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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

「五輪教育」都教委の狙いは国家主義と"国旗・国歌"教育徹底

2021年08月14日 | 暴走する都教委
 ◆ 東京五輪“学徒動員”に抗する保護者たちの闘い
  ~「国家主義教育徹底」都教委の狙いが露見
(『紙の爆弾』)
取材・文 永野厚男・教育ジャーナリスト

 「東京都教育委員会による現代版学徒動員から、子どもの命と安全を守ることができた。とりあえずは」。都内の小中学校に二人の子どもを通わせる四十歳代の保護者が、筆者に語った。
 東京オリンピック・パラリンピック競技大会(以下、オリパラ)の会場に、教員の引率の下、東京の公立の小中高校・特別支援学校等の児童・生徒約八一万人(オリパラ延期前の二〇一九年五月の意向調査を兼ねた通知で、観戦を希望した公立校の集計)を動員する“学校連携観戦”について、都教委が七月九日ようやく、オリンピックについては全て中止すると決定した。保護者の言葉は、この決定報道を受けてのものだ。
 が、「とりあえず」と付言したのは、後述通り、現時点では都教委がパラリンピックの動員を断念していないからだ。
 一 「不参加も可」なのに全校が参加

 オリパラ観戦動員構想は、猪瀬直樹都知事時代の東京招致運動当時、東京都やJOC(日本オリンピック委員会)、招致委員会等が〝コンパクトな大会.のキャッチフレーズ等とともに、各国への売り込みに使ったもの。
 現在〝学校連携観戦.事業は、公益財団法人・東京オリパラ競技大会組織委員会(組織委)が所掌し、「子ども向け特別価格チケットを自治体や学校単位で購入させ(オリが二〇二〇円、パラが五〇〇~二〇二〇円で、東京の場合は都が負担)、次世代を担う若者を、より多く会場に来させる」のが目的だ。
 都教委は一六年一月十四日に策定した『「東京都オリンピック・パラリンピック教育」実施方針』(以下『実施方針』)で、全公立学校に年間三五時間ものオリパラ教育実施を義務化。
 『実施方針』は、「第Ⅲフェーズ=開催年である平成32(2020)年は、選手村での歓迎イベントや競技会場での観戦・応援、大会ボランティアや観光客等をサポートする都市ボランティアへの参加(略)など、大会や関連事業を直接・間接に、子供たちが支え、体験する取組を行い、本教育のピークとする」と明記している。
 このように児童生徒大動員を目指す都教委の前記一九年五月の調査内容では、学校側は児童生徒に見せたい競技種目や日時は一切選べない。
 「2学期始業式等、学校行事と重なり行けない日」を回答する以外、選べるのは「参加」「不参加」だけだ。
 この調査で管内の小中の“学校連携観戦”の意向をまとめた、複数の区市教委の資料を、筆者は入手した。その資料では全小中学校が「参加」となっている。
 そこで「全校が『参加』なのは、都教委や区市教委が校長に圧力をかけたからではないか」と、当該教委に問い合わせると、「当時はコロナ禍前なので、区内の全校長が、『観戦させるのが教育的意義あり』と判断した。当教委が『全校観戦させよ』と指示したことはない」と回答した。
 しかし、東京の区市教委は全校長を定期的に集め校長会を開催しており、そういう場等で全校長が足並みを揃え「参加」にマルを付けた可能性が高いのではないか。卒業式等の〝君が代.強制問題を見ても、日本社会は同調圧力が強いからだ。
 ところで組織委は、“学校連携観戦”では貸切りバスでの来場を一律禁止(特別支援校のみスクールバス可)。会場まで電車等、公共交通機関での往復を強制している。都教委はこの組織委の言いなりだ。
 このため特に小学校低・中学年の担任教員から「炎天下・コロナ禍なのにラッシュアワーの電車では、児童を安全に引率できない」と、不満・不安の声が多く出ていた。
 二 コロナ禍前から反対の陳情

