◆ 日野市成人式で、声を出し“君が代”歌うよう促す
コロナ禍なのに、司会者がZOOM参加者に (『マスコミ市民』)
"君が代"時、新成人に尻を向け直立不動の大坪冬彦市長ら
今年1月11日の成人式はコロナ禍ゆえ、オンライン開催とする自治体が少なくなかった。
区画整理事業を巡る詐欺事件で、警視庁が元副市長・河内(かわち)久男容疑者(79歳)を逮捕した東京都日野市も、今年は会場の市民の森ふれあいホールには、新成人の“実行委員”数人以外は入れず、ZOOMのYouTube中継にした。
ところが、3連休中ゆえ家族や学生寮など、多人数の“密”状態で小さいPC画面を見ている可能性もあるYouTube参加者に対し、飛沫感染の恐れがあるにもかかわらず、司会者が“君が代”を「声を出して歌う」よう促す等、不適切な進行管理を行った。
日野市と同市教育委員会主催の成人式は、1999年の“国旗国歌法”成立以降、当時の馬場弘融(ひろみち)市長(76歳。自民党市議出身)が式典冒頭、“君が代”を導入した。
ただ導入から数年間は、司会者が「国歌斉唱」と「ご起立下さい」との発声の間に、「差し支えなければ」(又は、よろしければ)を入れ、「思想・良心・信教・表現の自由」(憲法第19条~21条)にギリギリ配慮するようにしていた。
だがその後、馬場氏の鶴の一声で、08年1月から「差し支えなければ」を削除(市政に詳しい市民の中には「背景には日本会議系等、保守系の政治家の影がチラつく」と指摘する人もいる)。ストレートに起立・斉唱を強制する表現に変え、13年に保守市政を継承した大坪冬彦市長(63歳)も、これを踏襲した。
また15年1月までは壇上で、やや高齢の夫婦が“君が代”をピアノ伴奏し歌っていたが、16年1月からは、約10人の新成人の“実行委員”(ある学校関係者によると、公募ではなく市教委職員が市青少年委員を通し、市内8校の中学校校長に選出させる方式だという)の中から、“君が代”の伴奏と歌の2人を“志願”させる方式に変えた。
◆ 同世代のピアノ伴奏と歌で、“君が代”を徹底
17年1月の成人式では、開始1時間前から式場付近の公道で、社民党の市議会議員立候補予定者(当時)と市民らが“君が代”と“愛国心教育”、集団的自衛権行使の戦争法(安保法)の危険性を記述したチラシをまきながら、情宣活動した。
チラシを受け取った際、「小中高校の卒業・入学式での強制に、疑問を持っていた」と言った新成人の1人は、会場(当時は日野市民会館)の前方で不起立した(前方ゆえ実行委員の可能性も)。
式後、会場外で取材していた筆者に、その新成人は、「司会者のフリーアナウンサー(注、後述する鈴木久美子(くみこ)氏)が『皆さんと同世代が(壇上で)“君が代”を伴奏し歌います』という趣旨の紹介をしていた。年配者でなく同世代の壇上の2人が伴奏しマイクで歌う手法で、参加者に『同世代の自分たちも立って歌わなきゃ』と思わせる、強制色を感じた」と語った。
◆ ZOOM斉唱でも、飛沫感染の危険性
10年ほど司会を担当し続けている、鈴木久美子氏は、今年の式も冒頭、“君が代”強制でスタート。
「まず国歌をお届け致します。会場の皆様、ご起立をお願い致します。本日ふれあいホールでの歌は控えさせて頂きます」と言いつつ、「ZOOMでご参加の皆様方、もしよろしかったら小さい声でお歌をお歌い下さい」(以下、下線は筆者)と発声した。
コロナ禍、家族など多人数で歌えば飛沫感染の恐れがあるのに、市教委の言いなりになり、市教委作成の原稿を棒読みした鈴木氏は、「声を出して歌う」よう促してしまった。このため少なからぬ市民が、市役所に抗議の意見を寄せたという。
市側は“君が代”を強行する一方で、例年実施していた日野市歌は一切流さなかった。
市民会館の改修工事のため、今年会場となった市民の森ふれあいホールでは、壇上の大坪市長と窪田知子(ともこ)市議会議長(65歳。公明党)の2名が“君が代”時、主役であるはずの新成人に尻を向け、正面に張り付けた日の丸旗に正対し、直立不動の姿勢を取り続けた。
東京の公立学校教育現場への“君が代”強制を強化した、都教委の悪名高き“10・23通達”(03年発出)以降、校長やその職務命令を受けた教職員らが、監視に来る都教委幹部職員と共に、卒業式等の主役であるはずの生徒に尻を向け、壇上正面の日の丸旗に向かって起立・斉唱する姿と同じ。
