《紙の爆弾 2018年4月号》
◆ "愛国心"強制の教育から子どもの思想・良心の自由をどう守るか
取材・文 . 永野厚男
第一次安倍晋三政権は二〇〇六年十二月、賛否分かれるなか、教育基本法に〝国を愛する態度〟を盛った。同第二次政権では一三年二月の諮問機関「教育再生実行会議」が第一次提言で敷いた「道徳教科化」のレールの上に、文部科学省の道徳教育の充実に関する懇談会や中央教育審議会の報告・答申を出させた。そして、同省が「大綱的基準として各学校の教育課程編成に法的拘束力がある」とする学習指導要領(以下、指導要領)の小中学校の道徳の改訂(一五年三月二十七日に官報告示。一七年三月改訂もほぼ同内容)により、小学校は今年四月から道徳を「特別の教科」とし、検定教科書使用を義務化、評価も導入する(中学校は一九年四月から)。
日本国憲法第一九条・二〇条・二一条の禁じる、国家権力による個人の思想・良心・信教・表現の自由への侵害をさせないため、どうすべきか?
◆ "愛国心"強制は道徳のほか社会・特別活動でも徹底
文科省が〇八年三月告示の小中学校の現行指導要領から、「総則」(全教育課程を大綱的に拘束)に盛った、改定教育基本法の〝国を愛する態度〟は、一七年三月改訂では新設の「前文」にも加筆された。
この〇八年指導要領は「第3章 道徳」に、「校長の方針の下に、道徳教育推進教師を中心に、全教師が協力して道徳教育を展開するため、道徳教育の全体計画と道徳の時間の年間指導計画を作成するものとする」などと規定。この「道徳教育の全体計画作成に当たっては」、〝愛国心〟を含む「道徳の内容との関連を踏まえた、各教科…特別活動」等での「指導の内容及び時期…を示す必要があること」とした(一七年三月改訂ではほぼ同文を、総則に格上げし規定)。
ここでいう「各教科」は、以前から〝愛国心〟を小中とも指導要領に明記している社会科がまず挙げられる。
福岡市の市立小では〇二年度、校長会主導で半数近い六三校が、〝国を愛する心情〟を六年生の通知表・社会の観点別評価(A~Cの三段階)に入れた。
B評価を付けられた在日外国人児童の保護者が人権救済を申立て、福岡県弁護士会が〇三年二月、「思想・良心の自由を定めた憲法第一九条違反の恐れがある」として、市教委に削除指導を求める勧告書を出している。
また「特別活動」の領域でも、儀式的行事のうち、卒業式等の〝君が代斉唱〟強制を盛った条項について、文科省作成の参考資料にすぎない『指導要領解説・特別活動編』(一七年六月発行)が、「…日本人としての自覚を養い、国を愛する心を育てる…ためには、国旗及び国歌に対して一層正しい認識をもたせ、それらを尊重する態度を育てることは重要なことである」と明記。〝君が代〟強制を通した、〝愛国心〟の一層の浸透が懸念される。
今年四月から全国の小学校で使用する八社の道徳教科書のうち、〝愛国心〟教材が他社に比べ多い教育出版。その二年生用は、「国旗・国歌を大切にする」の「国旗・国歌を大切にする気もちのあらわし方」で、「き立して国旗にたいしてしせいを正し、ぼうしをとって、れいをします」「国歌がながれたら、みんなでいっしょに歌います」と記述。国籍や宗教等の事情があったり、天皇という特定の人物を敬うのは嫌だと考えたりする児童への配慮を欠く。
同社版は、改憲政治団体・日本会議系の日本教育再生機構(メンバーが育い く鵬ほう社版社会科教科書を執筆)理事の貝塚茂樹・武蔵野大学教授や、東京都・武蔵村山市立第八小学校の牧一彦校長以下三名の教職員らが執筆した。
