☆ 4月16日東京高裁は都側の控訴を棄却。免職された新任教員高裁でも勝訴!
● パワハラ、免職・・・
夢打ち砕かれた新任教員 (週刊金曜日)
新年度を迎え、全国の学校には多くの新任教員が赴任した。だが、一部の管理職の横暴で、夢や希望が打ち砕かれることも・・・。ある教員の体験から、異常な学校の実態が見えてきた。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/08/7d/3e74d03d9ced749c8791a653873dd240.jpg)
東京都の教員採用試験に合格したにもかかわらず、採用1年目で分限免職となった教員がいる。杉山和彦さん(仮名・30代)は、2011年4月に新任の数学科教員として都立学校に赴任した。副担任を務めるかたわら、運動部の顧問となり、週休日の部活動にも精力的に取り組んでいた。そんな杉山さんに、いったい何があったのか。
● 執拗な管理職の暴言
杉山さんの勤務校では、校長によるパワハラが横行していた。校長は気に入らない教員を日常的に怒鳴り、「あんたは最低!」「あんたアタマ大丈夫?」といった侮辱的な発言を繰り返した。
杉山さんもパワハラの標的となった。杉山さんは臨時教員のときに、副校長と同じ学校に勤務していたことがあり、公私にわたり親しい関係にあった。それを見た校長は「馴れ馴れしい新人だ」と快く思わなかったようだ。
校長のパワハラが強まったのは、数学のテストをめぐる対応だった。杉山さんはテストで0点を取った生徒の答案に「ある意味Great!」と記述し、笑顔マークのスタンプを押して返却した。テスト結果に気落ちせず勉強に励んでほしいとの思いと、反省を促す意味があった。
もちろん、生徒とは授業や委員会活動を通して信頼関係があったうえでの行為だった。しかし、生徒はテスト結果を笑いながらクラスメートに公表し、反省する様子がなかったために杉山さんは厳しく注意した。
それに対して、校長は「(『ある意味Great!』とは)生徒に対する人権侵害だ。どうやったってあんた一人で責任は取れんぞ」と杉山さんを激しく叱責した。杉山さんは生徒の自宅を訪問して謝罪したが、生徒の両親と生徒本人からは何ら苦情はなかった。
その後、校長は杉山さんの授業を他の教員に監視させる「観察授業」をはじめる。ところが、授業への具体的な指導などはまったくなく、監視はーカ月ほどで終了した。杉山さんがその理由を尋ねると、校長は「そんなくだらんことを聞きに来るな。帰れ!」と怒鳴った。
そして、2学期に入ると杉山さんの初任者研修の担当指導教員を突然解任したのだ。初任者研修は、新規採用(新採)教員の基礎的な知識や技能、資質の向上を図る制度だ。
東京都では、研修センターで行なう研修(全10回)と校内研修(授業研修120時間、授業外研修60時間)に加え、2泊3日の宿泊研修や課題別研修(6単位以上)がある。指導教員は研修計画の作成にかかわり、新採教員に指導・助言する立場にある。つまり、指導教員は初任者研修の要だ。
杉山さんは、担当の指導教員とは何らトラブルはなかった。にもかかわらず、校長はレポートの未提出を理由に「研修の指導を拒否するとはあんたなんか人間じゃない」と罵倒した。
校長のパワハラは杉山さんの指導責任者だった副校長にも向けられた。校長は副校長に対し、「あんたが杉山を甘やかすからこうなるのだ。あんたの責任だ」となじり、「あんた殺すよ」と発言したこともあった。
杉山さんはこのままでは研修が修了できなくなるため、「(後任の)指導教員をつけてほしい」と訴えた。だが、校長は「あんたの研修は修了できなくなるけどね、でも(指導教員は)つけないよ」と取り合わなかった。
杉山さんは東京都教育委員会(都教委)の担当者にも「指導教員が不在だ」と3回にわたり事情を説明したが、担当者らは「関係部署と協議する」と答えるだけで状況は改善されなかった。
結果的に、杉山さんが修了できた研修は授業研修120時間中99時間、授業外研修60時間中7時間にとどまった。