記録映画等で見る、教育勅語“奉読”時、“御真影(ごしんえい)”に向かい起立、敬礼させられていた戦前・戦中の“訓導(くんどう)”(教員)や児童生徒、全体主義国の偶像崇拝を彷彿(ほうふつ)とさせられるシーンだった。
ピリピリした“君が代”を終えた大坪氏は、“祝辞”でミスをした。
◆ 保守系市長の原稿こそチェックが必要
大坪氏は“祝辞”で、(1)人生寿命が延び、皆さんは100歳以上まで生きる。転職や学び直しが当たり前になる、(2)世界の企業ランキングで、30年前は上位を日本が独占していたが、今上位は米国や中国のネット関連企業が独占。日本はトヨタだけで経済力は大きく減退したと発言。
その後、「政府は2050年に脱炭素化、CO2などの温室効果ガス排出をゼロにする目標を掲げた。目標を設定した菅首相は71歳です。50年には生きているかどうか分かりません。大人に任せておくことはできない。若い皆さんが取り組まなければこの目標は達成できない」と述べ、20年12月6日、既に72歳になっていた菅義偉(よしひで)氏の年齢を間違えた。
10年ほど前、成人式に参加した社会人は、筆者の取材に、『新成人の誓いの言葉』の原稿を市教委職員に事前にチェックされ、「核兵器廃絶」などに触れた箇所の書き直しを求められたと明かす。
菅氏による学術会議委員任命妨害事件同様、現代版の“検閲”だが、大坪氏の原稿こそ、市教委職員による二重三重の事前チェックが必要なのではないか。
ところで同じ東京・多摩地区でも、国立(くにたち)市の成人式は例年、正面の左右に日の丸と市旗を掲げるが、“君が代”は一切ない。今年も筆者が現地で取材し確認した。
また01年度から公募の新成人が実行委員となり、自ら企画・運営し東京ディズニーランド(TDL)の劇場で開催している千葉県浦安(うらやす)市の成人式も、例年“君が代”は一切なし。コロナ禍の今年、3月7日に延期し東京デイズニーシーで(TDLが工事のため)4回に分け実施した同市の成人式は、合計で1700人余りが出席。
市長祝辞の5分弱だけ、日の丸と市旗を三脚で掲げたが、2人ずつ計8人が3分ずつ、各自の思いを自身の言葉で語る「新成人スピーチ」の時間は、日の丸と市旗も撤去した。
◆ “君が代”強制の儀式的“式典”から脱却を
ここで話を日野市の成人式に戻そう。当日のライブ配信視聴者は、市内の対象新成人1934人の1割にも満たない150人強に留まった(映像は新成人以外の父母や一般市民も見られるので、新成人の視聴者はもっと少ないと思われる)。
また日野市は、式の録画をHPで1月末まで見られるようにしていたが、そのビデオ視聴回数もその時点で「2000回ちょっと」に留まっている。
筆者は大坪氏の発言をビデオ起こしするため十数回視聴し、視聴回数増に“貢献”してしまった。
更に、筆者の知人(父母)やその子どもの新成人の中には、冒頭の“君が代”時に一旦切り、1分後に再度視聴し、抗議の意思表示をした人たちがいるが、結果としてこれも視聴回数増に“貢献”してしまった。
だから実際の視聴者は「約2000回」をかなり下回る、と思われる。
一方、浦安市の成人式の出席率は毎年約8割弱と高い。日野市等、保守首長系の自治体が成人式の出席率(オンライン形式の場合は視聴率)を高めるには、“国家権力”の方を向く復古調の儀式的“式典”をやめ、“君が代”なしの「新成人が主人公の祝う会」に改善することから始めるべきだ。
『マスコミ市民』2021年5月号
◇ 教育ジャーナリスト永野厚男から皆様に、追加コメント
成人式で"君が代"起立・斉唱・伴奏を強制し続けている保守系市長・大坪冬彦氏(63歳。自民、公明、国民民主、小池百合子氏の"都民ファーストの会"の推薦)が、4月18日の日野市市長選挙で、3万1873票で3選してしまいました。しかし、市民派リベラル候補で市議会議員を辞職し立候補した有賀精一さんは、3万188票を獲得し大接戦でした。
浦安市・国立市の"君が代"なしの成人式と、保守系市政下の"復古調成人式"を比較・対照し、20年間、取材し続けたルポ記事です。
コロナ禍なのに、司会者がZOOM参加者に (『マスコミ市民』)
