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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

急加速する「デジタル教科書」をめぐる動き

2010年12月01日 | こども危機
 ◆ 急加速する「デジタル教科書」をめぐる動き-何が問題か-
吉田典裕(出版労連教科書対策部事務局長・常任運営委員)

 「デジタル教科書」って何? このところ、新聞や雑誌などのマスメディア、またインターネットで「デジタル教科書」が話題になっています。これがそもそも何のことで、何が問題なのか、探ってみましょう。紙幅が限られていることもあり、ここで述べることができるのは、問題のほんの一部であることをあらかじめお断りしておきます。
 「デジタル敦科書」は、紙ではなく電子媒体による教材で、「教師用」と「児童・生徒用」とに大きく分類することができます。前者には学校現場に急速に導入が進む「電子黒板」(これもさらにいくつかのタイプに分かれますが、割愛します)が、後者にはiPadのような「タブレット型PC」などが属することになります。
 ◆ 「デジタル教科書」の機能は?
 「電子黒板」は、教科書のページを拡大して表示し、先生が電子ペンでそこに文字どおり「黒板」のように書き込みができたり、図を動かしたりすることができます。NHKの天気予報の背景がこれに近いイメージです。
 電子ペンで書いたことは保存されるので、「達人の授業が再現できる」ことが「売り」で、来年度には各教科書会社から約30点の電子黒板用ソフトが発売される予定です。
 「児竜・生徒用」は電子書籍のイメージですが、どのような機能を盛り込むのかなど、まだ不明な部分が多いのが実情です。アメリカ・カリフォルニア州や韓国でこれによる授業実験が始まっています。
 ◆ 「デジタル教科書」は「教育の情報化」の一部
 注意すべきことは、「デジタル教科書」導入が教育現場からの要求ではなく、新たに巨大市場を作りり出そうとする財界の要求として行われていることです。
 それを示すのが総務省が原口一博前大臣当時に発表した「原ロビジョン」(2009年12月)とその改訂版「原口ビジョンⅡ」(2010年4月)です。
 本稿と関係する部分を要約すると、「日本は、2050年には『経済大国』の地位を失うおそれ」があるので「ICT関連投資を倍増し、2020年以降約3%の持続的経済成長を実現」する、ICTよって380万人の雇用が実現する、そのためには学校もICTを中心とした「フューチャースクール」へと変容させ、「デジタルネィティブ」(生まれたときからデジタル環境に慣れていること)な子どもたちをつくる必要がある、これによって、約70兆円(日本の国家予算とほぼ同額)という新たな市場が創出される、ということになるでしょう。
 ソフトパンク社長の孫正義氏ら発起人となって立ち上げた「デジタル教科書教材協議会」の設立趣意書と言うべき文書「デジタル教科書・教材の普及推進について」は「学校の情報化が遅れている」などと指摘しつつ、最後で「成長戦略が求められる日本は、情報立国を急がなければいけません。過去数十年でほぼ唯一伸びているIT産業を成長のエンジンとすべきです。本構想はこれを推し進めるものでもあります」と述べています。
 デジタル教科書推進派の真の狙いを吐露したものと言うべきでしょう。ちなみにこの「協議会」は「児童・生徒用」のデジタル教科書の普及に重点を置いているようです。
 文部科学省も8月26日、「教育の情報化ビジョン(骨子)」を発表しました。そこでは「2020年度」に「21世紀にふさわしい学校教育の実現」(総務省の言う「フューチャースクール」)を図るためのロードマップ(日程表)が掲げられ、文部科学・総務・経済産業の関連各省の役割分担が述べられています。
 21世紀も5分の1が経過してようやく「21世紀にふさわしい学校教育」が実現するというのもおかしな話ですが、それはともかく財界の意向を受けての政府としての意思統一が、これによって図られたと言ってよいでしょう。
 ◆ 「デジタル教科書」の可能性と危険性
 紙幅の都合上、概略しか述べられませんでしたが、「デジタル教科書」そのものの教育的可能性は否定すべきではないでしょう。問題は、日本ではそれが教育の統制強化の新たなツールとして使われる可能性が大きいということです。
 前述の「達人の授業が再現できる」機能は板書の再現可能性にほかならず、技術的には授業の細部まで教育行政がチェックできることを意味します。すでに「教育の情報化」として校務PCが導入され、そのために職員会議が廃止されたという報告もあります。
 教育の自由と教育の条理に基づいたアプローチこそ最大の課題にほかなりません。(よしだのりひろ)
 『子どもと教科欝全国ネット21ニュース』74号(2010/10/15)

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