第八小は一四~一七年度、文科省研究開発学校の指定を受け(予算は毎年一五〇万円)、指導要領を越える「道徳三〇時間+礼法一五時間=年間四五時間の徳育科」の発表会を今年二月十七日、行なった。
そこでの配布資料、「二年礼法」の学習指導案「正しい姿勢と返事」の「正しい立ち方」は、「まっすぐ前を見る。手は横でピンと伸ばす。正しい姿勢について、どのように理解しているかを確認する」とある。
橋下徹氏は大阪市長在職中、一二年四月二日の新規採用職員一四〇人の発令式で〝君が代〟斉唱時に職員を監視。退場前、「国歌斉唱時、きちんと手は横、気を付け。国際社会で外国に行った時、前に手を組んでいたら格好悪い話だ」と〝訓示〟したのを想起させる。
◆ 〝愛国心.強制の道徳授業の実態
道徳の改訂指導要領の「考え、議論する道徳」「多面的・多角的に考え、自己の(中学は「人間としての」)生き方についての考えを深める」というキャッチフレーズに反する「押し付け道徳」の授業を二つ、紹介する。
一つ目。武蔵村山市教育委員会は、持田浩志氏が教育長に就任以来、市教委の教育目標に〝愛国心〟を明記。採択した教科書は社会が育鵬社、道徳が教育出版だ。
同市教委が市立小・中四校にやらせてきた、「我が国を愛する態度を育てる」がテーマの道徳公開授業(第十小を会場に、四校の児童・生徒を集めた合同授業)を筆者は一〇年一月に取材した。
四年生の教室では、男性教員が「平成5年、サッカー日本代表チームに選出された中山雅史選手」の自作教材を使い、「日本人を代表してやる試合や大会の始めに必ず国歌を歌います。胸に手を当て、国の代表として堂々と歌います」などと朗読。男児が間髪を入れず大きな声で「国歌・君が代です!」と応じた。
この教員は「平成十年の試合で中山選手は腕を骨折したが、最後まで戦い、W杯で日本初の得点を取ることができた」とのエピソードを紹介し、「なぜ最後まで戦ったか」と発問。
普通の児童なら「チームのため。ファンのため」と答えるだろうが、教員は「青いユニフォームの国旗の重要性に触れる」と明記した指導案に沿い、「日本のために戦いました」という答えに誘導していた。
参観した保護者や地域住民らは終了後、廊下で「骨折しても戦い続けるのを美化すること自体、教育上不適切」「指導案には『日本のよさに気付き、我が国を誇りに思う心情が高まったか』が評価規準とある。憲法の思想・良心の自由を侵害する思想教育、特定の価値観の押し付けだ」と語っていた。
二つ目。明治図書発行の教育専門誌『道徳教育』〇六年十一月号の六二頁~六四頁は、鳥取市立高草中の〝愛国心育成の方策〟に関する〝実践報告〟を掲載。授業者・村尾行也教諭は三年生に、「〝日本人の魂〟とはどんなものがあるか?」と宿題を出し、「武士道・日本刀」等の答えを引き出し、板書で印象付け。
この後、村尾教諭が使用した教材「オヤジの背中で『和』の字が踊る」の〝ねらい〟には、「NYの日本料理店の経営者のオヤジが、店の中央にある和太鼓を酔った客に叩かれ、怒って突き飛ばす。オヤジの和太鼓への思いから、〝日本人の魂〟とは何か、考察する」と明記。
〝愛国心=日本人の魂〟に至上の価値を抱き、自らナショナリストと称し、それを踏みにじられたと主張、人に平然と暴力を振るうオヤジに同調する複数の生徒。村尾教諭は「暴力に訴えることには問題あるが」と一応、断りつつ「オヤジの強い怒りにしっかりと共感させておきたい」と主張している。
