英国的読書生活

イギリスつながりの本を紹介していきます

エレガントなギャラリー?

2006-04-26 | イギリス
ナショナル・ギャラリーの裏手にある「ナショナル・ポートレートギャラリー」は、こじんまりしていますが魅力たっぷりのお薦めスポット。なんたって小さいから全館制覇できますし(トイレまで)、肖像画を通してイギリス史を短時間で俯瞰することが可能です。展示方法も工夫されているので堅苦しくなくギャラリーを回遊できます。またSHOPも充実。展示物の絵葉書はもちろんレアなセレブのポートレートも手に入るかも。ポートレートは絵葉書でコレクションするにはいいですよね。お隣さんにある大きなターナーは絵葉書の大きさでは全然良さが伝わって来ませんから。

ナショナル・ポートレート・ギャラリー

で、この美術館で開催されるパーティーシーンからお話が始まるのが

キャスリーン テッサロ「エレガンス」(2003 二見書房)
最近夫との間も倦怠感が漂ってるし、毎日の生活もどこともなくマンネリ気味な主人公。ひょんなことからマダム・ダリオーの「エレガンス事典」(実在する本です)を手に入れる。このハウツー本で果たしてエレガントな女性に変身することができるのか?章立てはA「アクセサリー」からZ「ジッパー」まで実際の「事典」からの引用を交えながら進行します。大いに悩める現代イギリス女性が最後にめぐり合うのは!!
この本冒頭の「・・ポートレート・ギャラリー」の名前が出てなければ正直購入しなかったでしょう。でも買って正解でした。女性向けなんでしょうが、なになに男でも十分楽しめます。

日本語が響くロンドン地下鉄

2006-04-22 | イギリス
ロンドンに行けば必ずお世話になる地下鉄。
システムさえ把握すれば自由自在に市内を動き回ることが出来ます。
特に各種出ているトラベルカードはバスも使えてオトクで便利。1週間カード(顔写真必要ですが)なら早朝から利用できるしロンドナー気分を満喫できますね。
最近は「オイスターカード」?なるものまでが・・これって非接触ICカードでしょうか?
オイスターカード
私が初めてロンドンを訪れた89年の春は、まだ改札は自動化されてませんでした。その時の笑い話。グリーンパーク駅でよく乗換えをしてたのですが、列車がホームに入りドアが開く度にホームのラウドスピーカーが「満員だ!ぎゃ!」と叫ぶのです。何べん聞いても「満員だ!ぎゃ!」としか聞き取れない・・。別に車内は空いてるし・・。英語が苦手な私は誰に訊くことも出来ず一人悶々とこの駅を利用しておりました。次の年再びロンドンを訪れた時、地下鉄に乗ろうとホームに降り、何気なく足元を眺めていると・・・あるじゃないですか、「満員だ!ぎゃ!」の答が・・・
乗降口となるホームの端には「MIND THE GAP」の文字が・・・。
謎が解けると共に顔が赤くなる私。

話は変わって、この地下鉄の路線図やサイン関係はよくデザインされてます。路線図のラインは水平、垂直、45度の3つで表現され、駅名等のフォント(ジョンストン書体)も戦前に設定されて以降、近代化の流れの中でもきちんと管理され確固たるスタイルを伝えています。確か昔はロンドン交通博物館でこのジョンストン書体がMac版で販売されていた記憶があるのですが、今はないのでしょうか。手に入れたいものです。
チューブのデザイン
ジョンストン書体

さてロンドンの地下鉄、全部で駅はいくつあるでしょうか?
答は267。
この267駅を1日で走破するというおバカな賭けをしてしまった地下鉄オタクの物語が・・・
キース ロウ「 トンネル・ヴィジョン」(2002)ソニーマガジンズ

