《IOCへの諫言 五輪憲章から矛盾を糺す(日刊ゲンダイ)》
◆ オリンピックの憲法がひっそりと改正、承認されていた!
オリンピックの理念は究極的にスポーツで世界平和を構築することである。メディアがこれまで批判してきたオリンピックの肥大化もプロ化も商業主義化もすべてこの理念を実現するための過程であると私は見てきた。
オリンピックやそれをつかさどる国際オリンピック委員会(IOC)を本当に批判するならば、世界平和の構築に向かって今どこにあるかを問うべきだ。
折しも北京冬季五輪が終わった直後にロシアがウクライナに侵攻した。北京での平和の祭典にわざわざやってきたプーチン大統領が戦争を始めたのだ。この矛盾に早速、IOCも声明を出して非難したが、本心でオリンピック休戦を実践するならば違った展開があったのではないか?
北京冬季五輪にはIOCに自戒を求める多くの懸案事項が噴出した。
外交的ボイコット、不可解な競技裁定、ロシアのドーピング問題など枚挙にいとまなしだが、オリンピックの憲法、五輪憲章からその課題についてひもとき、論ずべきと悟った。
東京五輪2020の最中、その公式ウェブサイトに私は驚くべきリストを発見した。メダルという項目をクリックすると、そこにはなんと金メダル獲得数順位一覧が展開されているではないか? 五輪が始まると必ず新聞紙面に掲載されるリストと同様のものである。
なぜダメなのか。そこには「スポーツで世界平和」のためのくびきがあるのだ。
◆ 憲章第57条<国別メダルランキング>
オリンピック憲章第57条は「IOCとOCOG(組織委)は国ごとの世界ランキングを作成してはならない……」と明確に記している。なぜか?
同憲章第6条に「オリンピック競技大会は、個人種目または団体種目での選手間の競争であり、国家間の競争ではない……」と規定されているからだ。
世界平和構築のためにまず越えなければならないハードルがある。それがナショナリズムである。
選手はそれぞれの国(あるいは地域)を代表してオリンピックに参加するが、それは形式上のことであり、本質的にはあくまでも選手対選手、チーム対チームが競い合うのがオリンピックである。
であれば、当然のことながら、国別ランキングを求めることこそオリンピック憲章違反となる。
◆ 理念を捨て、ナショナリズムをあおる変節に愕然
オリンピックが始まれば、自国の選手を応援する熱い日々を世界中の誰もが経験する。これが現実で、新聞各紙も競って国別メダル数一覧を掲載、ナショナリズムをあおる。
メディアは仕方ないが、オリンピズムを推進するIOCや組織委は作る根拠がない。
それが東京五輪2020のウェブサイトに堂々と鎮座しているのである。五輪が開催された翌日、昨年の7月24日のことだ。
私はIOCと組織委にそれぞれメールと電話で疑問を投げかけた。明確な回答はこなかったし、サイトの変更もなかった。
そして北京冬季五輪が開会し、同組織委の公式サイトを見た。
思わず「北京おまえもか!?」と叫んだ。
悪びれずに躍る国別メダルランキング。
再びIOCにメールを書こうとしたが、もしかしてと現行憲章をチェックした。
すると驚くべきことに第57条は「競技成績の表示は、情報提供のために、IOCが作成でき、IOCが承認すれば組織委も作成できる」に変わっていたのである。
理念を捨ててオリンピックが国と国の闘いで盛り上がる現実に合わせてしまった。
私は再び叫んだ。
IOCおまえもか!?
この憲章改正は2021年8月8日開催のIOC総会で承認されていた。
東京五輪閉会の日であった。(つづく)
◆ ※ 春日良一 元JOC職員・スポーツコンサルタント
長野県出身。上智大学哲学科卒。1978年に日本体育協会に入る。89年に新生JOCに移り、IOC渉外担当に。90年長野五輪招致委員会に出向、招致活動に関わる。95年にJOCを退職。スポーツコンサルティング会社を設立し、代表に。98年から五輪批評「スポーツ思考」(メルマガ)主筆。
『日刊ゲンダイ』(2022/03/08)
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/sports/302175
◆ オリンピックの憲法がひっそりと改正、承認されていた!