結果、生徒たちは「オヤジにとって和太鼓は、日本人である自分の魂の拠り所だ。自国を愛する心がないと世界では通用しない」との感想を発表。洗脳教育だ。
こうした〝愛国心〟教育は、良識ある多くの教職員や父母が求める道徳の内容項目「生命尊重」と真逆の、国のために自己犠牲(死)を厭わない子どもづくりにつながる危険性がある。
〇六年十一月二十七日の参院教育基本法特別委員会で、当時の伊吹文明・文部科学大臣は、〝国を愛する態度〟の教化が、〝国防教育〟に直結すると実質、受け取られる答弁をした。
また教育基本法改定時、中教審会長を務めた鳥居泰彦・元慶應義塾大学学長は一三年十一月十一日、前記・道徳教育の充実に関する懇談会(鳥居氏が座長)で、「道徳の指導内容に自己犠牲と我慢を明記するのがよい」と発言。
これらは〝愛国心〟の教化が、終戦直後墨塗りの対象になった、戦前・戦中の〝国防教育〟と一体化する危険性の証左といえる。
◆ 〝愛国心〟教育をやめ伝統・文化理解教育に
都教委の研究団体である東京都小学校道徳教育研究会(都小道。校長や教諭らで構成)が今年一月二十九日、世田谷区立松ヶ丘小学校で開催した研究発表会で配布した『平成29年度研究集録』によれば、一七年八~九月、都の各地区の教員一二一五人対象の調査で、道徳の内容項目のうち〝愛国心〟は、「教師が授業で指導が難しいと感じる内容項目」の二番手だった。
小学校指導要領の内容「17」〝愛国心〟の項は五・六年生では、「我が国や郷土の伝統と文化を大切にし、先人の努力を知り、国や郷土を愛する心をもつこと」と規定。この文言の後段の「国や」以降を削除すれば(「郷土」は残してもよいが)、〝国防〟や自己犠牲につながる危惧は解消するだろう。
この日の公開授業では、風呂敷など「伝統と文化の尊重」を学び、考えるのに注力する授業を行なっており、父母や研究者が安心して参観していた。
教員の指導は指導要領の「…先人の努力を知」るまでに留め、「国を愛する」か否か(国や政府を批判し変えることも含め)は、授業後や将来の児童の判断に委ねてこそ、児童の思想・良心の自由を大切にする民主主義の道徳教育ができるのではないか。筆者はこの方向での指導要領改正を世論に訴えたい。
※永野厚男 (ながのあつお)
文科省・各教委等の行政や、衆参・地方議会の文教関係の委員会、教育裁判、保守系団体の動向などを取材。平和団体や参院議員会館集会等で講演。
『紙の爆弾』2018年4月号
◆ "愛国心"強制の教育から子どもの思想・良心の自由をどう守るか
取材・文 . 永野厚男
第一次安倍晋三政権は二〇〇六年十二月、賛否分かれるなか、教育基本法に〝国を愛する態度〟を盛った。同第二次政権では一三年二月の諮問機関「教育再生実行会議」が第一次提言で敷いた「道徳教科化」のレールの上に、文部科学省の道徳教育の充実に関する懇談会や中央教育審議会の報告・答申を出させた。そして、同省が「大綱的基準として各学校の教育課程編成に法的拘束力がある」とする学習指導要領(以下、指導要領)の小中学校の道徳の改訂(一五年三月二十七日に官報告示。一七年三月改訂もほぼ同内容)により、小学校は今年四月から道徳を「特別の教科」とし、検定教科書使用を義務化、評価も導入する(中学校は一九年四月から)。
日本国憲法第一九条・二〇条・二一条の禁じる、国家権力による個人の思想・良心・信教・表現の自由への侵害をさせないため、どうすべきか?
