89年ロンドン初回訪問時のお話。
ロンドンに行ったら、どうしても見たかったものの一つが、国会議事堂(ハウス・オブ・パーリアメント)で開かれる下院(ハウス・オブ・コモン)の傍聴。昔は常時見学が可能だったのですが、IRAのテロ以降議会開催中は傍聴という形でしか一般人は入れなくなっています。地下鉄ウェストミンスター駅を上がると学校のチャイムでお馴染みのビッグベン(時計台)がそびえ立ってます。何とも威厳に満ちた色合いの建物です。傍聴するにはまず議事堂のタワーの上にユニオンジャックが揚がっているかを確認します。ありました!これは議会が開かれているということです。傍聴可能な曜日と時間を確認して入り口を探します。建物の真ん中あたりにqueue (人の列)があります。多分ここだろうと列の後ろに並んで30分・・。ようやく順番が来たようです。だいたい10人ずつ一塊で建物に入れてくれます。入るとまず厳重なセキュリティチェック。金属探知機を潜り、カバン等の中身を見られます。そこでようやくロビーへ。初めての私はこれでどんどん中に入れると思ってしまい奥の入り口まで進んでしまうと・・・、大柄な警官が突然肩を掴み戻るように指示をします。振り返るとロビーの両脇に長いベンチがあり、そこでまた座って順番を待つシステムの様です。威圧的な装飾を眺めながら待つこと10分・・・、ようやく列が動きます。要するに傍聴席に空きが出た数だけ入れてくれるのです。さっき警官に止められた奥の入り口を左に入ると、そこには記帳台があり、傍聴の申請書を書かされます。えっ、ひょっとして日本人だと断られたりするのか・・・心配いりませんでした。だってここは近代民主政治のお手本の国、しっかり日本の住所を書いた申請書でもOK!でした。それから長い階段をぐるぐる上がり、右に曲がって左に曲がってまた階段を上がると、そこがクローク。全ての荷物、カメラ、メモ帳のたぐいまで預けさせられます。で左側に曲がると・・・感動です!下院議会です。グリーンのベンチの色とウッディーな壁が質素であるのだけど凛とした空間を作り上げてます。向って左が政権党(当時は保守党)、右側が野党(労働党他)で正面には議長席があり、その前に大きな台が据えられ左右それぞれディスパッチボックスが置かれてます。台にはまた大きなMACEが置かれ、これが下にある時は委員会、台の上に上げられている時は本会議ということです。この日は委員会が開かれてました。議場は予想以上に狭い印象です。聞くところによると議員の定員数にかなり足りない席の数だそうです。ですから重要法案の審議では当然立ち見議員が出るということ。左右の議員席の最前列はフロントベンチと呼ばれ本会議では閣僚が座ります。この89年当時はまだTVでの国会中継は始まっておらず、フロントベンチに腰掛けた議員は足をセンターに置かれた台の上にのせふんぞり返って相手陣営に睨みを効かせます。今はさすがに行儀が悪いということで足のせは禁止だとか。議長は白いカツラをかぶり、「○○州○○選挙区選出の議員殿どうぞ」てな具合に質問者を指名します。そう議員はあくまで選挙区での選挙民の代表という形で発言するのです。実際の議題の詳細は分からなかった(多分地方における教育関係・・)のですが、いい質問、いい答弁に対してはそれぞれの陣営から「Hear! Hear!」と声がかかります。
傍聴席は私語やメモは厳禁。衛吏が目を光らせており、ルールを破る者は間髪を入れず注意されます。とにかくいたく感激した私は、日を改めてもう一度傍聴に訪れたのでした。今度は夕方本会議の時間。入場手続きも常連さんの様にスムーズに済ませ傍聴席におさまります。眼下の議場ではMACEが机上に据えられてます。フロントベンチには閣僚たちが居並び足を上げてふんぞり返っています。残念ながらサッチャーは確認出来ませんでしたが、十分にイギリス政治の最前線を見ることが出来て大満足でした。
この英国議会の魅力を楽しく紹介してくれたのが、
ジェフリー・アーチャー
「めざせダウニング街10番地」
ダウニング街10番地とは首相官邸の住所のこと。3人の登場人物が保守党、労働党に分かれ議員として地位を競い、バックベンチ(平議員)からフロントベンチ(閣僚)へ、そして最後に首相になるのは誰か?!という政権障害物競走小説です。ただでさえ複雑なイギリスの政治や議会制度が非常に分かりやすく描かれ、筋の面白さも手伝って一気に読ませてくれます。
残念ながらこの本。新潮文庫で出されていましたが、今は絶版です。書かれた当初の時代設定で近未来として書かれた1990年代後半というラストのシーンが、今となってはちょっと辻褄が合わなくなっているのが理由でしょうか。つまりこの時点でチャールズが国王になっているのです。是非最後を書き直して新版としてもう一度世に出して欲しいものです。ちなみに私の所有していた新潮文庫版は紛失しちゃってます。誰にも貸した記憶はないのですが、どこでロストしちゃったのでしょうか。写真はイギリスで売っているペーパーバック版です。読めもしないのに買ってしまってます。表紙はTVドラマ化された写真が使われているのですが、実はこの原作、翻訳版とは内容が違います。翻訳版では3人の首相レースになってますが、原作では1人多い4人の戦いになってます。イギリス以外の読者には原作のままだと政治システムの描写が複雑すぎるという判断から、登場人物も減らし筋も簡略化して海外版を作ったとか。新潮文庫版はこの海外版を翻訳したもの。だから今度は原作からの翻訳で出してよね。
※上記下院傍聴に関する情報は89年当時のものです。