全然面白くない!という方も多々いらっしゃるかもしれません。でも一度ロンドン地下鉄を体験された方なら、あの独特の石臭い空気(ひょっとしてアスベスト?)、長いエスカレーター、生暖かい風圧、下手糞なミュージシャン・・etc,を懐かしんでいただけること請合います。
さあ、巻頭付録の路線図を広げて主人公といっしょにノーザン・ラインに乗り込みましょう!
日本版の装丁もPOPでイケテます。

ディケンズは超えてない

2006-04-17 | イギリス
今年出た翻訳から。
作者はスコットランド在住。

ミッシェル フェイバー「天使の渇き」(2002) アーティストハウス

描かれるのは1875年のロンドン。ニュー・オックスフォード・ストリート近くの貧民窟と新興成金が多く住むノッティング・ヒル。
登場するのは19歳の娼婦「シュガー」、そのシュガーの魅力に取り付かれ彼女を囲う資産家、大人になることを拒み娘すら顧みないその妻、自己の目指す宗教倫理とある女性に対する欲望で悶々とする資産家の兄、その兄の欲望を感じながらも娼婦を救うという理想を追い求める女性・・・・。
物語は娼婦街からレスタースクウェア、トラファルガー広場、そしてリージェント・ストリートへ・・・と怪しいガイドに導かれ、当時の風俗、流行、事件を丹念に散りばめながら進行します。
この時代のイギリスはヴィクトリア中期と呼ばれ、自由主義経済を基盤とした成長期でしたが、この70年代に入ると共に「大不況」の影が忍び寄り、次第に自由貿易帝国主義がより大きく台頭し植民地政策が顕著になっていく。政治の世界では保守党、自由党の近代的な2大政党政治が確立し、ディズレーリとグラッドストーンがそれぞれを引っ張ってた時代でもあったのだが。
残念ながらこの辺の政治・経済の描写はあまり出てきません。
時にきわどい性描写も飛び出し、読者を翻弄しながら進むこの物語。出てくる人物は押しなべて自己中心的であり、感情の起伏が激しく、求め合いぶつかり合って河のように流れていく。途中からは「ジェーン・エア」のような話に展開したりして・・・そして最後に大きな裏切りが。
腰巻宣伝文には「映画化決定!」の文字がありますが、むしろテレビドラマがいいかも。娼婦版チャングムとか。
2段組800ページ強のロンドンです。

至福の時

2006-04-11 | イギリス
出張の合間、時間つぶしに本屋に寄って棚をながめていると、「ウッドハウス」という名前が目に。ウッドハウス?知らんなあ。現代作家?いや戦前から活躍と書いてあるが・・。ユーモア小説?いや、だいたいそういう風に評されたものに面白いものがある訳ないし・・。トニー・ブレアもウッドハウス協会の理事をしている?本当かよ?・・。でも文芸春秋社と国書刊行会そろって出版しているのは何故?ということで買ってしまったのが文芸春秋社「ジーヴス・・」だったのですが、「当たり!」でした。
描かれるのは「日の名残り」と同じ大戦間の良き貴族社会。でもこちらは執事(従僕)とご主人様が、領主様と庭師が・・とんでもない騒動に巻き込まれ・・・・。と書けばいかにも軽い小説なようですが、「軽い」のを超えて私たちを和ませる魅力が溢れています。ここにも「英国が失ったもの」が沢山あるようです。
以来出版されるものを買い集め「至福の時」を過ごさせていただきました。
よく書店ではこの「ジーヴス・・・」を探偵小説の一翼ということでミステリーコーナーに置いてたりするのですが、私は見つけ次第、シェークスピア全集とユリシーズの間にこのウッドハウス様を移動させるようにしております。

それぞれの本は、またいずれご紹介します。

旅に出ましょう!

