浜松市の小学校で相次いだ集団食中毒の原因であるノロウイルスは、異物混入を調べるための検品時、給食用の食パンに付着した可能性が高いという。検品は、焦げ目や油かすの付着がないか調べるもので、担当者が焼き上がったパンの裏表を1枚ずつ確認する。スーパーなどに卸すパンではこうした作業は通常行われておらず、パンのノロウイルス汚染の背景には学校給食特有の事情もありそうだ。(平沢裕子)
1枚ずつ確認
浜松市生活衛生課によると、給食用の食パンが作られた工場でノロウイルスの陽性反応が出た女性従業員4人はパンの検品作業を担当。焼き上がったパンを箱詰めする前、手袋をした手で1枚ずつ取り、異物の混入がないか確認していた。ウイルスは工場の女子トイレでも見つかっており、4人が感染を自覚しないまま、トイレの後に十分な手洗いをせずに手袋に触れ、気づかずにパンを触ったことでパンが汚染したようだ。
製造した製パン会社「宝福」(浜松市東区)は「学校給食のパンの場合、髪の毛1本はもちろん、焦げ目や油かすの小さい黒い粒が付着しているだけでクレームがくることがある。これらをチェックするには担当者がパンに触って見るしかない。時間も手間も掛かるが、学校からの要望なのでやらざるを得ない」と説明。一方、静岡県学校給食会は「子供が食べるパンなので異物混入がないように気を使ってください、とお願いしている。異物混入だけでなく、枚数の確認や製品に異常がないかを調べるためにも検品は必要。今回は検品のやり方に問題があったもので、正しくやってもらうことが大事だ」とする。
検品は商品の品質保持のためもあり、汚染対策をしっかりやれば問題ないともいえる。加工・流通時の食品衛生管理に詳しい日本HACCPトレーニングセンター(東京都新宿区)の杉浦嘉彦専務理事は「食品を加熱後、包装するまでの間は細菌やウイルスの汚染リスクが最も高く、細心の注意が必要。原因とされる手袋は実際には汚染されていることが多いが、『手袋をしているから大丈夫』と思い込んでいる事業者は少なくない」と指摘する。
基本は「触らない」
日本パン工業会(中央区)によると、スーパーやコンビニに卸すパンの場合、焼き上がったパンを1つずつ検品することはしないという。「手で触ると汚染される可能性があるので、基本は手で触らないこと。大量生産のパンの場合、通常は製造から包装まで人の手を介さないシステムになっている」(同工業会)
人の手は1番の「汚染源」。食の安全を考えれば、食品の汚染を防ぐためにはなるべく人が触らないのが大原則だ。浜松市生活衛生課の担当者は「給食には保護者からいろいろな意見が寄せられることもあり、異物混入に神経質になるのは仕方ない面もある。ただ、食の安全のためには食中毒を出さないための対策を優先させることが大事だ。個人的な考えだが、パン1枚ずつの検品は過剰な対応で、やめてもらいたい」と話している。
健康影響なくてもクレーム
学校給食では、さまざまな異物混入が報告されている。昨年9月には岐阜県可児(かに)市で給食パンにコバエが付着、除いて食べるよう指導したことが市議会で問題となった。異物の多くは誤って食べても健康への影響がないものだが、保護者からクレームが寄せられることも多く、どう対応するかは学校にとって悩ましい問題になっている。
文部科学省は給食の異物混入を防ぐため、納品時の検品徹底と、給食時にパンは一口大にちぎって食べる▽袋入り食品は穴が開いてないか確認▽丸飲みしない-などを呼び掛けている。