=東京「君が代」第5次訴訟原告 山口美紀さん=
◆ 都に教員人生奪われた
起立斉唱拒み処分-クラス担任を外され続けて (しんぶん赤旗 日曜版)
東京都教育委員会が卒業式・入学式などで「日の丸・君が代」を強制する通達(2003年10月23日、10・23通達)を出して18年です。通達に基づく処分で、教員としての生きがいを奪われた原告たち。尊厳の回復を求め、東京「君が代」第5次訴訟をたたかっています。 本吉真希記者
◆ 精いっぱい生徒と関わりたい
今年3月、東京地裁に提訴したのは、都立の高校や特別支援学校の現職・元職の教職員15人です。原告らは「君が代」斉唱時に起立斉唱しないのは職務命令違反だとして、①2014年以降に戒告や減給処分を受けた人、②先行裁判で減給処分を一度取り消されたのに、同じ卒業式等での不起立を理由に再び処分を受けた人、です。裁判では都教委に処分取り消しを求めています。
原告の山口美紀さん(60)は再処分の取り消しを求めています。都立高校の教員です。
「生徒の役に立つことに一番重きを置いてやってきた」と話します。
そう思うきっかけは教員2年目の夏に起きました。初めて担任した生徒が自死したのです。「何もできなかった後悔から、定年退職まで体がもてば辞めない、生徒の苦しみに気づける力をつけたいと自分に約束しました」
担任として山口さんは、生徒を見守り、それぞれの良さを見つけてきました。しかし、そうした日々は都教委の10・23通達によって断ち切られました。
◆ 名指しで命令書
通達に基づく名指しの職務命令書を校長から初めて渡された時、キリスト教を信仰している山口さんは「天皇という特別な一人をたたえる『君が代』を起立して歌い、生徒にも歌わせよ。できなければ処分するぞ。私は人の命令に従うのか、信仰に基づく判断をするのかと迫られました」。
山口さんは起立斉唱を拒否し、都教委から一カ月の減給処分を受けました。07年から担任を外され、「もう二度と担任はできない」と諦めていました。
しかし16年、2学期から臨時で3年生の担任をすることになりました。
「避難訓練やロッカーの大掃除、何でも楽しかった」。“自分のクラス”がある毎日に喜びを感じました。進路活動が遅れていた生徒と休日に面接の練習もしました。「少しは役に立てたかな」と振り返ります。
卒業式前日の予行後、1人の生徒が「写真撮るよ」と山口さんとクラスのみんなに声をかけました。翌日、その生徒が「卒業アルバムには山ロ先生との写真がないから」といって、大小2枚のクラス写真をくれました。
「いまの学校でもその写真を自分の机の下じきに入れてます」とうれしそうに笑います。
◆ 式には出られず
山口さんは管理職から、担任業務は卒業式の朝までで、式の間は会場外での受け付けを命じられました。式後、最後のホームルームだけは許された山口さん。教室で生徒一人ひとりを呼名し、卒業証書を手渡しました。
「ああ楽しかった。二度とできないと思っていた担任を少しの間できて…」山口さんはそう割り切ったつもりでした。
しかし違いました。ずっとつらい気持ちにふたをしてきたことに気がつきました。今年2月の東京教育集会で、抑えてきた気持ちがあふれました。
◆ 国際機関も「個人の価値観を侵害」と指摘
東京「君が代」訴訟は2007年の提訴以来、今回の第5次までたたかわれています。先行訴訟はいずれも最高裁で減給以上の処分取り消しが決定されるという「一部勝訴」を勝ち取っています。
10・23通達は国旗・都旗の掲揚位置や、教職員は指定された席で国旗に向かって起立し国歌を斉唱・・・など式のやり方を細部まで規定しました。
「壇上での授与」とも規定され、養護学校(現・特別支援学校)では肢体不自由の子どもを無理に壇上にあげるため、スロープを設置した学校もあります。それまでは自分の力で卒業証書を受け取りに行けるようフロア形式で行っていました。
10・23通達によって生徒にも起立斉唱が強制されました。06年には都教委が職員会議での挙手や採決を禁止し、職場は息苦しくなりました。
原告は裁判を通して「生徒、教職員が自由に考え、判断できる強制のない学校」を目指しています。
「君が代」斉唱時の不起立などで処分された教職員は、のべ500人近くに上ります。
国際労働機関(ILO)と国連教育科学文化機関(ユネスコ)は19年、都教委による起立斉唱の強制は「教員個人の価値観や意見を侵害する」と指摘。強制や懲戒処分を回避するよう勧告しました。
第5次訴訟は勧告後初めての裁判になります。第2回口頭弁論は11月8日の予定です。
『しんぶん赤旗 日曜版』(2021年9月19日)
◆ 都に教員人生奪われた
起立斉唱拒み処分-クラス担任を外され続けて (しんぶん赤旗 日曜版)
