◆ 社会が抱える様々な問題に翻弄される
少女・若い女に寄り添う若草プロジェクト (週刊新社会)
10代20代の若い女性たちが、生きづらさを感じ、コロナ禍で困難を増しているという。今回はそのような若い女性たちを支援している「若草プロジェクト」(代表理事・大谷恭子弁護士)の佐藤静江理事とプロジェクトが運営する「まちなか保健室」のスタッフ谷口知加さんにお話を伺った。(福田紀子)
◆ この団体の設立からの経緯を教えてください。
佐藤 まず、きっかけは瀬戸内寂聴さんです。
大谷恭子弁護士と一緒に女性たちが抱える困難についての話をしながら、寂聴さんの「老いていく自分が今できることをやりたい」という思いがありました。
そこにもう一人加わったのが元厚生労働事務次官の村木厚子さんです。
村木さんが冤罪で独房に収監されていた際に接した若い女性受刑者たちが、売春や覚醒剤の罪に問われたことを聞き、彼女たちの生きる厳しさを知りました。
この3人を始め、様々な方が専門性や経験を持ち寄り、若い女性の生きづらさは大きな社会問題であり、彼女たちに寄り添うプロジェクトが必要だということになりました。
2016年の設立時は、支援する組織や企業、受ける団体や活動のニーズを「つなぐ」ことを目指し、研修、オンラインの相談から始めました。
その後、2018年には行き場のない若い女性たちが安心して暮らすことのできる「若草ハウス」を設立。そして、この「まちなか保健室」を昨年7月にオープンしました。
◆ 「まちなか保健室」の女の子たちの様子を聞かせてください
谷口 「まちなか保健室」は若い女性の居場所として誰でも利用できます。御茶ノ水駅に近いこともあって、近県から何度も足を置んで来る子もいます。
自由におしゃべりのできる談話室で自分のことを話してもらい、必要な時には心理相談や女性医師の相談、助産師による実践講座、法律相談につながるようにしています。
利用している女の子たちは本当に幅広いです。高校での成績がよく進学にも心配のない子が、死にたくなるほどの苦しい状態を伝えても、「贅沢な悩み」と言われ、大きな期待を寄せる親にも言えず、「ここでやっと自分のことを話せる」ということもありました。
一方では、親のネグレクト等の虐待、家族からの暴力・性暴力、コロナで学校が休校時に「だらだらしているなら家から出て行け」と家族に言われるなど、家が安心できる場ではない子どもたちも多いのです。
子どもの頃から家族や人間関係などで厳しい経験が続くと「自己肯定感」が低いと言われます。
それが、自分自身の本心よりも「周りの期待」に自分を合わせ、目の前の誰かに「自分を見てもらう」ための行動として現れることもあります。
私は、看護師とアロマセラピストの資格を持っているので、アロマをやりながら、話を聴くプログラムを行っています。
本来、「保健室」は自由に出入りできるのですが、残念ながらコロナ禍のため、今は予約制で1日に3人しか対応できません。
でも、「今、ここにいるあなた」と一緒にいること、「自分がどうしたいのかを言っていい」場でありたいと思っています。
◆ コロナ禍の影響はどうでしょう?
谷口 コロナ禍で女性の自殺率、特に若い女性の自殺率が上がったと言われていますが、予期せぬ妊娠や家族の問題があっても「ステイホーム」では暴力の危険が増えるばかりでなく、話したり、相談する機会が失われたためか、Lineの相談件数は5月に一気に増えました。
それに加えて、多くの高校生や学生の自立や家庭の経済を支えるアルバイトも激減しました。お金の問題だけでなく、特に家に居づらい彼女たちにとっては、学校とアルバイトで「家にいる時間」を最小限にしてきたことが不可能になり、困難は増しています。
高校を卒業したから、20歳になったからと言って自分が安定するわけではありません。
大学もオンライン授業となり、もやもやしたものを抱えながらも人との関わりの中で自分を知ることが必要な時期に、それも難しくなっています。
◆ 彼女たちの問題の根底にあるものは?
