《「子どもと教科書全国ネット21ニュース」から》
★ 中学3年生に自衛官募集事務所からダイレクトメールが
東京都あきる野市在住・元中学校教員 不破 修(ふわおさむ)
★ 「貧しい家に来たのかも」と中学生
6月、新日本婦人の会あきる野支部のメンバーに相談があった。「中学3年生の孫に、自衛隊からダイレクトメールが来た」「心配だ」。学校でも休み時間に、「なぜおれたちの所に来たんだ?」「貧しい家に来たのかも」などとおしゃべりしたという。
『広報あきる野』で調べてみると、2019年以降、陸上自衛隊の東京地方協力本部が市内全域の15歳の個人情報を閲覧していることが分かった。人数から見て、市内6中学校の男子全員にダイレクトメールが送られていたと思われる。高校3年生にも自衛官募集の案内が届いていることも耳に入ってきた。
中学3年生へのダイレクトメールは、宛先は「○○様の保護者様」(○○は生徒氏名)、差出人は「防衛省自衛隊東京地方協力本部福生募集案内所」、牛込局料金後納郵便となっている。
中には、陸上自衛隊高等工科学校(以下、陸自工科学校)の募集案内2枚と「はじめまして、自衛隊福生募集案内所です」を見出しとするカラーチラシ1枚が入っていた。
7月に入って、もう一つ情報が入った。市内A中学校の進路保護者会で、陸自工科学校の推薦基準が説明されたという。違和感をもった親もいる。数ある国公私立高校、企業内学校を含めた専門学校のなかで、この特殊な学校を取り上げることは、東京の公立中学校では、通常ありえない。
★ 市民課も認めた「目的外使用」
しっかり取り組まなければと話し合って、7月18日に市民課の担当係長の話を聞きに行った。
①国の機関の請求であり、通例により認めた。「目的」は陸自工科学校の「募集に関する案内」を送るため、「申請者」は東京地方協力本部長、福生募集案内所の広報官が来庁した。
②指定した日時・部屋で、黒ボールペンで書き写した。電子データやラベルの提供はしていない。
③何が送られたかは把握していない、
とのこと。後日、市民課から連絡があった。福生募集案内所に送付物を確認したが、陸自工科学校の募集案内以外の宣伝チラシの封入は「目的外使用」であり適切でなかったと。
中学校の進路説明会での陸自工科学校についての扱いは、教育委員会に問合せ、調査を求めている。
★ 個人情報の保護と自衛隊の特別扱い
住民基本台帳法が改正され、原則許可から個人情報保護に変わった(2008年施行)。もともと同法11条は、地方自治体が国家機関に情報提供する義務を定めてはいない。
憲法は、自衛隊を憲法上の機関とせず、13条で個人の尊重を定めている。にもかかわらず、閲覧やデジタルデータの提供など自衛隊への特別扱いが広がっている。これは、2019年1月の安倍晋三首相(当時)の国会発言、「6割以上の自治体から協力が得られていない」が影響していると思われる。安倍発言でも「協力」と言い、「義務を果たしていない」とは言っていないのだが。
2022年度には、閲覧自治体が1602市区町村、名簿提供は2019年以降急増して1068。それでも689自治体は閲覧も認めていない。
あきる野市の住基台帳の閲覧に関する事務取扱規則は極めて不完全で、個人情報保護の観点が欠けている。国などの閲覧に当たって本人の同意を求める規定、「除外申請」を認める規定も無い。まずは「除外申請」制度をつくるよう求めていきたい。
★ 陸自工科学校も「兵士養成機関」
焦点のいま一つは、陸自工科学校のあり方である。陸自工科学校は学校教育法1条校ではない。
前身は1955年設立の自衛隊少年工科学校で、生徒の身分は自衛官であった。2010年に改編され、生徒の身分は「特別職国家公務員」(防衛省職員扱い)とされた。これは子どもの権利条約の「少年兵禁止議定書」を批准したことに対応する衣替えである。
しかし現在も、自衛官募集HPにも加えられており、「将来陸上自衛官として大きく進展できる基礎を作ります」「陸曹として必要な各種技術の専門教育、防衛基礎学や各種訓練を受ける」とある。
「防衛基礎学」では、射撃訓練や戦闘訓練も行う。「卒業退学」=任官拒否する者も数名出るが、強い指導がなされるという。18歳以下の子どもに対する「兵士養成機関」の本質は変わっていない。
