チャールズ・ディケンズ「大いなる遺産」
1860~61年にかけて発表された「大いなる遺産」。この時代になると貴族階級の凋落と相まって、身分無き平民がある日突然地位を手に入れてしまうといったストーリーが、まんざら絵空事では無くなってきます。法曹関係者や医者、教師といったプロフェッシュナルな職業人たちや、銀行や新興の工場で管理業務に就く者たち・・・が、新しいミドルクラスを形作っていき、下層にいる者たちも一攫千金を夢見て新大陸に渡ったりと、上昇志向が社会の中にうごめく事に。
さて、謎の人物から莫大な遺産を贈られることとなった主人公のピップは、紳士となるべくロンドンに旅立つのですが・・・。この紳士という概念、何度調べてみてもしっくりこないんです。身分、風貌、所作、アクセント、教養、趣味、財産・・・、イギリス庶民にとって何をもって紳士と言うのか・・・、うーん難しい。カズオ・イシグロの「日の名残」で執事のスティーブンスが旅の途中、紳士と間違われて否定しないという場面がありましたね。(次の日、ばれてしまうのですが)
ディケンズらしい濃いキャラもたくさん登場しますが、私が気に入ったのは、ジョン・ウェミック。弁護士ジャガーズの事務所で働く事務員であるが、きわめてON・OFFのはっきりした人物なんだな。昼間冷徹かつ、しゃかりきに働き、定時過ぎれば一転良き家庭人となり、ピップの味方となってくれるんです。