◆ NHKに問い詰められた石原都知事
4月9日夜のNHK「クローズアップ現代」は、「新銀行東京」を真正面から取り上げた。キャスターはベテランの国谷裕子さん。スタジオで金融の専門家として「新銀行東京」の問題点を解説したのは、立教大学教授の山口義行氏だ。
山口氏は、まず、新銀行東京には当初の計画から無理があった、と言う。一般の銀行が融資できないような会社に「無担保」で貸し出すには、借り手の返済能力を適正に評価することができる専門家の存在が不可欠であるが、その点がまったく不十分だった。
リスキーな無担保融資なのに、「普通の銀行」と同じように店舗を構えて、ATMを何カ所も設置し、職員も大勢かかえて、という経営形態では、設備投資や維持費が過大になり、銀行として運営していけるほど利益が出ない。
担保力のない零細企業を救うために自治体がすべきことは、「銀行の新規設立」ではなく、別の形がありえた。そもそも「マスタープラン」が絵に描いた餅だった、というわけだ。
それを裏付けるように、新銀行東京の設立事務に関わった職員が覆面で、証言する。
『「まず1000億円ありき」で、「天の声」に合わせて数字をつくった。マトモな検証はなかった』
開業1年で多額の焦げ付きが生じたが、それは隠されたまま、融資拡大に走った。大株主の東京都、というより「天の声」の主である石原都知事の体面を保つことに経営陣が腐心したわけだ。
「天の声」とは選挙公約だろう。いわば、石原2期目の公約のために都民をだましていたことになる。
慶應義塾大学の土居丈郎教授は言う。
株主の東京都は、「民間の経営陣がちゃんとやるはずだ」とゲタをあずけ、経営陣は、「最後は東京都が始末してくれるだろう」とタカをくくるという「無責任体制」が、3年で赤字1016億円という結果をもたらした、と。
かくして、巨額の都民の血税がどこかに消えた。
番組の後半には、遠隔インタビューのかたちで、石原慎太郎都知事が、国谷キャスターの質問に答えることになっていた。
番組が始まるとき、国谷キャスターのあいさつを受けた石原さんは、「あんまりイジメないでね」とニッコリしてみせたが、番組内に新銀行を擁護する発言はまったくないことを、石原さんは、すべて見ていた。街頭での「都民の怒りの声」も含めて。
しかし、それでも石原さんは、しきりに目をパチパチさせながら、早口で一方的に、焦点のずれたことをしゃべり続ける。いわく、
『マスタープランは基本だが、民間の経営陣・執行部が、うまく運用するはずだった。ところが、取締会への報告が十分でなかった。粉飾もあった』
言い訳とはぐらかしが切れ目なく続くなか、しびれを切らして、国谷キャスターが割って入る。
『3年で都民の1000億円が消えたことの検証も身内だけでやり、再建計画も身内だけで作った。第3者の目が入っておらず、経営危機の原因がどこにあったのか、十分に解明されていない。透明性が足りないのではないか?』
新銀行再建の責任者の津島隆一氏は、都の職員だ。5年前の都議会で「自治体による銀行新設」に疑義を呈する野党の質問に「大丈夫」とくり返した張本人である。
国谷キャスターの厳しい質問に対する都知事の答えは、論旨が明快ではなかった。
『金融庁に要請する前に、自ら十分に調査する』
(調査「した」の間違い? 金融庁の査察は必要ない、という意味か?)
『経営陣を、株主の東京都が訴える裁判があるかもしれないので、すべてをオープンには出来ない事情があるが、詳細に内部で調べて分かっている』
第3者の目が必要だという意見に対しては、 「金融庁が入るかもしれない。決算があるし。拒否はしません」としたが、そもそも開業して4年経つのに、いままでに金融庁の調査が一度も入っていないのは、奇妙なことではないのか?
石原さんの言葉からすれば、金融庁が調査に入ることは当面なさそうだ。都議会でも、運営責任のある経営陣を呼んで直接事情を質すこともなかった。奇妙な事態に、どうも、アチコチに「裏事情」がありそうだと勘ぐってしまう。
「新銀行」の設立理念について石原さんは、「零細の零細の方々を救うために、金融庁をかいくぐっても、貸さないわけにいかないだろうと考えた」のだそうだ。これは、どういう意味だろうか?
石原さんは、自分が義賊のねずみ小僧かスーパーマンだとでも勘違いしたのではないだろうか。
石原さんは、新銀行が撤退すれば、日本の金融全体が大混乱する、という。だが、再建計画では、店舗は6つから1つに、主力商品であった無担保・無保証融資は大幅に減らす、というのだから、設立当初の理念は消滅している。事実上の「撤退」に限りなく近い。
追加融資の400億円で、何ができるのか?
なぜ、民間の経営陣がこれまでに知恵を出せなかったのか?