校長は、杉山さんに「来年度、ここで働かせたくない」と言い放ち、教員として不適格とする評価所見を都教委に提出した。杉山さんは校長の所見に対する意見書を都教委に送ったが、返答はなかった。
その後、都教委は杉山さんに退職届を出すよう求めた。納得のいかない杉山さんはそれを拒否。免職処分の発令通知書も受け取りに行かなかった。
そして、12年3月末日をもって免職処分となったのだ。処分通知書は、杉山さんの自宅ポストに投函されていた。
● 都教委の違法を断罪
校長のパワハラによって初任者研修が受けられず、悪意に満ちた評価で免職処分にされたー。杉山さんは12年9月、都教委を相手に、免職処分の取り消しを求める裁判を起こした。
都教委側は、指導教員が外れたのは杉山さんの反抗的態度が原因であり、その後は指導責任者の副校長が指導・助言にあたったとした。そして、初任者研修の未修了と免職処分に関係性はないとした。
また、杉山さんが「授業中に携帯電話で株取引をしていた」「校長とケンカすると発言した」などと事実に反する主張をした。
一方で、校長は初任者研修の年間指導計画にすら目を通していなかったことがわかり、研修の指導ずさん体制の杜撰さが明らかになった。
東京地裁は昨年12月、「十分な初任者研修が行われていないにもかかわらず、単なる原告(杉山さん)の未熟な人格態度をもって、直ちに原告に教員としての適格性を欠くと判断することは相当ではない」と校長の評価を「不合理」とした。
そして、都教委が校長の評価のみで免職処分にしたのは、裁量権の逸脱・濫用で「違法」と断じ、処分取り消しの判決を下した。だが、都は控訴した。
都教委の違法は断罪されたが、新採教員が退職に追い込まれるケースは少なくない。
教育公務員の場合、新採一年目は「条件附採用」とされ、正式採用には校長の評価が大きく左右する。
文部科学省の調査では、13年度に正式採用されなかった新採教員は全国で351人に達し、東京都は79人と突出して高い(注・表参照)。その裏側では、退職強要につながるようなパワハラも顕在化している。
たとえば、校長から「教員に向いていない」と退職を迫られた。
教室で「授業の仕方が悪い」と大声で怒鳴られた。
子どもや保護者の前で吐責された。
校長室で長時間拘束され暴言を受けた。
机や黒板にファイルを叩きつけられた。
「土日も働け」と要求された。
「(校長への返答は)『Yes』か『ハイ』しかない」と言われた。
研修レポートの書き直しを何度も求められた、などだ。
ある教員は業績評価の自己申告書に「B」と控えめに自己採点したところ、校長から「お前が『B』かよ」と言われ赤ペンで低評価に訂正させられた。
こうしたパワハラ行為の背景には職階制や人事考課制度がある。
東京都では03年度に主幹制度が導入され、学校は校長を頂点とする縦社会となった。校長のなかには、全権を掌握していると勘違いし、新採教員の資質をあげつらい、泣くまで追い詰める者もいる。一方で、初任者研修では管理職の命令には忠実に従うよう、繰り返し叩き込まれる。
また、新採教員には即戦力が求められるため、「仕事が遅い」「動作が鈍い」だけで「足を引っ張る新人」と排除されかねないのが実情だ。
教員の協同性は「教職員組合的な考え方」として否定され、同僚のミスを期待するような悪しき競争主義が広がりつつある。
校長の評価を気にするうちに、若くて熱心な教員ほど管理職に洗脳されていく。こうして、もの言わぬ従順な教員が養成される。
念願の公立学校の教員になった杉山さん。一日も早い職場復帰を望んでいる。東京高裁の判決は4月16日に迫っている。
(注)都教委は、地方出身者が出身地の採用試験に合格して自主退職するケースもあり、「必ずしも高い数値ではない」とする。ちなみに、東京都に次いで多いのは大阪府40人、埼玉県30人、神奈川県18人(いずれも13年度)。
『週刊金曜日』2015.4.10(1035号)
● パワハラ、免職・・・