 こうしたオリパラ観戦動員に対し、豊島区民が二〇年二月十四日、「大会観戦は、強制(出席日数としてカウントしたり課題を課す等による間接的な強制を含む)することなく、十二分に安全に配慮し、引率する教員を大幅に増やす」等、求める陳情を都議会に提出した(コロナ禍前ゆえ、感染より炎天下での動員を危惧する内容)。
 この陳情は同年五月二十二日の文教委で、反対多数で不採択に。その審査の際、都教委の増田正弘指導部長(当時。現教育監)は次の五点を発言した。
 ①学校の教育活動の一環として実施する競技観戦は、希望する全公立校を対象に機会を提供する、強制ではない
 ②各校が円滑に移動できるよう鉄道事業者と調整を行ない、各校の移動や観戦状況を一元的に管理する運営本部設置も予定
 ③会場内にクールスポット設置、熱中症防止に水を配布
 ④会場に円滑な入場を行なう“子供専用ゲート”設置を関係機関と調整中
 ⑤引率教員は配慮を要する子、小・低学年の対応分含め、校種・学年に応じ基準を設け十分配置。
 陳情は「学校の教育活動として実施=出席をとられる不安」という意味で強制反対を訴えたのに、増田氏は①で、「都教委調査で校長が不参加も選べるから、強制ではない」という趣旨にすり替えている。
 この陳情提出後コロナ禍が深刻化。
 今夏、無観客化が視野に入ると、観戦希望校も「教育活動として実施」は激減、「参加は希望者だけ」に変化。だがコロナ禍でなかったら増田氏の発言は生きてしまうから、保護者や子どもの意志で不参加の場合、欠席扱いになるケースが多く生じる危険性があった。
 三 前のめりの学校に保護者らが「NO」

 都教委は“学校連携観戦”について計四回、全校に通知を出してきた。
 一回目は前記一九年五月。
 二回目は二〇年十二月「オリパラ延期に伴う日程変更の通知、調査はなし」。
 三回目は二一年七月五日「最終意向調査を兼ねた通知」。
 四回目は二一年七月九日「オリ観戦は中止になったから回答不要、パラは回答をという通知」。
 コロナ禍なのに政府・組織委等がオリ開催強行を決める以前から、この七月九日の通知の日まで(パラについてはそれ以後も)、保護者や現・元教員はじめ多くの市民が都・区市教委、校長らに対し、面会・メール・電話等で「動員反対」の声を寄せた。
 他県でも同様の動きがあったが、東京の日野市立第四小学校に絞り、紹介する。同校の小林洋之校長は六月二十八日、ホームページに次の主張を掲載する等、オリパラ教育への思い入れが強い(以下、改行は一部省略)。
 【全校朝会】校長の話「57年前の東京オリンピック」
 「世界中の青空を全部東京に持ってきてしまったような、素晴らしい秋日和でございます。」
 これは、1964(昭和39)年10月10日、東京オリンピックの開会式で、テレビで実況を担当したアナウンサーの方が、全世界に向けて発した言葉です。
 57年前の東京オリンピックは、アジアの地域で初めて開かれたオリンピックで、出場した国の数は、それまでのオリンピックよりも、一番多かったそうです。日本の代表選手の活躍の他にも、世界中から日本のよさが認められたオリンピックでもありました。
 (1)日本の時計メーカーが、計ったり記録したりすることを初めて担当し、その正確さが世界に認められた。
 (2)初めてリアルタイムで、その場で記録が発表された。それまで、記録が決まるのに数か月間かかっていた。
 (3)初めてスローモーションの技術が使われた。
 (4)たくさんの食事を作るため、冷凍食品、解かし方、料理の方法が進歩した。
 (5)ごみ都市と呼ばれていた東京が、数多くのごみ収集車の活躍や日本製のポリバケツが広まってきれいになった。
 今度の東京オリンピック・パラリンピックでは、みんなの健康安全を心配した話合いが多いのですが、全世界に向けて発信できる日本のよさ、日本のよいところはどのようなことかなと考えると、見方や考え方が広がりますね。
 標題は「学校の様子」だが、児童の様子は見えず、五輪の宣伝に終始。「日本のよさ、よいところ」という語句を三回強調する一方、国際理解・国際連帯にほとんど触れていない小林校長には、違和感を感じる。
 副校長も一学期終業式の七月二十日、ホームページに
 「23日からのオリンピックは、33競技339種目、パラリンピックは22競技539種目で行う予定です。開催するかどうか話合いがなされてきましたが、それに関係なく、どうなっても大丈夫なように努力を積み重ねてきた選手たちはすごいなと思います。みなさんも、テレビなどでぜひオリンピック・パラリンピックを観ることがあると思いますが(後略)」
 と、オリパラ礼賛〝講話.を載せている。

