英国的読書生活

イギリスつながりの本を紹介していきます

最近奇跡を感じましたか?

2007-07-26 | イギリス
ジョン・マグレガー「奇跡も語る者がいなければ」


原題は「If Nobody Speaks of Remarkable Things」
最初の数ページを読んだだけで、記憶に残る作品。
街を包む夜の情景が丹念に饒舌にしかし淡々とした文体で語られます。夜は次第に明け、8月最後の1日が始まります。ここは、とあるイングランド北部の通り。向かい合って建つテラスハウスでは住人それぞれの生活がスタートします。一見ヒッチコックの「裏窓」がイメージされますが、視点はどんどん変化しマルチビジョン的に通りの動きが同時進行で描写され続けます。そしてその描写はその日の夕方に起こるある悲劇に集約されるのですが・・・・。この三人称現在形で語られる記述が横糸。
3年後、別の街に移ったかつての住人「私」は突然起こった身体の変調に不安を感じる毎日。「私」はあの日の「通り」で起こった出来事を今でも繰り返し思い出している。この一人称で語られる記述が縦糸・・。
生まれてきた奇跡、誰かを好きになる奇跡、妊娠する奇跡、双子になる奇跡・・・・・・・・、身の回りには多くの奇跡が満ち溢れているのに・・・・・・・・・。
描かれる日は97年8月31日。パリでダイアナ妃が事故死した日です。当初この作品にはこの事故を報じる場面が盛り込まれていたということですが、推敲段階で全て削除され、日付だけが残ったということです。これ以外に巻末の訳者の解説には、この作品の技巧的な特徴も紹介されています。言われなければ分からない計算されたテクニックですが、それだけにもう一度最初から検証したくなりました。
タイトル「奇跡も語る者がいなければ」は住人の1人、作中で手に大やけどを負った男が娘に言い聞かせる言葉から採られています。

作者ジョン・マグレガー
1976年、司祭である父の任地、バーミューダ島で生まれる。ほどなく英国に移り、ノーフォーク州で育つ。ブラッドフォード大学卒業後、アルバイトをしながら小説を執筆。2002年発表のデビュー長篇『奇跡も語る者がいなければ』がブッカー賞候補となり、一躍文学界の寵児に。同作で、サマセット・モーム賞、ベティ・トラスク賞を受賞。ソーシャルワーカーの妻とノッティンガムに暮らす。



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