夢打ち砕かれた新任教員 (週刊金曜日)
新年度を迎え、全国の学校には多くの新任教員が赴任した。だが、一部の管理職の横暴で、夢や希望が打ち砕かれることも・・・。ある教員の体験から、異常な学校の実態が見えてきた。
平舘英明(ひらたてひであき・ジャーナリスト)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/08/7d/3e74d03d9ced749c8791a653873dd240.jpg)
東京都の教員採用試験に合格したにもかかわらず、採用1年目で分限免職となった教員がいる。杉山和彦さん(仮名・30代)は、2011年4月に新任の数学科教員として都立学校に赴任した。副担任を務めるかたわら、運動部の顧問となり、週休日の部活動にも精力的に取り組んでいた。そんな杉山さんに、いったい何があったのか。
● 執拗な管理職の暴言
杉山さんの勤務校では、校長によるパワハラが横行していた。校長は気に入らない教員を日常的に怒鳴り、「あんたは最低!」「あんたアタマ大丈夫?」といった侮辱的な発言を繰り返した。
杉山さんもパワハラの標的となった。杉山さんは臨時教員のときに、副校長と同じ学校に勤務していたことがあり、公私にわたり親しい関係にあった。それを見た校長は「馴れ馴れしい新人だ」と快く思わなかったようだ。
校長のパワハラが強まったのは、数学のテストをめぐる対応だった。杉山さんはテストで0点を取った生徒の答案に「ある意味Great!」と記述し、笑顔マークのスタンプを押して返却した。テスト結果に気落ちせず勉強に励んでほしいとの思いと、反省を促す意味があった。
もちろん、生徒とは授業や委員会活動を通して信頼関係があったうえでの行為だった。しかし、生徒はテスト結果を笑いながらクラスメートに公表し、反省する様子がなかったために杉山さんは厳しく注意した。
それに対して、校長は「(『ある意味Great!』とは)生徒に対する人権侵害だ。どうやったってあんた一人で責任は取れんぞ」と杉山さんを激しく叱責した。杉山さんは生徒の自宅を訪問して謝罪したが、生徒の両親と生徒本人からは何ら苦情はなかった。
その後、校長は杉山さんの授業を他の教員に監視させる「観察授業」をはじめる。ところが、授業への具体的な指導などはまったくなく、監視はーカ月ほどで終了した。杉山さんがその理由を尋ねると、校長は「そんなくだらんことを聞きに来るな。帰れ!」と怒鳴った。
そして、2学期に入ると杉山さんの初任者研修の担当指導教員を突然解任したのだ。初任者研修は、新規採用(新採)教員の基礎的な知識や技能、資質の向上を図る制度だ。
東京都では、研修センターで行なう研修(全10回)と校内研修(授業研修120時間、授業外研修60時間)に加え、2泊3日の宿泊研修や課題別研修(6単位以上)がある。指導教員は研修計画の作成にかかわり、新採教員に指導・助言する立場にある。つまり、指導教員は初任者研修の要だ。
杉山さんは、担当の指導教員とは何らトラブルはなかった。にもかかわらず、校長はレポートの未提出を理由に「研修の指導を拒否するとはあんたなんか人間じゃない」と罵倒した。
校長のパワハラは杉山さんの指導責任者だった副校長にも向けられた。校長は副校長に対し、「あんたが杉山を甘やかすからこうなるのだ。あんたの責任だ」となじり、「あんた殺すよ」と発言したこともあった。
杉山さんはこのままでは研修が修了できなくなるため、「(後任の)指導教員をつけてほしい」と訴えた。だが、校長は「あんたの研修は修了できなくなるけどね、でも(指導教員は)つけないよ」と取り合わなかった。
杉山さんは東京都教育委員会(都教委)の担当者にも「指導教員が不在だ」と3回にわたり事情を説明したが、担当者らは「関係部署と協議する」と答えるだけで状況は改善されなかった。
結果的に、杉山さんが修了できた研修は授業研修120時間中99時間、授業外研修60時間中7時間にとどまった。