ロンドンに行ったら、どうしても見たかったものの一つが、国会議事堂(ハウス・オブ・パーリアメント)で開かれる下院(ハウス・オブ・コモン)の傍聴。昔は常時見学が可能だったのですが、IRAのテロ以降議会開催中は傍聴という形でしか一般人は入れなくなっています。地下鉄ウェストミンスター駅を上がると学校のチャイムでお馴染みのビッグベン(時計台)がそびえ立ってます。何とも威厳に満ちた色合いの建物です。傍聴するにはまず議事堂のタワーの上にユニオンジャックが揚がっているかを確認します。ありました!これは議会が開かれているということです。傍聴可能な曜日と時間を確認して入り口を探します。建物の真ん中あたりにqueue (人の列)があります。多分ここだろうと列の後ろに並んで30分・・。ようやく順番が来たようです。だいたい10人ずつ一塊で建物に入れてくれます。入るとまず厳重なセキュリティチェック。金属探知機を潜り、カバン等の中身を見られます。そこでようやくロビーへ。初めての私はこれでどんどん中に入れると思ってしまい奥の入り口まで進んでしまうと・・・、大柄な警官が突然肩を掴み戻るように指示をします。振り返るとロビーの両脇に長いベンチがあり、そこでまた座って順番を待つシステムの様です。威圧的な装飾を眺めながら待つこと10分・・・、ようやく列が動きます。要するに傍聴席に空きが出た数だけ入れてくれるのです。さっき警官に止められた奥の入り口を左に入ると、そこには記帳台があり、傍聴の申請書を書かされます。えっ、ひょっとして日本人だと断られたりするのか・・・心配いりませんでした。だってここは近代民主政治のお手本の国、しっかり日本の住所を書いた申請書でもOK!でした。それから長い階段をぐるぐる上がり、右に曲がって左に曲がってまた階段を上がると、そこがクローク。全ての荷物、カメラ、メモ帳のたぐいまで預けさせられます。で左側に曲がると・・・感動です!下院議会です。グリーンのベンチの色とウッディーな壁が質素であるのだけど凛とした空間を作り上げてます。向って左が政権党(当時は保守党)、右側が野党(労働党他)で正面には議長席があり、その前に大きな台が据えられ左右それぞれディスパッチボックスが置かれてます。台にはまた大きなMACEが置かれ、これが下にある時は委員会、台の上に上げられている時は本会議ということです。この日は委員会が開かれてました。議場は予想以上に狭い印象です。聞くところによると議員の定員数にかなり足りない席の数だそうです。ですから重要法案の審議では当然立ち見議員が出るということ。左右の議員席の最前列はフロントベンチと呼ばれ本会議では閣僚が座ります。この89年当時はまだTVでの国会中継は始まっておらず、フロントベンチに腰掛けた議員は足をセンターに置かれた台の上にのせふんぞり返って相手陣営に睨みを効かせます。今はさすがに行儀が悪いということで足のせは禁止だとか。議長は白いカツラをかぶり、「○○州○○選挙区選出の議員殿どうぞ」てな具合に質問者を指名します。そう議員はあくまで選挙区での選挙民の代表という形で発言するのです。実際の議題の詳細は分からなかった(多分地方における教育関係・・)のですが、いい質問、いい答弁に対してはそれぞれの陣営から「Hear! Hear!」と声がかかります。
傍聴席は私語やメモは厳禁。衛吏が目を光らせており、ルールを破る者は間髪を入れず注意されます。とにかくいたく感激した私は、日を改めてもう一度傍聴に訪れたのでした。今度は夕方本会議の時間。入場手続きも常連さんの様にスムーズに済ませ傍聴席におさまります。眼下の議場ではMACEが机上に据えられてます。フロントベンチには閣僚たちが居並び足を上げてふんぞり返っています。残念ながらサッチャーは確認出来ませんでしたが、十分にイギリス政治の最前線を見ることが出来て大満足でした。
この英国議会の魅力を楽しく紹介してくれたのが、
ジェフリー・アーチャー
「めざせダウニング街10番地」
ダウニング街10番地とは首相官邸の住所のこと。3人の登場人物が保守党、労働党に分かれ議員として地位を競い、バックベンチ(平議員)からフロントベンチ(閣僚)へ、そして最後に首相になるのは誰か?!という政権障害物競走小説です。ただでさえ複雑なイギリスの政治や議会制度が非常に分かりやすく描かれ、筋の面白さも手伝って一気に読ませてくれます。
残念ながらこの本。新潮文庫で出されていましたが、今は絶版です。書かれた当初の時代設定で近未来として書かれた1990年代後半というラストのシーンが、今となってはちょっと辻褄が合わなくなっているのが理由でしょうか。つまりこの時点でチャールズが国王になっているのです。是非最後を書き直して新版としてもう一度世に出して欲しいものです。ちなみに私の所有していた新潮文庫版は紛失しちゃってます。誰にも貸した記憶はないのですが、どこでロストしちゃったのでしょうか。写真はイギリスで売っているペーパーバック版です。読めもしないのに買ってしまってます。表紙はTVドラマ化された写真が使われているのですが、実はこの原作、翻訳版とは内容が違います。翻訳版では3人の首相レースになってますが、原作では1人多い4人の戦いになってます。イギリス以外の読者には原作のままだと政治システムの描写が複雑すぎるという判断から、登場人物も減らし筋も簡略化して海外版を作ったとか。新潮文庫版はこの海外版を翻訳したもの。だから今度は原作からの翻訳で出してよね。
※上記下院傍聴に関する情報は89年当時のものです。