《労働情報-特集:Corona vs Union【介護】》
◆ 国は介護職を置き去りにしないで欲しい
いのちによりそい希望つむぐ
「会社から十分な量のマスクと手袋が支給されず3~4日も同じものを使い、長時間並んで自腹で購入しています」。4月、都内のヘルパーの窮状を聞いた私は、支援を呼びかけ何回かマスク等を届けた。
6月8日、東北の学生たちが使い捨て手袋をヘルパーに送ってくれた。緊急事態宣言が解除されて2週間。まだ必要物資のないヘルパーがいた。
丸腰のヘルパーを利用者宅に派遣する行政が、利用者や職員のいのちを守るとは思えないできごとだった。
EUでのコロナ関連死のうち、介護施設入所者が占める割合は、フランス:50・86%、スペイン:66・45%、イギリス:36・70%、ドイツ:37・56%、スウェーデン:45・60%(「日経ビジネス」5月21日号、大西孝弘氏報告)と高い割合を示す。
スペインは4月から13%も増加した。日本でも高齢者の死亡率は高い。
介護現場の困難な実態が報道されない状況下で、都も国も感染者は過去最多を更新していく。さらに国や行政からの充分な支援がないだけでなく、最近では友人が働く施設で感染者が出ても、目立たない報道しかされない実態がある。
5月11日、国会で共産党議員が総理に向けて訴えていた統計では、医師143人、看護師363人に対して、介護現場の職員の感染者は453人と医師の3倍以上だった。
医療職よりも高い感染リスクに晒されながら、利用者のいのちを守るため奮闘する介護現場の声を報告する。
◆ 軽視される介護現場
埼玉在住の障害者施設施設長は、4月の2週間、発熱と解熱を繰り返した。
「福祉施設の管理職でクラスターにつながる」と何度も保健所に掛け合うもPCR検査は受けれず「検査難民」のまま復帰した。
フィジカル・ディスタンスやテレワークができない、対人援助職やその同居家族には症状の有無に関わらず、全員にPCR検査を義務づけるべきだ。
だが検査体制に余力ができても検査はされないままだ。
検査もされず、物資もないなか、現場はかつてない自助努力を強いられた。
4月21日段階で883ヵ所の高齢者デイサービスが休業に追い込まれた(NHKの調査)。
そんななか大阪のあるデイサービスは一日も休まず営業した。
いまも入口にハイター付けのマットを置き、送迎の際には利用者の手指消毒を徹底。手洗い・うがい・換気・室内の消毒、利用者の水分摂取にも注意してきた。
緊急事態宣言中は、訪問介護事業所に依頼し利用者が通院しなくて済むよう、ヘルパーに薬を取りに行ってもらった。
「第2波も来るだろうが同じ形でやるしかない。大半は家に風呂がない独居や認知症の利用者。休んでもらうわけにはいかない」と管理者Aさんは言う。
また60代以上の非正規の女性たちが支える訪問介護は、感染リスクから離職者が増加しているという。
全員が正社員で、離職者が一人もでなかった関西の訪問介護事業所では、利用者の健康状態と職員の体調管理、利用者が安心をして過ごせるよう工夫してきた。
職員に少しでも熱があれば、仕事を休ませ保健所の指示に従ってもらった。現在、利用者・職員ともに感染者はいないが、いくら予防を徹底しても不安は拭えない。
4月中旬、管理者Bさんは濃厚接触の疑いがある利用者に対応しなければならなかった。
防護服やゴーグルは介護事業所では入手できず、百円均一で使い捨てのシャワーキャップ、レインコート、メガネを購入。マスクと手袋は2枚重ねで暖房のなか、オムツ・シーツ交換、食事介助、洗濯、掃除と汗まみれで作業した。
幸い濃厚接触の疑いは晴れたが、行政の支援は全くなかった。
「国や行政は介護職を真摯に受け止めてはくれません。利用者の安心な暮らしを支えているのは介護職。コロナ対策のことも含めて、介護職にも目を向け、置き去りにしないで欲しい」とBさんは憤る。
一方、首都圏のユニット型老人保健施設では、3月以降、利用者の面会は完全謝絶。
面会はTV電話。面会謝絶によってメンタルや認知面で影響が出る利用者が増えた。
防護服のようなガウンは百枚以上、アルコールやマスク類もいまのところはある。
職員の検温も必ず行い、37・0℃でも倦怠感があれば早退させている。
だが4月・7月、同じ建物の他事業所の職員数名が陽性者に……。