◆ "愛国心"強制は道徳のほか社会・特別活動でも徹底
文科省が〇八年三月告示の小中学校の現行指導要領から、「総則」(全教育課程を大綱的に拘束)に盛った、改定教育基本法の〝国を愛する態度〟は、一七年三月改訂では新設の「前文」にも加筆された。
この〇八年指導要領は「第3章 道徳」に、「校長の方針の下に、道徳教育推進教師を中心に、全教師が協力して道徳教育を展開するため、道徳教育の全体計画と道徳の時間の年間指導計画を作成するものとする」などと規定。この「道徳教育の全体計画作成に当たっては」、〝愛国心〟を含む「道徳の内容との関連を踏まえた、各教科…特別活動」等での「指導の内容及び時期…を示す必要があること」とした(一七年三月改訂ではほぼ同文を、総則に格上げし規定)。
ここでいう「各教科」は、以前から〝愛国心〟を小中とも指導要領に明記している社会科がまず挙げられる。
福岡市の市立小では〇二年度、校長会主導で半数近い六三校が、〝国を愛する心情〟を六年生の通知表・社会の観点別評価(A~Cの三段階)に入れた。
B評価を付けられた在日外国人児童の保護者が人権救済を申立て、福岡県弁護士会が〇三年二月、「思想・良心の自由を定めた憲法第一九条違反の恐れがある」として、市教委に削除指導を求める勧告書を出している。
また「特別活動」の領域でも、儀式的行事のうち、卒業式等の〝君が代斉唱〟強制を盛った条項について、文科省作成の参考資料にすぎない『指導要領解説・特別活動編』(一七年六月発行)が、「…日本人としての自覚を養い、国を愛する心を育てる…ためには、国旗及び国歌に対して一層正しい認識をもたせ、それらを尊重する態度を育てることは重要なことである」と明記。〝君が代〟強制を通した、〝愛国心〟の一層の浸透が懸念される。
今年四月から全国の小学校で使用する八社の道徳教科書のうち、〝愛国心〟教材が他社に比べ多い教育出版。その二年生用は、「国旗・国歌を大切にする」の「国旗・国歌を大切にする気もちのあらわし方」で、「き立して国旗にたいしてしせいを正し、ぼうしをとって、れいをします」「国歌がながれたら、みんなでいっしょに歌います」と記述。国籍や宗教等の事情があったり、天皇という特定の人物を敬うのは嫌だと考えたりする児童への配慮を欠く。
同社版は、改憲政治団体・日本会議系の日本教育再生機構(メンバーが育い く鵬ほう社版社会科教科書を執筆)理事の貝塚茂樹・武蔵野大学教授や、東京都・武蔵村山市立第八小学校の牧一彦校長以下三名の教職員らが執筆した。
第八小は一四~一七年度、文科省研究開発学校の指定を受け(予算は毎年一五〇万円)、指導要領を越える「道徳三〇時間+礼法一五時間=年間四五時間の徳育科」の発表会を今年二月十七日、行なった。
そこでの配布資料、「二年礼法」の学習指導案「正しい姿勢と返事」の「正しい立ち方」は、「まっすぐ前を見る。手は横でピンと伸ばす。正しい姿勢について、どのように理解しているかを確認する」とある。
橋下徹氏は大阪市長在職中、一二年四月二日の新規採用職員一四〇人の発令式で〝君が代〟斉唱時に職員を監視。退場前、「国歌斉唱時、きちんと手は横、気を付け。国際社会で外国に行った時、前に手を組んでいたら格好悪い話だ」と〝訓示〟したのを想起させる。
◆ 〝愛国心.強制の道徳授業の実態
道徳の改訂指導要領の「考え、議論する道徳」「多面的・多角的に考え、自己の(中学は「人間としての」)生き方についての考えを深める」というキャッチフレーズに反する「押し付け道徳」の授業を二つ、紹介する。
一つ目。武蔵村山市教育委員会は、持田浩志氏が教育長に就任以来、市教委の教育目標に〝愛国心〟を明記。採択した教科書は社会が育鵬社、道徳が教育出版だ。
同市教委が市立小・中四校にやらせてきた、「我が国を愛する態度を育てる」がテーマの道徳公開授業(第十小を会場に、四校の児童・生徒を集めた合同授業)を筆者は一〇年一月に取材した。
四年生の教室では、男性教員が「平成5年、サッカー日本代表チームに選出された中山雅史選手」の自作教材を使い、「日本人を代表してやる試合や大会の始めに必ず国歌を歌います。胸に手を当て、国の代表として堂々と歌います」などと朗読。男児が間髪を入れず大きな声で「国歌・君が代です!」と応じた。
