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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

再発防止国賠・控訴しない声明

2007年08月01日 | 日の丸・君が代関連ニュース
=再発防止国賠控訴せず=

弁護団声明

 さる2007(平成19)年7月19日、東京地裁民事19部(中西裁判長)は,都立学校の教職員137名が2004(平成16)年の卒業式、入学式で国歌斉唱時不起立等で懲戒処分を受け、さらに再発防止研修命令を受けたとに対し、その再発防止研修が違憲、違法でそのことにより精神的被害を受けたとして東京都を相手に損害賠償請求を求めたのに対し(再発防止研修国賠訴訟)、原告らの請求を棄却する判決(以下「中西判決」という。)を言い渡した。
 この判決に対し、原告団、弁護団は、この判決に対して控訴するか否かについて検討を重ねた結果、以下に述べる理由から控訴しないこととした。

(1)判決内容は、再発防止研修に対して実質上歯止めを掛ける内容となっている。
(2)思想・良心の自由の解釈について、これまのこの種の裁判例と比較すると、より深められた判断をしており、この判断を今後他の関連する事件で積極的に生かしてく方が意味があると考えられる。

(3)今回問題とされたような再発防止研修を止めるためには、その基になった10・23通達及びそれに基づく校長の職務命令を違憲、違法とする判決を勝ち取ることが抜本的解決になると考えられるので、そのことが争われている裁判に力を注ぐことが相当である。
(4)実際に行われている再発防止研修は、2004(平成16)年7月23日付け東京地裁決定(須藤決定)が存することもあって、教職員の内心の自由に踏み込む研修は行われていないと考えられるが、もし、仮に今後教職員の内心の自由に踏む込むような研修が行われることがあれば、その違憲、違法性を訴え、別途提起することを検討することとする。
 したがって、今後、原告団、弁護団は東京の異常な教育の基となっている10・23通達及びそれにも基づく校長の職務命令の違憲、違法を正面から争っている訴訟に全力を尽くすこととする。

  2007(平成19)年7月31日
東京心の自由訴訟
再発防止研修国賠訴訟弁護団

 ◎ 弁護団説明

(1)中西判決は、原告らの請求を棄却したが、その判決理由を検討すると、再発防止研修命令そのものの違憲、違法性に関して最初に判断を示した須藤決定(2004年7月23日東京地裁執行停止申立事件決定)を前提としていると考えられ、その内容からして再発防止研修そのものに歯止めをかける内容となっている。
 同判決は、再発防止研修そのものの違憲、違法性に関し、「(研修の原因となった)職務命令や懲戒処分が思想及び良心の自由や信教の自由を侵害するものであれば,これらの職務命令,懲戒処分は違憲,無効であり,これらを前提とする本件各研修の発令は違法であって,本件各研修自体が違憲となる可能性もあるし,本件各研修は,研修後に行われる学校行事等における同様の職務命令に従わせることを目的とすることは明らかであるから,本件各研修は,その目的においても,違法であり,本件各研修自体が違憲となり得る。」と判示している。
 また「本件各研修で現実に実施された内容が,原告らに対して,思想,良心,信仰の表白を求めたり,思想,良心,信仰の禁止,変更を迫るものであったのであれば,本件各研修が憲法に反することは明らかであり,国家賠償法上違法であることも当然である。」(判決37頁)とも判示している。
 実際、上記判決の言い渡しがあって、間もなくである7月23日、本年(2007年)の卒業式、入学式で不起立等で処分を受けた教職員に対する再発防止研修が行われたが、基本的には須藤決定の歯止めが生きたと考えられる研修がなされていると判断される状況にある。

