▼ 小泉純一郎元首相、「核のゴミ」最終処分場建設の文献調査を受け入れた町で
「日本では不可能」と講演 (ハーバー・ビジネス・オンライン)
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11月3日、高レベル放射性廃棄物(核のゴミ)の最終処分場選定プロセスの
第一段階(文献調査)に応募した寿都町で講演を行う小泉純一郎元首相
▼ 最終処分場選定のための文献調査を受け入れた町で小泉元首相が講演
「原発ゼロ実現」に向けた全国講演行脚を続ける小泉純一郎元首相が11月3日、原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場選定プロセスの第一段階(文献調査)に応募した北海道の寿都(すっつ)町で講演。
反対する住民団体「子どもたちに核のゴミのない寿都を! 町民の会」が主催、町内外から約400人が参加した。
「日本の歩むべき道」と銘打った講演の冒頭で、「町民の会」の吉野寿彦共同代表(水産加工会社社長)が経過を説明。
8月13日の『北海道新聞』が「町長応募を検討」と報じてからの2か月半を振り返りつつ、「文献調査応募が決定的になった10月上旬、(講演依頼をしていた)小泉元総理から『寿都に行く』という返事をいただけました」と紹介した。
続いて登場した小泉氏は、フィンランドのオンカロ最終処分場の視察体験を語る“定番ネタ”をここでも披露、「日本では最終処分場の建設が不可能に近い」ということを説明したのだ。
「(最終処分場の建設が進められているフィンランドのオンカロ)は火山や地震や断層がない。岩盤に囲まれた島の地下400mに2km四方の部屋があり、核のゴミを約10万年保管する。
しかし、日本で400mも掘ったら温泉が出てくる。日本は原発が50基以上あり、どこに(最終処分場を)造ればいいのか。処分場のあてがない以上、原発は動かすべきではない。
よく政府は『再稼働を許しているな』と呆れている。できるだけ早く原発ゼロの方向にかじを切らなければいけない、ということを言い続けていきたい」
まさに「トイレなきマンション」のような状態での原発再稼働に釘を刺す一方、菅義偉首相(政権)に脱原発への方針転換を次のように呼び掛けた。
「(日本は)石炭火力をやめようとしている。同時に原発もやめなければいけない。『両方は無理だ』という人もいますが、両方やらなければいけない」
たしかに菅首相は、所信表明演説で「2050年に温室効果ガス排出ゼロ」と表明するなど「脱炭素(脱石炭火力)」には熱心だが、「脱原発」には不熱心。安倍政権の原発推進政策をそのまま継承し、初の地方視察で福島を訪れた時も「原発ゼロ」について語ることはなかった(筆者記事「菅政権は第三次安倍政権にすぎない。原発推進政策はまったく変わらない!?」参照)。
https://hbol.jp/230443
▼ 文献調査を決めた片岡町長は講演会をドタキャン
そこで講演終了後、花束贈呈をした子供たちとの記念撮影を終えた小泉氏を直撃、「菅総理について一言お願いします。原発推進政策を打ち出していますが」と声をかけると、笑顔を浮かべながら「原発ゼロにした方がいいのだよ」と答えた。
「今のところ、その兆候はありませんが……」と言うと、小泉氏は「決断すればいい!」と言うかのように手を上から下に振り下ろした。
この日の講演には、文献調査を決めた片岡春雄町長からも「出席」という連絡があり、最前列に席が用意されていたが、会場に姿を現すことはなかった。
翌4日の『朝日新聞』北海道版は、「悩んだ揚げ句、行かないことにした」という町長のコメントを紹介したが、主催者の吉野共同代表は終了後の囲み取材でこう批判した。
「『来る』と予告をしておいて、ドタキャンですね。残念ですが、想定はしていました。人の話を聞くというのは勉強ですよね。『勉強もしたくないのだな』と思いました」
町長の応募検討表明後、9月10日に町内で説明会が開催された。
母親と一緒に参加した小学生の女子児童が「核のゴミはどういうものですか。安全ですか」と質問、町長が「説明するだけの能力が私にはない。だから、(調査に応募して)みんなで学びましょう。学ぶことは悪いことではない」と回答した。
女子児童には「みんなで学びましょう」と言いながら、自分は学ぼうとしない。この言行不一致を吉野氏は問題視したのだ。
さらに吉野氏は冒頭挨拶で、住民説明会の様子もこう紹介していた。
「説明会に何度も何度も参加して片岡町長の話を聞き、異議を申し立てましたが、会話になりませんでした。『寿都に核のイメージがつく』『文献調査だけで20億円もらえるような話はない』『核のゴミが本当にやってくる可能性がある』と言っても、まったく耳を傾けてもらえませんでした」
