厚生労働省は、特別養護老人ホームなどの入居者を対象とした食費と居住費の負担軽減制度を見直す方針を決めた。
現在は、課税所得だけを見て「低所得者」と判断し、負担を軽減しているが、預貯金などの資産を含めるほか、非課税となっている遺族年金も所得とみなす方向で検討する。実質的な経済力に応じた「負担の公平性」を求め、対象者を絞ることで費用を削減する狙いがある。
厚労省は社会保障審議会介護保険部会に具体案を示し、来年の通常国会に介護保険法改正案を提出、2015年度をめどに実施する方針。制度の対象者は103万人(11年度末)に上る。
施設入居者は、介護サービスの利用料(1割)とは別に、食費と居住費を負担する。
低所得者の場合は、所得に応じて軽減され、軽減分は介護保険から給付される。年金収入が年80万円以下の人が特養の個室に入った場合、本人負担は月3・7万円で済み、月6・5万円は保険から支払われる。
低所得かどうかは、本人の課税所得だけをもとに判定され、資産がどんなに多くても軽減対象になる。特養入居者の8割、老人保健施設入居者の6割が該当し、総費用は、年2844億円(11年度)に達する。
しかし、実際には預貯金などを所有する高齢者が少なくない。09年の全国消費実態調査によると、年収200万円未満の高齢者夫婦世帯でも約3割は貯蓄などが900万円以上あり、約5割は住宅・宅地資産額が1000万円以上あった。
また、自宅や有料老人ホームなどで介護を受ける高齢者は、食費と居住費を自己負担しているため、制度開始当初から、「不公平だ」「施設への入居希望を増やす」などの批判があった。
このため、厚労省は、入居者に預貯金額を自己申告してもらい、一定額以上あれば軽減対象から外す。固定資産税の評価額が一定以上の土地や建物を所有していれば、食費と居住費を貸し付け、本人の死後、相続人から返済してもらう仕組みも検討する。
所得要件も厳格化する。課税所得のある夫と暮らす妻が特養に入り、住民票を移して世帯が分離されると、妻は低所得者となることが多い。だが、施設に入居しても世帯を分離しなかったり、自宅で介護を受け続けたりする場合は、低所得者にならない。この不均衡を是正するため、世帯分離しても軽減対象にしない案を検討する。非課税のため現在は所得にカウントされていない遺族年金を加味する案も議論する予定だ。