リサ・エンドリック Lisa Endlich
MIT(マサチューセッツ工科大学)でマネジメントと都市計画の修士号を取得後、ゴールドマン・sっクスに入社。 外国為替部門のトレーダーとなり、ヴァイス・プレジデントの肩書を得る。退社後は夫と三人の子供とともにロサンジェルスに在住。
斎藤聖美
東京生まれ、慶応義塾大学経済学部卒、ハーバードMBA。モルガンスタンレー投資銀行の不動産部門の在日代表を経て独立、コンサルティング会社エースジャパン代表取締役。
P50-53より引用
ゴールドマン・サックスの企業文化は、パートナー制のもとで育まれてきた。そして、経営者が同時にオーナーであるために可能な、金銭的な報奨制度の仕組みで守られてきた。 ゴールドマン・サックスが株式を公開したとすれば、現状を維持していくことは不可能であろう。
インスティテュースーショナル・インベスター誌は、「1986年は、ウォール街の大売り出しの年だった」と書いている。
その年に先立つ5年間に、主な競争相手は、公開企業となり、合併され、あるいは消滅していった。
発端は1981年、ソロモン・ブラザーズのフィリップ・ブラザーズへの売却だった。トレーディングの強さと巨大な資本が結びつき、同社は向かうところ敵なしの状態となった。
ソロモン・ブラザーズのパートナーは数百万ドルの資産を手にし、1980年代半ば、同社はますます力を強めて行った。
この出来事は、通りを隔てたゴールドマン・サックスのパートナーの頭から去ることはなかった。
リーマン・ブラザーズは1984年にアメリカン・エキスプレスに身売りした。キダー・ピーボディは1986年、コングロマリットのゼネラル・エレクトリック(GE)社に、1981年ディーン・ウィッターはシアーズに買収された。
ベアー・スターンズは1985年公開に踏み切った。 この一連の合併・買収で、強豪の相手が出現したかに見えたが、大半は時を置かずして困難な状況に陥り、結局は再び売却の憂き目にさらされている。
ゴールドマン・サックスが一番大きな衝撃を受けたのは、最も手ごわいライバル。モルガン・スタンレーが簿価の2.76倍の価格で株式公開を行たことだった。
20%の株式が一般に売り出され、同社は2億5400万ドルの資金を調達した。パートナーはマネージング・ディレクターとなり、大きな財産を手にした。
ファースト・ボストンやメリルリンチも侮りがたい競争相手となってはきていたが、ゴールドマン・サックスにとって、モルガン・スタンレーだけが唯一の競争相手であり、恐れる相手であった。
モルガン・スタンレーのパートナーたちは、レバレッジド・バイアウトやマーチャントン・バンキングなどのリスクの高い分野に手を広げていうためには、もはやパートナー制ではやっていけないと考えて、公海に踏み切った。
新たな資金調達の手段を得たことは、とりもなおさず新たな機会を得ることを意味し、モルガン・スタンレーは、ゴールドマン・サックスを遠く引き離してトップを走るのでは、とオールドマン・サックスは懸念した。
ゴールドマン・サックス自体も、1986年に株式の一部売却に踏み切っている。 それは、その一年前の出来事だった。 ある朝、名前を名乗ることを拒む男がジョン・ワインバーグの秘書、アン・エリクソンに電話をしてきた。
今から3週間後の火曜日に、ミスター・ワインバーグは席におられるだろうかと彼は訪ねた。 エリクソンはワインバーグの予定を確認できなかったので、分かりませんと答えた。電話の相手は、名前も何も残さず、また電話しますとだけ言って電話を切った。
2週間後、名前を名乗らぬ同じ男が電話をしてきて同じ日時を尋ねたとき、彼女はワインバーグはオフィスにいるはずだと答えた。約束の日になると、2人の日本人がワインバーグのオフィスに現れた。一人は訪問者であり、一人は通訳役のアシスタントであった。
日本語しか話さない男は、かたわらのアシスタントを通じて、自分は住友銀行頭取の小松康です、私は身を隠してあなたに会いに来ました、とワインバーグに名乗った。
彼は行き先を悟られないように、東京からワシントン州シアトルに飛び、そこでワシントンDC行期の飛行機に乗り換え、ワシントンからシャトル便でニューヨークのラガーディア空港に飛んだのだという。 ワインバーグはこの秘密めいた行動に驚いた。 そして、金融界の人間や弁護士は常にニューヨークとワシントンの間をシャトル便で行き来するから、隠密く行動なんか到底無理ですよ、と話した。
ワインバーグはこの訪問に不意を突かれた。 住友銀行が以前からアメリカの投資銀行に関心を持っており、ゴールドマン・サックスの動向を見守っていたなど、彼は知る由もなかった。
住友銀行は当時世界第三位の大きさで、日本で最も利益率の高い銀行であった。
彼らは経営コンサルティング会社、マッキンゼー社を雇って、アメリカの投資銀行市場に参入する最善の方法を研究させた。
マッキンゼーはゴールドマン・サックスに投資することを理想的な方法として推奨した。
長い歴史の中で、ゴールドマン・サックスが外部の資本を取り入れたことはなかった。 また、これはワインバーグ個人にとって難しい問題であった。
彼は第二次世界大戦で日本の海軍と戦い、長崎に原爆が落とされた直後、捕虜収容所解放を手伝っている。 小松はかつて海軍士官で、彼の駆逐艦はアメリカ軍に撃沈させられている。
ワインバーグは当初、提携に懐疑的ではあったが、パートナーたちに公平であろうとして交渉を進めることにした。