 こうした学校の校長に対し七月一日、保護者が「小・中学生の五輪連携観戦中止を求めます」と題する要望書を提出した。要旨は、
①通勤時間帯に重なる電車等での移動は、コロナ集団感染の危険に児童らを晒(さら)す
②炎天下での徒歩移動と観戦は熱中症の危険大、マスク着用でその危険は一層高まり、直射日光下の屋外で数時間に及ぶ観戦は無謀
③五輪開催が迫るも、学校は児童・保護者に、都教委は日野市に、観戦の実施要領を示さず、綿密な計画を立て感染症と熱中症のリスクゼロ化は不可能
④万一子どもが亡くなることがあっても誰も責任をとらない。
 この要望書の通り、コロナ禍・炎天下での動員を強行しようとする都・市教委の暴挙に異を唱えない一方、「今度のオリパラでは、みんなの健康安全を心配した話合いが多いのです」と言い張る小林校長は、自己矛盾している。
 四 都教委の指示待ちの市教委

 ところで七月一日、日野市教委の久保田博之・学校課長と一時間近く面会した市民らが、「都教委から情報が未だに来ていない。市から問い合わせ・要求はしたのか」と問うたのに対し、久保田課長は「都からの詳細を待っている」との回答に留まった。
 同時期、小中学生の保護者とともに府中市教委に「観戦中止」の要望書を提出した府中市民も、「市教委側は『都からの連絡待ち。市独自の判断はしない』と言った。どこまでも都教委に従う市教委には、呆れるばかりです」と述べている。
 また、武蔵村山市民は「五輪観戦動員中止求める」請願を市議会に、同陳情を市教委に提出したが、不採択にされてしまった。
 六月二十七日付の毎日新聞は(東京以外に競技会場がある)千葉・埼玉・神奈川の三県で「学校観戦6割中止」と報じている。
 しかし東京は、六月二十二日に区議会文教・子ども委員会で「オリ・パラとも観戦中止」を表明した目黒区教委をはじめ、六月中に「観戦中止」を決めた教委もあるものの、その数は多くはない。
 ところで、前述の都教委オリ中止通知二日前の七月七日、日野市教委はようやく中止を決定。小林校長はホームページに市教委と連名で保護者宛文書を載せたが、「残念」を二回連発。観戦賛成者ばかりに目を向け、「今後の五輪教育推進」を強調、観戦反対の児童・保護者に寄り添う文言は全くなかった。

日野市立四小・小林洋之校長が7月7日市教委と連名でオリ中止を伝えた保護者宛文書

 五 都教委の狙いは国家主義教育の“集大成”

 オリパラ大会の究極の目標は「平和でより良い世界の構築に貢献すること」だ。しかし前掲『実施方針』は、「日本人としての自覚と誇り(を持てるような教育を進める)」を三回繰り返し、「日本人としてのアイデンティティ」も明記。「学習・教育活動の進め方」の項には、「学習指導要領に基づき、我が国の国旗・国歌について、その意義を理解させ、これを尊重する態度を育てる」も、ちゃっかり盛り込んだ(本誌一八年九月号拙稿も参照)。
 一方、IOCの五輪憲章は、表彰式等で掲揚・演奏するのは「各NOC(国際的な五輪活動の国内又は地域内組織)が採用し、IOC理事会の承認を得た旗・讃歌だ」と明記。これは選手団の旗・歌のことであり、国旗・国歌ではないのに、都教委が作成し全公立校の小4~高3に配布した『オリパラ学習読本』では、「表彰式では、優勝した選手の国の国旗を掲げ、国歌を演奏します」などと、ウソを記述している。
 都教委は“学校連携観戦”を、「オリパラ教育の集大成」と位置付ける。その本音は、「表彰式等での国歌演奏で国旗に向かって起立する選手の姿を児童・生徒の耳目に焼き付かせ、卒業式等でも“君が代”時に同様の姿勢をとらせ歌わせよう」と謀むインドクトリネーション(洗脳)にある、と筆者は考える。
 ※ 永野厚男 (ながのあつお) 文科省・各教委等の行政や、衆参・地方議会の文教関係の委員会、教育裁判、保守系団体の動向などを取材。平和団体や参院議員会館集会等で講演。
『紙の爆弾』(2021年9月号)

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