2006-04-10 | イギリス
長編を読む楽しみ。それは登場人物とより長い時間を過ごすことが出来ること。

J・R・R・トールキン「指輪物語」(評論社)
高校1年の時、友人のN君が私のところに1冊の文庫本を持って現れました。「これ絶対面白いから読んで」それが指輪物語第一部「旅の仲間たち上巻」だったのですが、人から借りた本が読めない性格と正直複雑すぎて楽しくない序章部分が理由で20Pも読まずに彼に返してしまいました。「何で読まんと?」(九州弁)ちょっと悲しそうな顔をするN君に後ろめたさを感じながら数十年が経った時、映画が公開されるとの話を聞き、N君のためにもと遅ればせながら読了いたしました。
やっぱり出だしは挫折しそうになります。舞台となる「中つ国(ミドルアース)」の世界に馴染むのと何よりこの物語が「求める旅」ではなく「指輪を棄てる旅」という概念を理解するのに多少時間がかかりますが、それを克服すれば晴れて「旅の仲間」に迎えられ、後は仲間が読むものを助けてくれます。最後の巻を手に取った時には本気で「みんないなくならないで!」と感じてしまいます。私はそれから再び旅に出てます。たぶん今年も旅に出ます。

旅を続けるコツ
序章は面白くなかったら飛ばしましょう!旅を終えれば自然と帰って来ますよ。
まずはブリー村を目指しましょう。
次に裂け谷までたどり着ければ「旅の仲間です」。
友達を作りましょう。友達は旅の疲れを癒してくれます。
(ホビット、エルフ、ドワーフ、オーク、人間・・お好みは?)
巻頭にある地図を活用しましょう。(旅の楽しさは地図からです)
指輪を持っていたら指に嵌めてみましょう。(何も起きませんが・・)

最初に私が旅に出た2001年、NYで同時多発テロが起きました。
二つの超高層ビルが倒壊するライブ映像を私は鰯の煮物を箸で挟んだまま叫びながら観てたのですが、その時頭に浮かんだのは、この物語の「二つの塔」だったのです。この二つの暗示を皆さんはどう解釈されますか?


最後に
この物語、イギリス的な部分がたくさん出てきます。「フィッシュ&チップス」の記述も出てきますよ。

お花見

2006-04-10 | 日常
週末、花見に行きました。
場所は昨年と同じ宮島です。干潮ですっかり引いてしまった大鳥居の前を横切り(近道)、多宝塔の近くでお弁当を開きます。
見上げれば一面の桜の天井、桜色というより白に近い色が青空をバックにひろがります。でも足元をみれば、一面の鹿糞・・・。でもめげずに持参のワインでピクニックしてきました。
写真はその桜の海に浮かぶ多宝塔です。
昨年に比べちょっと咲きが悪かったかな。風が結構強くて満開と桜吹雪の両方が楽しめました。
日本人はやっぱり桜が好きですね。

ちょっと怖いイギリス人

2006-04-07 | イギリス
今日はコンサートのお話。
ロンドンの夏の音楽イベント「プロムス」。特に最終日「ラストナイト」のお祭り騒ぎは有名ですが、このラストナイトの昨年の模様が本日深夜0時半からBS-2で再放送されます。「イギリス好き」でもし見逃されてた方がいましたら絶対に観ていただきたいコンサートです。(3時間弱のライブですから録画された方がいいかも)

昨年のラストナイトは例年通り2部構成で、まず1部ではカウンター・テナーのアンドレアス・ショルの美声とジョン・ウィリアムスの甘いギターが堪能できます。
そして2部ではベルファスト、グラスゴー、マンチェスター、スウォンジー、そしてお隣ハイドパークとの多元中継を交えながら、「サリーガーデン」「威風堂々」「 イギリスの海の歌による幻想曲」「ルール・ブリタニア」とイギリス愛唱歌が続き最後は「エルサレム」「国歌」「蛍の光」で〆。
ロイヤル・アルバートホールのアリーナは席が取っ払われ、立錐の余地も無い有様。ユニオンジャックが振られ(グラスゴーではスコットランド国旗、ベルファストではアイルランド国旗が振られるのですが)、ハイドパーク(4万人)その他の会場が一体となって合唱する光景はちょっと感激物です。特に昨年はトラファルガル海戦200周年だったのですが、地下鉄爆破テロなどもあり歌に込める想いも例年以上だったのでしょうか。
でも威風堂々の後付歌詞やルール・ブリタニアの歌詞をよくよく見てみるとすごい内容ですよね。「広く広く国境は定められる!」「支配せよ!」「必ず暴君をひれ伏させる!」「ブリトン人は決して奴隷にはならない!」もはや軍歌ですね。さすが肉食民族です。帝国主義です。我々草食民族の軍歌なんてこれに比べると哀しい調です。

