Barというと新宿、特に新宿3丁目が好きです。
摩天楼の足元、飲食店で賑わう通りから路地にふっと曲がったところに、
小さな看板が灯っています。
3階へあがり、革張りのドアを開けると、そこには4席のカウンターとソファ-、
ひとつのテーブル、そして、テラスからなるプライベートBar。
美味しいモルト&ラムを。
お好みに合わせてハーフショットからお楽しみいただけます。
ちょっと他にはない大人の隠れ家で、至福のBarTimeをお過ごしください。
あなたの好きなシガーのご用意もございます。
きっとあなたの感性という琴線に触れることを信じてメールを書いています。
*
この人に振られるためにはどうすればよいのだろうか。
自宅から歩いていけるBarで、嫌われる思索を、誰もいないカウンター席で考えを巡らせる。
服を新調した。
この日の、この人のためだけに。
憎らしい女を演じて、もう二度とこの女とは逢わないと決心させなければおそらく、
私がこの人の、やさしさに溺れ、離れることができなくなってしまいそうで怖い。
受容できない障害を、その整理がまだついていないことを理由にすれば誰も傷つかずに済む。
でも、この人のことだから、
そんなことは関係ないとでも言うか、僕が君を護るとでも言い出すに決まっている。
大人の恋というやつは厄介だ。
しかも、感情の抑揚が自分でもわからない今、
恋をするべきではないともうひとりの私が私を諭しにやってくる。
でも、恋は次から次に私の目前に現れてはこころを動かし、ときめき、振り回され、疲れ果て、
結局のところ、自身の抱える高次脳機能障害が恋を諦めさせる前にそっと忘れさせてくれる。
誰と恋に落ちていたのかわからないうちに、次の恋が、そして、その次の恋が・・・・・と、
私に恋の楽しさを思い出させてくれはしても、恋を成就する時期ではないと教えにやってくるようだ。
金曜日の決戦。
新宿3丁目にて。
酒でも飲んで、シガーを楽しみ、恋ができないと絡んでみるのも悪くはない。
あなたが優しすぎるとの理由なら、彼は頷いてくれるだろうか。
そうやって、しばらくの間、恋をおあずけにするために、わがままな女を演じてみる。
女優に挑戦だ。