《月刊救援から》
◆ 関西生コン事件の真実
ジャーナリストの闘い
◆ 総ぐるみ弾圧
関西生コン事件は二〇一八年夏から続く前代未聞の労働組合弾圧である。
ストライキや団体交渉を「犯罪」と決めつけ、八○人以上の労組員が次々と逮捕され、まるで工場のベルトコンベアに乗せられたかのように大量起訴された。
逮捕も一回ではなく、滋賀県警に逮捕され起訴されると次には大阪府警に逮捕される。いつまで続くかわからない身柄拘束の繰り返しの中、労組脱退を迫られる。仕事はできず生活難に陥る。家族もどん底に落とされる。
産業別労組である関生支部の活動として賃上げ、労働条件改善、職場の安金を求める交渉を恐喝や威力業務妨審に塗り変える。
団結権と団体交渉権を定めた憲法など弊履のごとく踏みにじられる。
竹信三恵子『賃金破壊-労働運動を「犯罪」にする国』(旬報社)は、この国が治安警察法と治安維持法の時代に舞い戻りつつある危機を追跡する。
主犯は警察である。だが警察だけの犯罪ではない。
政財界が結託・連携し、検察と裁判所も追随する。マスコミも労組潰しに加担する。総ぐるみの国家的不当労働行為である。
第一に警察である。事件は総計十一件に上る。
(1)滋賀県警・組織犯罪対策課はフジタ事件、セキスイハイム事件、タイヨー生コン事件等で五九人を逮捕した。理由は恐喝未遂や威力業務妨害とされた。
(2)大阪府警・警備部は大阪港SS事件と中央大阪生コン事件で二八人を威力業務妨害容疑で逮捕。
(3)京都府警・組織犯罪対策課は加茂生コン事件、近畿生コン事件等で十一人を強要未遂・恐喝未遂容疑で逮捕。
(4)和歌山県警・海南署は和歌山広域協組事件で五人を強要未遂・威力業務妨害容疑で逮捕。
いずれも労働組合としてのコンプライアンス活動や団体交渉を「犯罪」としたものだ。
第二に広域協同組合である。
生コン業者が設立した中小企業等協同組合は受注・販売を一元化することで大企業ゼネコンによる買いたたきを防ぎ適正価格を実現してきた。その意味で産別労組と協同組合は利害が一致する面があったが、大企業や政府や警察からの圧力の下、協同組合が関生労組を売り渡した。
第三に背後にある大手企業である。
関生支部の闘いによる関西一円の生コン価格安定状況を快く思わない業界による価格破壊攻撃である。
第四に検察である。
警察の横暴に全面協力して、正当な労組運動を潰すための法理を捏造する。団体交渉を強要と呼び、ストライキ(威力業務妨害)、コンプライアンス活動(恐喝)、環境整備費(恐喝)などと読み替えて労働基本権を全否定する。
第五に裁判所である。
京都地裁や大阪地裁は次々と逮捕、勾留を認めた。しかも数百日に及ぶ長期勾留もある。その挙句次々と有罪判決を出した。
産別労組の団体行動権を無視し、憲法第二八条を投げ捨てた。
◆ 闘うジャーナリスト
警察・検察・裁判所によるフレームアップにより、有罪判決が量産されている。捏造に加担したのがマスコミとヘイト集団である。
マスコミは二重の意味で弾圧に加担した。
関西一円のマスコミは警察情報を垂れ流し、関生を反社会的集団であるかのごとく報じた。
他方、全国メディアは本件をほとんど報じなかったため、労働権剥奪という違憲の暴挙が東京等では全く知られていない。沈黙による加担である。
ヘイト集団も登場した。
当初、攻撃の先頭に立ったのはネオナチの極右活動家として知られる瀬戸弘幸であった。
総ぐるみ弾圧が破壊したのは生コンの適正価格であり、労働者の賃金であり、生活である。
関生支部は特別にジェンダー観点を有していたわけではないが、女性労働者が生き生きと就労していたという。
竹信三恵子は取材開始早々に女性労働者たちに面会取材した。他の運送業と比較すると人力での荷の積み下ろしがない分、生コン会社のミキサー車の運転には女性も就労していた。
適正価格と賃金が実現し、同一労働同一賃金が保障され、地域全体の貨金相場が引き上げられ、シングルマザーが自立できる職場であった。それが丸ごと破壊された。
関生支部は弾圧との闘いに追われた。
長期身柄拘束、組合脱退者の続出、業界からの排除と、苦難の日々が続いた。
関生支部の闘いを支援したのはジャーナリスト、弁護士、労働法学者であった。竹信をはじめ、ヘイト・スピーチ批判で著名な安田浩一も取材に入り、不当弾圧の全貌を社会に知らせた。
弁護士たちが勾留理由開示、保釈請求、裁判闘争を全面支援した。
労働法学者も立ち上がった。二〇一九年一二月九日、「労働法学会有志」七八人が弾圧に抗議声明を発して記者会見を開いた。
裁判所に「鑑定意見書」を提出して憲法上の労働権の保障を求めた。
関生支部は大阪府労働委員会に一六件の不当労働行為の申立てを行い、ほとんどすべて勝利した。労働法理を適用すれば当然の帰結である。事件は中央労働委員会に係属している。
国際人権法による理論の補強も試みられている。弾圧との闘いはこれからも続く。
『月刊救援 632号』(2021年12月10日)
◆ 関西生コン事件の真実
ジャーナリストの闘い
