における働き方改革特別部会(部会長=小川正人・東大名誉教授)第12回会合での、NPOまちと学校のみらい理事・妹尾昌俊委員の意見陳述だ。
文科省は、旧文部省当時、学校に中間管理職的な教員を置こうとし、教諭の中から教務・生活指導など校務分掌の主任を任命させ、出勤した日に一日200円(月5000円弱)程度の手当を支給する制度を1982年までに全国で実施させた。
だが日教組など教職員組合が手当を拠出し、奨学金の給付や住民への文化活動等に充当する、主任制形骸化の運動を展開。上意下達の学校組織作りに一定の歯止めをかけてきた。
◆ ピラミッド型学校作りでパワハラは増
06年12月、"国を愛する態度"を盛る教育基本法改定を強行した第1次安倍内閣は翌07年6月、「校長・教頭・教諭」等の職だけを必置としていた従来の学校教育法を一部改定し、「校長を助け、命を受けて校務をつかさどる」とする副校長と、「校長・副校長・教頭を助け、命を受けて校務の一部を整理し、並びに児童(生徒)の教育をつかさどる」とする主幹教諭等の職を「置くことができる」とした。「命を受けて」という条文が示す通り、副校長・主幹教諭は上意下達の職だ。
主幹教諭は教諭より上位の職となり給料表が別のため、教諭職の給与との差額を主任手当のように拠出するのは困難だ。法改定前の03年4月から主幹教諭制度(当初の名称は「主幹」)を導入した都教委は、校長・副校長を経営層、主幹教諭を指導・監督層、主任教諭(09年4月から導入した都独自の職)・教諭を実践層と位置付けた。
今回の第12回会合で文科省が公表した、3月末日に都道府県・政令市の67教育委員会に実態調査した結果(概要)によると、57教委もが主幹教諭を設置。
そして同調査は、(1)教頭の校務を一部担当し、教頭が学校全体を今まで以上に把握・指示できる体制ができた、(2)次期管理職としての意識が高まっているなど、「主幹教諭の配置の効果」なるものを明示した。
こうしたピラミッド型の学校作り(階層化の徹底)により、校長・副校長・主幹教諭が"部下"の教諭にパワーハラスメントをする事案は、しばしば起きている。だが文科省も都教委も、パワハラ調査は一切行っていない。
◆ 主幹教諭の拡充・増員で一般教諭は多忙化
文科省がミドルリーダーと称する主幹教諭の拡充・増員を本格的な議題にした4月5日の第11回会合で、前記・都教委に次ぎ、06年から総括教諭という名で主幹教諭制度を実動化させている神奈川県教委の県立学校人事調整グループ・市川幸春グループリーダーらが、その取組みを発表した。
総括教諭の職務は、①校長及び教頭の学校運営の補佐、②グループ(校務分掌の1つ)の統括、③教諭等の職務遂行能力の向上の3つで、神奈川では学校教育法にない③も入れたと、市川氏はPR。
市川氏らは①②で「将来の管理職を見据えた人材育成だ」と説明する際、「総括教諭にはグループ内の進行管理に徹しろ。仕事を抱え込まず、自分はやらないで一般教諭にやらせるよう、指導している。①~③の(中間管理職的な)仕事をさせる時間を増やすため、総括教諭の授業時間を減らしていく」と明言した。
前記・文科省調査も「主幹教諭を配置すると、教諭の授業時間が増えることが想定される」という「主幹教諭を配置していない教委の、配置しない理由」を掲載。
これらは、「管理職補佐の仕事に勤務時間の少なからぬ部分を使う主幹教諭増員が(一般)教諭の多忙化を増す事実」を示す証拠だ。
現に妹尾委員も冒頭の2つの意見の間に、「反例として、主幹教諭の多い東京や神奈川でも長時間労働は少いわけではない」とコメントを入れている。
第12回会合では「京都府では主任制が定着している」という理由を挙げ、同府の橋本幸三教育長が「主幹教諭配置増を本当に優先すべきなのか」と疑問を呈した。
また「縦のライン」を必要と主張する天笠茂千葉大学教授も、「横(の同僚性)を機能させるのも大切。だが必ずしも役割を果たしていない」と述べた。
本当の働き方改革のためには最低限、次の2つの施策をやめさせる必要があると考える。
1つは、都教委の「あなたは教育行政や管理職、主幹の命令通り動く実践層だ」というコマ扱いのような位置付けで、(一般)教諭の創意工夫など教育の自由を奪い、自尊感情・自己肯定感を損ねていること。
2つ目は、管理職等の多忙化は減じる一方、教諭だけ多忙化させる元凶の、主幹教諭の増員。
『週刊新社会』(2018年5月22日号に永野厚男さんが加筆)
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