東京都教育委員会が卒業式・入学式などで「日の丸・君が代」を強制する通達(2003年10月23日、10・23通達)を出して18年です。通達に基づく処分で、教員としての生きがいを奪われた原告たち。尊厳の回復を求め、東京「君が代」第5次訴訟をたたかっています。 本吉真希記者
◆ 精いっぱい生徒と関わりたい
今年3月、東京地裁に提訴したのは、都立の高校や特別支援学校の現職・元職の教職員15人です。原告らは「君が代」斉唱時に起立斉唱しないのは職務命令違反だとして、①2014年以降に戒告や減給処分を受けた人、②先行裁判で減給処分を一度取り消されたのに、同じ卒業式等での不起立を理由に再び処分を受けた人、です。裁判では都教委に処分取り消しを求めています。
原告の山口美紀さん(60)は再処分の取り消しを求めています。都立高校の教員です。
「生徒の役に立つことに一番重きを置いてやってきた」と話します。
そう思うきっかけは教員2年目の夏に起きました。初めて担任した生徒が自死したのです。「何もできなかった後悔から、定年退職まで体がもてば辞めない、生徒の苦しみに気づける力をつけたいと自分に約束しました」
担任として山口さんは、生徒を見守り、それぞれの良さを見つけてきました。しかし、そうした日々は都教委の10・23通達によって断ち切られました。
◆ 名指しで命令書
通達に基づく名指しの職務命令書を校長から初めて渡された時、キリスト教を信仰している山口さんは「天皇という特別な一人をたたえる『君が代』を起立して歌い、生徒にも歌わせよ。できなければ処分するぞ。私は人の命令に従うのか、信仰に基づく判断をするのかと迫られました」。
山口さんは起立斉唱を拒否し、都教委から一カ月の減給処分を受けました。07年から担任を外され、「もう二度と担任はできない」と諦めていました。
しかし16年、2学期から臨時で3年生の担任をすることになりました。
「避難訓練やロッカーの大掃除、何でも楽しかった」。“自分のクラス”がある毎日に喜びを感じました。進路活動が遅れていた生徒と休日に面接の練習もしました。「少しは役に立てたかな」と振り返ります。
卒業式前日の予行後、1人の生徒が「写真撮るよ」と山口さんとクラスのみんなに声をかけました。翌日、その生徒が「卒業アルバムには山ロ先生との写真がないから」といって、大小2枚のクラス写真をくれました。
「いまの学校でもその写真を自分の机の下じきに入れてます」とうれしそうに笑います。
◆ 式には出られず
山口さんは管理職から、担任業務は卒業式の朝までで、式の間は会場外での受け付けを命じられました。式後、最後のホームルームだけは許された山口さん。教室で生徒一人ひとりを呼名し、卒業証書を手渡しました。
「ああ楽しかった。二度とできないと思っていた担任を少しの間できて…」山口さんはそう割り切ったつもりでした。
しかし違いました。ずっとつらい気持ちにふたをしてきたことに気がつきました。今年2月の東京教育集会で、抑えてきた気持ちがあふれました。
「もう1回でも担任をやって精いっぱい生徒と関わりたかった。せめて卒業式の会場で生徒の名前を呼びたかった。10・23通達がなかったら…。私の教員人生を返してほしい」
◆ 国際機関も「個人の価値観を侵害」と指摘
東京「君が代」訴訟は2007年の提訴以来、今回の第5次までたたかわれています。先行訴訟はいずれも最高裁で減給以上の処分取り消しが決定されるという「一部勝訴」を勝ち取っています。
10・23通達は国旗・都旗の掲揚位置や、教職員は指定された席で国旗に向かって起立し国歌を斉唱・・・など式のやり方を細部まで規定しました。
「壇上での授与」とも規定され、養護学校(現・特別支援学校)では肢体不自由の子どもを無理に壇上にあげるため、スロープを設置した学校もあります。それまでは自分の力で卒業証書を受け取りに行けるようフロア形式で行っていました。
10・23通達によって生徒にも起立斉唱が強制されました。06年には都教委が職員会議での挙手や採決を禁止し、職場は息苦しくなりました。
原告は裁判を通して「生徒、教職員が自由に考え、判断できる強制のない学校」を目指しています。
「君が代」斉唱時の不起立などで処分された教職員は、のべ500人近くに上ります。
国際労働機関(ILO)と国連教育科学文化機関(ユネスコ)は19年、都教委による起立斉唱の強制は「教員個人の価値観や意見を侵害する」と指摘。強制や懲戒処分を回避するよう勧告しました。
第5次訴訟は勧告後初めての裁判になります。第2回口頭弁論は11月8日の予定です。
『しんぶん赤旗 日曜版』(2021年9月19日)
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