公認会計士試験(国家試験)の受験者が減っている。
平成18年度から試験制度が改革され、合格者が大幅に増加したものの、その“受け皿”となる就職先が見つからなかったためだ。25年度の受験者はピークだった22年度の6割程度まで減少。現在、試験合格者の「就職浪人」は少なくなったとはいえ、受験を躊躇(ちゅうちょ)する人は多く、関係者は合格者の質の低下を招きかねないと気をもんでいる。
■ピークの6割に
会計士試験は1次試験にあたる短答式と2次試験に相当する論文からなる。2次が不合格でも1次の合格は2年間有効。2次合格者は「会計士補」となり、2年間の実務経験を経て、晴れて会計士となる。監査法人や会計事務所だけでなく、一般企業に就職して財務関係の仕事に従事しても「実務経験」として認められる。
金融庁によると、25年度の短答式試験の受験者(申込者)は第1回(24年12月)と第2回(25年5月)合わせて1万9461人だったが、1回、2回の重複受験を除いて実際に試験に出席した人数は9222人にとどまった。
ピークの22年度は3万5243人だったが、近年は右肩下がり。25年度の受験者は22年度の6割を割り込んだ。ある会計士は「いま受験を躊躇する人は多い」と話す。
受験者の減少は合格者の質の低下につながる恐れがある。
21年度以降、合格者も減少しており、受験者が少ないからといって合格ラインが著しく下がることはないが、「優秀な人材が集まらなくなるのが心配」(会計事務所代表社員)といった声も上がる。
■発端は金融庁の“失政”
会計士業界で「2009年(平成21年)問題」と呼ばれた試験合格者の就職難。監査法人だけでなく一般企業で働く会計士を増やすため、金融庁が18年度から合格者を増やし始めたのが発端だった。
20年度までは、上場企業を対象にガバナンス(企業統治)体制をチェックする内部統制制度への対応で監査法人が会計士の採用を増やしたため、就職は合格者側の「売り手市場」だった。
日本公認会計士協会によると、会員(会計士と会計士補、試験合格者)の数は、12年に約1万6000人だったが、22年に約2万7000人、24年末時点で約3万2000人と順調に増えた。
しかし、内部統制への対応が一巡した21年から状況は一変。20年秋のリーマン・ショックが会計士の需要減少に拍車をかけ、大手監査法人は採用数を前年から3~5割も減らした。
不景気で企業の新規上場が激減したうえ、企業の業績悪化により監査報酬の値下がり圧力が強まったためだ。
もう一つの誤算は、一般企業が試験合格者を採用するケースが増えなかったこと。「企業は合格間もない人よりも、監査法人や会計事務所で実務経験を積んだ会計士を求めていた」(大手食品メーカーの経理担当者)ためで、典型的な“ミスマッチ”が発生した。20年の合格者のうち、一般企業に就職したのは、わずか2~3%だった。
金融庁は当初、会計士の数を30年までに5万人程度まで増やす構想を掲げていたが、断念した。
■「組織内会計士」少しずつ増加
日本公認会計士協会は21年から一般企業を対象に、積極的な採用を呼びかける説明会を全国で開催してきた。企業側にも、会計の専門家が社内にいることで、自社の情報開示に対する信頼性が高まるという認識が少しずつ浸透している。
その甲斐あって、監査法人や会計事務所、税理士法人以外の企業で働く「組織内会計士」は徐々に増えている。協会によると、組織内会計士らで構成するネットワークの会員登録者は今年4月時点で約1100人となり、昨年12月の2倍以上に膨らんだ。
また、会計士が活躍する新たな分野として期待されるのが地方公共団体に対する保証業務だ。国会では、全国共通の公会計制度を導入するために必要な地方自治法の改正論議が停滞している。しかし会計士協会は法改正を待たずに、地方自治体や公営企業、外郭団体などの会計情報を第三者として保証する業務に会計士が携わる事例を増やしていく方針だ。
ただ、近年は上場企業による粉飾決算や不適切会計処理が次々と明るみに出て、公認会計士に対する信頼が揺らいできた。三洋電機やカネボウ、オリンパスなどだ。さらに監査を担当した公認会計士に対し、金融庁が業務停止命令を出すなど、「重すぎる会計士の責任」を敬遠する学生も。
それでも、「アベノミクス」効果で株式市場を中心に「お金」の動きは活発になっている。企業の決算などをチェックする公認会計士の役割はますます重くなっており、優秀な人材が求められている。(南昇平)