弁理士『三色眼鏡』の業務日誌     ~大海原編~

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【知財記事(商標)】ジュエリーアイス@豊頃町

2018年11月30日 07時32分24秒 | 知財記事コメント
おはようございます!
今日はやや凛と冷えた空気漂う@湘南地方です。

さて、今日は昨日北海道新聞に載っていた「ジュエリーアイス」に関する記事。

(北海道新聞より引用)
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【豊頃】とかち管内豊頃町の大津海岸に冬期間漂着する「ジュエリーアイス」が商標登録された。町が特許庁に出願していたもので、担当者は「ジュエリーアイスの呼称をなるべく自由に使ってもらい、多くの人に名前が広まれば」と知名度の拡大につなげたい考え。

商標は「氷の宝石 Jewelry Ice」で、登録は16日付。町が2017年4月に出願したところ、十勝管内の菓子製造会社3社が先に出願していたことなどから、同年10月に登録を認めない「拒絶」とされた。町は同年12月に「以前から観光PRで積極的に使用し、先願権もある」などとした意見書を特許庁に提出。今年10月に審査合格に当たる「登録査定」を受け、正式に登録手続を進めていた。

(以下略)
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(引用終わり)

地域の観光資源に独自のネーミングを付与して魅力を伝える例はしばしばみられる。
その名称は、いわば地域の共有財産の側面を持つ。

一方で商標制度は「先願主義」を基調とするもの。
他の要件具備を条件として、先に出願したものが優先して登録を受ける権利がある。

このあたり、新聞記事の限られた文字数ではどうしても伝えるのに限界がある(その制約の中でもこの記事は頑張っている方だと思うけど)ことから、ちょっとここで経緯を説明してみる。

(1)豊頃町の出願
さしあたり上記記事で取り上げられている豊頃町の出願は、下記のもの。

[出願番号]商願2017-060250
[出願日]平成29年4月14日
[商標]

[区分/指定商品(指定役務)]
第14類 キーホルダー,宝石箱,記念カップ,記念たて,身飾品,時計
第30類 氷,菓子
第39類 観光業務,企画旅行の実施,旅行者の案内,旅行に関する契約(宿泊に関するものを除く。)の代理・媒介又は取次ぎ,観光ツアーのための輸送,旅客輸送,旅行者の輸送

※上記の後に商願2018-015379(=リンクを張ったページ一番下にあるロゴマーク)を出願している。

(2)他社の出願
一方、検索の限り確認できる他社の出願は以下の2件(記事中「3件」とあるがファイル閲覧しても2件しか確認できない)。

①A社の出願
[出願番号]商願2017-016026
[出願日]平成29年2月13日
[商標] ジュエリーアイス (標準文字)
[区分/指定商品]
第30類 菓子及びパン

②B社の出願
[出願番号]商願2017-019244
[出願日]平成29年2月6日
[商標] 「TOKACHI TOYOKORO\ジュエリー\アイス(+氷の写真)」
[区分/指定商品]
第30類 菓子及びパン

相互に抵触が生じているのは、「第30類 菓子(及びパン)」について。
出願の順番的には、早い順に「(2)-②」「(2)-①」「(1)」の順。
“先願主義”なのだから、じゃあB社の勝ちだね、となるかというとそうならなかったのが今回のケース。
新聞記事では出願人である豊頃町が特許庁に対して意見書を提出して登録に至った、という点だけが書かれているけど、他社の出願にはそれぞれ以下のアクションがあった。

・①A社の出願については、②B社の出願よりも後なので、少なくともその理由で拒絶。
・②B社の出願については、別の理由で拒絶。
 「別の理由」とは、
「自然現象・観光の一つとして知られる本願商標を「十勝地域づくり連体会議,豊頃町観光協会(「豊頃町役場企画課内」)」などと何らかの関係があるものとも認められない出願人に対し登録を認め自己の商標として独占使用を許すことは、公正な商取引の秩序を乱すおそれがあるとともに、社会の一般的道徳観念に反するものであり、穏当でない」
 というもの。いわゆる“公序良俗違反”と言われるもの(※①の出願にも同様の理由も併せて付されたものと思われる)。

(※上記の他にも、「刊行物等提出書」(いわゆる“情報提供”)の提出が豊頃町から特許庁に対してされている。この辺りは、12/6のセミナーでも触れます。)

登録にならなければ先願の地位は消滅するため、豊頃町の出願が“繰り上がり当選”。


<所感>※ちょっと辛口
結果として、地域の観光資源が共有財産として保持されるようになった点は、良い面の方が多いとは思う。
大事なのは権利を取得した後なので、町興しに資する適切な運用を期待。

ただ審査に関する一連の経緯について、知財屋的側面から言うと、
“先願主義”と“公序良俗”とが衝突する本件のようなケースは、正直頭が痛い面もある。
A社としてもB社としても、この出願が「7号(=公序良俗違反)」と言われるとはまず間違いなく想定していない。
代理する立場としても、可能性は検討するけれども“だから出願はやめときましょう”とは通常ならない。

それでいて、7号の拒絶理由を覆すことは、なかなか難儀(控えめな表現)なもの。
だって「社会の一般的道徳観念」って何よ?法律に「道徳」持ち出されても測れない。反証手段がない。
だからこそ審査においても7号を持ち出してくるのは“伝家の宝刀”と言われるくらい、最後の最後の場面であるべきなのに、自治体等公的性質を帯びた主体が絡むと途端に7号が出されるのは、制度趣旨と制度のバランスに照らして疑問を持たざるを得ない。
こういった運用スタンスまでも考慮に入れて審査結果を予見しなければならないというのは、何とも腑に落ちない。

今回のケースでは、豊頃町は(ちょっと出願が遅れたというのはあるけど)一応自衛行動に出ているので、まだ納得感はあるけど、
地域づくり、町興しを掲げながらその旗印となる商標の保護の話となると「予算が…」といって曖昧にして出願すらしないこともあるように思う。
そんな場合でも、“公序良俗(の顔をした何か)”が優先されるべきものなのだろうか?

公的事業が「善」で私企業の事業活動が「悪」、なわけがない。
公的な主体もまた、競争の中にいることを自覚する必要があると、強く思う。
コメント
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