=担当記者が見た舞台裏=
◆ 「コップの中」越えた嵐に (都政新報)
18日に行われた第2回定例都議会の一般質問で、みんなの党の塩村文夏氏が質問を行った際、「早く結婚した方がいいんじゃないか」など不適切なやじが飛んだ一件は、大きな社会問題に発展した。自民党の鈴木章浩氏が23日に一部の発言を認めて会派を離脱したが、影響は多方面に出ており、24日には安倍首相がみんなの党の浅尾代表に謝罪するなど、異例の事態が続く都議会という「コップの中」を越えた。嵐は巨大になったが、解決にはまだまだ時間を要しそうだ。
◆ 火種残して「幕引き」
問題発言の起きた18日の一般質問を振り返ると、いくつかのポイントになる出来事や要素があった。塩村都議は午後7時過ぎ、最後から2番目に登壇。少数会派の質問が続く時間帯で、議場にはやや緊張感に欠ける雰囲気が漂っていた。
議場の記者席にも数人の報道関係者がいるだけで、テレビカメラは議会中継用(シティーホールテレビ)の2台とNHKの1台という状況だった。
塩村氏の質問は▽受動喫煙▽動物愛護▽子育て支援など女性のサポート-の3項目。
冒頭の受動喫煙問題は、五輪招致などとも絡んで、都議会ではこれまでも喫煙派と禁煙派が意見を二分してきた「難問」で、この日の塩村氏も冒頭からやじにさらされた。
次の動物愛護に関する質問時もやじは絶えず、塩村氏が使った「後進国」との発言に反発する発言も聞こえた。そんな騒々しい雰囲気のまま、問題の瞬間を迎える。
本会議場は音が響きやすく、やじが一斉に複数の方向から出ると聞き分けにくい。「大きな騒ぎ声に聞き取れる言葉が混じっている」といった感じだ。また、演壇上のマイクは基本的には近い場所の音を指向するため、やじは録音されにくい。
しかし、「早く結婚した方がいいんじゃないか」というやじが飛んだのは、ちょうど塩村氏がが質問に一拍を置いた瞬間。マイクからの距離は遠いながらも鈴木氏の声はしっかり収録された。
一瞬、静まり返った1・3秒後、別の方向から「頑張れ」「動揺しちゃったじゃないか、可哀想に」と2人の男性の声が飛び、この直後に議場に笑い声が広がる。塩村氏が主張した「嘲笑」か否かは、判断が分かれるところだ。
既に鈴木氏のやじに気付いた議員から非難のような声も出ており、議場は混沌とするが、質問を止める動議はなかった。塩村氏自身も苦笑後に質問を継続。だが、質問中の声が震え、自席に戻ってからハンカチで涙を拭い始めると、議場全体がただならぬ事態を察知した。
◆ 4つの誤算
閉会直後、みんなの党の両角穣幹事長は「自民党の議席の方からやじがあった」として抗議したが、自民側は「誰が何を言ったか特定できない」と謝罪などを拒否。結果的にこの初動ミスが大混乱の引き金となる。自民側の誤算は四つある。
一つは、予想を超えるスピードでやじが社会問題へと発展し、対応が後手後手になっていった点だ。塩村氏を含むみんなの党の都議が18日深夜からツイッターやブログでやじ問題を取り上げると、急激な勢いで拡散。都議会という枠組みを超え、女性蔑視問題として多くの人が関心を持った。
二つ目の誤算は、証拠になり得る音源の存在だ。やじの起きた時、少なくとも3台のカメラが映像収録レていたが、やじがどの程度拾われているか不明だった。まず、19日午前には、議会中継の映像に鈴木氏の声が収録されていることが判明。さらに夕方以降、NHKが独目収録の音声をニュースで公開し始めると、これを聞いた議会関係者が声をそろえて「(鈴木)章浩さんだと分かるね」と漏らしたように、鈴木氏は謝罪する23日まで連日、報道陣から追い回されることになる。報道機関やワイドショーの取材による「犯人捜し」がエスカレートする中、鈴木氏に名前が似ている都議や議場で近くの席の都議にまで疑いが向けられ、対応に苦慮することになった。