前田 朗(東京造形大学)
◆ 総ぐるみ弾圧
関西生コン事件は二〇一八年夏から続く前代未聞の労働組合弾圧である。
ストライキや団体交渉を「犯罪」と決めつけ、八○人以上の労組員が次々と逮捕され、まるで工場のベルトコンベアに乗せられたかのように大量起訴された。
逮捕も一回ではなく、滋賀県警に逮捕され起訴されると次には大阪府警に逮捕される。いつまで続くかわからない身柄拘束の繰り返しの中、労組脱退を迫られる。仕事はできず生活難に陥る。家族もどん底に落とされる。
産業別労組である関生支部の活動として賃上げ、労働条件改善、職場の安金を求める交渉を恐喝や威力業務妨審に塗り変える。
団結権と団体交渉権を定めた憲法など弊履のごとく踏みにじられる。
竹信三恵子『賃金破壊-労働運動を「犯罪」にする国』(旬報社)は、この国が治安警察法と治安維持法の時代に舞い戻りつつある危機を追跡する。
主犯は警察である。だが警察だけの犯罪ではない。
政財界が結託・連携し、検察と裁判所も追随する。マスコミも労組潰しに加担する。総ぐるみの国家的不当労働行為である。
第一に警察である。事件は総計十一件に上る。
(1)滋賀県警・組織犯罪対策課はフジタ事件、セキスイハイム事件、タイヨー生コン事件等で五九人を逮捕した。理由は恐喝未遂や威力業務妨害とされた。
(2)大阪府警・警備部は大阪港SS事件と中央大阪生コン事件で二八人を威力業務妨害容疑で逮捕。
(3)京都府警・組織犯罪対策課は加茂生コン事件、近畿生コン事件等で十一人を強要未遂・恐喝未遂容疑で逮捕。
(4)和歌山県警・海南署は和歌山広域協組事件で五人を強要未遂・威力業務妨害容疑で逮捕。
いずれも労働組合としてのコンプライアンス活動や団体交渉を「犯罪」としたものだ。
第二に広域協同組合である。
生コン業者が設立した中小企業等協同組合は受注・販売を一元化することで大企業ゼネコンによる買いたたきを防ぎ適正価格を実現してきた。その意味で産別労組と協同組合は利害が一致する面があったが、大企業や政府や警察からの圧力の下、協同組合が関生労組を売り渡した。
第三に背後にある大手企業である。
関生支部の闘いによる関西一円の生コン価格安定状況を快く思わない業界による価格破壊攻撃である。
第四に検察である。
警察の横暴に全面協力して、正当な労組運動を潰すための法理を捏造する。団体交渉を強要と呼び、ストライキ(威力業務妨害)、コンプライアンス活動(恐喝)、環境整備費(恐喝)などと読み替えて労働基本権を全否定する。
第五に裁判所である。
京都地裁や大阪地裁は次々と逮捕、勾留を認めた。しかも数百日に及ぶ長期勾留もある。その挙句次々と有罪判決を出した。
産別労組の団体行動権を無視し、憲法第二八条を投げ捨てた。
◆ 闘うジャーナリスト
警察・検察・裁判所によるフレームアップにより、有罪判決が量産されている。捏造に加担したのがマスコミとヘイト集団である。
マスコミは二重の意味で弾圧に加担した。
関西一円のマスコミは警察情報を垂れ流し、関生を反社会的集団であるかのごとく報じた。
他方、全国メディアは本件をほとんど報じなかったため、労働権剥奪という違憲の暴挙が東京等では全く知られていない。沈黙による加担である。
ヘイト集団も登場した。
当初、攻撃の先頭に立ったのはネオナチの極右活動家として知られる瀬戸弘幸であった。
総ぐるみ弾圧が破壊したのは生コンの適正価格であり、労働者の賃金であり、生活である。
関生支部は特別にジェンダー観点を有していたわけではないが、女性労働者が生き生きと就労していたという。
竹信三恵子は取材開始早々に女性労働者たちに面会取材した。他の運送業と比較すると人力での荷の積み下ろしがない分、生コン会社のミキサー車の運転には女性も就労していた。
適正価格と賃金が実現し、同一労働同一賃金が保障され、地域全体の貨金相場が引き上げられ、シングルマザーが自立できる職場であった。それが丸ごと破壊された。
関生支部は弾圧との闘いに追われた。
長期身柄拘束、組合脱退者の続出、業界からの排除と、苦難の日々が続いた。
関生支部の闘いを支援したのはジャーナリスト、弁護士、労働法学者であった。竹信をはじめ、ヘイト・スピーチ批判で著名な安田浩一も取材に入り、不当弾圧の全貌を社会に知らせた。
弁護士たちが勾留理由開示、保釈請求、裁判闘争を全面支援した。
労働法学者も立ち上がった。二〇一九年一二月九日、「労働法学会有志」七八人が弾圧に抗議声明を発して記者会見を開いた。
裁判所に「鑑定意見書」を提出して憲法上の労働権の保障を求めた。
関生支部は大阪府労働委員会に一六件の不当労働行為の申立てを行い、ほとんどすべて勝利した。労働法理を適用すれば当然の帰結である。事件は中央労働委員会に係属している。
国際人権法による理論の補強も試みられている。弾圧との闘いはこれからも続く。
『月刊救援 632号』(2021年12月10日)
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