英国的読書生活

イギリスつながりの本を紹介していきます

ディケンズで泣かされる・・・

2011-06-07 | イギリス


チャールズ・ディケンズ「荒涼館」

昨秋ちくま文庫から復刊された「荒涼館」
正直、1巻目は読み辛かった・・・
どんどん、登場人物が出てくるのに、その関連性が分からない・・・
これではいけない、覚悟を決めましょう!ということで
再度1巻目を最初から復習し、間髪入れずに2巻目に突入すると、
こいつが、こいつと・・・ まさかこの人物がこんなところで・・・
1巻目は壮大なプロローグとして我慢しましょう。

「ジャーンディス対ジャーンディス訴訟」という、もはや誰もその全貌を知る者がいない40年以上も続く裁判に、取り付かれ翻弄される人々が、可笑しく哀しく描かれる作品であるが、テムズから立ちのぼる霧に包まれた様にどこか重く、陰が多い雰囲気となっています。
登場する人物はまさにディケンズワールド。過去に秘密を持つ准男爵夫人、奉仕活動にのめり込み家族を蔑ろにする主婦、人に寄生することで生きていく男、場末の下宿屋で生きる代筆屋、代筆屋に仕事を回す文具屋、汚物だらけの道路を清掃することで僅かな賃金を稼ぐ浮浪児、足腰は立たないが口は達者な冷酷な高利貸し、射撃場を経営する元軍人、てきぱきと家事をこなしいつも的確な意見を述べるおかみさん、敵に回すと怖い敏腕刑事、めきめきと発言力を増す製鉄工場経営者・・・・、そして道徳の権化、理想の女性像として描かれるエスタ。このエスタの語りと誰の視点か今ひとつわからない第3者的な語りが交互に登場し物語が進行します。
特に場末のロンドンの描写は秀逸。食堂での定食を食べる光景、突然「大法官」と呼ばれるガラクタ屋のおやじが自然発火で死んでしまうシーンは読ませます。
硬直した裁判制度や形だけの交代を繰り返す二大政党制政治を揶揄しながら、台頭する企業経営者や、プロフェッショナルな職業として地位が向上する医者や弁護士たちを描き、貧しさのどん底で喘ぐ人々にも目を配りながらの展開に殺人事件が加わるミステリー仕立てという贅沢さ。なのですが、ミステリーとしてはいささか力不足。全体の読みやすさも重たい雰囲気が影響してか、少し雑で粗いイメージでした。
でも、私は泣いてしまいました。「ジョーの遺言」の章で。かわいそうで、かわいそうで。まさかディケンズに泣かされるとは・・・。まさか150年前の作品で泣いてしまうとは・・・・。