さらに昨年12月に閣議決定した安保三文書の一つ、防衛力整備計画では、「Ⅹ 防衛力の中核である自衛隊員の能力を発揮する基盤の強化」で「各自衛隊の共同化及び男女共学化を実施する」と特記している。
近年、応募倍率が低下しているが、処遇を改善し、パイロットやサイバー要員に憧れる生徒を惹きつける教育内容に改めるのだろう。数年後には、中学3年生の男女全員に、自衛隊からダイレクトメールが届くようになるかも知れない。
また「保護者様」とカモフラージュしているが、未成年に対する宣伝、広告であることも問題だ。
EUでは、「攻撃的な取引行為」として禁止し、日本でも内閣府消費者委員会などが対策を講じている。
しかし、「月額106,900円の生徒手当と年2回の期末手当」など書いてあると、高額な教育費を親に出してもらっていることに心悩ませている子どもは動かされてしまうのではないか。
★ 中高生の親世代と祖父母世代が通じあえる言葉を
8月の教育のつどい・教育フォーラムでのあきる野からの報告は反響を呼んだ。また都退教(東京都退職教職員の会)総会での発言は、出席者に衝撃を与えた。「戦争は教室から生まれる」と、来賓からもあいさつがあった。
私たち世代は、「赤紙」を連想し、少年飛行兵や満蒙開拓青少年義勇軍へ生徒たちを送り出した学校・教員を想起して、「とんでもない」「あり得ない」と反応する。
しかし、数年にわたって中学3年生男子の家庭、1500以上に陸自工科学校の募集案内が送られていたのだ。
入学した生徒がいたとも聞こえてきた。「問題だ」「心配」だと話題になったことはない。中高生の親の世代と祖父母の世代との間に、この問題のとらえ方の裂け目があるように思える。
自衛隊に対する評価は年々変化している。東日本大震災に出動して活動した自衛隊への評価は大きく上がった。社会科教科書には、「自衛隊は近年、日本の防衛だけでなく、さまざまな国際貢献の活動を行っています」(東京書籍『新しい社会公民』)と書くようになっている。
「自衛隊があった方がよい」とする意見が82%に達している(内閣府世論調査)。父母世代が、私などの世代とは違った感覚であることは忘れてはならない。
自衛隊からのダイレクトメールも、ほかの商品の広告と同じように、「うちには関係ない」とゴミに出していたのかもしれない。
一方、自衛隊のセクハラ、パワハラ、海外派遣された隊員の自殺やPTSDについての情報もある。自衛隊の充足率は下がっている。個人情報についての意識も高まっている。「だれの子どもも殺させない」という気持は変わらないだろう。中高生親世代と私たち世代が通じあえる言葉を見つけ、一緒に動けるスタイルを創りだしていく必要性を強く感じる。
★ 「21世紀に子どもたちを戦場に送らない連絡会」のキックオフ
安倍政権が敷いた「戦争法」のレールの上を岸田政権が暴走している。台湾で麻生自民党副総裁は「戦う決意」が必要と言い放った。
兵器を爆買いしても、使う兵士がいなければ戦争はできない。旗を振って送り出す地域がなければ戦争は続けられない。
あきる野市は、多摩川をはさんで横田基地と隣接している。基地機能は年々強化され、指揮・攻撃発進基地へと変容しつつある。住宅地上空での低空飛行、夜間飛行訓練も目に見えて増えている。
米軍も防衛省も、地域住民に支えられない軍事基地は弱いと認識し、地域に浸透しようとしている。2018年、市内B小で米軍軍楽隊を招いての音楽行事が行われた。市民団体や教職員組合が追及して、以後の波及を止めた経験をもっている。
9月29日に「21世紀に子どもたちを戦場に送らない連絡会」のキックオフの集いを開催した。
「『平和のうちに生存する権利』をうたった憲法をもつこの国で、この21世紀に、子どもたちを戦場に送ってはなりません。子どもたちに、『平和のバトン』を手渡していきたい。この国、この地域に住む一人一人の願いです」(集いの「よびかけ」より)
地域と学校は戦争の拠点ともなるし、戦争を押し止める力にもなる。危機感を覚えながらも、地域に小さな平和の波を広げていくことを目指している。
『子どもと教科書全国ネット21ニュース 152号』(2023.10)
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