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第3次君が代訴訟第5回弁論要旨<1>

2011年06月29日 | 日の丸・君が代関連ニュース
 《東京「君が代」裁判第3次訴訟 第5回口頭弁論(2011/6/20)意見陳述要旨》<1>
 ◎ 10・23通達は国際人権法に違反している
 第1 国際人権法違反

 1 国際人権法の到達点は、憲法解釈に反映されるべきであり,憲法を頂点とする国内法体系の解釈においても同様に反映されるべきです。
 2 自由権規約・子どもの権利条約は、裁判規範性を有するものであり、その解釈は、条約法に関するウィーン条約31条により、国連自由権規約委員会・国連子どもの権利委員会の一般的意見・政府報告に対する総括所見などによる有権的解釈によって為されるべきです。以下、10・23通達をこれら国際人権法とその有権的解釈から検討した結果を述べます。
 3 10・23通達への自由権規約18条の適用
 ア 自由権規約18条1項は、「すべての者は、思想、良心及び宗教の自由についての権利を有する。」と規定しています。そして一般的意見は、18条が保障する自由は、「広大で深遠な権利」であり、「あらゆる事柄についての思想、個人的確信及び宗教又は信念への関与の自由を包含する」と述べています。したがって、国旗国歌についての思想及び宗教の自由が規約18条の保障する思想等に含まれることは明らかです。
 イ 次に、規約18条2項は、「何人も、自ら選択する宗教又は信念を受け入れ又は有する自由を侵害するおそれのある強制を受けない」と規定しています。そして一般的意見は、これは「いかなる制限も許容しない」という絶対的保障であり、禁止される強制には「暴力の行使又は刑事罰の使用もしくはそれによる脅迫が含まれる」とし、「雇用を得る権利の行使を制限する」ことによる強制も許されないと言っています。
 本件では、強制に従わなかった原告らに懲戒処分が為されていますが、これは「刑事罰の使用もしくはそれによる脅迫」に準ずるものであり、さらに不起立等による退職後の再雇用・再任用の拒否は「雇用を得る権利の行使」の「制限」に当たり、18条2項に違反します。
 ウ 自由権規約委員会は、ザンビア政府がその報告書で、学校が生徒の入学条件として国歌を歌い国旗に敬礼することを求めているのを報告したのに対し、総括所見で、「これは、不合理な要求であり、規約18条及び24条に合致しない」と述べました。
 ザンビアの場合は生徒の事案でしたが、18条1項が「すべての者」に思想良心の自由を保障していることからすれば、教師に対する場合も同様に判断されることはまず疑いのないところです。
 エ 自由権規約委員会は、韓国の良心的兵役拒否に関する個人通報事案につき、規約18条3項違反であるとの見解を示しました。徴兵制度のある国において、徴兵制度は国家の安全保障の基盤を成すものとして、これを維持することは、国家の公的利益として「極めて強い利益」です。
 兵役の義務や納税の義務における公権力の側の利益と、国旗国歌の尊重を国民に要請する場合の公権力の側の利益を比較すると、兵役の義務や納税の義務の場合の利益の方がはるかに強いと言えます。その強い利益のある兵役の義務についてすら、自由権規約委員会は、良心的拒否を認め、良心的拒否に対して有罪判決を下したことは規約18条違反だと断じたのです。この判断からすれば、「極めて強い利益」とはいえない国旗国歌の強制である10・23通達による強制が規約18条違反となることは明白と言わなければなりません。
 オ 規約18条3項は、「宗教又は信念を表明する自由については、法律で定める制限であって公共の安全、公の秩序、公衆の健康若しくは道徳又は他の者の基本的な権利及び自由を保護するために必要なもののみを課することができる」と規定しています。
 同項にいう「法律」とは、狭義の法律、すなわち議会が制定した法を指しますから、10・23通達や職務命令がこれに当たらないことは言うまでもありません。被告が10・23通達の目的だと言う、学習指導要領の実施が「公共の安全、公の秩序、公衆の健康若しくは道徳」「を保護するため」という目的に当たらないことも明白です。また被告は、生徒の学習権を保障するためとも言いますが、旭川学テ判決が言う「教育の本質」からすれば、教師の創意工夫と生徒の意見表明権等が尊重される学習こそが、真に学習権保障の対象たるべき学習であり、10・23通達をもって教師に強制することにより、間接的に生徒も強制されるような国旗国歌条項の実施は、真に生徒の学習権を保障したことにはなりません。したがって、本件強制が18条3項の「他の者の基本的な権利及び自由を保護するため」の制約であるとは、到底言えないのです。
 また、一般的意見は、たとえ目的が正当なものであっても、制約は、目的と直結した厳格な「必要性」の審査に耐え、「比例原則」を満たす制限でなければならない、としています。さらに、韓国の良心的兵役拒否の個人通報事案について、自由権規約委員会は、「代替措置」の必要性を強調し、これを講じていない韓国政府を鋭く批判しています。厳格な「必要性」・「比例原則」・「代替措置」を欠く10・23通達は、これらの点でも18条違反だと言えるのです。
