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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

徴用工問題は、企業が慰謝料を支払い、加害国が謝罪することが、最も道義にかなった解決策だ

2019年01月25日 | 平和憲法
 ◆ 徴用工問題の本質見つめ解決策を (教科書ネット)
角南圭祐 共同通信記者

 徴用工問題が、日本政府やメディア主導による日韓対立の火種になっている。
 韓国の大法院(最高裁)が日本企業に対し、戦時中の強制動員被害者への損害賠償を命じた。安倍政権は「日韓請求権協定で解決済み」「国際法に照らしてあり得ない」と猛反発し、企業にも支払わないようプレッシャーをかけている。
 しかし、徴用工問題の本質は、侵害された人権の回復という面にある。
 私は2005年頃から、強制動員被害者や遺族を取材してきた。原告の一人は生前、「支払われなかった賃金を受け取りたいだけ。当然の権利のはずだ」と話していた。
 企業と強制動員被害者との和解例は既にあり、今回も不可能ではないはずだ。問題の本質を見つめれば、嫌韓ブームをいたずらにあおることなく、解決策を見いだせるのではないだろうか。
 ◆ 「死を待つのか」

 大法院は10月30日、新日鉄住金に対し、韓国人元徴用工4人に4億ウォン(約4千万円)の損害賠償を命じた。「原告らの損害賠償請求権は、日韓請求権協定の適用対象に含まれない」と判断した。
 11月29日には、三菱重工に対し、元徴用工5人と元女子勤労挺身隊員4人、親族1人に賠償を命じた。
 新日鉄住金の元徴用工4人の被害は、判決文にも触れられている。
 募集に応じたり、自治体の指示を受けて動員されたりして釜石、大阪、八幡の製鉄所で働いた原告らは、小遣いを支給されただけで、強制貯金された賃金を受け取ることはなかった。食事も満足に食べられず、外出も禁じられ、暴力を受けた。まさに強制労働だ。
 「我々が死ぬのを待っているのか」と怒っていたのは、三菱重工を相手取った原告たちだ。事実、その通りになってしまった。
 日本での提訴から韓国での判決確定まで23年。11月29日の大法院判決を生きて聞けた原告はいなかった。
 ソウルから南へ約80キロの稲作地帯・平澤市では、戦争末期の1944年に農家から働き手の若者たちが広島にある三菱の機械製作所と造船所に徴用された。
 被爆し、生きて帰ることのできた人は、韓国原爆被害者協会の畿湖支部を結成。95年に46人が、日本政府と三菱重工業を相手取り、強制連行、強制労働、未払い賃金の支払い、被爆への損害賠償などを求めて広島地裁に提訴した。2000年からは韓国でも訴訟を始めていた。
 原告の一人だった李根睦さん(2011年に87歳で死去)は「いつも空腹に悩まされていた。抜け出しておかゆやパンを買った」と広島での日々を振り返っていた。
 被爆し、何とか故郷に帰り着いたが、「給料の半分は家族に送ってやる」との約束は果たされておらず、困窮の生活が待っていた。
 原告らは、被爆や強制労働もそうだが、何より賃金が家族に送られていなかったという約束違反に心底怒っていた。後に残した家族を思ってのことだ。李さんの場合は、徴用時に新婚の妻と年老いた父がいた。
 ◆ 加害者の姿勢なし

 こうした被害を無視して、判決への日本政府の反発は度を越したものがあった。
 安倍晋三首相は10月の判決直後、「あり得ない判断だ。国際裁判を含め、あらゆる選択肢を視野に入れて毅然と対応する」と表明し、河野太郎外相は「100%韓国側が責任を持って考える問題だ」と言い放ち、李沫勲駐日大使を外務省に呼んで「法の支配が貫徹されている国際社会の常識では考えられないことが起きた」と抗議した
 政府は、韓国で同様の訴訟を抱えている日本企業に対し、賠償に応じないよう説明会を開いたとも報道されている。
 日本政府はこれまで、太平洋戦争や植民地支配についておわびと反省を繰り返し表明してきた。しかし、判決以後の言動からは、過去に朝鮮半島を支配し、労働者を強制動員した加害国としての立場がみじんも感じられない。
 日韓はお互いに三権分立を謳う法治国家だ。韓国司法の判断を尊重すべきではないのか。
 道義的責任だけではない。法的にも日本政府の言動には問題がある。

 1965年に結ばれた請求権協定は、日韓両国と国民の間の財産や請求権の問題が「完全かつ最終的に解決されたことを確認する」と明記している。これをもって日本政府は解決済みだと喧伝し、責任は韓国政府にあると主張している。
 しかし実は、日本の最高裁も政府も、請求権協定では個人が訴える権利は消滅していないとの立場だ。「解決済み」と繰り返すのはミスリードだ。
 11月14日の衆院外務委員会。河野外相は野党議員の質問に「個人の請求権が消滅したと言うわけではないが、完全かつ最終的に解決済みだ」と答弁した。
 外務省の三上正裕国際法局長も「権利自体は消滅していない。しかし、裁判に行ったときにそれは救済されない」と答えた。
 分かりにくい論理だが、慰謝料の請求をする権利は消滅しておらず、日本で裁判に訴えることはできるが、訴えても無駄になるということだ。
 だからこそ原告らは、日本での裁判で負けた後、韓国で裁判を起こした。その結果の勝訴だ。グローバル企業である2社が、今回の司法判断に従うのは自然の流れだ。
 ◆ 和解経験

 強制連行された中国人労働者とは和解例がある。
 09年に和解した西松建設などが有名だが、16年には三菱マテリアルが和解に踏み切り、被害者1人当たり10万元(約164万円)を支払った。
 和解事業は現在も続いており、三菱側が基金を設立する準備が進んでいる。
 新日鉄住金にも和解経験がある。釜石製鉄所に動員され、米軍の艦砲射撃で犠牲となった徴用工の韓国人遺族に対し、当時の新日鉄は人道的立場から原告1人につき200万円を支払った。
 判決の出た10月30日、東京で記者会見した「日本製鉄元徴用工裁判を支援する会」の矢野秀喜事務局次長は「新日鉄は2012年の株主総会で、韓国の判決に従わざるを得ないと発言している。和解の実績もあり、賠償すると信じている」と話した。
 11月12日、来日した原告側弁護士らが東京・丸の内の新日鉄住金本社を訪れた。支払い方法について協議するためだったが、会社側は面会を拒否。受付で、警備員に「日韓請求権協定や日本政府の見解に反するもので遺憾だ」とのメモを読み上げさせるだけにとどまった。
 会社のこうした対応は、原告側の姿勢をかたくなにさせるだけだった。
 林宰成弁護士は「原告4人のうち3人は既に亡くなった。法治国家の企業であるなら判決に従うべきだ」と語気を強め、金世恩弁護士「差し押さえの手続きに入る」と話した。
 判決は、こうした強制動員・強制労働の被害を受け、戦後も苦労した元徴用工らの人権回復を遅まきながらも求めるものだ。企業が慰謝料を支払い、加害国が謝罪することが、最も道義にかなった解決策だ。
 そもそも日韓請求権協定は、朝鮮戦争で疲弊した韓国と、反対に特需となった日本との間に結ばれた、経済協力の約束だった。
 当時の日韓両政府の思惑で被害者が置き去りにされた。韓国司法について「憲法の上位に国民情緒法がある」と揶揄する言説も見られるが、日本社会こそ感情に流されていないだろうか。冷静に自身を振り返る必要がある。(すなみけいすけ)
『子どもと教科書全国ネット21ニュース 123号』(2018.12)

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