=在特会の徳島県教組襲撃事件控訴審=
◆ 人種差別を認定 司法が「防止」踏み込む (東京新聞)
「在日特権を許さない市民の会」(在特会)の徳島県教組襲撃事件を「人種差別」と認めた四月二十五日の高松高裁控訴審判決。在日コリアンらを排斥するヘイトスピーチ対策法案の今国会成立が現実味を帯びる中、今回の判決の意味を考えた。(佐藤圭)
◆ 「百点満点の判決」元書記長
県教組と元書記長の女性(64)は控訴審で、在特会と会員ら十人に約二千万円の損害賠償を求めた。判決によると、会員らは二〇一〇年四月、県教組による四国朝鮮初中級学校(松山市)へのカンパについて「募金詐欺」を働いたなどと事実無根のことを言い立てて、徳島市の県教組事務所に乱入。拡声器などで元書記長(当時は専従)の名前を連呼しながら「朝鮮の犬」「売国奴」などと罵声を浴びせて肩を小突くなどの暴行を加えた。
その様子はネットに動画配信され、元書記長を中傷するコメントが多数書き込まれた。
昨年三月の一審・徳島地裁判決では、直接の攻撃対象が県教組と元書記長であることを理由に「朝鮮人に対する差別を扇動するとは言い難い」と結論づけた。
しかし、高裁の生島弘康裁判長は、日本も加盟する人種差別撤廃条約に基づき、在特会側の行為について「差別の対象とする在日朝鮮人の支援者は攻撃や被害を受けるということを広く知らしめ、支援活動を萎縮させる目的と効果を持つ」として「人種差別的思想の現れ」と認定。約二百三十万円の支払いを命じた一審判決を変更し、賠償額を約四百三十六万円に増額した。
閉廷後、原告側が高松市内で開いた記者会見と報告集会では、元書記長が涙ながらに感謝の言葉を繰り返した。「百点満点の判決だ。何でも言っていいのではなく、自分の発言に責任を持てるような社会こそ、憲法が保障する『表現の自由』の姿だと示された。受けた傷は大きかったが、支援者や弁護団など多くの人とつながりあえたことが私の大きな宝になった」
原告側によると、在日コリアンらを支援する日本人への攻撃を「人種差別」と認めた判決は初めて。
在特会をめぐっては、〇九~一〇年の京都朝鮮第一初級学校(現・京都朝鮮初級学校)周辺での街宣活動を京都地裁が「人種差別」と認定し、千二百万円余の賠償を命じる判断を支持した大阪高裁判決が一四年に最高裁で確定している。
原告弁護団の篠原健弁護士は「支援者攻撃は、朝鮮学校への直接攻撃よりも悪質な面がある。人種差別として踏み込んだ判決に大きな意味がある」と強調した。
ヘイトスピーチ問題に詳しい前田朗・東京造形大教授は、攻撃対象が日本人の場合でも人種差別と認定した点について「日本人が日本人に攻撃を加えた事件であり、従来の司法のあり方からすれば、人種差別に該当しないとした一審の方がストレートな解釈だが、在特会側に朝鮮人差別を社会に広めようとする意図があったことは明らかだ。高裁判決は、差別防止の観点を重視した」と評価する。
折しも、自民、公明両党提出のヘイトスピーチ対策法案が一部修正の上で大型連休明けにも参院本会議で可決され、衆院の審議を経て成立する見通しだ。
前田氏は「京都、徳島両事件とも社会的にはヘイトスピーチ事件として位置付けられているが、刑事裁判で威力業務妨害罪などで有罪が確定しており、基本的にはヘイトクライムだ。両事件を主な素材としてヘイトスピーチ規制を議論することは適切ではない」と指摘した上で、より精緻な議論の必要性を説く。
「被害者が泣き寝入りせず、裁判で権利回復の闘いに立ち上がるようになり、ヘイトのさまざまな類型が見えてくるようになった。ヘイトデモやヘイトクライムの実態に即して検討を積み重ねていく中で、ヘイト規制を考えていくべきだ」
『東京新聞』(2016/5/3【ニュースの追跡】)
◆ 人種差別を認定 司法が「防止」踏み込む (東京新聞)
