パワー・トゥ・ザ・ピープル!!アーカイブ

東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

新宿区立小新人教員自殺問題

2007年06月16日 | 平和憲法
発売中の『婦人公論』(2007/6/22号)にレポートが載った。

 昨年6月、一人の新人女性教師が23歳の生涯を自らの手で閉じた。「全て私の無能さが原因です」という遺書を残して…。彼女の「死」から見えてきた過酷すぎる学校の「現在」とは?

 事件ルポ 救いのない善意の場所で
 だれが新人女性教師を 死に追いやったのか

取材・文 橘 由歩(ノンフィクション・ライター)

● いつも笑顔で元気一杯だった
(略)
 頑張り屋の少女は成人し、夢を実視させる。東京都教員採用試験に合格。2006年3月、新宿区内の区立小学校へ配属が決まったのだ。
 「採用試験に合格した時には、初志を貫いた本人も周囲も大喜びをしました。そんな娘が何故2ヵ月後に自らを『無能』と断じて命を絶たなければならなかったのでしょう。いつも笑顔で元気一杯だった彼女を変えたものは、一体何なのでしょう」(手記)
 見つめるべきは、ここにある。確かに彼女は、先生の卵だった。だが彼女の胸には.「こんな先生になりたい、子どもたちにこんなことを伝えたい」と確かな思いが宿っていたはずだ。卵が孵化することなく、潰されてしまう教育現場とはいったい何なのか。問題は彼女かなぜ、死ななければならなかったかだ。

● 苛酷な労働現場

 大都会のイメージがつきまとう新宿にありながら、その一角には、豊かな緑が色濃く残っていた。マンションやアパートが多少あるものの、ほとんどが深い緑に包まれた庭付きの一戸建てという、閑静な高級住宅街に彼女の勤務先はあった。
 新宿区の多くの小学校がそうであるように、1学年1クラスという単学級の小規模校。彼女が受け持った2年生は、22名だった。

 池田小事件以降、"安心・安全な学校"が最優先されるようになり、高い壁や樹木に阻まれ、外側から内側の様子はほとんど窺えない。校門には防犯カメラ付きインターホン、施錠は自動ロックという厳重さ。だが今回痛感したのは、学校の内と外を隔てる"見えない壁"の存在だった。小学校への取材は断られ、校内の見学も拒否、新宿区教育委員会も取材拒否。誰もが、同じ言葉を口にした。「みんな傷ついている。そっとしておいてほしい。学校や地域へ配慮してほしい。一番大事なのは、子どもたちが通常の教育環境に戻ること」
 区教委はこの4月、彼女の死を、「新規採用教員に対してよりよいサホートをするために」という方向で総括した。その冊子において彼女の死は、経緯以外ではこう言及されるのみだ。
 「死に至った要因を特定することは困難ではありますが、当該教員が子どもへの指樽や保護者への対応について深い悩みに陥っていたことがうかがえます」
 もちろん、自殺の原因を特定することは不可能だ。だからといって、そこで止まっていいはずがない。大人たちが蓋をして忘れようとする狡さを、子どもたちは敏感に察知する。忘れずに考え続ける行為こそ、子どもたちへの最大の配慮なのではないか。

