2009年6月21日、グスタボ・ドゥダメル指揮、ケルンフィルハーモニー管弦楽団。ヴァイオリン独奏:クリスティアン・テツラフ。
前半はチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲。もともとヴァイオリンを演奏していたドゥダメルにとっておなじみの曲なのか、協奏曲の時にはスコアを使う傾向にあるドゥダメルだが、譜面台は取り払われた。
テツラフのヴァイオリンは、なんとなく深みが足りなく感じられた。現代物(楽器)の限界か。朝雨が降っていたせいなのか、まだ朝(11時開演)で、テツラフも楽器も起きていないのか。それともホールの音響のせいなのか。また、かなり「飛ばし」て弾いたため、単音から重音に移るとスピードが落ちるような印象を受けたり、ところどころ音をミスしているようなところがあったり、いまひとつ冴えない。協奏曲ではソリストと指揮者どちらがテンポコントロールをするのかわからないけれど、少々今日のテンポはテツラフの限界を超えた気がしないでもない。
さて、後半はお待ちかね、アルプス交響曲。オケの管楽器になかなか良い印象を受けていたので楽しみ。
期待を裏切らない演奏であった。これまでに聴いたアルプス交響曲の中でも、一番エキサイティングな演奏だったと思う。注文をつけるとすれば、出だしとオーボエ(彼は長いメロディは上手いのだが、短い装飾音は緊張するのか?)。
ドゥダメルのすごいところは、曲をとても綺麗にわかりやすく再構成できるところ。沢山の小さな美しいメロディが彼の演奏を聴いていると聴こえてくる。これは、彼の曲の分析力に加えてコミュニケーション力に拠るところも大きいのだろう。あの表情豊かな顔で見つめられると、思わずその気になる。どんなオケでも楽団員が楽しそうに弾くのがすごい。プロのオケでは、「もうこの曲飽きたよ」といった顔をしながらいい加減に弾いている印象を受けることがままあるが、ドゥダメルにかかると、メンバー一人一人が、音楽を作ることが楽しくて仕方がない、楽器を弾ける才能に恵まれてよかったと感謝しているようにすら見える。
偶然隣り合わせた女性は、ロンドン在住で、ケルンの親戚を訪ねた機会にこの演奏会に来た、と言っていた。私がドゥダメルを追いかけてヨーロッパ中を旅している、と言ったら最初は驚いていたが、アルプス交響曲が終わった時、彼女の目は赤かった。そして言った。
あなたが彼を追いかけるのがわかったような気がする。