《東京「君が代」第3次訴訟12・24第3回口頭弁論 陳述要旨<3>》
◎ 第5 「不当な支配」について
「報告集会」 《撮影:平田 泉》
1 教育委員会における住民自治とその形骸化について
被告は、現行教育法制においては、地方自治の原則が重要な基本原理の一つであり、地方公共団体の教育委員会は、国と異なり、教育の内容及び方法について、大綱的基準の範囲にとどまらずに基準を設けることが出来ると主張します。
しかしながら、被告の主張は、次の点で誤っています。
まず、被告は、地方の教育委員会が、住民自治の理念を実現する存在として位置づけられているものであり、この考え方は、教育委員会法が地教行法に代わったあとも、受け継がれていると主張しています。
「教育委員会法」のもとでは、教育委員は住民が直接選挙で選ぶこととされていました。いわゆる「公選制」です。ですから、当時の教育委員会は、まさに住民の意思を直接反映する存在でした。
ところが、再び教育を中央集権化しようとする政治動向の中で制定された「地教行法」は、この公選制を廃止して、教育委員を地方公共団体の長による任命制に変えてしまったのです。長による任命には、地方議会の同意が必要ですが、いずれにしても、教育委員会法の時代と比べると、住民の意思の反映は極めて間接的なものになってしまいました。
このように、教育委員会法と現在の地教行法とでは、教育委員会の構成が大きく異なっており、住民参加、民意の反映という点で格段の差があることは明らかです。
このように、教育委員会法において住民参加の根幹を支えていた制度が廃止されたのですから、地教行法が教育委員会法と同じく住民参加の考え方に立っているという被告の主張は明らかに誤っています。
そして、現在の教育委員会が、住民の意思を直接反映する存在といえない以上、教育委員会が、教育の内容及び方法に関して基準を設定する場合には、住民自治の理念のもと、具体的かつ詳細な基準を設定することができ、またそれが要請されているという主張もまた誤りです。
2 地教行法23条5号等を10・23通達の適法性の根拠とする被告の主張について
被告は、職務命令は、個別具体的な職務の遂行について命ずるものであるから、ある程度細目にわたり、詳細なものでないと、遂行すべき職務が特定されないとの理由から、旧教育基本法10条1項(改正後の16条1項)の「不当な支配」については、地教行法23条5号及び同法17条1項との論理的整合性からして、教育委員会がその権限の行使として発出する通達ないし職務命令に関する限り、大綱的基準にとどまるべきものと解することはできず、通達ないし職務命令が大綱的基準を逸脱することだけを理由に、不当な支配にあたるということはできないと主張します。
しかしながら、この被告の主張は、次の3つの点において誤りであることが明らかです。
まず、被告の1つめの誤りは、組織規範にすぎない地教行法23条を、根拠規範として主張している点にあります。
行政活動を行う場合には、あらかじめ法律でその根拠が規定されていなければならないという法律の留保の原則があります。ここでいう法律とは、いわゆる根拠規範とよばれる、行政機関の具体的な活動について、その実体的要件・効果を定めた法をいいます。
ところが、地教行法23条は、単に、教育委員会の職務権限の分担を定めた組織規範にすぎず、根拠規範ではありません。
被告の2つめの誤りは、教育法規において準憲法的な性格を有する旧教育基本法の規定に沿うように地教行法を解釈しなければならないのに、地教行法23条5号と17条1項と論理的に整合するように、旧教育基本法10条1項の解釈を導いてしまっている点です。これは本末転倒も甚だしい、誤った主張と言わなければなりません。
被告の3つめの誤りは、地教行法の重要な理念である「指導行政の重視」、つまり、教育作用の本質は、指導であって、決して監督ではないという理念を無視している点です。「指導行政の重視」の理念から地教行法を解釈すれば、指導ではなく「職務命令」をもって画一的な規制を強制する10・23通達が許容されるはずがありません。
3 校長の固有の権限に基づく職務命令として適法との主張に対する反論
被告は、仮に、10・23通達及び都教委の一連の指導に、教育基本法の不当な支配にあたる違法があるとしても、都立学校の校長は、固有の権限として職務命令を発することもできるから、校長固有の権限に基づく職務命令として適法であると主張します。
しかしながら、被告自身も認めているとおり、実際に、本件において、各校長から原告らに出された職務命令は、すべて10・23通達と都教委の指導に従って、その意に沿うように出されたもので、校長が自らの判断で職務命令を出したといえる事例はありません。
被告の主張は、本件の実態を全く無視した、仮定の議論であり、本件に対する主張として、まったく意味をもちません。
また、仮に、校長の固有の権限に基づく職務命令として考えたとしても、その職務命令は、10・23通達とまったく同様に、憲法19条の思想・良心の自由、憲法20条の信教の自由を侵害するものであり、また国旗国歌法や児童の権利条約にも反する、違憲かつ違法なものであることに変わりはないのです。
以上のとおり、被告の主張は、いずれも誤った根拠に基づいており、理由がありません。
以上
◎ 第5 「不当な支配」について