永野厚男(教育ジャーナリスト)
"君が代"時、新成人に尻を向け直立不動の大坪冬彦市長ら
今年1月11日の成人式はコロナ禍ゆえ、オンライン開催とする自治体が少なくなかった。
区画整理事業を巡る詐欺事件で、警視庁が元副市長・河内(かわち)久男容疑者(79歳)を逮捕した東京都日野市も、今年は会場の市民の森ふれあいホールには、新成人の“実行委員”数人以外は入れず、ZOOMのYouTube中継にした。
ところが、3連休中ゆえ家族や学生寮など、多人数の“密”状態で小さいPC画面を見ている可能性もあるYouTube参加者に対し、飛沫感染の恐れがあるにもかかわらず、司会者が“君が代”を「声を出して歌う」よう促す等、不適切な進行管理を行った。
日野市と同市教育委員会主催の成人式は、1999年の“国旗国歌法”成立以降、当時の馬場弘融(ひろみち)市長(76歳。自民党市議出身)が式典冒頭、“君が代”を導入した。
ただ導入から数年間は、司会者が「国歌斉唱」と「ご起立下さい」との発声の間に、「差し支えなければ」(又は、よろしければ)を入れ、「思想・良心・信教・表現の自由」(憲法第19条~21条)にギリギリ配慮するようにしていた。
だがその後、馬場氏の鶴の一声で、08年1月から「差し支えなければ」を削除(市政に詳しい市民の中には「背景には日本会議系等、保守系の政治家の影がチラつく」と指摘する人もいる)。ストレートに起立・斉唱を強制する表現に変え、13年に保守市政を継承した大坪冬彦市長(63歳)も、これを踏襲した。
また15年1月までは壇上で、やや高齢の夫婦が“君が代”をピアノ伴奏し歌っていたが、16年1月からは、約10人の新成人の“実行委員”(ある学校関係者によると、公募ではなく市教委職員が市青少年委員を通し、市内8校の中学校校長に選出させる方式だという)の中から、“君が代”の伴奏と歌の2人を“志願”させる方式に変えた。
◆ 同世代のピアノ伴奏と歌で、“君が代”を徹底
17年1月の成人式では、開始1時間前から式場付近の公道で、社民党の市議会議員立候補予定者(当時)と市民らが“君が代”と“愛国心教育”、集団的自衛権行使の戦争法(安保法)の危険性を記述したチラシをまきながら、情宣活動した。
チラシを受け取った際、「小中高校の卒業・入学式での強制に、疑問を持っていた」と言った新成人の1人は、会場(当時は日野市民会館)の前方で不起立した(前方ゆえ実行委員の可能性も)。
式後、会場外で取材していた筆者に、その新成人は、「司会者のフリーアナウンサー(注、後述する鈴木久美子(くみこ)氏)が『皆さんと同世代が(壇上で)“君が代”を伴奏し歌います』という趣旨の紹介をしていた。年配者でなく同世代の壇上の2人が伴奏しマイクで歌う手法で、参加者に『同世代の自分たちも立って歌わなきゃ』と思わせる、強制色を感じた」と語った。
◆ ZOOM斉唱でも、飛沫感染の危険性
10年ほど司会を担当し続けている、鈴木久美子氏は、今年の式も冒頭、“君が代”強制でスタート。
「まず国歌をお届け致します。会場の皆様、ご起立をお願い致します。本日ふれあいホールでの歌は控えさせて頂きます」と言いつつ、「ZOOMでご参加の皆様方、もしよろしかったら小さい声でお歌をお歌い下さい」(以下、下線は筆者)と発声した。
コロナ禍、家族など多人数で歌えば飛沫感染の恐れがあるのに、市教委の言いなりになり、市教委作成の原稿を棒読みした鈴木氏は、「声を出して歌う」よう促してしまった。このため少なからぬ市民が、市役所に抗議の意見を寄せたという。
市側は“君が代”を強行する一方で、例年実施していた日野市歌は一切流さなかった。
市民会館の改修工事のため、今年会場となった市民の森ふれあいホールでは、壇上の大坪市長と窪田知子(ともこ)市議会議長(65歳。公明党)の2名が“君が代”時、主役であるはずの新成人に尻を向け、正面に張り付けた日の丸旗に正対し、直立不動の姿勢を取り続けた。
東京の公立学校教育現場への“君が代”強制を強化した、都教委の悪名高き“10・23通達”(03年発出)以降、校長やその職務命令を受けた教職員らが、監視に来る都教委幹部職員と共に、卒業式等の主役であるはずの生徒に尻を向け、壇上正面の日の丸旗に向かって起立・斉唱する姿と同じ。