小松の提案を聞いてワインバーグは目を見張った。 澄人が評価したゴールドマン・サックスの資産価値は社内の評価をはるかに上回るものだった。
小松は、現金出資し、その出資比率に応じた利益の12.5%を受け取る代わりに5億ドルを出資するという提案は、ゴールドマン・サックスの資産評価を40億ドルと評価したことを意味する。 他の投資銀行はさらに低い数字でしかなかった。
この話は極秘のうちに交渉すること、ゴールドマン・サックス自身が作業を行い他社の仲介を受けないことが、条件として要求された。
これは大きな一歩を踏み出したことを意味する。それでなくても慎重なワインバーグは、注意深く、ゆっくりと話を進めた。 ゴールドマン・サックスは即座に資金を必要しておらず、急ぐ理由はなにもなかった。
住友銀行はアメリカの投資銀行業務について魔場びたいと考え、何十人かの研修生を送り込み、ゴールマン・サックスの社員の隣に座らせてもらって、直接業務を覚えさせたいと望んでいた。
それに関してはゴールドマン・サックスもFRB(連邦準備制度理事会)も反対をし、何らかの関係を持つとしたら、それは一定の距離をおいたものでなければならいとした。
また、FRBは、住友銀行の出資が資本の24.9%を越えてはならないとした。住友の投資は議決権のないリミテッド・パートナーとしてでなければならいことも条件の一つであった。
ワインバーグは、ゴールドマンが完全に独立した経営権を維持することが、ひいては住友のためになることを説明した。
「別に交渉を難しくしようとしているわけではありません。 御社はゴールドマン・サックスの八分の一を所有することになるわけです。
私たちが独自に経営判断を下し、自分たちの手で運命を切り開いていくこと、そして金融市場がそう見ることは非常に重要です。 さもなければ、当社は評判を失い、顧客を失い、投資銀行市場での地位を失うことになります」
FRBはこの投資を認めるにあたり、住友銀行がゴールドマン・サックスの経営決定に参与せず、互いに研修生を交換して緊密な関係を持ったり、便宜を図って相互のビジネスをぞうかさせないこと、すなわち単なる投資であることを条件とした。
両者はこの条件に合意し、投資は1987会計年度に実行された。 ゴールドマン・サックスはこの決断を後悔していない。 両者の関係は円滑で、得るところの大きいものとなった。
(関連情報)
・ロスチャイルド財閥-170 ゴールドマン・サックス(ロスチャイルド系) vs モルガン・スタンレー(ロックフェラー系)
https://blog.goo.ne.jp/renaissancejapan/e/943febf0a3cf5585d1a3a0dae4ac09ca
・GS-1 ゴールドマン・サックス、アメリカに渡ったマーカス・ゴールドマン https://blog.goo.ne.jp/renaissancejapan/e/b061c3d3841a22761a9c45fb6277221e
・GS-2 義理の息子サムを家業に招き入れ、ゴールドマン・サックス設立 https://blog.goo.ne.jp/renaissancejapan/e/9aa9dfa7e4679546156b0c38634156d9
・GS-12 ゴールドマン・サックス中興の祖 シドニー・ワインバーグ https://blog.goo.ne.jp/renaissancejapan/e/538074a0056cbdbc8b24b486f3734cef
・世界最強の財閥・ロスチャイルド家より古い歴史を持つ住友家 https://blog.goo.ne.jp/renaissancejapan/e/851659949fd3bf4aa65d9f6c0a13940a
・日本の三大財閥の一つで、世界で最も古い歴史を持つ財閥は住友財閥 https://blog.goo.ne.jp/renaissancejapan/e/c20f898fe02c3047a9e0f3e8971b583e
・GHQによる財閥解体
https://blog.goo.ne.jp/renaissancejapan/e/29bf580b8efec1593ff5441d2cce54a9
・財閥解体後、銀行を中心とした企業集団の形 https://blog.goo.ne.jp/renaissancejapan/e/771795b2ff498dac837b24b7e47db727
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・ロスチャイルド財閥-111 国際金融財閥の序列
https://blog.goo.ne.jp/renaissancejapan/e/af41696ec05203f68b46d63b897e9b3d
・ロスチャイルド財閥-215 ロスチャイルド当主 ANAホテル(赤坂)プライベート会合https://blog.goo.ne.jp/renaissancejapan/e/15e42c79348485224e0b9ae63ca899e4
・ロスチャイルド財閥ー224 Black Rock と親会社 Black Stone、そしてワシントンコンセンサス
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