《被処分者の会通信から》
◆ 東京「君が代」裁判・五次訴訟が証人尋問の段階へ!
審理担当 鈴木 毅
◆ 弁論の様子
第13回ロ頭弁論が3月4日に東京地裁で行われました。今回の弁論も42名定員の法廷は満席で、入廷できない方が10数名もいらっしゃいました。誠に感謝の念に堪えません。
3つめの学者意見書の提出(後述)が完了したこの日は、今後の証拠調べに関する意見交換が行われました。
原告側は学者3人、再処分発令時の人事部職員課長、原告9人の尋問実施を求め、被告側は学者および職員課長の尋問は不要、原告については「しかるべく」との意見を述べました。
そして裁判長は、法廷外で進行協議(原告側・被告側双方の要望と裁判所の考えとの調整を行う話合い)を行う方針を示し、4月17日に裁判所内で行うことが決まりました(進行協議は傍聴不可)。
次回弁論は未定ですが、満員の傍聴席を背景に弁護団は、証人尋問を実施する際は、最大規模の法廷(約100名定員)を使用することを要請しました。
◆ 学者意見書の提出を完了
五次訴訟では、13回におよぶ準備書面の提出によって主張を補充してきましたが、重要な争点である①違憲性、②国際法に対する違背、③裁量権逸脱濫用の三点については、弁護団の主張に加え、専門家に意見書作成を依頼しました。
今回の弁論で③の意見書が出され、学者意見書の提出が完了しました。以下にそれぞれの意見の要旨を紹介します。
①島薗進上智大学特任教授意見書「集団規律による学校儀式の強制が思想・良心・信教の自由を侵害する」
…儀式的行事で「日の丸・君が代」が集団的な規律の強化を伴って強制されるときは憲法19条に反し、20条2項とも密接に関わり合い、ある種の行為を強制されないことが求められる。
このことを理解するためには、戦前の国家神道や天皇崇拝、神権的国体論の強制について想起する必要がある。
「日の丸・君が代」に対する考えは様々だが、それが集団規律とともに強制的な形で用いられる場合は、良心の痛みを感じる人が増える。「10・23通達」と職務命令によって行われる儀式的行事は強制と受け止められるものとなり、憲法19条に反する。
これに対し最高裁は、「日の丸・君が代」の画一的な運用は「儀礼的な所作」であるから思想及び良心の自由を直接には侵害しないと判じてきた。だがこれは、憲法19条、20条が国家神道や宗教的天皇崇敬をめぐる近代日本の重い歴史的経験を踏まえて成立してきた経過を踏まえておらず、見直すべきである。
②戸田五郎京都産業大学教授意見書「本件職務命令と懲戒処分の自由権規約18条違反」
…国連の「市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約)」等の人権規約によって設置される条約機関による解釈は、当該条約の有権解釈(公権解釈)であり、日本の裁判所における当該条約の解釈適用においても尊重する責務がある。
本件に関するCEART勧告は、教員に対し人権規約上認められる市民的不服従または良心的拒否の権利が保障されるべきことを指摘しており、原告の起立・斉唱拒否等は、それが原告らの信念との「深刻且つ克服不可能な抵触に動機づけられている」限りにおいて、自由権規約18条の保障する良心的拒否権の行使として正当化される。
また「10・23通達」と職務命令、懲戒処分による強制は、少なくとも「特定の所作に従うことに抵抗を感じる教員に対応できる解決策」が用意されていない限りにおいて許容されない。
③岡田正則早稲田大学大学院法務研究科教授「鑑定意見書」
…行政法の観点から本件懲戒処分の違法性について検討すると、第一に、懲戒処分の適否について審査する場合に必要な留意、考慮がなされておらず、比例原則に違反し、手続き的な相当性も欠き、国連機関の勧告も考慮しない職務命令や懲戒処分は裁量権逸脱濫用により違法である。
第二に、各処分には理由の提示、弁明の機会の付与について手続き上の違法があり、地公法32条・33条を適用できる事実が存在せず、減給処分に関しては「相当性を基礎づける具体的な事情」が存在しない。よって地公法および教育関連法令に照らして手続き上も実体上も違法である。
第三に、再処分については、理由の提示等に関して手続き上の違法があり、かつ前訴取消判決の趣旨た反し、要考慮事項の不考慮、動機の不正、比例原則違反違反などの点で違法、すなわち手続法上も実体法上も違法であり、取消を免れない。
◆ 弁論後の報告集会
弁論終了後、弁護士会館で報告集会が行われました。弁護団・原告団からの説明や報告ののち、支援の方々との意見交換が行われ、通達後に学校現場が激しく変貌してきた状況と本訴の意義について改めて考える機会にもなりました。
また、今年1月に再任用不合格が通告された原告からの報告もありました。
その原告は、7年前の不起立による戒告処分を理由として、「年金支給年齢に達したら再任用の更新を行わない」との不当な事前通告を4年前から受けていましたが、該当年齢に達した年度に至り、実際に不合格が通知されました。不当な事前通告があったものの、選考に先立って校長が再任用を継続するよう人事部に要請してくれましたが、人事部は「校長た権限はない」と言ってこの要請を却下し、任用打ち切りを決定してきたのです。
このような不当な行為がまかり通ると都教委が考えてきた背景には、最高裁が戒告処分は「違法とまではいえない」としそ容認してきたことがあります。
五次訴訟は「戒告処分は違法」との判決を勝ち取り、このような不当な行為の温床を一掃し、「10・23通達」を撤回させることを目指しています。
『被処分者の会通信』(2024年4月12日)
◎ 東京「君が代」裁判第五次訴訟・証人尋問1回目
7月4日(木)10:00~ 103号大法廷
(午前)岡田正則(早稲田大学教授・行政法)、原告本人尋問
(午後)原告本人尋問
◎ 東京「君が代」裁判第五次訴訟・証人尋問2回目
7月18日(木)10:00~ 103号大法廷
(午前・午後とも)原告本人尋問
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