▼ 町長の「過半数の町民が賛成」の根拠は「肌感覚」
このように住民の声を聞き流しておきながら、「肌感覚で町民の過半数が賛成していることがわかる。だから応募した」とまで豪語する“暴走町長”に対して、「町民の会」は文献調査応募の賛否を問う住民投票に向けた署名活動で対抗した。
必要な署名数に達したため、住民投票を実施するか否かを決める条例の採決が11月13日に行われることになっていた。
そんな緊迫した状況の中、「地震大国・日本に最終処分場の適地はない」と断言する小泉元首相が講演を行ったのだ。
「名前が通った元総理が来てくれたことの意味は大きい」「助け舟を出していただいた」と吉野氏は感謝している。
実際、道内のテレビ各局は11月3日から翌日にかけてニュースで小泉元首相の寿都講演を流し、『北海道新聞』などの新聞各紙も翌日の朝刊で報じた。
海外の最終処分場の状況さえ知ろうとしない片岡町長に対する疑問が、さらに強まる講演となったのは確実だ。
そんな唯我独尊型の町長への風当たりは強くなりつつある。
町内の観光関連業者からは「町長が文献調査表明をして以降、『もう寿都町には泊まらないことにした』『寿都が気に入って、ふるさと納税をしてきたが、もうしない』というお客さんもいます」といった実害を訴える声が出ているという。
「洋上風力発電に乗り出すための財源」と町長が説明していることに対しても、「町ですでに風力発電をしているのだから、その利益を積み上げて洋上風力発電に新規展開ができるはずだ」という批判がある。
さらには「そもそも町長の給料も退職金も、周辺自治体に比べて高い。地域振興にマイナスとなる核のゴミ捨て場の文献調査よりも、町長自身の『身の切る改革』のほうが先決ではないか」といった批判も流れ始めているというのだ。
住民投票条例の採否や片岡町長の言動など、寿都町の動向から今後も目が離せない。
※ 横田一 ジャーナリスト。
8月7日に新刊『仮面 虚飾の女帝・小池百合子』(扶桑社)を刊行。他に、小泉純一郎元首相の「原発ゼロ」に関する発言をまとめた『黙って寝てはいられない』(小泉純一郎/談、吉原毅/編)の編集協力、『検証・小池都政』(緑風出版)など著書多数
『ハーバー・ビジネス・オンライン』(2020.11.08)
https://hbol.jp/231712?cx_clicks_art_mdl=3_title
「日本では不可能」と講演 (ハーバー・ビジネス・オンライン)
<文・写真/横田一>
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11月3日、高レベル放射性廃棄物(核のゴミ)の最終処分場選定プロセスの
第一段階(文献調査)に応募した寿都町で講演を行う小泉純一郎元首相
▼ 最終処分場選定のための文献調査を受け入れた町で小泉元首相が講演
「原発ゼロ実現」に向けた全国講演行脚を続ける小泉純一郎元首相が11月3日、原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場選定プロセスの第一段階(文献調査)に応募した北海道の寿都(すっつ)町で講演。
反対する住民団体「子どもたちに核のゴミのない寿都を! 町民の会」が主催、町内外から約400人が参加した。
「日本の歩むべき道」と銘打った講演の冒頭で、「町民の会」の吉野寿彦共同代表(水産加工会社社長)が経過を説明。
8月13日の『北海道新聞』が「町長応募を検討」と報じてからの2か月半を振り返りつつ、「文献調査応募が決定的になった10月上旬、(講演依頼をしていた)小泉元総理から『寿都に行く』という返事をいただけました」と紹介した。
続いて登場した小泉氏は、フィンランドのオンカロ最終処分場の視察体験を語る“定番ネタ”をここでも披露、「日本では最終処分場の建設が不可能に近い」ということを説明したのだ。
「(最終処分場の建設が進められているフィンランドのオンカロ)は火山や地震や断層がない。岩盤に囲まれた島の地下400mに2km四方の部屋があり、核のゴミを約10万年保管する。
しかし、日本で400mも掘ったら温泉が出てくる。日本は原発が50基以上あり、どこに(最終処分場を)造ればいいのか。処分場のあてがない以上、原発は動かすべきではない。
よく政府は『再稼働を許しているな』と呆れている。できるだけ早く原発ゼロの方向にかじを切らなければいけない、ということを言い続けていきたい」
まさに「トイレなきマンション」のような状態での原発再稼働に釘を刺す一方、菅義偉首相(政権)に脱原発への方針転換を次のように呼び掛けた。
「(日本は)石炭火力をやめようとしている。同時に原発もやめなければいけない。『両方は無理だ』という人もいますが、両方やらなければいけない」