この教員は「平成十年の試合で中山選手は腕を骨折したが、最後まで戦い、W杯で日本初の得点を取ることができた」とのエピソードを紹介し、「なぜ最後まで戦ったか」と発問。
普通の児童なら「チームのため。ファンのため」と答えるだろうが、教員は「青いユニフォームの国旗の重要性に触れる」と明記した指導案に沿い、「日本のために戦いました」という答えに誘導していた。
参観した保護者や地域住民らは終了後、廊下で「骨折しても戦い続けるのを美化すること自体、教育上不適切」「指導案には『日本のよさに気付き、我が国を誇りに思う心情が高まったか』が評価規準とある。憲法の思想・良心の自由を侵害する思想教育、特定の価値観の押し付けだ」と語っていた。
二つ目。明治図書発行の教育専門誌『道徳教育』〇六年十一月号の六二頁~六四頁は、鳥取市立高草中の〝愛国心育成の方策〟に関する〝実践報告〟を掲載。授業者・村尾行也教諭は三年生に、「〝日本人の魂〟とはどんなものがあるか?」と宿題を出し、「武士道・日本刀」等の答えを引き出し、板書で印象付け。
この後、村尾教諭が使用した教材「オヤジの背中で『和』の字が踊る」の〝ねらい〟には、「NYの日本料理店の経営者のオヤジが、店の中央にある和太鼓を酔った客に叩かれ、怒って突き飛ばす。オヤジの和太鼓への思いから、〝日本人の魂〟とは何か、考察する」と明記。
〝愛国心=日本人の魂〟に至上の価値を抱き、自らナショナリストと称し、それを踏みにじられたと主張、人に平然と暴力を振るうオヤジに同調する複数の生徒。村尾教諭は「暴力に訴えることには問題あるが」と一応、断りつつ「オヤジの強い怒りにしっかりと共感させておきたい」と主張している。
結果、生徒たちは「オヤジにとって和太鼓は、日本人である自分の魂の拠り所だ。自国を愛する心がないと世界では通用しない」との感想を発表。洗脳教育だ。
こうした〝愛国心〟教育は、良識ある多くの教職員や父母が求める道徳の内容項目「生命尊重」と真逆の、国のために自己犠牲(死)を厭わない子どもづくりにつながる危険性がある。
〇六年十一月二十七日の参院教育基本法特別委員会で、当時の伊吹文明・文部科学大臣は、〝国を愛する態度〟の教化が、〝国防教育〟に直結すると実質、受け取られる答弁をした。
また教育基本法改定時、中教審会長を務めた鳥居泰彦・元慶應義塾大学学長は一三年十一月十一日、前記・道徳教育の充実に関する懇談会(鳥居氏が座長)で、「道徳の指導内容に自己犠牲と我慢を明記するのがよい」と発言。
これらは〝愛国心〟の教化が、終戦直後墨塗りの対象になった、戦前・戦中の〝国防教育〟と一体化する危険性の証左といえる。
◆ 〝愛国心〟教育をやめ伝統・文化理解教育に
都教委の研究団体である東京都小学校道徳教育研究会(都小道。校長や教諭らで構成)が今年一月二十九日、世田谷区立松ヶ丘小学校で開催した研究発表会で配布した『平成29年度研究集録』によれば、一七年八~九月、都の各地区の教員一二一五人対象の調査で、道徳の内容項目のうち〝愛国心〟は、「教師が授業で指導が難しいと感じる内容項目」の二番手だった。
小学校指導要領の内容「17」〝愛国心〟の項は五・六年生では、「我が国や郷土の伝統と文化を大切にし、先人の努力を知り、国や郷土を愛する心をもつこと」と規定。この文言の後段の「国や」以降を削除すれば(「郷土」は残してもよいが)、〝国防〟や自己犠牲につながる危惧は解消するだろう。
この日の公開授業では、風呂敷など「伝統と文化の尊重」を学び、考えるのに注力する授業を行なっており、父母や研究者が安心して参観していた。
教員の指導は指導要領の「…先人の努力を知」るまでに留め、「国を愛する」か否か(国や政府を批判し変えることも含め)は、授業後や将来の児童の判断に委ねてこそ、児童の思想・良心の自由を大切にする民主主義の道徳教育ができるのではないか。筆者はこの方向での指導要領改正を世論に訴えたい。
※永野厚男 (ながのあつお)
文科省・各教委等の行政や、衆参・地方議会の文教関係の委員会、教育裁判、保守系団体の動向などを取材。平和団体や参院議員会館集会等で講演。
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