「報告集会」 《撮影:平田 泉》
1 教育委員会における住民自治とその形骸化について
被告は、現行教育法制においては、地方自治の原則が重要な基本原理の一つであり、地方公共団体の教育委員会は、国と異なり、教育の内容及び方法について、大綱的基準の範囲にとどまらずに基準を設けることが出来ると主張します。
しかしながら、被告の主張は、次の点で誤っています。
まず、被告は、地方の教育委員会が、住民自治の理念を実現する存在として位置づけられているものであり、この考え方は、教育委員会法が地教行法に代わったあとも、受け継がれていると主張しています。
「教育委員会法」のもとでは、教育委員は住民が直接選挙で選ぶこととされていました。いわゆる「公選制」です。ですから、当時の教育委員会は、まさに住民の意思を直接反映する存在でした。
ところが、再び教育を中央集権化しようとする政治動向の中で制定された「地教行法」は、この公選制を廃止して、教育委員を地方公共団体の長による任命制に変えてしまったのです。長による任命には、地方議会の同意が必要ですが、いずれにしても、教育委員会法の時代と比べると、住民の意思の反映は極めて間接的なものになってしまいました。
このように、教育委員会法と現在の地教行法とでは、教育委員会の構成が大きく異なっており、住民参加、民意の反映という点で格段の差があることは明らかです。
このように、教育委員会法において住民参加の根幹を支えていた制度が廃止されたのですから、地教行法が教育委員会法と同じく住民参加の考え方に立っているという被告の主張は明らかに誤っています。
そして、現在の教育委員会が、住民の意思を直接反映する存在といえない以上、教育委員会が、教育の内容及び方法に関して基準を設定する場合には、住民自治の理念のもと、具体的かつ詳細な基準を設定することができ、またそれが要請されているという主張もまた誤りです。
2 地教行法23条5号等を10・23通達の適法性の根拠とする被告の主張について
被告は、職務命令は、個別具体的な職務の遂行について命ずるものであるから、ある程度細目にわたり、詳細なものでないと、遂行すべき職務が特定されないとの理由から、旧教育基本法10条1項(改正後の16条1項)の「不当な支配」については、地教行法23条5号及び同法17条1項との論理的整合性からして、教育委員会がその権限の行使として発出する通達ないし職務命令に関する限り、大綱的基準にとどまるべきものと解することはできず、通達ないし職務命令が大綱的基準を逸脱することだけを理由に、不当な支配にあたるということはできないと主張します。
しかしながら、この被告の主張は、次の3つの点において誤りであることが明らかです。
まず、被告の1つめの誤りは、組織規範にすぎない地教行法23条を、根拠規範として主張している点にあります。
行政活動を行う場合には、あらかじめ法律でその根拠が規定されていなければならないという法律の留保の原則があります。ここでいう法律とは、いわゆる根拠規範とよばれる、行政機関の具体的な活動について、その実体的要件・効果を定めた法をいいます。
ところが、地教行法23条は、単に、教育委員会の職務権限の分担を定めた組織規範にすぎず、根拠規範ではありません。
被告の2つめの誤りは、教育法規において準憲法的な性格を有する旧教育基本法の規定に沿うように地教行法を解釈しなければならないのに、地教行法23条5号と17条1項と論理的に整合するように、旧教育基本法10条1項の解釈を導いてしまっている点です。これは本末転倒も甚だしい、誤った主張と言わなければなりません。
被告の3つめの誤りは、地教行法の重要な理念である「指導行政の重視」、つまり、教育作用の本質は、指導であって、決して監督ではないという理念を無視している点です。「指導行政の重視」の理念から地教行法を解釈すれば、指導ではなく「職務命令」をもって画一的な規制を強制する10・23通達が許容されるはずがありません。
3 校長の固有の権限に基づく職務命令として適法との主張に対する反論
被告は、仮に、10・23通達及び都教委の一連の指導に、教育基本法の不当な支配にあたる違法があるとしても、都立学校の校長は、固有の権限として職務命令を発することもできるから、校長固有の権限に基づく職務命令として適法であると主張します。
しかしながら、被告自身も認めているとおり、実際に、本件において、各校長から原告らに出された職務命令は、すべて10・23通達と都教委の指導に従って、その意に沿うように出されたもので、校長が自らの判断で職務命令を出したといえる事例はありません。
被告の主張は、本件の実態を全く無視した、仮定の議論であり、本件に対する主張として、まったく意味をもちません。
また、仮に、校長の固有の権限に基づく職務命令として考えたとしても、その職務命令は、10・23通達とまったく同様に、憲法19条の思想・良心の自由、憲法20条の信教の自由を侵害するものであり、また国旗国歌法や児童の権利条約にも反する、違憲かつ違法なものであることに変わりはないのです。
以上のとおり、被告の主張は、いずれも誤った根拠に基づいており、理由がありません。
以上
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