春日良一(元JOC職員・スポーツコンサルタント)
オリンピックの理念は究極的にスポーツで世界平和を構築することである。メディアがこれまで批判してきたオリンピックの肥大化もプロ化も商業主義化もすべてこの理念を実現するための過程であると私は見てきた。
オリンピックやそれをつかさどる国際オリンピック委員会(IOC)を本当に批判するならば、世界平和の構築に向かって今どこにあるかを問うべきだ。
折しも北京冬季五輪が終わった直後にロシアがウクライナに侵攻した。北京での平和の祭典にわざわざやってきたプーチン大統領が戦争を始めたのだ。この矛盾に早速、IOCも声明を出して非難したが、本心でオリンピック休戦を実践するならば違った展開があったのではないか?
北京冬季五輪にはIOCに自戒を求める多くの懸案事項が噴出した。
外交的ボイコット、不可解な競技裁定、ロシアのドーピング問題など枚挙にいとまなしだが、オリンピックの憲法、五輪憲章からその課題についてひもとき、論ずべきと悟った。
東京五輪2020の最中、その公式ウェブサイトに私は驚くべきリストを発見した。メダルという項目をクリックすると、そこにはなんと金メダル獲得数順位一覧が展開されているではないか? 五輪が始まると必ず新聞紙面に掲載されるリストと同様のものである。
なぜダメなのか。そこには「スポーツで世界平和」のためのくびきがあるのだ。
◆ 憲章第57条<国別メダルランキング>
オリンピック憲章第57条は「IOCとOCOG(組織委)は国ごとの世界ランキングを作成してはならない……」と明確に記している。なぜか?
同憲章第6条に「オリンピック競技大会は、個人種目または団体種目での選手間の競争であり、国家間の競争ではない……」と規定されているからだ。
世界平和構築のためにまず越えなければならないハードルがある。それがナショナリズムである。
選手はそれぞれの国(あるいは地域)を代表してオリンピックに参加するが、それは形式上のことであり、本質的にはあくまでも選手対選手、チーム対チームが競い合うのがオリンピックである。
であれば、当然のことながら、国別ランキングを求めることこそオリンピック憲章違反となる。
◆ 理念を捨て、ナショナリズムをあおる変節に愕然
オリンピックが始まれば、自国の選手を応援する熱い日々を世界中の誰もが経験する。これが現実で、新聞各紙も競って国別メダル数一覧を掲載、ナショナリズムをあおる。
メディアは仕方ないが、オリンピズムを推進するIOCや組織委は作る根拠がない。
それが東京五輪2020のウェブサイトに堂々と鎮座しているのである。五輪が開催された翌日、昨年の7月24日のことだ。
私はIOCと組織委にそれぞれメールと電話で疑問を投げかけた。明確な回答はこなかったし、サイトの変更もなかった。
そして北京冬季五輪が開会し、同組織委の公式サイトを見た。
思わず「北京おまえもか!?」と叫んだ。
悪びれずに躍る国別メダルランキング。
再びIOCにメールを書こうとしたが、もしかしてと現行憲章をチェックした。
すると驚くべきことに第57条は「競技成績の表示は、情報提供のために、IOCが作成でき、IOCが承認すれば組織委も作成できる」に変わっていたのである。
理念を捨ててオリンピックが国と国の闘いで盛り上がる現実に合わせてしまった。
私は再び叫んだ。
IOCおまえもか!?
この憲章改正は2021年8月8日開催のIOC総会で承認されていた。
東京五輪閉会の日であった。(つづく)
◆ ※ 春日良一 元JOC職員・スポーツコンサルタント
長野県出身。上智大学哲学科卒。1978年に日本体育協会に入る。89年に新生JOCに移り、IOC渉外担当に。90年長野五輪招致委員会に出向、招致活動に関わる。95年にJOCを退職。スポーツコンサルティング会社を設立し、代表に。98年から五輪批評「スポーツ思考」(メルマガ)主筆。
『日刊ゲンダイ』(2022/03/08)
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/sports/302175
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