2023年12月25日
◆ 原告ら訴訟代理人 弁護士 山本紘太郎
1 原告らの主張
原告らは、国際人権の問題を大きく2つの視点から主張しています。「条約違反」と「国際機関から勧告が出ている事実を理由とする憲法違反・裁量権逸脱濫用」です。
2 国際機関からの勧告
本訴で強調すべきは、本件に「直接」関連して、日本政府が、国際機関から相次いで勧告を受けていることです。
重要な勧告として、2014年と2022年に出された自由権規約委員会からの勧告と2019年と2022年に出されたILO/ユネスコ共同専門家委員会、略称「セアート」からの勧告があります。
その他、2010年と2019年に出された子どもの権利委員会からの勧告も、本件に関連する重要な勧告ですが、時間の都合、ここでは割愛します。
3 国際機関からの勧告
国際機関からの勧告は、権限ある専門機関が、責任のある国家に対し、人権状況の改善が必要な場合に出るものです。
しかし日本政府や都教委は、それぞれ自身に関わる重要な勧告であるにもかかわらず、(2011年最高裁判決後の)2014年勧告から数えれば、既に9年間もの間、国際機関からの勧告を無視し続けていることになります。
しかし、これは許されないであろうと原告らは主張しています。
4 主張①条約違反の争点
本訴の特徴を踏まえ、一つ目の主張、条約違反に関し、現在上がっている主な争点は、大きく2つです。
一つが、自由権規約18条と憲法19条、20条とでは、「人権保障の範囲」が異なることです。
対して、被告らは、憲法が条約より優位することを理由に、憲法に違反しなければ条約にも違反しないと主張します。
しかし、憲法と条約とでは条文もその構造も異なっており、憲法解釈とは別に条約解釈のための判断枠組みが必要です。
また条約の人権保障の範囲が憲法のそれよりも広い場合は、条約による人権保障がされるのであり、人権保障の範囲をいわゆる憲法優位説で説明することもできません(添付スライド④右側水色部分の図参照。)。
本件事案に言及した自由権規約委員会からの2022年勧告は、このことを明確にしたと言えます。
5 主張①条約違反の争点
もう一つが、条約の解釈は、関連する勧告や一般的意見など「国際機関の解釈を参照」してされなければならないことです。
対して、被告らは、法的拘束力がないから従う必要がないとしています。
ここで一つ確認しておくべきこととして、原告らは法的拘束力があるという主張はしていません。この意味で、被告らの主張はそもそも噛み合っていないと言えます。
条約解釈の方法には、「国際機関の解釈を参照すべきルール」があります。
日本が全く自由にできるものではなく、国際慣習法を文書化した条約法条約に準拠して行うという制限があります。
憲法も、国際協調主義、条約の誠実遵守義務、更には裁判官の良心という形で、条約解釈の制限を定めています。これらの制限の範囲内で、日本が条約実現義務を負っていること、勧告が専門家集団による有権的解釈であること、勧告や一般的意見などの内容が至って合理的であることなどを踏まえれば、どう考えても、条約解釈に際して国際機関の解釈が参照されなければならないと、原告らは主張しています。
この条約解釈については、戸田教授の意見書を提出し、証人尋問の証拠申出をしています。
6 主張②勧告を踏まえた解釈
原告らは2つ目の主張として、国際機関から重要な勧告が出ているという事実を踏まえた、憲法、法令の解釈がされなければならないとも主張しています。
まず、勧告は、「本件処分に合理性がない」ことを明らかにしています。
教育の目標で国際協調を掲げる教育機関において、関係する国際機関からの勧告が行政裁量の要考慮事項であることは言うまでもありません。
勧告で、条約不適合や対話による解決を指摘されている本件処分は、裁量権逸脱濫用により取り消されるべきです。また対話による解決をすべきで、本件処分に合理性がない以上、一連の最高裁判決が示している審査基準で判断しても、本件処分は違憲無効です。
一連の最高裁判決補足意見においても「教育関係者の相互の理解と慎重な対応」を求めていたことが思い起こされます。
7 主張②を踏まえた解釈
加えて、起立斉唱行為の強制が国際社会ではどのように見られているのか、という視点から一連の最高裁判決は見直されなければなりません。
国際機関の解釈では、起立斉唱行為の強制は原告らの思想良心を直ちに制約するものであるし、例外的に制約が許されるには、いわゆる厳格な審査基準が必要であるとしています。
日本国内でも未だに本件処分の評価が分かれており、宗教学的な視点からも異論が出ています。
起立斉唱行為の性質は「一般的、客観的に見て」原告らの思想、良心、信教の自由を直ちに制約するもので、その強制は違憲無効であると原告らは主張しています。
8 補足
最後に補足すれば、近時の最高裁判例は、社会情勢と共に、国際機関から重要な勧告などが出ているという事実を重視する傾向にあります。この傾向は至極真っ当なものであり、国際機関からの勧告を踏まえた判断がされるべきです。
そして、本訴は、教育現場での問題であり、行きつくところは、原告ら教師が生徒に寄り添い、子どもの意見表明権など子どもの権利をどのように守っていくべきかという問題でもあります。これが原告らの主張する子どもの権利条約違反の問題です。
以上
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