他事業所と共同の更衣室、休憩室は封鎖し空室を使った。利用者の外気浴の場だった屋上も封鎖され、全体リハやレクも中止になり、運動不足による認知症の悪化や体力の低下もでてきた。
新規入所が制限され経営的にも厳しい。医療職の報道はあるが、経営難で賞与が5万円減俸になった介護職の報道はない。
国から支給される慰労金も冬の賞与に補填されるか、支給されない懸念も……。兵庫県知事は「何もしてないのになぜだすのか」とクラスターに対応しなかった現場への支給制限を検討している。
◆ 北砂ホームのクラスター
4月25日、下町ユニオンの職場分会がある江東区の北砂ホーム(特養)の入居者9名が新型コロナウィルス陽性者となった。
5月15日には51名に感染が拡大(入所者40名、ショートステイ利用者4名、職員7名)、最終的に利用者5人が死亡した。
5月14日、下町ユニオンは江東区と交渉したが「危険手当や補償、感染対策費などは予算の裏付けなしでの回答はできない」と区は回答。
クラスターに苦しむ現場に対し、今後の支援は未定と開き直り、職員の派遣すらしない冷酷さだった(交渉の詳細は本誌6月号参照)。
北砂ホームを運営している社会福祉法人あそか会は病院をもっており、自力でPCR検査を実施。入院も早かった。
だが濃厚接触した職員が多数自宅待機となり、44人の職員のうち出勤できたのは6人のみ。
クラスター発生から2週間は夜勤ができる4~5人の職員が北砂ホーム敷地内の職員寮等に宿泊し、24時間体制で利用者80人のいのちを守った。
区や都に人員を相談したが手立てはなく、系列の施設から15人の応援態勢を取り、通常の半分以下の職員で乗り切った。
60代の女性施設長も2週間帰宅せず、防護服を着て現場を担った。
5月末、陽性者は一桁となり、6月にはデイサービスも再開した。
理不尽な風評被害にあいながらも、利用者のいのちをつないだ職員たち。人類が初めて遭遇したウィルスと苦闘した職員たちの経験は、多くの介護職を助ける貴重な礎となるだろう。
『労働情報』(2020年8月)
◆ 国は介護職を置き去りにしないで欲しい
いのちによりそい希望つむぐ
白崎朝子(介護福祉士・ライター)
「会社から十分な量のマスクと手袋が支給されず3~4日も同じものを使い、長時間並んで自腹で購入しています」。4月、都内のヘルパーの窮状を聞いた私は、支援を呼びかけ何回かマスク等を届けた。
6月8日、東北の学生たちが使い捨て手袋をヘルパーに送ってくれた。緊急事態宣言が解除されて2週間。まだ必要物資のないヘルパーがいた。
丸腰のヘルパーを利用者宅に派遣する行政が、利用者や職員のいのちを守るとは思えないできごとだった。
EUでのコロナ関連死のうち、介護施設入所者が占める割合は、フランス:50・86%、スペイン:66・45%、イギリス:36・70%、ドイツ:37・56%、スウェーデン:45・60%(「日経ビジネス」5月21日号、大西孝弘氏報告)と高い割合を示す。
スペインは4月から13%も増加した。日本でも高齢者の死亡率は高い。
介護現場の困難な実態が報道されない状況下で、都も国も感染者は過去最多を更新していく。さらに国や行政からの充分な支援がないだけでなく、最近では友人が働く施設で感染者が出ても、目立たない報道しかされない実態がある。
5月11日、国会で共産党議員が総理に向けて訴えていた統計では、医師143人、看護師363人に対して、介護現場の職員の感染者は453人と医師の3倍以上だった。
医療職よりも高い感染リスクに晒されながら、利用者のいのちを守るため奮闘する介護現場の声を報告する。
◆ 軽視される介護現場
埼玉在住の障害者施設施設長は、4月の2週間、発熱と解熱を繰り返した。
「福祉施設の管理職でクラスターにつながる」と何度も保健所に掛け合うもPCR検査は受けれず「検査難民」のまま復帰した。
フィジカル・ディスタンスやテレワークができない、対人援助職やその同居家族には症状の有無に関わらず、全員にPCR検査を義務づけるべきだ。
だが検査体制に余力ができても検査はされないままだ。
検査もされず、物資もないなか、現場はかつてない自助努力を強いられた。
4月21日段階で883ヵ所の高齢者デイサービスが休業に追い込まれた(NHKの調査)。