佐藤 元総理大臣の女性差別発言もありましたが、女性を尊厳のある存在として見ていない社会の状況は変わっていません。
買春や性暴力でいうと、男女平等教育を受けたはずの若い男性たちにも、女性の性をお金や対価を出せば支配できるという意識や行動が受け継がれています。
その上、ネット社会でそのような行為が加速化し、誰にでも利用できるものになってしまいました。
Twitterである女の子が「今日泊まるところがない」と眩くと、瞬く間に男性からの「うちに来ない?」という返信が何十も連なっているのを見ると、恐ろしい事態になっていることを思い知らされます。
◆ 今後に向けて
佐藤 今、「つなガール」という支援のプラットフォームを始めています。
そこでは主に企業からの寄付とシエルターや自立支援施設など様々な女性支援の現場をつなぐ機能を目指しています。
ファーストリテイリング(ユニクロ)やハウス食品、大王製紙他、継続的に取り組む企業も増えてきています。企業も社会的買任(CSR)を果たそうとしている一面を持っています。
それがニーズに合った形で安全に支援現場に届くよう、私たちができる役割があると考えています。
『週刊新社会』(2021年3月2日)
少女・若い女に寄り添う若草プロジェクト (週刊新社会)
10代20代の若い女性たちが、生きづらさを感じ、コロナ禍で困難を増しているという。今回はそのような若い女性たちを支援している「若草プロジェクト」(代表理事・大谷恭子弁護士)の佐藤静江理事とプロジェクトが運営する「まちなか保健室」のスタッフ谷口知加さんにお話を伺った。(福田紀子)
◆ この団体の設立からの経緯を教えてください。
佐藤 まず、きっかけは瀬戸内寂聴さんです。
大谷恭子弁護士と一緒に女性たちが抱える困難についての話をしながら、寂聴さんの「老いていく自分が今できることをやりたい」という思いがありました。
そこにもう一人加わったのが元厚生労働事務次官の村木厚子さんです。
村木さんが冤罪で独房に収監されていた際に接した若い女性受刑者たちが、売春や覚醒剤の罪に問われたことを聞き、彼女たちの生きる厳しさを知りました。
この3人を始め、様々な方が専門性や経験を持ち寄り、若い女性の生きづらさは大きな社会問題であり、彼女たちに寄り添うプロジェクトが必要だということになりました。
2016年の設立時は、支援する組織や企業、受ける団体や活動のニーズを「つなぐ」ことを目指し、研修、オンラインの相談から始めました。
その後、2018年には行き場のない若い女性たちが安心して暮らすことのできる「若草ハウス」を設立。そして、この「まちなか保健室」を昨年7月にオープンしました。
◆ 「まちなか保健室」の女の子たちの様子を聞かせてください
谷口 「まちなか保健室」は若い女性の居場所として誰でも利用できます。御茶ノ水駅に近いこともあって、近県から何度も足を置んで来る子もいます。
自由におしゃべりのできる談話室で自分のことを話してもらい、必要な時には心理相談や女性医師の相談、助産師による実践講座、法律相談につながるようにしています。
利用している女の子たちは本当に幅広いです。高校での成績がよく進学にも心配のない子が、死にたくなるほどの苦しい状態を伝えても、「贅沢な悩み」と言われ、大きな期待を寄せる親にも言えず、「ここでやっと自分のことを話せる」ということもありました。
一方では、親のネグレクト等の虐待、家族からの暴力・性暴力、コロナで学校が休校時に「だらだらしているなら家から出て行け」と家族に言われるなど、家が安心できる場ではない子どもたちも多いのです。
子どもの頃から家族や人間関係などで厳しい経験が続くと「自己肯定感」が低いと言われます。
それが、自分自身の本心よりも「周りの期待」に自分を合わせ、目の前の誰かに「自分を見てもらう」ための行動として現れることもあります。
私は、看護師とアロマセラピストの資格を持っているので、アロマをやりながら、話を聴くプログラムを行っています。
本来、「保健室」は自由に出入りできるのですが、残念ながらコロナ禍のため、今は予約制で1日に3人しか対応できません。
でも、「今、ここにいるあなた」と一緒にいること、「自分がどうしたいのかを言っていい」場でありたいと思っています。
◆ コロナ禍の影響はどうでしょう?
谷口 コロナ禍で女性の自殺率、特に若い女性の自殺率が上がったと言われていますが、予期せぬ妊娠や家族の問題があっても「ステイホーム」では暴力の危険が増えるばかりでなく、話したり、相談する機会が失われたためか、Lineの相談件数は5月に一気に増えました。
それに加えて、多くの高校生や学生の自立や家庭の経済を支えるアルバイトも激減しました。お金の問題だけでなく、特に家に居づらい彼女たちにとっては、学校とアルバイトで「家にいる時間」を最小限にしてきたことが不可能になり、困難は増しています。
高校を卒業したから、20歳になったからと言って自分が安定するわけではありません。
大学もオンライン授業となり、もやもやしたものを抱えながらも人との関わりの中で自分を知ることが必要な時期に、それも難しくなっています。
◆ 彼女たちの問題の根底にあるものは?
佐藤 元総理大臣の女性差別発言もありましたが、女性を尊厳のある存在として見ていない社会の状況は変わっていません。
買春や性暴力でいうと、男女平等教育を受けたはずの若い男性たちにも、女性の性をお金や対価を出せば支配できるという意識や行動が受け継がれています。
その上、ネット社会でそのような行為が加速化し、誰にでも利用できるものになってしまいました。
Twitterである女の子が「今日泊まるところがない」と眩くと、瞬く間に男性からの「うちに来ない?」という返信が何十も連なっているのを見ると、恐ろしい事態になっていることを思い知らされます。
◆ 今後に向けて
佐藤 今、「つなガール」という支援のプラットフォームを始めています。
そこでは主に企業からの寄付とシエルターや自立支援施設など様々な女性支援の現場をつなぐ機能を目指しています。
ファーストリテイリング(ユニクロ)やハウス食品、大王製紙他、継続的に取り組む企業も増えてきています。企業も社会的買任(CSR)を果たそうとしている一面を持っています。
それがニーズに合った形で安全に支援現場に届くよう、私たちができる役割があると考えています。
『週刊新社会』(2021年3月2日)
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