英国的読書生活

イギリスつながりの本を紹介していきます

死臭漂うロンドン

2008-06-16 | イギリス
ポール・ドハティ「教会の悪魔」

以前ご紹介した「白薔薇と鎖」が描いたのが16世紀のロンドンでしたが、今回描かれるのは、13世紀のロンドン。エドワード1世の御世です。
物語は聖メアリ・ル・ボウ教会内で起きた首吊り事件に端を発します。誰が見ても自殺と判断する密室での事件ですが、エドワードに仕える大法官はその死に疑いを懐き、書記であるヒュー・コーベットを密偵として差し向けるのですが・・・。
トリックを暴き事件をすらすらと解決していく・・・というには平凡な筋書き・・・。むしろこの物語は単純に歴史ものとして楽しむのが正解かも・・・です。汚物にまみれる通りの様子、交通路としてのテムズの姿、香草を床に巻いた酒場の喧騒等々、暗くて臭くて治安の悪い中世のロンドンが、これでもかと詳細に記述されていきます。特に軍事拠点としてのロンドン塔、そして酒場で出される香料入りのワインなどが興味深かったです。
国家転覆を企む反逆者の象徴として、頻繁に登場するシモン・ド・モンフォールは、実在の人物。彼が一時期イングランドを掌握し、その時開いた議会は、今ある庶民院の原型と言われています。つまり、それまで王と貴族だけで開いていたものに、騎士や都市の代表者を招いたというものです。エドワード1世は後にこれを真似た形での議会を開催しています。これが「模範議会」と呼ばれているものです。
現在の聖メアリ・ル・ボウ教会は大火後にクリストファー・レンの設計により再興されたもの。ここの鐘が聞こえるエリアで生まれ育ったものが、本当のコックニー(生粋のロンドン子)なのです。

このコーベットものは、シリーズとしてかなりのストックがある模様。これからも楽しみです。

ウッドストック宮殿というものも登場しますが、かつてそのような宮殿(城)があったのでしょうか?ブレナムとは違うし・・・。



本屋賛歌

2008-06-10 | 日常


本を選ぶ時、何を基準に選んでいますか?当然、好きなジャンル、作家、そして書評などによる評判も当然重要な決め手なのですが、私の場合意外と現物との出会いだったりします。つまり、本屋の書棚で向き合った時、手に取った時の第一印象がけっこう大事なのです。ほとんどの書籍は背表紙しか見えませんから、まずはタイトル、そしてその書体と色ですね。目立てば良いというものではありません。手に取って見て、全体の装丁の具合が一番気になるところ。表紙から見返し中扉あたりの構成を確認したら、カバーがあれば、めくって見て、素肌の状態を見ちゃいます。(けっこうここに秘密があったりするので・・・) 内面の文字組み状態、書体の見やすさ、手触り(今は活字を使っての印刷が無くなってしまいましたが、一昔前は意図的に印圧を掛けて凸凹感を出したものも・・)、紙質(手触りのいい紙で、かつ印刷映えのいい紙はそれなりに高価になりますが・・)、重さ(これけっこう自分的に重要です。書かれている内容とバランスの取れた重さ・・・って)、しおりは付いているのかいないのか、上製本だと「はなぎれ」の色は何色か(じみーな学術書系でここだけ派手な粋な本も・・・)なんて、もちろん最後の奥付も必ずチェック。初版年、改版年、印刷会社、製本会社・・・。
こういうことをじっくり時間をかけてやっていると、かなり変態な書籍フェチに思われちゃいますので、ささっと何気にやっています。なので、私にとってネット書店というのは、優先度がどうしても低くなってしまいます。買うものが確実に決まっていればとっても便利だと思いますが、なんか写真だけのお見合いで結婚相手を決めているような・・・(大袈裟ですね)。でも、これ以上リアルな書店が減少し、ネット書店が全盛となると、確実に出版社は装丁に金をかけなくなるでしょうね。装丁という商売もなりたたなくなるかも。一見すると見映えはいいけれど薄っぺらい書籍だらけになると哀しいです。そうならないためにも、リアルな本屋さんには頑張っていただきたいし、応援したいと思います。
でも、本屋を取り巻く環境は前にも書いたように厳しいのでしょうね。残っていく大型書店もどこも同じ品揃えと陳列だし・・・・、個性的な本屋はもう生まれないのかい。