そんななか大阪のあるデイサービスは一日も休まず営業した。
いまも入口にハイター付けのマットを置き、送迎の際には利用者の手指消毒を徹底。手洗い・うがい・換気・室内の消毒、利用者の水分摂取にも注意してきた。
緊急事態宣言中は、訪問介護事業所に依頼し利用者が通院しなくて済むよう、ヘルパーに薬を取りに行ってもらった。
「第2波も来るだろうが同じ形でやるしかない。大半は家に風呂がない独居や認知症の利用者。休んでもらうわけにはいかない」と管理者Aさんは言う。
また60代以上の非正規の女性たちが支える訪問介護は、感染リスクから離職者が増加しているという。
全員が正社員で、離職者が一人もでなかった関西の訪問介護事業所では、利用者の健康状態と職員の体調管理、利用者が安心をして過ごせるよう工夫してきた。
職員に少しでも熱があれば、仕事を休ませ保健所の指示に従ってもらった。現在、利用者・職員ともに感染者はいないが、いくら予防を徹底しても不安は拭えない。
4月中旬、管理者Bさんは濃厚接触の疑いがある利用者に対応しなければならなかった。
防護服やゴーグルは介護事業所では入手できず、百円均一で使い捨てのシャワーキャップ、レインコート、メガネを購入。マスクと手袋は2枚重ねで暖房のなか、オムツ・シーツ交換、食事介助、洗濯、掃除と汗まみれで作業した。
幸い濃厚接触の疑いは晴れたが、行政の支援は全くなかった。
「国や行政は介護職を真摯に受け止めてはくれません。利用者の安心な暮らしを支えているのは介護職。コロナ対策のことも含めて、介護職にも目を向け、置き去りにしないで欲しい」とBさんは憤る。
一方、首都圏のユニット型老人保健施設では、3月以降、利用者の面会は完全謝絶。
面会はTV電話。面会謝絶によってメンタルや認知面で影響が出る利用者が増えた。
防護服のようなガウンは百枚以上、アルコールやマスク類もいまのところはある。
職員の検温も必ず行い、37・0℃でも倦怠感があれば早退させている。
だが4月・7月、同じ建物の他事業所の職員数名が陽性者に……。
他事業所と共同の更衣室、休憩室は封鎖し空室を使った。利用者の外気浴の場だった屋上も封鎖され、全体リハやレクも中止になり、運動不足による認知症の悪化や体力の低下もでてきた。
新規入所が制限され経営的にも厳しい。医療職の報道はあるが、経営難で賞与が5万円減俸になった介護職の報道はない。
国から支給される慰労金も冬の賞与に補填されるか、支給されない懸念も……。兵庫県知事は「何もしてないのになぜだすのか」とクラスターに対応しなかった現場への支給制限を検討している。
◆ 北砂ホームのクラスター
4月25日、下町ユニオンの職場分会がある江東区の北砂ホーム(特養)の入居者9名が新型コロナウィルス陽性者となった。
5月15日には51名に感染が拡大(入所者40名、ショートステイ利用者4名、職員7名)、最終的に利用者5人が死亡した。
5月14日、下町ユニオンは江東区と交渉したが「危険手当や補償、感染対策費などは予算の裏付けなしでの回答はできない」と区は回答。
クラスターに苦しむ現場に対し、今後の支援は未定と開き直り、職員の派遣すらしない冷酷さだった(交渉の詳細は本誌6月号参照)。
北砂ホームを運営している社会福祉法人あそか会は病院をもっており、自力でPCR検査を実施。入院も早かった。
だが濃厚接触した職員が多数自宅待機となり、44人の職員のうち出勤できたのは6人のみ。
クラスター発生から2週間は夜勤ができる4~5人の職員が北砂ホーム敷地内の職員寮等に宿泊し、24時間体制で利用者80人のいのちを守った。
区や都に人員を相談したが手立てはなく、系列の施設から15人の応援態勢を取り、通常の半分以下の職員で乗り切った。
60代の女性施設長も2週間帰宅せず、防護服を着て現場を担った。
5月末、陽性者は一桁となり、6月にはデイサービスも再開した。
理不尽な風評被害にあいながらも、利用者のいのちをつないだ職員たち。人類が初めて遭遇したウィルスと苦闘した職員たちの経験は、多くの介護職を助ける貴重な礎となるだろう。
『労働情報』(2020年8月)
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