誤算の三つ目は、鈴木氏本人が認めるまで5日間を要したことだ。19日時点で明瞭な音声が出てきて、批判的な世論の高まりなど外堀がどんどん埋まる中で、自民幹部も早期の決着を目指した節があるが、「本人が頑として発言を認めず、それ以上疑うわけにもいかなかったようだ」(自民関係者)。ただ、会派内には週明けには沈静化するだろうとの楽観論が根強かったこと、「幹部候補生」だった鈴木氏を出来れば守りたいとの意識もあり、行動の遅れにつながった。一部には、問題発生後に3日以内ならば行える「懲罰動議」の回避を意図したのではないか、との批判的な推測もある。
そして四つ目の誤算は、皮肉にも自民党本部の素早い対応だ。20日の閣議後の会見でも閣僚からは厳しいコメントが相次いだが、21日には石破茂幹事長がテレビ番組に出演し、「速やかに『私です』と言っておわびをすることが必要だ。我が党なら党としておわびをしなきゃいけない」とまで言及した。その一方、自民都連に早急な事態収拾を強く指示したとされ、都議会からも鈴木氏を含む事情聴取の状況を随時説明していたようだ。
◆ 傷ついた尊厳
「会派から人の尊厳にかかわる不規則発言をさせてしまったことは、心から自民党を代表しておわびを申し上げたい」23日、吉原修幹事長は都庁会見室で緊急会見を開き、厳しい表情で謝罪したが、その隣に鈴木氏の姿はなかった。
午前10時半過ぎ、鈴木氏は都議会幹部に対し、発言を認めるとともに会派離脱を申し出た。そのため、同席せず、詰め掛けた報道陣からは「結局、トカゲの尻尾切りか」との声が漏れた。
吉原幹事長の会見直後、「無所属」の鈴木氏は議会棟で塩村氏を含むみんなの党の4都議を前に、公開謝罪を行い、その後に謝罪会見に臨んだ。
週末にかけて報道陣から追われる中で、「発言していない」「辞職に値する」と主張していた鈴木氏が「初心に帰り、議会人として、このような状況を払拭するためにも、都議会の正常化のために頑張らせてもらいたい」と言った際には記者側から失笑も起きたが、旨その後、鈴木氏による1人会派の名称が発表された際には失笑を越え、呆れた表情を浮かべた人が少なくなかった。「都議会再生」。そこには堂々と、そう書かれていた。
25日の定例会最終日も開会時間の遅れなど混乱は続き、さらにうやむやな幕引きで都民や国民の厳しい目は向けられたままだ。議会の尊厳が深く傷付いたこの出来事を、終わりではなく始まりとしなければ、失墜した都議会の権威と信頼は二度と戻ってこないだろう。
※「女性都議、わずか27人」やじ問題を報じた海外メディアの分析
塩村氏へのやじ問題は、海外メディアにも大きく取り上げられた。米CNNテレビ(電子版)は21日、自民党の鈴木章浩氏が性差別的なやじを認めたと実名で報道。前日には、「塩村氏はやじに関わった他の議員も同様に名乗り出てほしいとしている」と伝えた。前日には、「より手厚い女性支援を求める発言をしていた女性議員に対し、議員らが性差別的な発言を浴びせ、日本で怒りが噴出している」と動画付きで報じた。
国内の各メディァでは「セクハラやじ」という呼称が一般的になっているが、原文は「sexist comments(性差別的な発言)」と厳しいトーンになっており、発言者は「lawmakers」と複数形になっていた。
英紙ガーディアン(電子版)も20日、「女性都議が育児支援の議論中に性差別的な暴言(sexist abuse)を受けた問題で、自民党幹部が『自浄作用を果たしてほしい』と東京都(議会)に促している」と、菅義偉官房長官のコメントを引用する形で報じた。
国内のワイドショーが主に犯人探しにスポットを当てているのに対し、海外の報道では安倍政権が成長戦略の中で「女性の活用」を推進しようとする背景に触れているのが特徴で、同紙は「安倍首相と自民党の執行部は暴言に困惑している」と指摘。
「都議会127人のうち女性はたった27人で、国会では772人のうち78人しかいない。議会(の男女)構成は日本における女性の影響力の小ささを反映している」と解説している。
安倍政権は成長戦略の中で「女性が輝く日本」を掲げ、「女性役員・管理職の増加」などを進める方針を示しており、党幹部が早のに火消しに走ったとも取れるが、より悪質な「産めないのか」という発言者は特定できておらず、さらなる火種となる可能性もある。
『都政新報』(2014年6月27日)
◆ 「コップの中」越えた嵐に (都政新報)