 4 ILO・ユネスコ「教員の地位に関する勧告」は、
 「教育は……人権および基本的自由に対する深い尊敬の念を植えつけるものとする。」と述べています。本件の如く、学校の重要な行事である卒業式等で、教師が国旗国歌に対する起立斉唱等を強制され、生徒らも事実上起立斉唱を強制されている事態は、およそこの勧告の要請とかけ離れた事態と言うほかありません。
 「勧告」はまた、「教育の仕事は、専門職とみなされ・・教師の仕事は、・・教員が受け持つ児童・生徒の教育および福祉に対する個人および共同の責任感を要求するものである」と言っています。原告らは、まさにこの*「専門職」としての「責任感」から、児童・生徒の内心の自由を護るためには、自らが盾とならねばならないと考えて、起立斉唱等の強制に屈しなかったのです。原告らこそ、この「勧告」を体現した「責任感」ある教師と言えます。
 5 次に、10・23通達を子どもの権利条約の観点から見てみます。
 10・23通達は、直接的には教師らに起立斉唱等を強制するものですが、生徒らが教師への強制を目の当たりにし、被告が教師らによる生徒への内心の自由の説明すら禁じていることから、結果として生徒も事実上起立斉唱を強制されているのが実態だからです。
 ア 子どもの権利条約14条は、1項で児童の思想、良心及び宗教の自由についての権利を保障し、3項で、それを表明する自由の制限は「法律で定める制限であって公共の安全、公の秩序、公衆の健康若しくは道徳又は他の者の基本的な権利及び自由を保護するために必要なもののみを課することができる。」としています。
 先に自由権規約18条について述べたと同様に、国旗・国歌についての思想、良心の自由は14条の保障する自由に含まれ、10・23通達が「法律で定める制限」や「公共の安全」等を保護するために必要な制限とは言えません。したがって、10・23通達は子どもの権利条約14条に違反しています
 イ 子どもの権利条約12条が保障する意見表明権13条が保障する表現の自由は、13条1項が定める「あらゆる種類の情報及び考えを求め、受け」る自由を含んでいます。知る権利の保障なしに、適切に自己の意見を形成することはできず、これを表明することもできないからです。
 したがって、まず生徒らは、国旗国歌についての「あらゆる種類の情報及び考え」方について知る権利を有し、これを知った上で、自由に国旗国歌に関する自己の意見を表明したり、国旗国歌に対する自分なりの向き合い方を自己表現する権利があります
 ところが、被告は、教師らが生徒に国旗国歌については様々な考え方があると教えることを禁じ、内心の自由について説明することすら禁じています。
 また、国連子どもの権利委員会は、一般的討議の「勧告」で、学校における「子ども参加」を強調していますが、10・23通達による卒業式等が「子ども参加」に逆行するものであることは明らかです。
 委員会は、日本政府の報告書に対する総括所見でも、このような実情に対する「懸念」と、子どもの意見表明権を促進するようにとの「勧告」をしているのです。
 ウ 子どもの権利条約29条は、教育が「人権及び基本的自由並びに国際連合憲章にうたう原則の尊重」の「育成」を「指向する」ものであることを要請しています。また、一般的意見は、「子どもは校門をくぐることによって人権を失うわけではない。」「学校生活への子どもの参加が、権利の実現を学習および経験するプロセスの一環として促進されなければならない。」と言っています。
 10・23通達は、あたかも子どもに、教師ですらも「校門をくぐることによって人権を失う」と教えているかの如き規制であり、子どもの権利条約の要請に真っ向から逆行するものと言わなければなりません。
 エ 条約29条1項(c)(d)30条は、マイノリティーの権利を保障しています。
 原告らが起立斉唱等をしなかったために処分を受けた平成18・19・20年度、都立高校には900人前後、1000名当たり約7名の外国人生徒が在籍していました。しかもその多くは、中国、韓国・朝鮮など、第二次世界大戦時の日の丸・君が代に対し民族的な強い抵抗感を持つ国の生徒です。ところが10・23通達は、これら外国人生徒の独自の文化やアイデンティティに何らの配慮も代替措置も講ずることなく、事実上、彼らにとっては外国の国旗国歌である日の丸君が代への起立斉唱を強制しているもので、子どもの権利条約29条30条に著しく違反していると言わなければなりません。
 6 最後に、自由権規約委員会も国連子どもの権利委員会も、日本政府に対する総括所見で、日本の裁判所が裁判実務において国際人権法を適用していないことを指摘し、裁判所がより適用するよう、日本政府が適切な措置をとるよう勧告しています。原告らは、本件裁判所が、国際人権法を活用し、国際人権法を踏まえた憲法解釈をされるよう、強く期待するものです。
以 上

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