 関係者の多くが口をつぐむ以上、手がかりは主に、両親の代理人が調査・作成した公務上災害申請書と、新宿区教職員組合がまとめた「新規採用教員はなぜ自殺したのか」の冊子等、限られたものとなった。それらの資料から浮かび上がる「事実」を辿ってみよう。
 そもそも彼女が赴任した時、学校自体通常の教職員集団として機能していなかったという問題があった。10名の常勤教師(うちクラス担任任6名)のうち5名(うち、クラス担任4名)がその年の春、他校へ異動するという、あるベテラン教諭曰く、「異常事態」に学校は陥っていた。しかも残留した担任2名のうち1名は、採用2年目という若手だった。
 この事態に影を落としていたのが、学校選択制であり、校長自身の問題だ。
 新宿区は平成16年度から新1年生を対象に、近隣区域の学校を選択できる学校選択制を導入した。「選択」される学校にするために要求されるのが、「特徴・特色ある学校作り」だ。あるベテラン教諭は「ここにこだわると、要らぬぬ背伸びをする」と弊害を指摘するが、その「要らね背伸び」が彼女の赴任先の場合、中学校のように教科ことに教師が変わる「教科担任制」の導入だった。教職員組合は、こんな報告が寄せられた。
 「6人しか担任がいない現状で、できるわけがないと教員は猛反対した。なのに、校長が独断で押し切り、教育委員会は大賛成。教員は、これでは仕事はできないと異動願を出した」
 人前で長時間、副校長に説教をする、思いつきを実行するためには手段を選ばない等々、報告された校長の数々の言動について、教職員組合はパワー・ハラスメントの可能性を指摘する。校長の下で働いた教諭は、言葉少なにこう語った。「本当に、苦しい毎日でした。どんなに忙しくても、理が通っていればいいんですが…」
 いずれにせよ、チームとしての教職員集団が形成途上だったことは、彼女にとって非常に不幸なことだった。経験の浅い者にとって、ともに仕事を行う同僚の支えが、どれほと大きいことか。
 加えてある中堅教諭が「ゆとり教育導入の頃から煩雑な仕事が増え、いくら時間があっても足りない」と語るように、ここ数年、教育現場は、苛酷な労働条件を強いられている。
 4月3日に赴任した彼女はほどなく、19時過ぎまでの勤務が常態化する。家を出るのが6時30分、学校到着が7時40分。退出まで、ほとんど休憩すら取れない日々。夜は自宅で2時間、パソコン作業を行う。教師になってからの睡眠時間は、6時間未満。土日の出勤もしばしばで、時間外労働時間は一ヵ月あたり優に100時間は超えていた。
 さらに一学年一クラスのため学年経営、学級経営、教材研究、年間指導計画などがすべて、彼女一人の肩にのしかかる。新規採用教員には指導教官がつくが、その指導教官も1年の担任で、自分のクラスに専念せざるをえなかった。
 週1回の校長のミーティング、副校長による模擬授業、校外研修等、新任教諭へのサポートはあるものの、あるベテラン教諭はこう語る。
 「教職員みんな忙しくなりすぎて、新人のフォローにまで手が回らない。昔は仕事帰りに一杯なんてあったが、今は煩雑な激務に追われ、そういう機会すら、なかなかもてない。しかも、保護者が変わってきた。若い先生だから見守ろうという余裕がなくなっている」

● 最後の1週間
(略)
 彼女の前にまず、連絡帳を通して、ある保護者が登場する。4月11日、「子どもの名前を、習った漢字だけで書くこと」という彼女の指示への疑問が書かれていた。翌日、彼女は電話で意図を説明。17日、子ども同士のトラブルについて面談要請。彼女は電話で経緯を説明した。20日、漢字の宿題を出してほしいとの要請。この学校では4月に家庭訪問を実施しており、彼女はてんてこ舞いだったはずだ。
 5月2日、その保護者からの連絡帳には、びっしりと文字が並んでいた。「期待していたような宿題が出ていない、下校時刻が一定ではない」という非難の後に、「『すみません』というコメントは簡単すぎる、もっと具体的に書くように」と。彼女は友人にこう話した。
 「連絡帳にびっしり書いてくる保護者がいるの。何を書いていいかわからない。私が書いたコメントを消しゴムで消して、『もう、いいです』って書かれてあった」
 5月22日、月曜。彼女の教員生活最後となった週は、その保護者からの連絡帳で幕を開けた。
 「週予定表をもらっていない。宿題の出し方が安定していない。子どものケンカで授業がつぶれているが、心配だ」というクレームの後に、憤感やるかたないといった調子で、激烈な言葉が並ぶ。
 「先生は,子どもに向き合っていないのではないか。保護者を見下している。結婚や,子育てをしていないので、経験が乏しいのではないか。今後、校長と面談することも考える」
 彼女は初めて指導教官に報告する。指導教官は校長に報告後、その母親に誤解であることを電話で説明するが、校長は彼女にも、電話するよう指示する。彼女はその母親に、「すみません」と謝ったという。翌23日夜、彼女は同居している姉の前で、涙を流して泣いた。
 24日、水曜。前日ケンカをした子の別の保護者が来校、彼女に面談を求める。この後、その保護者は副校長に「子どもが、『前の担任なら叱ってくれた』と言っている」と話す。幼い2年生の言葉を鵜呑みにして、管理職へ頭越しに抗議をするとは信じ難い。子どもの姿を借りた、母親自身のクレームだったのではないか。
 25日、4人の保護者が勝手に授業参観を行い、3人がアポなしで校長室へ。曰く、「時間割が配られるのが遅かった、週時間割を出してほしい、子どもがもめても先生が注意しない、前担任なら注意した」等々、放課後、校長は彼女に、「保護者の気持ちを受け止めて、週時間割を作成するように」と指示を出す。
 26日、金曜、この日は遠足。学生時代の友人たちが集まる夜、遅くなってから参加した彼女は目もうつろで、言葉も出ず、食欲もない。帰りの電車で問われるまま、彼女は友にこう語り、これが内面を吐露した最後の言葉となった。
 「校長から、『あの先生は信頼できないって、親が言っている』って伝えられたの。私、親から信頼できないって言われちゃった。自分がふがいない。やってもやっても追いつかないから、どうしたらいいかわからない」
(以下略)
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