18日に行われた第2回定例都議会の一般質問で、みんなの党の塩村文夏氏が質問を行った際、「早く結婚した方がいいんじゃないか」など不適切なやじが飛んだ一件は、大きな社会問題に発展した。自民党の鈴木章浩氏が23日に一部の発言を認めて会派を離脱したが、影響は多方面に出ており、24日には安倍首相がみんなの党の浅尾代表に謝罪するなど、異例の事態が続く都議会という「コップの中」を越えた。嵐は巨大になったが、解決にはまだまだ時間を要しそうだ。
◆ 火種残して「幕引き」
問題発言の起きた18日の一般質問を振り返ると、いくつかのポイントになる出来事や要素があった。塩村都議は午後7時過ぎ、最後から2番目に登壇。少数会派の質問が続く時間帯で、議場にはやや緊張感に欠ける雰囲気が漂っていた。
議場の記者席にも数人の報道関係者がいるだけで、テレビカメラは議会中継用(シティーホールテレビ)の2台とNHKの1台という状況だった。
塩村氏の質問は▽受動喫煙▽動物愛護▽子育て支援など女性のサポート-の3項目。
冒頭の受動喫煙問題は、五輪招致などとも絡んで、都議会ではこれまでも喫煙派と禁煙派が意見を二分してきた「難問」で、この日の塩村氏も冒頭からやじにさらされた。
次の動物愛護に関する質問時もやじは絶えず、塩村氏が使った「後進国」との発言に反発する発言も聞こえた。そんな騒々しい雰囲気のまま、問題の瞬間を迎える。
本会議場は音が響きやすく、やじが一斉に複数の方向から出ると聞き分けにくい。「大きな騒ぎ声に聞き取れる言葉が混じっている」といった感じだ。また、演壇上のマイクは基本的には近い場所の音を指向するため、やじは録音されにくい。
しかし、「早く結婚した方がいいんじゃないか」というやじが飛んだのは、ちょうど塩村氏がが質問に一拍を置いた瞬間。マイクからの距離は遠いながらも鈴木氏の声はしっかり収録された。
一瞬、静まり返った1・3秒後、別の方向から「頑張れ」「動揺しちゃったじゃないか、可哀想に」と2人の男性の声が飛び、この直後に議場に笑い声が広がる。塩村氏が主張した「嘲笑」か否かは、判断が分かれるところだ。
既に鈴木氏のやじに気付いた議員から非難のような声も出ており、議場は混沌とするが、質問を止める動議はなかった。塩村氏自身も苦笑後に質問を継続。だが、質問中の声が震え、自席に戻ってからハンカチで涙を拭い始めると、議場全体がただならぬ事態を察知した。
◆ 4つの誤算
閉会直後、みんなの党の両角穣幹事長は「自民党の議席の方からやじがあった」として抗議したが、自民側は「誰が何を言ったか特定できない」と謝罪などを拒否。結果的にこの初動ミスが大混乱の引き金となる。自民側の誤算は四つある。
一つは、予想を超えるスピードでやじが社会問題へと発展し、対応が後手後手になっていった点だ。塩村氏を含むみんなの党の都議が18日深夜からツイッターやブログでやじ問題を取り上げると、急激な勢いで拡散。都議会という枠組みを超え、女性蔑視問題として多くの人が関心を持った。
二つ目の誤算は、証拠になり得る音源の存在だ。やじの起きた時、少なくとも3台のカメラが映像収録レていたが、やじがどの程度拾われているか不明だった。まず、19日午前には、議会中継の映像に鈴木氏の声が収録されていることが判明。さらに夕方以降、NHKが独目収録の音声をニュースで公開し始めると、これを聞いた議会関係者が声をそろえて「(鈴木)章浩さんだと分かるね」と漏らしたように、鈴木氏は謝罪する23日まで連日、報道陣から追い回されることになる。報道機関やワイドショーの取材による「犯人捜し」がエスカレートする中、鈴木氏に名前が似ている都議や議場で近くの席の都議にまで疑いが向けられ、対応に苦慮することになった。
誤算の三つ目は、鈴木氏本人が認めるまで5日間を要したことだ。19日時点で明瞭な音声が出てきて、批判的な世論の高まりなど外堀がどんどん埋まる中で、自民幹部も早期の決着を目指した節があるが、「本人が頑として発言を認めず、それ以上疑うわけにもいかなかったようだ」(自民関係者)。ただ、会派内には週明けには沈静化するだろうとの楽観論が根強かったこと、「幹部候補生」だった鈴木氏を出来れば守りたいとの意識もあり、行動の遅れにつながった。一部には、問題発生後に3日以内ならば行える「懲罰動議」の回避を意図したのではないか、との批判的な推測もある。