「在日特権を許さない市民の会」(在特会)の徳島県教組襲撃事件を「人種差別」と認めた四月二十五日の高松高裁控訴審判決。在日コリアンらを排斥するヘイトスピーチ対策法案の今国会成立が現実味を帯びる中、今回の判決の意味を考えた。(佐藤圭)
◆ 「百点満点の判決」元書記長
県教組と元書記長の女性(64)は控訴審で、在特会と会員ら十人に約二千万円の損害賠償を求めた。判決によると、会員らは二〇一〇年四月、県教組による四国朝鮮初中級学校(松山市)へのカンパについて「募金詐欺」を働いたなどと事実無根のことを言い立てて、徳島市の県教組事務所に乱入。拡声器などで元書記長(当時は専従)の名前を連呼しながら「朝鮮の犬」「売国奴」などと罵声を浴びせて肩を小突くなどの暴行を加えた。
その様子はネットに動画配信され、元書記長を中傷するコメントが多数書き込まれた。
昨年三月の一審・徳島地裁判決では、直接の攻撃対象が県教組と元書記長であることを理由に「朝鮮人に対する差別を扇動するとは言い難い」と結論づけた。
しかし、高裁の生島弘康裁判長は、日本も加盟する人種差別撤廃条約に基づき、在特会側の行為について「差別の対象とする在日朝鮮人の支援者は攻撃や被害を受けるということを広く知らしめ、支援活動を萎縮させる目的と効果を持つ」として「人種差別的思想の現れ」と認定。約二百三十万円の支払いを命じた一審判決を変更し、賠償額を約四百三十六万円に増額した。
閉廷後、原告側が高松市内で開いた記者会見と報告集会では、元書記長が涙ながらに感謝の言葉を繰り返した。「百点満点の判決だ。何でも言っていいのではなく、自分の発言に責任を持てるような社会こそ、憲法が保障する『表現の自由』の姿だと示された。受けた傷は大きかったが、支援者や弁護団など多くの人とつながりあえたことが私の大きな宝になった」
原告側によると、在日コリアンらを支援する日本人への攻撃を「人種差別」と認めた判決は初めて。
在特会をめぐっては、〇九~一〇年の京都朝鮮第一初級学校(現・京都朝鮮初級学校)周辺での街宣活動を京都地裁が「人種差別」と認定し、千二百万円余の賠償を命じる判断を支持した大阪高裁判決が一四年に最高裁で確定している。
原告弁護団の篠原健弁護士は「支援者攻撃は、朝鮮学校への直接攻撃よりも悪質な面がある。人種差別として踏み込んだ判決に大きな意味がある」と強調した。
ヘイトスピーチ問題に詳しい前田朗・東京造形大教授は、攻撃対象が日本人の場合でも人種差別と認定した点について「日本人が日本人に攻撃を加えた事件であり、従来の司法のあり方からすれば、人種差別に該当しないとした一審の方がストレートな解釈だが、在特会側に朝鮮人差別を社会に広めようとする意図があったことは明らかだ。高裁判決は、差別防止の観点を重視した」と評価する。
折しも、自民、公明両党提出のヘイトスピーチ対策法案が一部修正の上で大型連休明けにも参院本会議で可決され、衆院の審議を経て成立する見通しだ。
前田氏は「京都、徳島両事件とも社会的にはヘイトスピーチ事件として位置付けられているが、刑事裁判で威力業務妨害罪などで有罪が確定しており、基本的にはヘイトクライムだ。両事件を主な素材としてヘイトスピーチ規制を議論することは適切ではない」と指摘した上で、より精緻な議論の必要性を説く。
「被害者が泣き寝入りせず、裁判で権利回復の闘いに立ち上がるようになり、ヘイトのさまざまな類型が見えてくるようになった。ヘイトデモやヘイトクライムの実態に即して検討を積み重ねていく中で、ヘイト規制を考えていくべきだ」
『東京新聞』(2016/5/3【ニュースの追跡】)
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