記録映画等で見る、教育勅語“奉読”時、“御真影(ごしんえい)”に向かい起立、敬礼させられていた戦前・戦中の“訓導(くんどう)”(教員)や児童生徒、全体主義国の偶像崇拝を彷彿(ほうふつ)とさせられるシーンだった。
ピリピリした“君が代”を終えた大坪氏は、“祝辞”でミスをした。
◆ 保守系市長の原稿こそチェックが必要
大坪氏は“祝辞”で、(1)人生寿命が延び、皆さんは100歳以上まで生きる。転職や学び直しが当たり前になる、(2)世界の企業ランキングで、30年前は上位を日本が独占していたが、今上位は米国や中国のネット関連企業が独占。日本はトヨタだけで経済力は大きく減退したと発言。
その後、「政府は2050年に脱炭素化、CO2などの温室効果ガス排出をゼロにする目標を掲げた。目標を設定した菅首相は71歳です。50年には生きているかどうか分かりません。大人に任せておくことはできない。若い皆さんが取り組まなければこの目標は達成できない」と述べ、20年12月6日、既に72歳になっていた菅義偉(よしひで)氏の年齢を間違えた。
10年ほど前、成人式に参加した社会人は、筆者の取材に、『新成人の誓いの言葉』の原稿を市教委職員に事前にチェックされ、「核兵器廃絶」などに触れた箇所の書き直しを求められたと明かす。
菅氏による学術会議委員任命妨害事件同様、現代版の“検閲”だが、大坪氏の原稿こそ、市教委職員による二重三重の事前チェックが必要なのではないか。
ところで同じ東京・多摩地区でも、国立(くにたち)市の成人式は例年、正面の左右に日の丸と市旗を掲げるが、“君が代”は一切ない。今年も筆者が現地で取材し確認した。
また01年度から公募の新成人が実行委員となり、自ら企画・運営し東京ディズニーランド(TDL)の劇場で開催している千葉県浦安(うらやす)市の成人式も、例年“君が代”は一切なし。コロナ禍の今年、3月7日に延期し東京デイズニーシーで(TDLが工事のため)4回に分け実施した同市の成人式は、合計で1700人余りが出席。
市長祝辞の5分弱だけ、日の丸と市旗を三脚で掲げたが、2人ずつ計8人が3分ずつ、各自の思いを自身の言葉で語る「新成人スピーチ」の時間は、日の丸と市旗も撤去した。
◆ “君が代”強制の儀式的“式典”から脱却を
ここで話を日野市の成人式に戻そう。当日のライブ配信視聴者は、市内の対象新成人1934人の1割にも満たない150人強に留まった(映像は新成人以外の父母や一般市民も見られるので、新成人の視聴者はもっと少ないと思われる)。
また日野市は、式の録画をHPで1月末まで見られるようにしていたが、そのビデオ視聴回数もその時点で「2000回ちょっと」に留まっている。
筆者は大坪氏の発言をビデオ起こしするため十数回視聴し、視聴回数増に“貢献”してしまった。
更に、筆者の知人(父母)やその子どもの新成人の中には、冒頭の“君が代”時に一旦切り、1分後に再度視聴し、抗議の意思表示をした人たちがいるが、結果としてこれも視聴回数増に“貢献”してしまった。
だから実際の視聴者は「約2000回」をかなり下回る、と思われる。
一方、浦安市の成人式の出席率は毎年約8割弱と高い。日野市等、保守首長系の自治体が成人式の出席率(オンライン形式の場合は視聴率)を高めるには、“国家権力”の方を向く復古調の儀式的“式典”をやめ、“君が代”なしの「新成人が主人公の祝う会」に改善することから始めるべきだ。
『マスコミ市民』2021年5月号
◇ 教育ジャーナリスト永野厚男から皆様に、追加コメント
成人式で"君が代"起立・斉唱・伴奏を強制し続けている保守系市長・大坪冬彦氏(63歳。自民、公明、国民民主、小池百合子氏の"都民ファーストの会"の推薦)が、4月18日の日野市市長選挙で、3万1873票で3選してしまいました。しかし、市民派リベラル候補で市議会議員を辞職し立候補した有賀精一さんは、3万188票を獲得し大接戦でした。
浦安市・国立市の"君が代"なしの成人式と、保守系市政下の"復古調成人式"を比較・対照し、20年間、取材し続けたルポ記事です。
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