徒然なるまゝによしなしごとを書きつくる

旧タイトル めざせ、ブータン

ヌカ漬けについて

2011年06月15日 | 生活

ヌカ漬けの話などし始めると人生終わりだぞ、とは以前の上司の言ではあるが、ヌカ漬けを漬けている。もう3年ほど同じヌカ床を使っている。冬場は野菜が余り無いのと漬かりが悪いのでヌカ床を冷凍庫に入れてカチンコチンに凍らせておき、今時分(梅雨頃)に取り出してまた漬け始める。解凍直後はヌカ床の調子は今一だが、三日もすると芳しいヌカ床が蘇る。

ヌカ漬けは乳酸菌、酪酸菌および産膜酵母のコラボレーションであの複雑で奥の深い味になる。乳酸菌はヌカに含まれる炭水化物を乳酸に変える。ここで生成される乳酸の強い酸性と塩分で他の腐敗菌の増殖が抑制され、腐敗ではなく発酵となる。酪酸菌は嫌気性細菌でヌカ床の奥深くで酪酸発酵をする。酪酸はそのままだとかなり臭い。しかし、知っていますか、シャネルやディオールの香水のブレンドには必ず酪酸系のウンチやおしっこの匂いを微妙に混ぜることを。そう、香りに深みが出るのです。旨い料理には苦味と酢味が必須な事と同じように微妙な臭い匂いは味のコクを増すのです。うまいヌカ漬けにはこの酪酸菌が効くのです。

産膜酵母も重要です。酵母というのは細菌と違い、我々と同じ真核生物に属するカビの仲間だが、カビの足(菌糸)の無い種類を酵母と呼ぶ。真核生物なのでミトコンドリアを持ちエネルギー変換効率が細菌に比べて格段に高い。とくに嫌気性環境ではアルコール発酵を行いヌカ床の風味を増す。ただ、酸素が十分にある環境では酢酸エチル発酵になりシンナー臭を発する。

つまり、旨いヌカ漬けを食そうと思ったら、この乳酸菌、酪酸菌、産膜酵母をうまく飼育する必要がある。ヌカ床かき混ぜ、がその手段です。ヌカ床をかき混ぜることで酸素が入り嫌気性環境を好気性環境に換え発酵モードを調整するわけだ。

ここで、とても大事なことを言う。旨いヌカ漬けを食べたいなら ”かき混ぜすぎない” 事です。これは私の3年間の経験から発見した事実で、かき混ぜすぎるとヌカ床は元気なんだけど味がしなくなり、ただの塩漬けの様になってしまう事に気がついた。塩分が適正で乳酸の酸性が確保されていれば簡単には腐敗しないので野菜の出し入れ以外にはあまりかき混ぜ過ぎないことだ。これで旨くなる事、請け合いです。

あと、ヌカ漬けを食べ初めて気づいた事がある。おなかの調子が明らかに変わっているのだ。はっきりいうと少々下痢気味でゴロゴロいっている。腸内細菌(フローラ)のモードが変わっていることが判る。実はイタリアで肉食とオリーブオイル漬けになって以来おなかがもたれた感じがずっと続いていて不快だった。ところがヌカ漬けを再開して食べ初めて数日すると下痢気味ではあるが腸内の宿便が出て行ってくれて、とても軽くなった感じがする。ヨーグルトの動物性乳酸菌と違い、ヌカ漬けの植物性乳酸菌は胃酸に耐性があり確実に大腸に届くらしい。旨いヌカ漬けを食べて、健康になれれば言うことなしである。