校長は、杉山さんに「来年度、ここで働かせたくない」と言い放ち、教員として不適格とする評価所見を都教委に提出した。杉山さんは校長の所見に対する意見書を都教委に送ったが、返答はなかった。
その後、都教委は杉山さんに退職届を出すよう求めた。納得のいかない杉山さんはそれを拒否。免職処分の発令通知書も受け取りに行かなかった。
そして、12年3月末日をもって免職処分となったのだ。処分通知書は、杉山さんの自宅ポストに投函されていた。
● 都教委の違法を断罪
校長のパワハラによって初任者研修が受けられず、悪意に満ちた評価で免職処分にされたー。杉山さんは12年9月、都教委を相手に、免職処分の取り消しを求める裁判を起こした。
都教委側は、指導教員が外れたのは杉山さんの反抗的態度が原因であり、その後は指導責任者の副校長が指導・助言にあたったとした。そして、初任者研修の未修了と免職処分に関係性はないとした。
また、杉山さんが「授業中に携帯電話で株取引をしていた」「校長とケンカすると発言した」などと事実に反する主張をした。
一方で、校長は初任者研修の年間指導計画にすら目を通していなかったことがわかり、研修の指導ずさん体制の杜撰さが明らかになった。
東京地裁は昨年12月、「十分な初任者研修が行われていないにもかかわらず、単なる原告(杉山さん)の未熟な人格態度をもって、直ちに原告に教員としての適格性を欠くと判断することは相当ではない」と校長の評価を「不合理」とした。
そして、都教委が校長の評価のみで免職処分にしたのは、裁量権の逸脱・濫用で「違法」と断じ、処分取り消しの判決を下した。だが、都は控訴した。
都教委の違法は断罪されたが、新採教員が退職に追い込まれるケースは少なくない。
教育公務員の場合、新採一年目は「条件附採用」とされ、正式採用には校長の評価が大きく左右する。
文部科学省の調査では、13年度に正式採用されなかった新採教員は全国で351人に達し、東京都は79人と突出して高い(注・表参照)。その裏側では、退職強要につながるようなパワハラも顕在化している。
たとえば、校長から「教員に向いていない」と退職を迫られた。
教室で「授業の仕方が悪い」と大声で怒鳴られた。
子どもや保護者の前で吐責された。
校長室で長時間拘束され暴言を受けた。
机や黒板にファイルを叩きつけられた。
「土日も働け」と要求された。
「(校長への返答は)『Yes』か『ハイ』しかない」と言われた。
研修レポートの書き直しを何度も求められた、などだ。
ある教員は業績評価の自己申告書に「B」と控えめに自己採点したところ、校長から「お前が『B』かよ」と言われ赤ペンで低評価に訂正させられた。
こうしたパワハラ行為の背景には職階制や人事考課制度がある。
東京都では03年度に主幹制度が導入され、学校は校長を頂点とする縦社会となった。校長のなかには、全権を掌握していると勘違いし、新採教員の資質をあげつらい、泣くまで追い詰める者もいる。一方で、初任者研修では管理職の命令には忠実に従うよう、繰り返し叩き込まれる。
また、新採教員には即戦力が求められるため、「仕事が遅い」「動作が鈍い」だけで「足を引っ張る新人」と排除されかねないのが実情だ。
教員の協同性は「教職員組合的な考え方」として否定され、同僚のミスを期待するような悪しき競争主義が広がりつつある。
校長の評価を気にするうちに、若くて熱心な教員ほど管理職に洗脳されていく。こうして、もの言わぬ従順な教員が養成される。
念願の公立学校の教員になった杉山さん。一日も早い職場復帰を望んでいる。東京高裁の判決は4月16日に迫っている。
(注)都教委は、地方出身者が出身地の採用試験に合格して自主退職するケースもあり、「必ずしも高い数値ではない」とする。ちなみに、東京都に次いで多いのは大阪府40人、埼玉県30人、神奈川県18人(いずれも13年度)。
『週刊金曜日』2015.4.10(1035号)
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