たしかに菅首相は、所信表明演説で「2050年に温室効果ガス排出ゼロ」と表明するなど「脱炭素(脱石炭火力)」には熱心だが、「脱原発」には不熱心。安倍政権の原発推進政策をそのまま継承し、初の地方視察で福島を訪れた時も「原発ゼロ」について語ることはなかった(筆者記事「菅政権は第三次安倍政権にすぎない。原発推進政策はまったく変わらない!?」参照)。
https://hbol.jp/230443
▼ 文献調査を決めた片岡町長は講演会をドタキャン
そこで講演終了後、花束贈呈をした子供たちとの記念撮影を終えた小泉氏を直撃、「菅総理について一言お願いします。原発推進政策を打ち出していますが」と声をかけると、笑顔を浮かべながら「原発ゼロにした方がいいのだよ」と答えた。
「今のところ、その兆候はありませんが……」と言うと、小泉氏は「決断すればいい!」と言うかのように手を上から下に振り下ろした。
この日の講演には、文献調査を決めた片岡春雄町長からも「出席」という連絡があり、最前列に席が用意されていたが、会場に姿を現すことはなかった。
翌4日の『朝日新聞』北海道版は、「悩んだ揚げ句、行かないことにした」という町長のコメントを紹介したが、主催者の吉野共同代表は終了後の囲み取材でこう批判した。
「『来る』と予告をしておいて、ドタキャンですね。残念ですが、想定はしていました。人の話を聞くというのは勉強ですよね。『勉強もしたくないのだな』と思いました」
町長の応募検討表明後、9月10日に町内で説明会が開催された。
母親と一緒に参加した小学生の女子児童が「核のゴミはどういうものですか。安全ですか」と質問、町長が「説明するだけの能力が私にはない。だから、(調査に応募して)みんなで学びましょう。学ぶことは悪いことではない」と回答した。
女子児童には「みんなで学びましょう」と言いながら、自分は学ぼうとしない。この言行不一致を吉野氏は問題視したのだ。
さらに吉野氏は冒頭挨拶で、住民説明会の様子もこう紹介していた。
「説明会に何度も何度も参加して片岡町長の話を聞き、異議を申し立てましたが、会話になりませんでした。『寿都に核のイメージがつく』『文献調査だけで20億円もらえるような話はない』『核のゴミが本当にやってくる可能性がある』と言っても、まったく耳を傾けてもらえませんでした」
▼ 町長の「過半数の町民が賛成」の根拠は「肌感覚」
このように住民の声を聞き流しておきながら、「肌感覚で町民の過半数が賛成していることがわかる。だから応募した」とまで豪語する“暴走町長”に対して、「町民の会」は文献調査応募の賛否を問う住民投票に向けた署名活動で対抗した。
必要な署名数に達したため、住民投票を実施するか否かを決める条例の採決が11月13日に行われることになっていた。
そんな緊迫した状況の中、「地震大国・日本に最終処分場の適地はない」と断言する小泉元首相が講演を行ったのだ。
「名前が通った元総理が来てくれたことの意味は大きい」「助け舟を出していただいた」と吉野氏は感謝している。
実際、道内のテレビ各局は11月3日から翌日にかけてニュースで小泉元首相の寿都講演を流し、『北海道新聞』などの新聞各紙も翌日の朝刊で報じた。
海外の最終処分場の状況さえ知ろうとしない片岡町長に対する疑問が、さらに強まる講演となったのは確実だ。
そんな唯我独尊型の町長への風当たりは強くなりつつある。
町内の観光関連業者からは「町長が文献調査表明をして以降、『もう寿都町には泊まらないことにした』『寿都が気に入って、ふるさと納税をしてきたが、もうしない』というお客さんもいます」といった実害を訴える声が出ているという。
「洋上風力発電に乗り出すための財源」と町長が説明していることに対しても、「町ですでに風力発電をしているのだから、その利益を積み上げて洋上風力発電に新規展開ができるはずだ」という批判がある。
さらには「そもそも町長の給料も退職金も、周辺自治体に比べて高い。地域振興にマイナスとなる核のゴミ捨て場の文献調査よりも、町長自身の『身の切る改革』のほうが先決ではないか」といった批判も流れ始めているというのだ。
住民投票条例の採否や片岡町長の言動など、寿都町の動向から今後も目が離せない。
※ 横田一 ジャーナリスト。
8月7日に新刊『仮面 虚飾の女帝・小池百合子』(扶桑社)を刊行。他に、小泉純一郎元首相の「原発ゼロ」に関する発言をまとめた『黙って寝てはいられない』(小泉純一郎/談、吉原毅/編)の編集協力、『検証・小池都政』(緑風出版)など著書多数
『ハーバー・ビジネス・オンライン』(2020.11.08)
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