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◆ 差別と大量殺裁 (東京新聞【本音のコラム】)
鎌田 慧(かまたさとし・ルポライター)
自転車で自宅から十五分ほどのところに、ハンセン病の療養施設・多磨全生(ぜんしょう)園がある。いまは森に囲まれたゆったりした地域だが、社会から強制的に排除され、収容された元患者の犠牲的な労働によって形成された。
ここに住んでいた在日の作家・故国本衛さんとたまたま知り合ったご縁で、わたしはハンセン病市民学会の会員になった。その前にも「癩者(らいしゃ)の息子だ」と宣言して活動し続け、最近、被害家族の賠償請求裁判の先頭にたって勝訴に導いた、林力さんにも影響を受けている。
林さんが九州産業大教授だった時に、部落差別問題の学内集会に呼ばれ『父からの手紙』を頂いた。それではじめて療養所にいる人たち全員が仮名で暮らしている、差別の現実を知らされた。
ハンセン病市民学会が最近出版した『ハンセン病問題から学び、伝える』(清水書院)は、元患者、家族、教員の体験談や「らい予防法違憲訴訟」の歴史、冤罪(えんざい)で死刑にされた菊池事件などハンセン病問題の貴重な入門書だ。
いま毎日、ミサイルで街を破壊するロシア軍侵攻の映像をテレビで観(み)ながら、人間の命を奪う殺戮(さつりく)でしか勝利を確認できない、権力者の驕慢(きょうまん)への怒りは抑え難い。
ハンセン病患者が、差別と向き合い尊厳を獲得するまでの長いいのちの闘い。ひとのいのちの愛(いと)おしさを、プーチンは知らない。
『東京新聞』(2022年3月22日【本音のコラム】)
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