「威風堂々」
「ルール・ブリタニアの歌詞」

私は昨年末の放送を録画して何度も観ています。その度に「一回で良いからラストナイトに参加したいな」「あの会場で日の丸振ったらどうなるのかな」などと呟いております。
指揮は ポール・ダニエル。ウィットに富んだスピーチでいっぺんにファンになりました。
放送ではゲストコメンテータとして元クィーンのブライアン・メイも出演しています。

「プログラム詳細」

英国が失ったもの

2006-04-06 | イギリス
カズオ・イシグロ「日の名残り」(1989)
映画のほうを先に観てしまったので多少遠慮していたのですが、もっと早く読んどけばと思わせる1冊でした。
舞台はオックスフォード・シャーのマナーハウス。執事スティーブンスは新しい主人から休暇の許可を得、フォード車でドライブ旅行に出かける。途中次々と思い出すのは1930年代の先代主人ダーリントン卿に仕えた日々。この旅行にはもう一つ大きな目的があったのだが。
物語は淡々とアンバー系の色調で進行するのですが、当時カリスマ執事のような存在があったりとか、エリートしか入れない執事協会があったりとか、そもそも執事に求められる「品格」、「誇り」とは何かをスティーブンスが執拗に自問する場面とか、お互いが強く意識しあっている女中頭とのかみ合わない会話とか、そして歴史の舞台裏で模様される非公式な国際会議の場面などが、ある面ユーモアをも散りばめた形で語られます。
かつての主人と執事の関係というのが単なる雇用関係ではなく、もっと複雑で尊いものだったように感じました。スピードと効率が今ほど求められなかった時代、本物が本物として扱われた時代がここにはあります。

本を読んであらためて映画も観てみました。ホプキンス、いい味出してます。一番印象に残っているシーンは、車が丘の上でガス欠で止まってしまうところ。あの夕陽の美しさは何でしょう。

ロンドンの基本

2006-04-05 | イギリス
桜の見頃ももうすぐ。
会社も新しい期に入り、やれ機構改革だ、目標設定だと追いまくられる毎日が
続きます。こんな日常をちょっとだけ楽しくするためにこの度ブログを開設しました。
私は全然読書家ではないのですが、気づけばかなりのイギリス関連の本がたまって
来ました。中には粗筋すらすっかり忘れてしまったもの、読んだ記憶すらないものな
どもあったりと・・
半分「備忘録」的にこのブログを使っていこうと考えてます。

で、最初にご紹介するのは
長谷川如是閑「倫敦!倫敦?」
1910年大阪朝日新聞の特派員として派遣された著者のロンドン見聞録であるが、
とにかく面白い。思わず電車の中で読みながら膝を打ってしまうこと間違いなしです。
ロンドン市内の主だった名所旧跡の紹介はもちろんのこと、複雑な鉄道事情、公園
での市民の過ごし方、下院における不可思議な光景等々、そして滞在中たまたま遭遇
したエドワード7世の崩御と続くのですが。日露戦争に勝ち、極東の一等国を任ずる
日本の気概とリベラルな視点でロンドンの街を活写しています。
そして何より驚くのが、ロンドンの都市としてのシステムが95年前にすっかり出来
あがっていることと、人々の風習もけっこう今と変わらないということでしょう。
例えば「晴れた日に公園で日向ぼっこする人たち」と「下院を傍聴するための入場の
仕方」など実際ロンドンで経験された方なら「同じじゃん」と共感することしかり。

最近の甘口イギリス礼賛紀行に食傷気味の方には是非!とお薦めする次第です。