(2)更に、中西判決は、思想・良心の自由の解釈について、これまのこの種の裁判例と比較すると、より深められた判断をしていると考えられ、この判断を今後他の関連する事件で生かしていくことが、積極的な意味があると考えられるからである。
 中西判決は,原告らが提出した陳述書を引用して,原告らが[①宗教上の理由、,②民族的な理由、,③平和主義思想、,④一律に強制することに反対する理由]といった「思想、信条から」又は,[①軍国主義教育の過去の歴史を繰り返す危険、②人権尊重等の教育実践と矛盾する、③教師全員が起立することは生徒に対する強制となるという理由]といった「教師としての思い、良心から」,「国旗に向かって起立し、国歌斉唱できないという信念を有するものであると認められる。」(判決31頁)と認定し,このような信念について,「国歌や国旗が過去の我が国の歴史上や宗教上果たしてきた役割に関わる原告らの歴史観ないし世界観及びこれに由来する社会生活上の信念又は信教そのもの,あるいは国家の教育に対する関与のあり方に係わる原告の教育観及びこれに由来する職業上の信念である」と評価したうえで,「このような考えをもつこと自体は、,思想及び良心の自由あるいは信教の自由として保障されることは明らかである」(判決32頁)と明言している。また,不起立について「原告らの信条と密接に関連がある行為である」(判決43頁)との判断を示している。
 これは,本訴訟において原告らが主張した思想良心の自由に関する保障対象論を正面から認め,不起立・不斉唱の単なる動機ないし背景事情として,「日の丸・君が代」に関わる歴史観・世界観・宗教観や教師としての教育観などの「思想・良心・信教」がある,と切り離して捉えるたのではなく,歴史観・世界観・教育観やそれに由来する社会生活上の信念・職業上の信念と不可分一体に結びつくものとしての「起立できないという信念」,「斉唱できないという信念」自体が,憲法19条・20条で保障される「思想・良心」「信教」であると捉えた点で,評価される。まさに,戸波江二教授が「不起立は思想そのものである」と証言したもの(戸波証人調書32頁)を,裁判所が正面から肯定したもの,とも考えられる。

(3)中西判決は、「原告らは,本件各研修の前提である職務命令及び懲戒処分の違憲性については主張をせず,職務命令及び懲戒処分が有効であることを争ってはいないのであるから,当裁判所としては,職務命令が原告らの思想,良心,信仰を侵害するものであるとの前提に立った判断をすることはできず,そうすると,本件各研修は,有効な職務命令に従わなかったため有効な懲戒処分が行われたことによって発令されたものというほかなく・・・何ら違法はないと判断するほかない。」(判決35~36頁)との判断を示している。
 これは、本件再発防止国賠訴訟は、当初は再発防止研修命令に対する執行停止申立をすることを主目的として提訴されたものであったが、執行停止却下決定があった後も訴訟は続けられたが、2006年夏になって、原告団と弁護団は,十分な議論を重ねたうえで,10・23通達に基づく職務命令と懲戒処分の違憲違法性の主張を撤回し、再発防止研修そのものの違憲、違法性に焦点を合わせて主張するようになったという、この訴訟独自の経過が存したためであったと考えられる。これは、懲戒処分そのものの違憲、違法性の判断を求めるのは上記再発防止国賠訴訟ではなく、懲戒処分の取り消しを求める訴訟を別途提起し、そこで十分な主張、立証を尽くしてから判断を求めるのが相当であるとの判断からであった。
 既に述べたように、中西判決は、10・23通達に基づく職務命令と懲戒処分が違憲・違法であれば,再発防止研修は当然に違法であることを明確に判示している。
 この点,一審で10・23通達に基づく職務命令の違憲無効が認められた予防訴訟については,現在東京高裁に控訴審が係属している。また,今回の判決を下した東京地裁民事19部には,10・23通達に基づく職務命令と懲戒処分の違憲・違法を正面から争っている嘱託不採用国賠訴訟と懲戒処分取消訴訟が係属している(特に,嘱託不採用国賠訴訟は9月27日に結審予定)。これらの裁判で,10・23通達に基づく職務命令と懲戒処分の違憲・違法を正面から認める判決を得れば,再発防止研修は当然に中止させることができると考えられる。したがって,弁護団としては,本訴訟で得た思想良心の自由に関する保障対象論の判示を足がかりとして,上記訴訟に全力を集中し,10・23通達に基づく職務命令と懲戒処分の違憲・違法の判断を得ることで,再発防止研修を中止させることを目指したいと考える。

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