そして四つ目の誤算は、皮肉にも自民党本部の素早い対応だ。20日の閣議後の会見でも閣僚からは厳しいコメントが相次いだが、21日には石破茂幹事長がテレビ番組に出演し、「速やかに『私です』と言っておわびをすることが必要だ。我が党なら党としておわびをしなきゃいけない」とまで言及した。その一方、自民都連に早急な事態収拾を強く指示したとされ、都議会からも鈴木氏を含む事情聴取の状況を随時説明していたようだ。
◆ 傷ついた尊厳
「会派から人の尊厳にかかわる不規則発言をさせてしまったことは、心から自民党を代表しておわびを申し上げたい」23日、吉原修幹事長は都庁会見室で緊急会見を開き、厳しい表情で謝罪したが、その隣に鈴木氏の姿はなかった。
午前10時半過ぎ、鈴木氏は都議会幹部に対し、発言を認めるとともに会派離脱を申し出た。そのため、同席せず、詰め掛けた報道陣からは「結局、トカゲの尻尾切りか」との声が漏れた。
吉原幹事長の会見直後、「無所属」の鈴木氏は議会棟で塩村氏を含むみんなの党の4都議を前に、公開謝罪を行い、その後に謝罪会見に臨んだ。
週末にかけて報道陣から追われる中で、「発言していない」「辞職に値する」と主張していた鈴木氏が「初心に帰り、議会人として、このような状況を払拭するためにも、都議会の正常化のために頑張らせてもらいたい」と言った際には記者側から失笑も起きたが、旨その後、鈴木氏による1人会派の名称が発表された際には失笑を越え、呆れた表情を浮かべた人が少なくなかった。「都議会再生」。そこには堂々と、そう書かれていた。
25日の定例会最終日も開会時間の遅れなど混乱は続き、さらにうやむやな幕引きで都民や国民の厳しい目は向けられたままだ。議会の尊厳が深く傷付いたこの出来事を、終わりではなく始まりとしなければ、失墜した都議会の権威と信頼は二度と戻ってこないだろう。
※「女性都議、わずか27人」やじ問題を報じた海外メディアの分析
塩村氏へのやじ問題は、海外メディアにも大きく取り上げられた。米CNNテレビ(電子版)は21日、自民党の鈴木章浩氏が性差別的なやじを認めたと実名で報道。前日には、「塩村氏はやじに関わった他の議員も同様に名乗り出てほしいとしている」と伝えた。前日には、「より手厚い女性支援を求める発言をしていた女性議員に対し、議員らが性差別的な発言を浴びせ、日本で怒りが噴出している」と動画付きで報じた。
国内の各メディァでは「セクハラやじ」という呼称が一般的になっているが、原文は「sexist comments(性差別的な発言)」と厳しいトーンになっており、発言者は「lawmakers」と複数形になっていた。
英紙ガーディアン(電子版)も20日、「女性都議が育児支援の議論中に性差別的な暴言(sexist abuse)を受けた問題で、自民党幹部が『自浄作用を果たしてほしい』と東京都(議会)に促している」と、菅義偉官房長官のコメントを引用する形で報じた。
国内のワイドショーが主に犯人探しにスポットを当てているのに対し、海外の報道では安倍政権が成長戦略の中で「女性の活用」を推進しようとする背景に触れているのが特徴で、同紙は「安倍首相と自民党の執行部は暴言に困惑している」と指摘。
「都議会127人のうち女性はたった27人で、国会では772人のうち78人しかいない。議会(の男女)構成は日本における女性の影響力の小ささを反映している」と解説している。
安倍政権は成長戦略の中で「女性が輝く日本」を掲げ、「女性役員・管理職の増加」などを進める方針を示しており、党幹部が早のに火消しに走ったとも取れるが、より悪質な「産めないのか」という発言者は特定できておらず、さらなる火種となる可能性もある。
『都政新報』(2014年6月27日)
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