「パリの本屋さん」

パリの個性的な本屋さんをたくさん紹介してくれるこの本。めくっていると何ともうらやましくなります。好きな本を、好きな人に、好きなように並べて売る。オーナーのビジョンがお店そのものに反映されて、什器一つとっても素敵です。日本でも児童書や古書店では、それなりのお店があったりしますが、新刊書を扱う本屋ではお目にかかりませんね。でも実際はパリも大変みたい。チョット前にBSでやっていましたが、パリの古書店が地価の高騰や若者の活字離れで閉店に追い込まれるケースが多々出ているとか。その番組では、村起こしもかねて寂れた村に古書店を誘致し、定期的な古書市を開催している女性が紹介されていました。今ではカリグラフィー作家や製本業者のアトリエもでき、フランス中から古書市に人が集まるようになったとか。文化を大切に守り、なおかつ商売にきちんと結びつけるパリの人はさすがですね。







脱力系法廷ミステリー

2008-06-09 | イギリス

ヘンリー・セシル「サーズビイ君奮闘す」

なんとも肩の力がぬけたお話です。
法廷弁護士の資格を得たばかりのロジャーくん。彼が、個性的な先輩弁護士、助手、判事、そして依頼人らに揉まれながら成長する過程をコミカルに描いたものです。これがミステリー?と思ってしまいますが、イギリスでは「法廷もの」ということでそのジャンルで括られているそうです。(他の作品を読んでないのでなんとも言えませんが) イギリスの裁判制度、法曹関連をもっと知っていると、更に笑えるのでしょうが・・・。でもこのロジャーくん、いきなり最初から2人の女性に二股かけているという設定ですし、競馬狂の依頼人に翻弄させられるあたりは、ウッドハウス的な展開が期待されたりします。

イギリスの弁護士は、実際に法廷で弁護活動をする法廷弁護士(バリスター)と、依頼人から相談事を受け、書類作成や法廷弁護士への依頼などを行う事務弁護士(ソリシター)に分かれています。ですからバリスターは良い依頼人を回してくれるソリシターとの関係が重要となってきます。このあたりも本書を楽しむコツかもしれません。それ以外にも知らない風習がいっぱい・・・。バリスターは今でも法衣とカツラを着けて法廷に立つそうですよ。

活躍の場は、ロンドンのテンプル地区。ここは王立裁判所を中心に法曹関係者がひしめくエリアとなっています。テンプルの名前はテンプル騎士団から。ダヴィンチ・コードで有名になったテンプル教会が近くにあります。

原題は「Brothers in Law」





電話会社のデザイン戦略

2008-06-06 | イギリス
テレビをつけると、相変わらず携帯電話のCFが溢れています。犬にシャベルにサルに・・・、この春シンボルロゴマークを一新し、新たなブランディングで反攻に転じるドコモの戦略が注目ですね。でも今までのところ、やっぱり吹っ切り度合いが中途半端で面白くないってところが正直な感想・・・ですかね。

菅 靖子「モダニズムとデザイン戦略 イギリスの広報政策」

この本は、両大戦間のイギリスで、郵便事業、電報・電話事業を一手に握っていた逓信省での様々なデザイン戦略を、当時のモダニズムの流れと共に解説したものです。今でこそ、CI、VI、ブランディングは当たり前のように行われていますが、この時代に、ここまで国家が人と資金をつぎ込んでいたというのは驚きでした。それとこの時代のポスターなどをヴィクトリア&アルバート美術館などが、きちんと保管をおこなっているというのもどこかの国とは違いますね。
次第に弱まる帝国としてのプレゼンスの一方で行われた、「威信」広報活動は、現代でいう企業広告、CSR広告にも通ずるものを感じます。郵便局の店内が一時期色々な広告ポスターの掲示場所として媒体扱いされていたのも面白い。デザイン・コンペを行う際に、きちんと提案費用を各デザイナーに支払い、採用されれば予め決めた制作費用を支払うというやり方も、あまりにも当たり前なだけに、現代のズブズブなクライアント~代理店~クリエイターの関係に浸かっているとちょっと耳が痛かったりして・・・・。

1. 広告、広報、プロパガンダとデザイン
2. 逓信省の美化?—「外観改善キャンペーン」
3. 逓信省の「投影」—視覚広報の発展
4. 視覚文化のパトロネージ—CI、ポスター、ドキュメンタリー映画
5. 「威信」広報のモダニズム
6. 「拡販」広報のモダン・デザイン
7. コマーシャル・モダニズムという選択—1937年の再編
8. 第二次世界大戦とイギリス政府のプロパガンダ

ロンドンに行くと、必ず利用する地下鉄。ジョンストン書体でデザインされた各サイン関係は、近代システムとデザインが上手く融合した一つの事例だと思います。そう言えば、ロンドンには赤い2階建てバス、タクシー、衛兵、女王、タワーブリッジ・・・・とシンボルがいっぱいあります。パリにももちろんいっぱいありますが、比べて東京にはどれだけあるのでしょうか?おやおや日本人が考えてもあまり出てきませんね。じゃあ、広島には・・・・・・、ありますよ。原爆ドームに、宮島に、お好み焼きに、牡蠣にカープに仁義なき戦い。