「ニッポンを救うつもりで!」と知事がぶちあげた「新銀行東京」は、誰のために、何のために作られたのか。追加400億円で「再建」した後の存在意義はどこにあるのか。すでに1000億円余りを失った都民には、分からないままだ。
結局、本当に新銀行が撤退するときには、石原さんは都庁にはいないのだろう。最大の「責任者」は、石原さんを都知事に選んだ都民、ということになるのだろうか。
ある金融関係者がいみじくも言う。
『都民のお金を投じて、都が「ビジネスごっこ」をやるべきではなかった』
(記者:安住 るり)
※ 4月10日17時0分配信 オーマイニュース
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080410-00000009-omn-pol
4月9日夜のNHK「クローズアップ現代」は、「新銀行東京」を真正面から取り上げた。キャスターはベテランの国谷裕子さん。スタジオで金融の専門家として「新銀行東京」の問題点を解説したのは、立教大学教授の山口義行氏だ。
山口氏は、まず、新銀行東京には当初の計画から無理があった、と言う。一般の銀行が融資できないような会社に「無担保」で貸し出すには、借り手の返済能力を適正に評価することができる専門家の存在が不可欠であるが、その点がまったく不十分だった。
リスキーな無担保融資なのに、「普通の銀行」と同じように店舗を構えて、ATMを何カ所も設置し、職員も大勢かかえて、という経営形態では、設備投資や維持費が過大になり、銀行として運営していけるほど利益が出ない。
担保力のない零細企業を救うために自治体がすべきことは、「銀行の新規設立」ではなく、別の形がありえた。そもそも「マスタープラン」が絵に描いた餅だった、というわけだ。
それを裏付けるように、新銀行東京の設立事務に関わった職員が覆面で、証言する。
『「まず1000億円ありき」で、「天の声」に合わせて数字をつくった。マトモな検証はなかった』
開業1年で多額の焦げ付きが生じたが、それは隠されたまま、融資拡大に走った。大株主の東京都、というより「天の声」の主である石原都知事の体面を保つことに経営陣が腐心したわけだ。
「天の声」とは選挙公約だろう。いわば、石原2期目の公約のために都民をだましていたことになる。
慶應義塾大学の土居丈郎教授は言う。
株主の東京都は、「民間の経営陣がちゃんとやるはずだ」とゲタをあずけ、経営陣は、「最後は東京都が始末してくれるだろう」とタカをくくるという「無責任体制」が、3年で赤字1016億円という結果をもたらした、と。
かくして、巨額の都民の血税がどこかに消えた。
番組の後半には、遠隔インタビューのかたちで、石原慎太郎都知事が、国谷キャスターの質問に答えることになっていた。
番組が始まるとき、国谷キャスターのあいさつを受けた石原さんは、「あんまりイジメないでね」とニッコリしてみせたが、番組内に新銀行を擁護する発言はまったくないことを、石原さんは、すべて見ていた。街頭での「都民の怒りの声」も含めて。
しかし、それでも石原さんは、しきりに目をパチパチさせながら、早口で一方的に、焦点のずれたことをしゃべり続ける。いわく、
『マスタープランは基本だが、民間の経営陣・執行部が、うまく運用するはずだった。ところが、取締会への報告が十分でなかった。粉飾もあった』
言い訳とはぐらかしが切れ目なく続くなか、しびれを切らして、国谷キャスターが割って入る。
『3年で都民の1000億円が消えたことの検証も身内だけでやり、再建計画も身内だけで作った。第3者の目が入っておらず、経営危機の原因がどこにあったのか、十分に解明されていない。透明性が足りないのではないか?』
新銀行再建の責任者の津島隆一氏は、都の職員だ。5年前の都議会で「自治体による銀行新設」に疑義を呈する野党の質問に「大丈夫」とくり返した張本人である。
国谷キャスターの厳しい質問に対する都知事の答えは、論旨が明快ではなかった。
『金融庁に要請する前に、自ら十分に調査する』
(調査「した」の間違い? 金融庁の査察は必要ない、という意味か?)
『経営陣を、株主の東京都が訴える裁判があるかもしれないので、すべてをオープンには出来ない事情があるが、詳細に内部で調べて分かっている』
第3者の目が必要だという意見に対しては、 「金融庁が入るかもしれない。決算があるし。拒否はしません」としたが、そもそも開業して4年経つのに、いままでに金融庁の調査が一度も入っていないのは、奇妙なことではないのか?
石原さんの言葉からすれば、金融庁が調査に入ることは当面なさそうだ。都議会でも、運営責任のある経営陣を呼んで直接事情を質すこともなかった。奇妙な事態に、どうも、アチコチに「裏事情」がありそうだと勘ぐってしまう。
「新銀行」の設立理念について石原さんは、「零細の零細の方々を救うために、金融庁をかいくぐっても、貸さないわけにいかないだろうと考えた」のだそうだ。これは、どういう意味だろうか?
石原さんは、自分が義賊のねずみ小僧かスーパーマンだとでも勘違いしたのではないだろうか。
石原さんは、新銀行が撤退すれば、日本の金融全体が大混乱する、という。だが、再建計画では、店舗は6つから1つに、主力商品であった無担保・無保証融資は大幅に減らす、というのだから、設立当初の理念は消滅している。事実上の「撤退」に限りなく近い。
追加融資の400億円で、何ができるのか?
なぜ、民間の経営陣がこれまでに知恵を出せなかったのか?
「ニッポンを救うつもりで!」と知事がぶちあげた「新銀行東京」は、誰のために、何のために作られたのか。追加400億円で「再建」した後の存在意義はどこにあるのか。すでに1000億円余りを失った都民には、分からないままだ。
結局、本当に新銀行が撤退するときには、石原さんは都庁にはいないのだろう。最大の「責任者」は、石原さんを都知事に選んだ都民、ということになるのだろうか。
ある金融関係者がいみじくも言う。
『都民のお金を投じて、都が「ビジネスごっこ」をやるべきではなかった』
(記者:安住 るり)
※ 4月10日17時0分配信 オーマイニュース
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080410-00000009-omn-pol
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